幕間1 セシリアはお茶目さん
「それはそうと、リーナに聞きたいことがあるの」
俺のことを説明し終えてこれで話は終わりかな? と思った所でセシリアがそう訊いてきた。
さて、何だろうか?
「もう何度も見てるとはいえ最初はどう思ったのか気になっちゃってね」
「何がですか?」
「それはもう、決まってるじゃない。私の、か・ら・だ。リーナはどう思ったの?」
えぇ……この話蒸し返すのかよ? それになんて言っていいか分かんないよ!
こうなればエリックに止めて貰おう。って、あ!
エリックは俺たちから顔を背けていた。この話題に入るつもりはなさそうだ。
「そ、それは……き、綺麗でしたよ? まるで芸術品のようでした! いやぁ、女性の体というのは芸術性がありますから、そう感じるのも当然ですね!」
とりあえずこれで乗り切ろう! 一応そう感じたのも確かだから嘘は言ってない!
「ふーん……芸術ねぇ。そのわりには必死だった記憶があるのだけれど?」
「それは仕方ないじゃないですか! エドワード様は俺が男だってのを一応知っているわけだし、娘の肌を見るだけじゃなく触ったわけですから。俺としてはビビりますって!」
「ああ、そっちの方か。でも確かにそうね。リーナが男の姿でアリオン家に来て、それで私の裸を覗いたらお父様は怒って大騒ぎしたかもしれないわ。私、家族に大切にされてる自覚、あるからね」
エドワードさんのことを話すセシリアの顔は笑顔だった。
気丈な子だ。あれだけのことがあっても、家族の話をする時にこの笑顔ができるというのが、セシリアの強さなのかもしれない。
「はい、俺もそう思います。最初から思ってたことですけど、女だからこそ信用されるまであんなにも早かったという自覚がありますよ。俺が男だったならもっと警戒をするはずだし。マリアの下について仕事はできなかったでしょうから。だからこの体になって良かったって、今は思ってます」
「そうね。私もそう思う。リーナとここまで仲良くなれたのは女同士だからよね。何せ一緒のベッドで寝た仲だし」
「……あの時はセシリア様が不安そうだから一緒に寝たんですよ。そうじゃなきゃ一緒に寝るなんてしませんよ」
「ならまた不安になった時には一緒に寝てもらうわ。それなら良いでしょ?」
望まれたらそりゃあ一緒に寝るけどね。でもこれだけは一応言っとかないとな。
「確かに体は女同士です。でも次は何をするか分かりませんよ?」
「別にいいわ。どうせ大したことはできないでしょ」
「それはそうですが。でも、女同士でもそういった悪戯で心に傷を負う女の人もいるらしいですけどね。俺の国では表に出ないだけでそういう事件もあるらしいですよ」
何かの漫画で見た知識だから微妙なところだけど、そういう事件もあるらしいからな。
それに突っ込むモノがなくたって、手とか指で色々できるんだから、その自覚は持ってないと駄目だ。
「リーナがそれを私にするの? それなら一緒に寝た時にしてたんじゃない? あの時の私って、かなり心細かったしね。ちょっとでも押せば私だって体を許したかもしれないわよ?」
か、体を許すって、それは……。
うーん、なら優しくすればいけたか? それとも強引に迫れば……って何考えてんだ俺は! あんな不安そうな顔した子にそんなことできるわけないだろ!
でも、やっぱり、名残惜しさもあるというか……。
「あははっ! やっぱりリーナって面白いわ! こんな短い間にそこまで色々な顔ができるってのも凄いわね!」
「……セシリア様。からかいましたね!」
「中身は大人の男なんでしょ? そう思ったらからかいたくなるのよね。何でかしら?」
どうもこの子は人を手玉にとって遊ぶ癖があるようだからな。
……別にいいけどさ。
しかし年下の女の子に良いように遊ばれる俺っていったい……。
「はぁ、もういいです。セシリア様のそういう所も、俺としては好きですからね」
「ふふーんだ、今度は照れないからね。リーナもリーナでこういう反撃してくるから話していて楽しいわ」
「セシリア様の照れた可愛いお顔を見たかったのに。とても残念です」
「うんうん。リーナはそれでいいわ。だからこれからもよろしくね」
セシリアが微笑みながら俺の手を軽く握る。さきほどと比べて雰囲気が格段に明るくなった。
うん。なら良いか。セシリアのお茶目な性格には俺も助けられているしな。
「はい。よろしくお願いしますセシリア様」
とまあ、これで終われば綺麗な終わり方だったんだけど。
「あのな……俺の居る前でそんな会話をするな。どう反応すればいいか分からんぞ」
エリックは明らかに困惑した顔で呆れたようにそう言った。
俺とセシリアが作り出した世界はエリックの一声で崩壊し、二人とも身を縮こませるのだった。