5.
学校から帰ってきた揚羽の様子が少し暗かったので、心配になった母親が揚羽に声を掛ける。
「その……学校で使っているサックスって、もし、壊したら弁償しなきゃだよね?」
揚羽が恐る恐る母親にそう尋ねる。
「サックスが壊れたの?」
母親が揚羽にそう尋ねる。
「うぅぅん。壊れてないよ。もし壊したらの話……」
揚羽がちょっと暗い声でそう言葉を綴る。
「まぁ、どう言う状況かにもよるけど、壊したら壊した本人が責任もって弁償しなきゃ駄目でしょうね。どんなものでも、借りているものをダメにしてしまったり壊してしまったら、ちゃんと弁償するのが筋じゃないかしらね」
「そうだよね……」
母親の言葉に揚羽がそう返事をする。
「何かあったの?」
母親が何かを感じ取ったのか、心配そうに揚羽に声を掛けるが、揚羽は「何もないよ」と言って、藤木たちの事を話すことはしなかった。
それは、揚羽なりに両親を心配させたくないという気持ちから生じたのかもしれない……。
***
「いやぁ~!傑作だったね!!」
本村が愉快そうにそう声を発する。
藤木たちは夜の公園で会って今日の事を話していた。
「ホント!あの寺川が慌てている顔は見物だったわ!」
「次もあの手でまた飲み物を買いに行かせようよ!」
「いいねぇ~、それ!」
河地と本村が愉快そうにそんな会話を繰り広げる。
「藤木、どうしたの?なんか不機嫌そうに見えるけど?」
その場にいる藤木が何か神妙な顔をしながら考えこんでいるので、本村がそう声を掛ける。
「んー……、もっと寺川が困るようなことがないかな~って思ってさ……」
どうやら藤木は今日の揚羽にやった事では納得がいかないのか、今日以上の事をして揚羽にどうやって苦しませることが出来るかを考えているようだった。
その時だった。
「……あなたが藤木さん?」




