戦争系統
私たちは当たり前のように「西暦〇年」と言う。
だが、この時間の区切りは、自然に世界へ広がったものではない。
戦争が必要とした共通の時間が、西暦を世界標準へと押し上げた。
もともと、人類の時間はバラバラだった。
王の治世〇年、王朝〇年、宗教行事を基準にした暦。
時間とは「支配の単位」であり、「共同体の内側」でのみ通じるものだった。
だが戦争は、それを許さない。
軍隊は移動する。
補給線は国境を越える。
同盟軍と合流し、作戦を同時に開始しなければならない。
そのとき必要なのは、
「誰にでも通じる時間」だった。
中世ヨーロッパで、■■■■教世界を覆っていった西暦は、単なる宗教的な暦ではない。
それは「■■■■教圏が、戦争と征服を行うための共通言語」だった。
十字軍。
宗教戦争。
王権国家同士の衝突。
作戦開始日、条約発効日、停戦日。
それらを記録し、命令し、再現するために、
西暦は軍事的に洗練されていく。
やがて時代は近代へ進む。
大砲、銃、艦隊。
戦争は国家総力戦へと変わり、
「時間のズレ」は敗北を意味するようになる。
ここで西暦は、完全に“武器”になる。
フランス革命軍も、
ナポレオン軍も、
帝国主義列強も、
植民地を支配する際、西暦を持ち込んだ。
暦を変えることは、
文化を変えること。
歴史の起点を変えること。
そして――支配の正当性を刻むことだった。
日本が明治に西暦を採用したのも、
単なる文明開化ではない。
「列強と同じ時間で戦う」ためだった。
戦争は、時間を揃える。
時間を揃えた者が、
次の戦争を有利に進める。
こうして西暦は、
宗教の暦から、
国家と軍隊の暦へ、
そして世界標準へと変貌した。
私たちが使う「西暦」は、
平和のために生まれたものではない。
戦争を円滑に行うために洗練された時間なのだ。




