幕間3 〇ッキーゲーム
セシリアは今日も窓際の席に座り、相変わらず外を眺めている。エリックからの手紙が来てから毎日こんな感じだ。
手紙の内容はひとまず安心ではあったけど、それでも心配であることに変わりはない。特にエリックの勘というのは俺も気になっているところだ。
そして退屈を紛らわせる遊びもないし、外に出たいという思いも強くなっているみたいだ。
というわけで宣言通りセシリアの暇つぶしになることを考えてきた。
それはこの焼き菓子だ。形状としては細長く焼いたものだな。
俺も多少の小遣いを貰っているから市場で買ってきた。これを使ってする遊びがあるのだ。
「セシリア様、ちょっと遊びませんか?」
セシリアは振り返ってきょとんとした顔をした。
俺の手にある焼き菓子を見ているが顔には疑問が浮かんでいる。
「遊び? その焼き菓子で?」
「そうです。実はこれで遊べるんですよ。〇ッキーゲームって言います。試しに遊んでみませんか?」
「〇ッキーゲーム? 初めて聞いたわね。それでどう遊ぶの?」
セシリアは首を傾げているが、一応の興味はあるようだった。
「簡単です。二人で両端を口に咥えて食べ進めていくんです。先に口を離した方が負け、ってルールなんですよ」
「……それって、ゲームなの? いかがわしい何かのように思えるのだけれど?」
たしかにいかがわしいゲームかもしれない。
でも俺たちは主従ではあるが女同士で仲も良い。だからこんな提案もできる。
あと百合ホモが迫害される世界でないというのもある。多神教の神話が、信仰の中心であるというのも大きいのかな?
「物は試しです。とりあえず一回やってみませんか?」
俺は菓子の端を咥えてみせた。そして反対の先っぽをセシリアに向ける。
セシリアは困り顔をしながら、ちらちらと俺の顔をうかがってくる。
ためらいはあるけど同時に興味もあるって感じだ。ならここはこうする。
「もしかして、怖気づいたんですか?」
「何を言うの! 怖気づくわけないじゃない! 」
「じゃあやりましょう。大丈夫、これくらい気楽に楽しみましょうよ」
くだらない挑発だけどセシリアはムキになって乗ってきた。
セシリアが結構な負けず嫌いというのは、日々を一緒に過ごしていて分かっている。
こういうところはまだまだ子供で可愛らしい。
セシリアが菓子の片方を咥えた。これでゲームスタート。俺たちはゆっくりと焼き菓子を食べ進めていく。
セシリアの頬に淡い朱が差しているのが分かる。やっぱ照れるよな、これ。俺も少し恥ずかしいし。
そうしてお互い食べ進め……。
「やっぱり無理!」
セシリアは目をそらしながら口を離した。
「俺の勝ちですね。まあこんなゲームです。ちょっとドキドキしたでしょ?」
「むぅ……何よ、余裕ぶっちゃって」
その拗ねたような顔はどこか悔しそうだ。
でも僅かだが笑顔も垣間見える。少しは気分転換になったかな?
と、綺麗に終われば良かったんだけど、次の対戦の日はすぐにやってきた。
セシリアがどこからか調達してきた焼き菓子だ。俺が買ってきたものとは違うけど、遊ぶのに不足はない。
「勝てる勝負で負けるのは悔しいじゃない」
ということらしいけど、いいのか?
余裕ぶってこの遊びを提案したけど、内心では少しだけ意識している。
子供と思ってはいるけど美少女でスタイルもいいからな……それを意識すると性欲を持て余す。
しかし断るのも忍びない。性欲処理は自分でなんとかするとして、セシリアの気分転換と考えるなら付き合うべきだろう。
そして俺たちはまた同じように向き合っていた。
セシリアは照れながらも焼き菓子を咥えて、俺にも咥えろと焼き菓子を軽く振って挑発をする。
差し出された焼き菓子を咥えて勝負が開始される。
二人ともゆっくりと焼き菓子を食べ進めていく。
最初の時よりもセシリアは迷いなく俺へ近づいてくる。これには俺も焦りが生まれる。
そしてセシリアが意を決したように大きく距離を詰めてきた。
目と目が完全に合って、息遣いまで聞こえるくらい近い。予想外の勢いに思わず後ずさりしようとして……ついに口を離してしまった。
「やった! 私の勝ち!」
セシリアは満面の笑みを浮かべてこぶしを突き上げた。
「俺の負けです。最後の思い切りの良さが勝因ですね」
「そうでしょ! 私だって、やる時はやるんだから!」
そう言って得意げに腕を組むセシリア。
いい笑顔だ。この笑顔が見られるなら、やったかいもあったかな。
そんな気持ちになりながら、穏やかな気持ちで喜ぶセシリアを見つめていた。
だがそれで終わりではなかった。
何を気に入ったのか、セシリアは度々この〇ッキーゲームを俺に挑んでくるようになってしまったのだ。
それだけ暇だったというのもあるし、ちょっとしたどきどきにセシリアがハマってしまったのかもしれない。
俺としては……正直なところ慣れた。どきどきなんてそう長くは続かない。
この感受性の乏しさは、俺が大人の男である証明でもあるから別にいいけどさ。
「リーナ! また勝負しましょう!」
「……では俺も本気を出します。セシリア様がこれで逃げるようなら最後にしましょう」
「私が逃げる訳ないじゃないの! 今度も勝って見せるわ!」
というわけで、このくだらないゲームを今回で最後とするために俺も本気を出す。
躊躇なく食べ進めて、本気でキスするそぶりを見せればさすがのセシリアもびびるだろう。
焼き菓子を咥えてお互いに見つめ合う。これが暗黙の了解でのスタートの合図だ。
最初からフルスロットル! なんて大げさな言い方だけど、つまりは躊躇なく食べ進むというだけ。
これにはセシリアの焦りを感じるがそれを無視する。お互いにどんどん詰め寄ってくる。だが俺はスピードを緩めない。
そして……。
「……っ!」
かすかな感触。唇が……当たった? ……間違いない。確かに触れている。
セシリアの目が大きく見開かれた。
だけど唇が離れる気配はないし、俺も唇を離す気になれない。それだけの心地よさがセシリアの唇にはあった。まるで魔力が宿っているかのように。
ついにはセシリアが目を閉じて唇同士をさらに密着させてきた。それを俺も受け入れる。受け入れてしまう。
思わず伸びた手はそのままセシリアを抱き寄せる。そしてそのまま唇同士を合わせ続けた。
……どれだけ時間が経ったのだろう? ゆっくりと、お互いに口が自然と離れた。
「……」
「……」
至近距離でセシリアを見つめる。その顔は今までで一番赤く染まり、潤んだ目で俺を見ていた。
そうして数秒の静寂が続いたあと、急に我に返ったようにセシリアが体を翻し、寝室に向かっていく。
少しの間、呆然としていた俺もセシリアを追って寝室に入る。
「えっと、セシリア様?」
セシリアはベッドにうつ伏せに寝転がり、顔を枕に埋めていた。
何度呼びかけてもその態勢を崩さない。ただ体がぷるぷると震えているのが分かった。
「あー、その。ごゆるりと……」
俺にも多少の動揺があったからなのか、言うべき言葉が思い浮かばない。だからそれだけ言ってこの場を去った。
なんというか、やっちまったぜ……ここまでする気はなかったのに。
うーん、まあ、でも。
「柔らかかったなぁ……」
この心臓の高鳴りは、若かった時のことを俺に思い出させた。青春ってやつだねこれは。
それに、この程度で俺とセシリアの仲も壊れはしないだろう。照れてるだけだろうしな。
ならいいや。そういうわけで、とにかくヨシッ!




