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『夢』それは短く儚いもの

 私は昔から要領が悪かった。

 性格も明るくないし、人付き合いもうまくない。

 高校受験では前日の夜に、急に不安になって夜遅くまでテスト勉強をして、当日は風邪で寝込んだ。

 そんな私が入学式の前日、流れ星に願いをかけた。

『明るくて人気者の私になれますように』

 まあ、つまり何が言いたいのかと言うと…。

 これは運悪く、その願いが叶ってしまった、という話なのである。


 朝。目を覚ました私は、ベッドの上で大きく伸びをした。

 それからノロノロとベッドから起き出し、寝ぼけまなこで大きな姿見の前に立つ。

 鏡に映る姿は、まあ可もなく不可もなく。

 それはさておき、私は鏡に向かって挨拶をした。

「おはよー」

 これが最近の私の日課。返事はすぐに返って来た。

『おはよう、ユメミ』

 鏡の中の“私”は、明るい笑顔を浮かべていた。


 私は現在、自転車で四十分程かかる、知り合いが一人もいない高校へ通っている。もっと近い高校があるにも拘わらず。…理由はまあ、お察しである。

「あ、ユメミおはよー」

 私が教室へ入ると、気付いたクラスメイトたちが次々と声をかけてくる。

 このクラスの女子は、およそ二つのグループに分かれている。遊ぶと言ったらカラオケやゲーセンへ行くAグループと、遊ぶと言ったらファッションやコスメを見に行くBグループである。

 私はこの一ヶ月足らずで、どちらのグループとも仲良くなってしまった。

 …いや、私ではないが。

『みんな、おはよう!』

 私がそんな事を考えていると、“彼女”が勝手に返事をする。まあ実際に仲良くなったのは“彼女”の方だからいいけど。

「あ、そうだユメミ。今日の放課後、カラオケ行かない?」

 そんなクラスメイトの一人。AグループのA子が思い付いたかのようにそう言うと、私が何か言うより先に“彼女”が反応する。

『いいね、行こうか!』

 ちょ、こいつ勝手に約束を…!

「あー、ごめん。ちょっとトイレに!」

 私は慌ててそう言いながら、教室を飛び出した。


 人気のない廊下の端まで来ると、私はポケットから手鏡を取り出した。一見スマホの様にも見える四角い手鏡。無くても話せるけど、一応誰かに見られた時の偽装用だ。

「ちょっと“ノゾミ”! そうやって勝手に約束しないでよ!」

 私がそう言うと、手鏡の中の“私”が私とは違う表情をして言った。

『私がそうするのは、それがユメミの望みだからだよ?』

 先程から私の体を使って勝手に挨拶をしているこいつは、流れ星が叶えてくれた自称明るくて人気者の私だった。ちなみにノゾミという名前も自称で、私の願いから生まれたからノゾミなんだとか。

「そんな事、別に頼んでないわよ!」

 でも私の願いだか何だか知らないけど、それが人格まで持ってしまったら、それはもう怪奇現象なのである。

『う~ん、そんな事いわれてもね。流れ星に願いをかけたのはユメミだし、明るくて人気者になりたいと言ったのもユメミだよ?』

 鏡の中のノゾミは、そう言って肩をすくめてみせる。

 こいつめ、得体の知れない存在のくせに正論を。

「あら? ユメミさん、そんな所でどうしたんですか?」

「!」

 ノゾミとの会話に気を取られ、他人が近付いて来るのに気付かなかった。

 振り返ると、そこに居たのはクラスメイトの一人。BグループのB美だった。

「それ、え? 手鏡? スマホじゃなくて?」

『あ~、前使ってたのは無くしちゃって、今これしかないんだ』

 驚いているB美に対して、ノゾミはうまい事言ってこの場を誤魔化した。

 ノゾミがフォローしてくれるなんて珍しい。いつもは約束だけしてブン投げるのに。

「そうだったんですか。…そういった小物なら、カワイイお店を知っていますよ^^」

『あ、それじゃあ今度、連れて行って貰ってもいいかな?』

「はい、私でよければ^^」

 と思ったらこいつ、言った側からまた勝手に約束を!

 ノゾミは明るくて人気者の私になりたいという、私の願いから生まれた人格だと言う。その言葉通りノゾミはA・Bどちらのグループにも飛び込んで、あっと言う間に仲良くなってしまった。まあ範囲がクラスの女子限定なのは、確かに私らしい気もするけど。

 しかし彼女がしてくれるのは、そこまでだ。


 放課後のカラオケ店にて。

 私が自棄気味に一曲歌い終わると、集まったAグループの女子たちは真顔で総評に入った。

「う~んユメミ、歌は下手だよねw」

「いやいや、伸びしろはあるよ。…あるか?」

 ノゾミは人付き合いに関する願いから生まれた人格だから、代わりに歌ってくれたりはしない。ノゾミは約束するだけして、音痴を披露するのは私の仕事なのである。


 高校に入学して以降、そんな生活が一ヶ月ほど続いている。

 私は現在自室にて宿題の真っ最中。カラオケと同じで、ノゾミは代わりに宿題をやってくれたりはしない。

「たまには、やってくれてもいいのになー」

 私は姿見へ向かって、わざとらしく声をかけた。部屋にいる時はいつも、これに向かってノゾミに話しかけていた。

 すると姿見の中のノゾミが言った。

『…別にやってもいいけど』

 これまで一度も言った事のないような台詞に、驚いて姿見の方を見る。

 鏡の中の“私”は仁王立ちで、私の事を見下ろしていた。

『でも人付き合いも私がやって、勉強も私がやって、カラオケも私がやって。…それってもう私の人生じゃないかな?』

 く、こいつ正論を。何だよ、結局最初から、やるつもりなんてないんじゃないか。

「いいわよ別に、自分でやるから」

 やっぱりノゾミは、人付き合いだけの人格なのだ。

『そう…がんばってね、ユメミ』

 他人事だと思って、ノゾミが無責任に応援してくる。全く余計なお世話だ。


 でもまあ少しだけ、姉か妹が居たらこんな感じなのかな、とは思った。

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