露呈
「――シィッ!」
ねねさんが、恐ろしく早い速度で駆けてライブストリームの体を叩いた。
パァッンと風船が破裂したような音共に水でできた巨体が弾ける。
それが雨のように上から流れてきて服が濡れた。
――それも束の間、大して効果が無かったのか。水の巨大が拳の形をとる。
「――そりゃ動くかっ!」
「避けろ!」
火球の雨を降らせる、やっぱり効果は覿面ではな
い。そもそも属性的に圧倒的不利だし。
むしろ当たった瞬間に複数の火球は蒸発している。おそらくそれらは二分の一で火力減衰した方だろう。
「君、もっと火力出せない!?」
「……時間を掛ければなんとか!」
「――わかった、とりあえずなんとかして」
判断が早い、だけど適当すぎやしませんか?
それだけ言い残して駆けていくねねさん、水でできた何かはいつの間にか巨人のような形態をとってその拳を叩きつけた。
「脳筋さいっこー!」
瞳に映る彼女のギアが上がる。
――最低限で、最高火力を
巨人の拳が彼女に届く前にそれ全てを殴り飛ばしていく。
ルナとはまったく違った。
才能だけじゃない、気がした。
圧倒的火力だ。
「っ!サポートする!」
木偶の坊では居られない、即座に魔法を行使。
火球合計25球、そして水の巨人を食い止める為に残した闇魔法分のリソース。
前の上限を大きく飛び越えて操れている。みたらし団子さんすげぇ!
「せっ!せいっ!やぁっ!ナイスサポート!そのままお願い!」
スロースターターなのか、徐々に切れを増す動きに合わせて闇魔法の手で一部の攻撃を食い止める。
その間に火球25球をできしだい叩き込む。
パフォーマンスの上がるねねさんと比べて、俺はドンドン下がっていってる気がした。
何故だか分からないが、何よりも気が乗らない。
こんなんで本当に行けるのか?このボスを倒せるぐらいの火力が出せるのか?
これがルナならもっと――
自問自答、今の俺は自分になんの信用も持てなくなっていると確信した。
……思ったより病んでんな、俺。
「一発で足りないならっ!二発打ち込めば良いッ!」
時間は待ってやくれない
目に止まらない二発の拳、して二重の破裂音。表面が飛び散り何か巨大な水球が露出するが水の巨人は心底大事そうにそれをすぐに隠した。
「これ、これ壊せば絶対勝てるって!」
「ねねさんの拳三発当てれば行けるんじゃ!?」
「それ無理!!だから任せたよ!」
「…………」
何故そこまで信頼されているのか分からなかった、理由を聞きたくてもすぐに巨人へと突っ込んでいく。
ルナ以外の人間に信頼されたのは、これが始めてじゃないか。
今はただ、期待に応える為に火球を撃つしかない。
それがただただ苦痛で、面白くなかった。
……数にして568球、ねねさんの粘りのお陰でここまでたどり着いた。
「ぐっ……そろそろいけるっ?」
「――まっまだ!」
こんなもんじゃ火力が足りないはず、失敗しちゃいけない。
彼女にはもっと時間を稼いで貰うしかない!
600、700、800、900
もっと、もっと……!
俺のビルドじゃ大した火力も出せやしない
だからもっと数を!
「――アマミくん!」
「……は?」
顔を上げる、長い間彼女の顔を見てなかった気がした。
疲弊した顔が先に見えた、もう何分やっている?
次に見えたのはHPバー
……真っ赤に染まっていた
「もう、いい?あたしはもう無理かな……」
自嘲気味の笑いに、なんにも返せない自分が憎い
「一人で倒せるって言ったのにね、面目ないや。ごめんね?」
なんで謝る、悪いのは大して強くなかった俺なのに。
ここでスキルを使わなきゃ、この人も俺もデスだ。配信の手前こんな無様、晒して欲しくない
手に力が籠る、震えていて頼りない。
情けない、自分が情けない。
「『運気――』」
「――でもさ」
スキル発動、するはずだった静寂を破って声が掛けられた。
好機と見なしたか、眼前の水は獣のように形態を変え始めていた
「楽しいよ、すっごく楽しい」
「どうして……?」
「あたしですら敵わない化け物が居るって分かったから、あたしは楽しいよ。視聴者だってそうだ」
顔はどこか澄んでいた
――俺は今、どんな顔をしてるんだろう
「ねえ、あんたはどう?会ったときからずっと、楽しくない顔してる」
――嗚呼
「ゲームなんだから突然覚醒してなんて無茶言わないけどさ、目ぐらい覚ましてよ?」
本当に
「……最後だ」
本当に情けない
「俺を、あいつの前まで連れてってくれ!」
「――オーケー!」
何故俺は、全力を尽くすことを忘れた?何故俺は、楽しむことを辞めた。
恋だとかそんなの関係ねぇだろ
――いつから俺は、あいつに縛られている。
たった一日で女々しいにもほどがあるぞ、天見歩!
「『影渡り』」
「ねねタクシー!出発!」
影の中で、景色が加速していく。
――自分の価値は、自分で決めれば良い
「あまみくん、全力で!やっちゃえ!」
「――アガッてきたぁぁぁ!」
鎖から放たれたかのように心地が良い。言葉を聞いた瞬間、もう止めるものは何もなかった。
「『運気解放』ッ!!!」
目と鼻の先には獣へと形を変えた水の化け物が
一撃必殺
――誰が一回だけなんて言った?
「『大爆発』ァァァ!」
火力が足りないなら、二発当てれば良い!!!
「二発じゃゴルァ!!!!!」
片手からは爆発、もう片手からも爆発
面白い
面白すぎる
――体の隅々から脳汁が涌き出る感覚がした
業は成した
馴染んだ感覚が、二分の一に勝利したことを告げる。
「いっけぇぇぇぇぇ!」
総火力とりあえず爆上げ、賭けに勝ったなら。
勝利の方程式は完成済みだ!
「――君、さいっこうだよっ!!!」
余すこと無く蒸発した水、その全てが露出した水球が小さい拳によって割られる。
舞い上がった水蒸気に遮られてなにも見えない、だけとそれでも分かってしまった。
「勝ったッ!……勝ったッ!!」
本当に、どうして勝利と言うものはここまで人を酔わせるのだろうか。
霧が晴れる
見渡す限りの快晴、祝うように木々が揺れていた
『おめでとう!』
『は?え?今なにしたん』
『なんか水が全部吹っ飛んだんですが』
『陰キャがイキッてるww俺ならワンパンだし』
『そもそもどういうステフリしてんだよ』
『ヤラセ乙、登録外しました』
……コメント欄は、荒れていた
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