7.
揚羽の髪をそのハサミで切った。
――――ジャキン……ジャキン……ジャキン……。
その後もハサミを動かし、揚羽の大切にしている髪を切っていく。
「やめて!!やめて!!」
揚羽が泣きながら必死で叫ぶ。
しかし、藤木は揚羽の言葉を無視して何度もハサミを動かしていく。
そして、ようやっと藤木の手が止まったのは、綺麗なストレートだった髪が乱雑ショートになった時だった……。
「あ……あ……あ……」
揚羽が声にならない声を発しながら、呆然とした状態で頭に手を置き、自分の髪を確認する。
「あ……あ……あ……」
だが、何度確認しても大好きな長い髪が無いのが分かる……。
揚羽の身体が小刻みに震えだす。
そして――――。
「い……い……いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
揚羽の叫び声が下駄箱に響く。
そして、そのままその場で意識を失ってしまった……。
***
「う……ん……」
揚羽が学校の保健室でぼんやりと目を覚ます。
「揚羽!良かったわ!目を覚ましたのね!」
母親が涙を流しながら揚羽を抱き締める。
あの後、揚羽の叫び声を聞いた先生たちが「何事だ!」と、慌てた様子で見に来た。そして、意識を失っている揚羽を担いで保健室に連れて行き、藤木たちに何があったかを問いただした。そして、揚羽の家に電話を入れて、今に至るという訳だった。
揚羽は保健室のベッドの上で、目を覚ましたものの、ぼんやりとしながら天井を見つめている。
(……何があったんだっけ?)
自分がなぜここにいるのかを理解できなくて、心の中で何があったかを思い出す。
「っ……!!!」
揚羽が藤木たちに何をされたかを思い出して、勢いよく起き上がる。
そして、震えながら自分の髪に手を当てて確認する。
「あ……あ……」
あの出来事が夢じゃないと分かり、静かに涙を流す。
そんな揚羽を見て、母親は何も言えない……。
揚羽があの長い髪をどれだけ大切にしていたかを知っている母親は揚羽になんと声を掛ければいいのか分からなかった。
「家に帰る……」
揚羽がそうポツリと呟く。
母親はその事を先生に伝えると、揚羽と母親は学校を後にする。
母親が運転する車の中で助手席に座っている揚羽は一言も喋らず、光を宿していない瞳で窓から流れゆく景色をじっと見ていた。
家に着いて、揚羽はフラフラとした足取りで自分の部屋に入ると、部屋の鍵を掛けた。
この日を境に、揚羽は自室に閉じ籠ってしまった……。




