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ディスコードルミナス  作者: RCAS
ヴェリウス辺境伯領の戦い

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カステリス防衛戦3

 侵入してきた敵を、魔法でひたすら撃ち倒していく。

 作戦通り、ヴィクターたちは少数部隊に分かれて路地裏に潜む敵を襲撃しているようだった。

 敵の数が少なければそのまま殲滅、多ければ大通りに誘導し、そこを私が狙い撃つ。

 この作戦は的確に機能し、多くのルミナシア兵の屍が大通りに転がっていた。

 だが、それで進軍を完全に止められているかといえば、そうはならない。敵はゆっくりと、しかし着実に、市街地での支配域を拡げているようだった。


「リーナ! もうここはいい! 次の場所へ行くぞ!」

「ヴィクター様!」


 屋根を伝って跳躍したヴィクターが、私の元に駆けつける。


「あの連中、市街地の奥までは入ってきていないようだ。邪魔がないから迎撃はうまくいっている。だが、止めきれない」


 それは予想通りと言える。市街戦のような視線が通りにくい乱戦では、あの『力』は使いづらい。

 けれど、こちらの不利が消えたわけじゃない。

 私の見える範囲でも、敵の圧力はじわじわと増しており、ヴィクター班の兵たちが少しずつ後退していく様子が確認できる。

 この場所も、敵の投射魔法の射程内に入りつつあった。


 それに……民間人の存在も気がかりだった。

 多くは家に籠っているはずだが、中には逃げ出そうとする者たちもいる。

 逃げ惑う彼らが我が軍の兵と揉めるのはまだましな方で、敵兵の進路を妨げてしまった者は、容赦なく斬り捨てられていた。

 街に響く悲鳴と、助命を乞う声。それが、次の瞬間には断末魔へと変わっていく。

 現実感を喪失しかけるほどの光景。だが、これは紛れもない現実だ。

 単に残酷であるというだけはない。断固たる決意でこの都市を落としにきている。そんな意志が、ルミナシアの兵たちの行動からはっきりと伝わってきた。

 この状況……分かっていたことだけど、支えきるのは無理だ。

 

「ここで守りきるのは、もう無理ですか。だから後退を?」

「そうだ。敵が南門に兵力を集中しているのは間違いない。どんどん南門から敵兵が侵入してくる。兵営が最初に制圧されたのが特にまずい。敵にそのまま兵站拠点として使われる。これは予想だが、兵営までが奴らの力を使ってでも落とす範囲なんだろう。そこから先は通常戦力で十分というわけだ」

「あの力に何かしらの制約があるとするなら、それは極めて合理的な判断ですね」

「たとえ強力でも使い勝手が悪いなら、温存もするだろう。しかし、奴らが出てこないなら戦うことはできる。俺たちにできるのは、少しでも粘り強く抵抗し損害を与え続けることだけだ」


 今できるのはそれくらいか。

 レイウォル丘陵の時と同じだ。引きながら魔法を撃ち続ける。これしかない。


「了解です。場所はどこですか?」

「ここよりは条件が悪くなるだろうが仕方ない。あの建物だ」


 ヴィクターが指さした建物は今いる場所よりも低く、射角も限られているように見えた。

 となれば、東門への大通りに出てきた敵を狙うのが主な役割となるだろう。


「移動はさっきと同じですね? 準備ができました。行きましょう」

「よし、行くぞ」


 ヴィクターに抱きかかえられて次の場所へ。

 指定の場所の一階付近にはすでに後退してきているヴィクター班の兵たちがいた。

 屋上に降り立ち、すぐさまアリサカを構えて、敵に対応できる態勢を整える。


「ヴィクター班を分割する。俺は機動魔法を使える兵を選抜して敵の足止めをする。よってアルフレッド殿を長とし、機動魔法を使えない兵たちは後方へ退避、本城に向かう坂の当たりだな」


 ヴィクターの指さした場所はヴェリウス軍の兵士たちが集まっているようだった。

 あそこはまだ敵の攻撃を受けておらず、防衛線が構築されつつあるように見えた。


「あそこは俺たちの退却地点でもあるから、その維持を命じた。俺は選抜した兵と屋根伝いに機動して魔法を使う。これは敵を倒すためでなく妨害のためだ。そしてヴァルガはそのまま単独行動をさせる。大通りへの釣り出しをすることになっているから、リーナはそこで敵兵を仕留めろ。だが、俺たちへの援護も忘れるなよ」


 そう言って、ヴィクターは下に降りて兵たちと合流した。

 そして編成を変えるようなのか、兵の名前を呼んで自身のもとに集めているようだ。

 確認が終わると、ヴィクターのみならず、他の兵も続くように家屋の屋上へ『瞬躍』で登り、そこから投射魔法を使い敵を妨害しているようだった。


「ヴァルガの釣り出しを待つか? ……いや、敵の頭を押さえることも重要か」


 射角に入った敵を狙い、水の弾丸を放つ。

 イメージは殺すための弾丸でなく、負傷させるための弾丸だ。

 効果はどうだろう……? 良し! 致命傷ではなく、負傷に留まる範囲だ。それにちゃんと救護されている。足止めならこれが最適だ。

 

 ヴァルガは? 来た! 釣り出し成功だ!

 敵が一人と見て油断したんだろう。大通りに釣りだされた複数の敵兵を連続で仕留めていく。

 『水礫』による攻撃を確認したヴァルガは、こちらを振り向くことはなく、拳を天に付き上げることで合図をしてきた。

 再度路地裏に入っていったので、同じことをやるということだろう。

 

 何度か同じことをやっていると、明らかに強く警戒され始めた。

 敵兵は迂闊に大通りに出ずに、素早く路地と路地を移動するような動きに変わっている。ヴァルガの釣り出しはもう効かない。

 厄介。その一言につきる。

 当たり前だけど、対策をされたら市街地のスナイパーなんてそれほど強くはない。

 私にできるのは、頭を押さえるような威嚇射撃くらいだ。

 

 しかし、状況はさらに変化した。

 それはヴィクターたちの陣取る屋根から離れた場所に、ルミナシアの軽歩兵が『瞬躍』で登ってきた。

 南門はともかく、それ以外の場所の城壁の上にはまだヴェリウス軍の兵たちが残っている。そこからの攻撃を警戒して屋上に上らなかったのだろう。

 でもヴィクター達や私の存在がそれを許さなくなった。おそらくはそういうことだ。


「これはチャンスだ!」


 『瞬躍』を使える兵は高価値目標だ。これを倒すことがより多くの損害を敵に与えることになる!

 これは負傷ではなく致命傷を狙う。意識を高めてボルトを操作、そして狙いを定めて……撃つ。

 駄目だ! 防がれた! おそらく『風打ち』と『風薙ぎ』の合わせ技だ!

 距離が遠目というのもあるが、それでもかなりの手練れと言い切れる。これは簡単にはいかないか。

 だけど分かった。あいつらは精鋭だ! 妨害するだけでも価値はある!


 残る四発の弾数を全てあの精鋭部隊に打ち込む。

 それらはすべて防がれるか躱されるが、この攻撃によって行動の自由は奪えた。妨害は成功だ。

 そこにヴィクターたちや城壁から投射魔法が降り注ぐ。さすがの精鋭でも、状況を不利と見て屋根から降りていく。

 私の魔法だけなら追い払うことは無理だったはず。複数地点からの同時攻撃。これがないと間違いなく押し切られた。

 奴らを屋根に上げて自由に動かせるのはまずい。それだけの手札を敵は切ってきたということ。阻止できて良かった。

 

 しかしこうなると、私の魔法の射線に入る敵というのは極端に少なくなる。それに見つけたとしてもすぐに障害物の裏だ。

 さらに、先ほどの精鋭部隊が今度はあからさまに屋根の上へと姿を現した。無視するわけにはいかず、こちらが攻撃を仕掛けると、すぐに身を引いていく。

 くそっ! 見せ札として精鋭を使ってきたか! 奴らの機動は必ず妨害しないとならない。それを逆手にとってきた。


 そして、この射撃ポイントは完全にばれている。また場所を変えなければ駄目か?

 そう思った刹那、視界の端で閃光が走った。

 反射的にその場に伏せる! あぶない! 『熱火』だ! ついに敵の投射魔法の射程にまで近づかれた。

 屋根に伏せ、魔法の発射地点を探るが、敵は見当たらない。完全に私に対する牽制だ。もう、ここでの射撃は不可能だろう。

 そんな私のピンチを見たのか、ヴィクターがこの場所へやって来る。周囲に彼が率いていた兵はなく、その兵たちは北へと後退しているようだった。


「完全に対策されたな。リーナの魔法なしで、ここの維持は不可能だ。それにエリックから伝令が来た。本城から東門に伝令が来て、エリック隊は東門を放棄して河川港への守備に向かえという命令だ」

「それはもう、カステリスを放棄する……そのようにしか聞こえませんが」

「おそらくはそうだろう。この戦況では無理もない。拠点防衛に切り替えるとなると、ここで敵を妨害することの意味はなくなった。屋上を移動していた兵たちは独自の判断で遅滞戦術をしながらエリックに合流するように指示を出した。そして俺たちはアルフレッド殿と合流して本城へ向かう。ヴァルガも一緒だ」


 そう言うと、ヴィクターはすぐに私を抱きかかえた。

 ヴィクターに体を預けて、振り落とされないようにしがみ付く。

 

「本城にはヴェリウス辺境伯閣下から命令を聞くために向かう。おそらく最後の命令となるだろう……」

 

 そう言いながら『瞬躍』を使って城へと後退を始めた。

 目まぐるしく変わる視界には、大通りを行くアルフレッド率いるヴィクター班の兵たちが見えた。

 そしてヴァルガの姿も見える。良かった。ちゃんと後退できたようだ。


「奴らの力の前に強固な城壁は無意味だった……対策を考えなければこの先戦っていくことはできないだろう。リーナに耐性があるのは唯一の救いではあるが、そんな重大事を一人に頼るのはあまりにも危うい。俺がヴェリウス辺境伯に言上申し上げるとしたら、その点についてだな」

「はい……セシリア様の時のような事件ならともかく、戦争となればほとんど意味はありません」


 奴らの力が効きにくいという特異体質。

 これは私だけの特性なのか、それとも他の人にもある体質なのか、それは分からない。

 どちらにせよ、その力を持つのは現状だと私だけ。そんな個人の持つ能力で、戦況を変えることなどできない。


「ここからなら走れます。本城に急ぎましょう」


 市街地を抜けて、本城へ続く坂道の手前までたどり着く。

 ここまでくれば十分だ。ヴィクターに下ろしてもらい、そのまま隣を並走する。

 そして同じタイミングでヴァルガとも合流できた。


「ヴァルガ! ちょうど良かった。敵はどうだ?」

「個人の技能は大したことない。だが、良く訓練されていた。少なくとも、味方の死で戦意が崩壊しない程度にはな」

「同意見だな。戦争慣れしていないだけで、十分に統率が取れているようだった。訓練に金を掛けねば、そうはならんだろう」


 ヴィクターとヴァルガの言うことはもっともだろう。

 今のところ、ヴィクターに匹敵するような敵の手練れは少ない。屋根に上がってきた、あの精鋭部隊くらいのものだ。

 しかし決して弱兵などではなく、損害を与えてもすぐに対策を練って対抗してくる柔軟性があった。

 

「リーナの援護もあって少なくない数をやれたが、それでも損害を最小限に抑えられたという気がしてならん」

「不利となれば直ぐに引かれるからな。突破力がないかわりに、驚くほど綻びがない。ヴァリエンタ帝国の軍とは真逆の発想で統率されている。だが、それを今考えても仕方ない。アルフレッド殿が見えた」


 合流予定地点では、すでにアルフレッド率いるヴィクター班の兵士たちがいて、私たちに手を振っている。

 

「来たか、ヴィクター殿! 傭兵も無事で何よりだ。聞けば、ここで防衛線を構築して抵抗するとのことだが……どうにも状況が悪い」

 

 確かに坂の中ほどに防衛線が築かれているのは間違いないし、それなりに強固には見える。

 敵を通すまいと気勢を上げて指示を出す指揮官と、恐怖に顔を歪めながらも命令に従う兵士などがいて防備を重ねている。

 だけど、戦うのに邪魔な要素がそこには存在した。

 

「貴族だけ逃げるのか! 俺たちはどうなる!?」

「この子だけでも! どうかお城へ! お城へ行かせてください!」

 

 ここでも市民たちが兵士たちに喚き散らしている。しかもその内容は城へ退避をさせろというものだ。

 市民たちに城への道を開くか? そんなことできるはずはない。この群衆を統率することは不可能、防御をするには確実に邪魔になる。

 群衆によって坂へ続く道は塞がれている。このままじゃ私たちですら身動きがとれない。

 明らかにまずい状況だけど、兵士たちが対応に苦慮しているのがありありと伝わってくる。


「これでは戦うことはできん。市民が邪魔をして兵の動きが悪い。士気にも影響を与えるだろうな」


 群衆を前にしてのヴァルガの第一声はそんな言葉だった。

 それはこの場で待機していた者たちの共通の意見のようで、無言ながらも眉をしかめていることが、皆がその意見に同意しているようだった。


「市民を見れば心苦しさはあるが、俺たちの役目が変わった。すぐに本城へ向かうぞ。ヴァルガとリーナは俺に付け。アルフレッド殿は隊をまとめてくれ」

「承知! 皆の者! 整列しろ!」


 掛け声とともに列をまとめるアルフレッド。

 私とヴァルガは歩みを進めるヴィクターに付いていく。


「どけ! 道を開けないと切り捨てるぞ!」

「死にてぇ奴はそのままでいいぞ! ただの脅しと舐めてかかるような奴は、今ここで殺してやる。道を開けろ!」

 

 並みいる市民の群れをかき分けで、道を作る。ヴィクターは剣を抜き、威圧しながら前進する。

 特に役にたったのはヴァルガの持つハルバードだ。こういう時の長柄武器は恐ろしさを与えるのにはもってこいだった。市民たちはそのするどい刃を恐れて、詰めかける群衆たちの中をかき分けていく。

 あんまりなやりくちだが、仕方ない。罪悪感を抱きながらヴィクターの背中を追いかける。

 そうして無理やり坂の入り口までたどり着き、ヴィクターが最前列の兵士に声をかける。それに答えたのはここを指揮する騎士だった。


「エリック隊のヴィクター・モラントだ! 伝令からの指示を受け本城へ出頭するように命令をうけた!」

「話は聞いている! さっさと行け!」

 

 坂を守備する騎士に許可を取り城へ向かう。

 市民たちはいきなり後ろから現れ、脅しつけて道を開けさせた私たちを見ていた。

 さらに口頭での少しの確認だけで城に向かうのだ。私たちへ、視線を向けているのが分かる。

 彼らをしり目に坂を上る。

 市民たちの向ける恨めしいような、その目線。それは私にさらなる無駄な罪悪感を覚えさせるには十分なものだった。

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