第1章 迷子のはじまりとパンの誘惑
「だから言ったじゃん、近道じゃないって!」
まどかの怒鳴り声が、タイル張りの地下通路に虚しく響く。
放課後の新宿駅地下街。
人波に揉まれ、三人は手をつないで立ち止まっていた。
「でもさ〜、こっちのほうが空いてるかなって思って……」
華は、わざとらしく目を泳がせながら笑う。
「空いてるどころか、人がいないの不安だわ! ここどこ!?」
まどかが叫ぶ。
「わ〜! パン屋さん発見! ここのクロワッサンめっちゃ美味しそう! 買っていい!?」
柚葉が突然、手を振りほどいてパン屋に走り出した。
「ちょ、柚葉ストップ! 今そんな場合じゃ――」
止める間もなく、柚葉は小さなパン屋の前で、鼻を膨らませてウットリしていた。
バターの香りが空腹の胃袋を一層刺激する。
「……まどか。もういいや、私も一個買う。」
華が笑いながら財布を取り出す。
「ちょっと! 出口探すんじゃなかったの!?」
数分後。
地下通路の隅に、パンの袋を抱えた三人が体育座りでかじりついている。
「……これ、めっちゃ美味い……」
柚葉が口いっぱいにクロワッサンを頬張り、もぐもぐと感動を噛みしめる。
「美味しいけど、なんか悔しい……でも美味しい……」
まどかも結局買っている。バターの層をはがしつつ涙目。
「ほらほら、こういうハプニングこそ放課後の醍醐味でしょ〜! だって新宿だよ? なんでもあるじゃん!」
華は自分の言い訳を押し通すかのように得意げだ。
「新宿だからこそ迷子が一番怖いんだよ……」
まどかがため息をついた瞬間――
「おお! あっちにクレープ屋ある!! 行こう!!」
柚葉が立ち上がり、パンの袋を両手にさらに奥の通路へ走っていく。
「やめろおおおおおおお!!」




