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ケモ奴隷を買ってみた

作者: とる

 俺は砂埃が舞う貧民街の片隅で猫耳奴隷少女が売られているのを見つけた。




 俺は40代のおっさんだ。剣と魔法に魔物が跋扈する中世風のこの異世界に中学生のころに転移してきた。現役で中二病を患っていた俺は登校中に草原にほっぽりだされた事態でも、いやっほう異世界転生だ!と喜び、ステータス!と叫んでしまうほど危機感が無い阿呆だった。

 幸いステータスを表す半透明なボードが目の前に表示されてくれたからゲームをベースにした世界なんだということはわかった。だが異世界に転移する前に神さまが現れて説明してくれることもなく、ステータスのUIにも見覚えがなかったので自分がなんのゲーム世界に来たのか、どうストーリーを進めていけばいいのかはわからなかった。

 手探り状態でエンカウントしたスライムと戦闘という名の泥仕合をしてステータスの数値が上がることを確認。とりあえずは強くなっとこうと、そのまま草原で戦い続けていたら、水と食料が無くて行き倒れ、タイミングよく通りすがりの巡礼者に助けられて近くの街に連れて行ってもらって、なんだかんだで冒険者になって今に至る。

 途中おもいっきり端折ったが、ただの中学生がヒャッハーな世界で生きられるチートは誰かからは知らんが貰えていたのでなんとかなったのだ。ステータス表示や戦闘で使えるスキルなどがそれだ。それらの力は現地人は使えないらしく俺だけの力だった。そういったチートパワーのおかげで中年になるまで冒険者なんてヤクザな仕事を続けられたわけだ。


 そんな中年冒険者の俺が適当にふらふら放浪中に立ち寄った街で歓楽街へ向かう途中、通りがかった裏道に商人が日よけのタープを張った露店で奴隷を並べて売っていた。

 ほとんどの国では奴隷が財産として公的に認められている。この国でもご多分に漏れないが、奴隷の扱いは他の国に比べてだいぶ良い。例えば借金奴隷なら返済が終われば解放すべしと法で決めてるしな。だがまあそれも厳格に運用するまでには至っていないので、こういった悪所に人攫いから仕入れた違法奴隷が売られている光景は珍しくないのだ。


 興味本位で売られているのを見ていくと、無精ひげの伸びたうだつの上がらないおっさんに、似た雰囲気のおばさん、この二人は夫婦で奴隷落ちしたか?その隣には獣人の青年が立っている。獣の特徴がよく残っていて、鼻から口にかけて出っ張った部分はまんま犬のマズルだ。その横には中長毛の猫が丸まって寝ている。まんま猫だが隷属の首輪を嵌めてるから奴隷なんだろう。この世界の獣人はバリエーションが豊富で、基となった獣そのものの外見から、体系は人に近いが顔や手足に色濃く獣の要素を残していたり、ただのヒトに獣耳つけただけ(ヒト耳もある)というのもいる。


 寄ってきた商人のセールストークを聞き流しつつ商品の奴隷を見ていく。何人目かに汚れの少ない白いワンピースを着せられている少女がいた。オレンジに近い長い赤髪に整った顔立ち、頭の猫耳だけが獣人の特徴だ。


「へぇ、随分と上玉だな。なんでこんな裏通りで店出してるとこにいるんだ?」


 俺の疑問には横についていた商人が答えてくれた。


「ほんとは表通りの奴隷商に仕入れてもらうつもりだったんですがね。一緒に仕入れたエルフが亡国の王女だったらしく、とんでもない値段がついて他を仕入れる予算が尽きたそうなんですよ。へへへ」


 商人が不用意に儲かったことを吹聴するなよと思うかもしれないが、これは商人のせいじゃなくて俺のスキル『話術』のせいだ。スキルレベルが上がると他人が秘している情報を喋らせられるようになるというチートな力だ。


「ううう…姫姉様(ひめねえさま)。両親が盗賊に殺されて奴隷として売られたあたしを優しく慰めてくれたあの人をあたしは絶対に救いだして見せる!」


 おおう、この猫耳少女いきなり身の上話を独り言しだしたぞ?あっ、俺のスキルのせいか。


 うーん、これってゲームのイベントなんかねぇ。俺以外の転生者に会うこともなかったから未だにここが何のゲームを基にしているのか知らんのだよね。この猫耳少女奴隷を買ってエルフ王女を一緒に助けるシナリオかな?たぶん。

 何十年もこの世界で生きてきたので前の世界のこと結構忘れてるんだよなあ。感性も異世界にどっぷり染まってるし。たぶん元の世界に戻っても駅とかでぶつかりおじさんに遭遇したらノータイムで首狩る気がするもん。


「お安くしときますよ旦那。まだ年若い獣人だが見目は整っている。こんな掘り出し物なかなかないですぜ?」


「うーん」







 悩んだが、一人放浪の旅で人恋しかったのもあって奴隷を購入することに決めた。隷属の首輪の所有者を俺に書き換えて奴隷商をあとにする。


 テクテクと表通りに向かって歩く。後ろからついてきているのが猫の獣人だからか、足音は俺のしか聞こえない。


「──ご主人、なんでにゃあの方を買ったのかにゃ?」


 トテテテと歩を速めて横に四足歩行で並んだ中長毛のキジ猫が俺の顔を見上げて疑問の声を上げる。人間の言葉を猫の鳴き声の高さで喋られると違和感があるな。可愛いからいいけど。


「んー?お前を気に入ったからだぞ」


「そうじゃにゃくて、猫耳獣人の女の子の方が可愛いしお買い得だったのでは?」


 中長毛キジ猫がご主人なら買えたよねーという顔で見上げてくる。俺が財布から金を出すときに中を覗き見ていたらしい。


「…猫耳美少女とエルフ王女を助けてハーレムとかベタな展開は食傷気味なんだよ」


 中長毛キジ猫は小首をかしげる。


「俺ってさあ。若いころに異世界転生してきたんだよねえ」


 俺は異世界転生者(正確には転移)であることを隠してはいない。この世界の人間には別の世界とか輪廻転生とかの概念が理解できないから、よくわからん与太話をしているとしか思われないので隠す労力を払うのが馬鹿らしくなって特に気にせず口にするようになったのだ。


「若いころはベタな展開に楽しんで突っ込んでいって女の子大勢ひっかけてハーレムを築いたもんだよ」


 中長毛キジ猫は頭の上を飛ぶ蚊を気にして俺の話を聞いてないが、俺は気にせず好きなようにしゃべり続ける。


「ハーレムってなあ男の夢かと思ってたんだが、実情はドロドロしたもんでな?女が6人超えたあたりから俺でもわかるぐらいに派閥争いが激しくなっていったんだよ」


 ベッドで寝ている俺の耳元で敵対している女性のネガキャンを囁きながら吹き込んでくる様を思い出すと、今でも背筋が凍り付きそうになる。


「俺ってチートな力持ちだから女50人くらい囲っても全然養えるぐらい稼ぎがあったんだけどね。せめて俺の見えるところでは仲良くしてて欲しかったんだけど彼女らガチの殺し合い始めちゃってさあ」


 口寂しくなったんで懐から紙巻き煙草を取り出し、立ち止まって指先に生み出した蝋燭大の炎で火をつける。吸い込んだ紫煙を空に吐き出した。猫飼うなら煙草止めなきゃなと思いながら話を続ける。


「──抗争に加わらずに生き残った女の子と暮らしてたんだけど、ひょんなことから女達の対立を煽ってたのがその女の子だって知っちゃってさ。俺はとるものもとりあえず逃げ出して放浪の旅に出て今に至るってわけ」


 中長毛キジ猫は足元で丸まって毛づくろいをしていた。まあ聞いてなくたっていいさ。前の世界で飼っていた猫も気まぐれだった。猫はそんなもんだ。


「──そうそう、お前の名前決めなきゃな。マイケルとかどうだ?」


「それでいいにゃ」


「よしよし。じゃあ練習で自己紹介してみ?」


「ええと、にゃあの名前は……にゃんだかにゃ?」


「…うん、お前の名前はにゃあでいいや」


 表通りに出ると人や荷馬車の往来が多くなる。にゃあの身体のサイズだと危ないので抱え上げて肩に乗せてやった。


「にゃあは男の子だから(つがい)にするようなことはしないにゃ?」


「せんよ!俺は獣人の子とも付き合ってたが、ほぼ獣の子にまで欲情はせんわ」


 いきなり通りで大きな声を出した俺を通行人がちらりと見ていく。視線を振り切って俺は再び歩き出した。


「それを聞いて安心したにゃ。今後ともよろしくにゃ」


「はいはい、こちらこそよろしく」


 俺とにゃあは腹ごなしのために屋台通りへと向かった。当初目的地の歓楽街行きはキャンセルだ。人寂しい気分はにゃあを迎え入れたことで解消できたので。




 完

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