10.
愛菜が帰っていき、学がため息を吐く。
本当ならもう少し愛菜と一緒に時間を過ごしたかった学にとって、愛菜が帰ってしまった事は寂しさで埋め尽くされていた。
「……あら?どうかしましたか?」
愛菜や学が食べた食器を洗いにキッチンに行っていた石川がリビングに戻って来て、学にそう声を掛ける。
「いや……」
石川の言葉に学が少し暗い表情のままそう答える。
その表情を見て、石川は何かを悟ったのか、少し、意地悪な顔をして学に声を掛ける。
「あらあら♪学さんにも春がやって来たのかしらね♪」
「え?!い……いやっ!その……!」
石川の言葉に学が顔を真っ赤にしてうろたえ始める。
「その……そうじゃなくて……その……」
石川の衝撃的な発言に学はどう言葉を紡いでいいか分からない。
「良いことじゃないですか。学さん、愛菜ちゃんといる時の表情は恋をしている表情でしたよ?大好きで可愛くて仕方ないって、顔に書いてありますよ!」
石川が優しく微笑みながらそう言葉を綴る。
その言葉に学は顔を真っ赤にしたまま「今すぐ穴を掘って入りたい……」と、心で感じる。
そして、学は息を吐いて気持ちを整えると、真剣な表情で口を開いた。
「石川さんは、愛菜ちゃんの腕に気付いた?」
学の言葉にさっきまで笑っていた石川が悲しそうな表情をする。
「えぇ、気付いたわ……」
愛菜の上服の袖からわずかに見えた、自傷行為で付けた傷の事を言っているのだろうと石川が察してそう口を開く。
「後、手首に付けていた鍵付きの輪ゴムにも気づいたよね?」
学の言葉に石川が頷く。
「あれ、あの麓にある心療病院の貴重品を入れている鍵だよ。手首にしているってことは入院中ってことだよね……」
学がそう言って何かを考えだす。
「学さん、病院に行くのは止めておきなさいね」
学が何を考えているのかを悟った石川が学にそう声を掛ける。
そして、石川が更に言葉を綴る。
「きっと、愛菜ちゃんは入院している事を知られたくないと思っているはずだわ。もし、病院に行くなら用事がある時にしておきなさい。その内に新しく出来上がったのが届くでしょう?」
石川が学を制すようにそう言葉を綴る。
「そうだね……。今はやめておくよ……」
学がため息を吐きながらそう答える。
(何とかしてあげたいな……)
学が心の中でそう呟くと、再度、ため息を吐いて自室に戻っていった。
***
「……あら、お帰りなさい」




