分岐点
「はあ……」
手が仰いだのはそろそろ慣れてきたVR世界
――では無い、ちゃんとした現実の天井を見上げる。
片手にはついさっき脱ぎ去ったVRデバイスを、そして片手は……何を取るか分からずに空を切っていた。
時刻は6時37分、ちょうど晩御飯が出来上がるころか。
「……スマホスマホ」
机に置いてあったスマホを手にとって遊にメッセージする。急にログアウトしたからビックリしてるだろうし。
『ごめん、久しぶりに疲れちゃって』
すぐに返信が帰ってきた
『全然大丈夫だよ、あーくんちゃんと休んでね!私も休むから、明日遊ぶならメッセージして!』
手を振る柴犬のスタンプ、遊が愛用してるこれを使ってるってことは別に機嫌が悪いわけではないらしい。
怒ってる時は目の焦点が合っていない謎チワワを送ってくる。
「歩ー!ご飯よ!」
――よし、一旦忘れよう。
「はーい!」
何故魚とにらめっこしてるのか、弄られはしたが
夕食を無事終えて、自然と手はVRデバイスに手を伸ばしていた。
確かに遊は遊んでないな
フレンド欄での表示はオフライン状態、俺はオンラインを隠す設定でやっているのでそもそもバレる訳もない。
このままベッドで思考に浸るのもいいけど、こういう時は一人でゲームをやるのも意外と思考が纏まると思うんだ。
――まあ正直、VRに現実逃避したい気分だった
さっきログアウトした家の中で目を覚ます。
「……一緒に住む、か」
現実なら絶対やらない……いや、あいつならワンチャン言うかも?
いや辞めよう、今は余計なこと考えたくない。
せっかく一人なんだし、レベル上げでもしようか?
夜、とは言っても現実では7時ぐらい。プレイヤーの数が減ると言ったことはなくてむしろゴールデンタイムなのか人が多いと思う。
装備はよし、武器もよし。
門を潜れば戦場だ
「よし、いこ――」
「ちょっと待ったぁ!」
……一瞬ルナかと思ったけど違う、溌剌とした女性の張りのある声。
一体誰だろう
後ろを振り向くと誰も居ない、いや下?
「……あ、ども」
俺の腰程の高さしかない少女と目が合った。
黒鉄の胸当てがついたタンクトップにベルトできつく閉められた短パン。肩には片方だけ肩当てが付いていて拳には何かとゴツい金属の篭手が付いているが。
大胆にへそを出していて……全体的に露出が大きいし、ちっこい。凄く一部の界隈が喜びそうな容姿だ。
「露出……高いね?」
めんどくさそうに息を付く女の子、心底うんざりしてるって顔だ。
「小人族ってこういうとこが良くないんだよね……」
「えっと?」
何かをぼそぼそ言う少女、このゲーム自体R15だし買う前の審査もかなり厳しい。
流石に対象年齢外では無いだろうけど。
外ハネしたショートヘアの毛先をくるくる弄りながら、息を吐いて言った。
「あたし、これでも二十歳だから」
「ま、マジ……」
「ドワーフって言う種族を選んじゃって、身長低いのよ。……視聴者に聞かれたらまた弄られるん
だろうけどさ」
――ああドワーフか、とりあえず納得。
確かキャラクリの説明だと容姿の割に力が強いとかなんとか。
それよりもう一つの言葉が引っ掛かった
「視聴者?」
そうだった、と言わんばかりに。咳払いをして手を差し出した。どうも普通のプレイヤーとは違うらしい。
「あたしねねって名前で配信者やってるの、よろしくね」
小さい腕をこちらに伸ばす
なになに?握手をしよう、と。
勿論まだ配信は始めてないから安心して?
と手は伸ばしたままのねねさん。取っていいのか?いやそもそも何故躊躇しているのか、伸ばしてくれたのだから取ればいいじゃないか。
「アマミです、よろしく」
「敬語は要らないから、あとは君配信とか大丈夫な人かな?」
わざわざ聞いてくるってことはそういうことだ。
ちらっと見るとレベルは12、俺とは2レベル差だしパーティーを組んでも問題はない。
「良いけど、俺はパスかな」
なんと言ってもこちらは傷心……傷心中なのか?
一方的に好きになって一方的に自暴自棄になっているだけのような。
まあ人間的にも面白い部類ではないし?ここは一つ遠慮させていただくとして――
《――パーティー申請が届きました》
――聞いてます?
「良いの良いの!あたしが面白くするから」
自信満々だこと、だけどそうなら別に断る理由もないんだが。
あいつは休むと言ったら休むだろうし……でも見られたら絶対問い詰められる。
――でも、ここであえて他の女性と関わることでなにか免疫的な物が付いて遊とも普通に接するのではないか?
旅は道ずれって奴だし、ソロでやっても俺だとまたどっかで死にそうだしな。
今のままじゃあいつに会わせる顔もないし
――よし
「分かった、俺は見ての通り魔法職だから。前衛はよろしく頼むよ、ねねさん」
「うんうん任せなさいって!じゃあ配信始めるから、準備しな~」
――んと、待てよ?
俺のビルド……はまあ、撮れ高にはなるか。
いや、こんなもん見せたら叩かれたりしないか?うん……受けたものは受けたししょうがないとしよう。
「――よっすーねねリスの皆~!今日のパンゲイアオンラインは偶然通りかかった野良の人とパーティー組んでるよー!」
「あ、えっと、よろしくお願いします」
VRの世界はハイテクだ、ウィンドウと同じ要領で表示されたコメント欄が高速で流れていってる。
てかこの流れの速さ相当人気だったりしません?
「んじゃ、いっくぞー!」
幾分テンションが高くなったねねに連れられて門を出る。
あいつ以外の人とパーティーを組むのはこれが始めて。
何故かは分からないけど、少しだけ気持ちが和らいだ気がする。
――けど、あいつの事がずっと頭にあって楽しめるような感じもあまりしない。
女々しい、なんて自分に思うことは初めてだ。




