思考を変えて
草原を左に進んだ先にあるのは視界いっぱいに広がる広大な湖、目の前に居るのはいつもの天使
――ではなく身長の低い配信者
「いつか魚釣りとかしたいなー!あまみくんは?どう?」
「興味は……あるかな」
話題が続かない、こういう時はどうすればいいのか。そもそも遊とかしか喋らないしこんな自分が面白い話題を挙げられるのかすら――
退屈そうでも、迷惑そうでもない何かを探るような目。なにが目的かは分からないけど、喉の奥からやっとの思いで言葉をひねり出す。
「釣りといえばだけど釣りだけで生計立ててるプレイヤーとか居るのかな?」
少し安心したように、目を細めて。
「居るんじゃない?釣りでしか入手できないアイテムとかあるらしいし」
この湖は偶然、俺がついさっき買った装備の出所だった。
釣りをしているプレイヤーが何人も居て、良く見れば湖の上空を鶴の群れが飛んでいる。
「にしても、夜なのに綺麗だな」
普通の湖とは違う点が一つ、湖の上をゆらゆらとした炎のような何かが浮いていて夜を明るく照らしていた。
「んっと……不知草だって、今ねねリスが教えてくれた」
流石配信者、当然のごとく有識者が居るらしい。
「へぇ?便利だな、ねねリス」
「でしょ、ウィキも顔負けなのようちの視聴者」
ふんす、と聞こえてきそうなドヤ顔。ある種の信頼的な何かを感じるな。
「視聴者をウィキ扱いするのって……いいのか?」
「いいっていいって、だろぉねねリス??」
ドスの聞いた声に謎の圧が、でも視聴者は良いらしい。
むしろ『ウィキになれて光栄です』とか『この為にパンゲイアオンライン始めたまである』とか肯定的なコメントが多い。
――わあ変態さんがいっぱいだぁ
「お、スパチャありがとー!なになに『ねねさんのためならウィキにも椅子にもなれる、むしろ座って欲しい』……きっしょ、ブロックするよ?」
「あはは……」
なんと言うか、相当訓練されてるな?この視聴者達。
「変態ねねリスの事はおいておいて、このまま観光するのもいいけど目的はこの先だから、行くよ」
「おっけ」
この冒険の主導権は勿論誘った側のねねさんにある。どうやらこの湖にあるクエストを終わらせに来たとの事だが、未だにその内容を知らない。
湖を道なりに進んでいく、ちらほらと人も少なくなってきた。
視聴者とは基本的にねねさんがやり取りしていて俺はたまに質問されてそれを返すだけだったりする。
ふと、遠くの方に漕がれている小舟を見つけた。
ルナなら真っ先に乗りたいとか言うんだろうか……っていけない、今あいつの事を考えるのを辞めたいからゲームしてるんだろうが。
「アマミくん?」
「あいや、なんでもない」
「そう?なんかボーッとしてたけど」
鋭い目付きで見られるが
流石配信者、深掘りはしないようだ。考えはしたがすぐに取り直して話題を振ってきた。
「そういえば何をするか言ってなかったね?」
「あ、うん、なにか宝物とかあるの?」
うーん、と頬に手を当てて。
「正解だけど違うかな」
「うんん?」
宝物はあるけど違う……なんだそれ
「ダンジョンとか?」
「ぶっぶー!違います、答えはボス」
「……辞退とかできる?」
「できない、パーティー組んだからには覚悟決めな?」
この人圧が怖い、なんと言うか生命の恐怖を感じるような気がする。
「ねねさん、恐ろしい子……!」
『わかる』
コメ欄からわき出るわかるの嵐、無駄に調教されてるのってこれのせいか。
「なんか言った?」
「あ、いえ」
起こらせちゃいけないタイプの人だったらしい。
湖を越えていくと流れている川を辿って上へと上がっていく。気づけばもう朝日が登ってきていた
四時間置きに更新だから……もう8時なのか
「登山でもする感じで?」
「いんや?そろそろよ」
現実じゃなくて良かったと思う。現実なら多分足を滑らせるかなんかしてポックリ逝ってるぐらいには道無き道。
――朝日がもう完全に昇っていて眩しい。
「着いたよ」
「へ、ここ?」
道無き道を進んだ先、やけにざーざーとうるさいと思ったがこれのせいか。
大きな滝、滝壺から川へと流れる水は良く澄んでいる。
「唖然としちゃって、リアルで滝を見るの始めて?」
「まあ、あんまり旅行とか行かないし」
「あれだね、典型的な都会っ子ってやつ。滝行とか楽しいよ?」
まるでやったことがあるような語り口だな……え?マジでやってるって?
――修行僧かな?
「言っとくけど、ほんと戦力はあんま期待しないでくれよ?」
「ん?別に良いよ、面白そうだったから声かけただけだし。あたし一人でも絶対倒すから」
面白そう、か。
それに加えて確固たる自信もある。視聴者に慕われるのも分かる気がするな。
「ボス召喚アイテム使うけど、準備はできた?」
「勿論」
勿論とは言ってないけど確信、とは言っていない。なにを言っているのか支離滅裂だかとりあえずすごい緊張している。
――すぐに死んだらどうしよう
とか
――ルナが居たらもっと違ってたのかな、とか
魔法具は既に起動した、更に心もとないと言えばこれまで一体ともエネミーと遭遇できなかった事。
お陰で運のカウンターはゼロ、まあこの人がなんとかできるなら言うこともないが。
「おっけ、じゃあアイテム使うよ」
インベントリから水を纏った球体を取り出したねねさん、何故か投球のポーズをして
「ほいよっ!」
華麗な筋で勢い良く滝の中に突っ込んだ。
「プロ野球選手だったり……?」
「プロはプロでもそっちじゃないわ」
話しはするけどその瞳は滝を見つめている。
真剣だ、意外と美人。
なんか更に緊張してきた、こんな時にあいつが居れば……
――もう本当に自分が鬱陶しくなってきた。
まあいい、さて。
「……」
LUC魔ビルドで、俺はどこまで役に立てる?
「気をつけて、揺れてる」
「……!」
徐々に揺れが激しくなってきた、ねねさんが構えを取ってコメント欄も流れが早くなってきた時。
――滝が割れた
これは、尋常じゃねぇ。
「『ライブストリーム』、生きた水流か……アマミくん、前言撤回かも」
水でできた巨大な何かが、襲いかかろうとしていた。




