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ディスコードルミナス  作者: RCAS
アリオン家の日々
12/71

新たな学び1

 あの後エドワード様とさらに色々と話をした。そこで今後についての話もあったけど、一番驚いたのは魔法の話だった。エリックが使った風打ちというのは技の名前ではなく魔法だと言う。

 咄嗟の迎撃に使う風の魔法という事だ。試合の時は記憶が飛んでいたが、今はあの時のことを思い出せる。実態は空気を固めて打ち出す、そんな感じの魔法だと思う。そして魔法を使うのは模擬戦ではご法度。つまりエリックは反則負けだったわけだな。


 そして他には光の魔法もあると言うことで、実はそれを俺はすでに見ている。

 用途として光源を出す魔法だという。エドワード様が剣の整備をしている時に光源が見当たらなくも部屋が明るかったのは、その魔法を使っていたからだ。

 なぜこんなことに気が付かなったのか……俺は自分が時に抜けているという自覚があった。仕事でも大ポカはしないが変なミスをすることはあった。どうやらこういうところは、俺が俺のままであるという強い証拠だ。これ喜んでいいのかねぇ?

 まあそれはそうと、日常に新たなものが加わる。それは勉強だ。


「リーナも今日から授業に参加するんだったな」


 教室として使われるのは談話室だ。

 アリオン家には家庭教師がいる。住み込みでエリックとセシリアに勉強を教えているのだ。

 大貴族なら子供一人に先生一人をつけるのが慣例だとか。しかしアリオン家は貧乏ぎりぎりの男爵家だ。なので家庭教師は共有しているとのこと。


「エリック様が推薦してくたとエドワード様から聞きました」


 まさか異世界でメイドになって、それから学問を学ぶとはね。どんな人生を送っているんだ俺は。


「ああ。すでに父上から聞いたと思うが俺の存念も話しておこう。お前はあの模擬戦の前からすでにおかしかった。なにせただの侍女なのに俺の話が理解できるどころか、付いてさえこれるのだからな。そしてあの模擬戦だ。見た目だけを見れば可憐な少女にしか見えないのに、やっていることだけを挙げれば誰もお前を女だなんて言えないよ。だからお前を試すことになったんだ」


 可憐な少女と言うのは素直に嬉しいと思っておこう。俺はもうTS娘なんだからな。そういう余裕を持った考えでないと変にエリックを意識してしまう恐れがある。

 流石にメス堕ちは避けたい。

 俺は物語が続くかぎりメス堕ち許せない派だからな! 言い換えると完結する時ならメス堕ちもありという事。

 TS娘である俺の明日はどっちだ!?


「勉強はそこそこできる自負はありますよ? ただし嫌いですけどね」

 

 変なテンションになりかけたが、とりあえず落ち着こう。

 俺が軽く肩をすくめるとエリックもそれに乗ってくる。


「気が合うな。俺も同じだ。必要であるなら学ぶことから逃げはしないさ。ただ体を動かすほうが楽しいからな」

「最後の方は気が合いませんでしたね。俺は体を動かすのは別に好きじゃないですから」

「あれだけ剣術に熱心なのにか?」

「剣を振るのと、ただ体を動かすだけは違いますよ。じゃないと侍女の仕事が楽しいってことになります。仕事は責任感でやるものだし、それは良いんですけどね」


 やはりエリックとは話が合う。学生時代を思い出して懐かしい気持ちになる。


「……お兄様。ずいぶんとリーナをお気に召したようですね? リーナもリーナでお兄様とお話が合うようで……なによりよ」


 ぶすっとして顔でこちらを見るセシリアは拗ねていた。あきらかに拗ねていた。これ、まずくないか?


「リーナはお前の側付きなんだ。こういう時くらいは俺に譲って貰いたいものだな」

「訓練の時もお兄様はリーナを連れて行ってますけどね! まあいいです。お父様からも言われてますから。でもこれだけは譲りません! もうリーナをあんな目に合わせない事! いいですね。リーナも気を付けるように! 返事は?」

「はい! 俺はセシリア様の侍女です! なのでもう無茶はしません!」

「ならいいわ。そろそろヘイル先生が来る頃です。今は勉強に集中しましょう」


 なんとかなったか? まだセシリアの機嫌は直ってはいないようだけど、それでも良し! でもフォローはしないとな。今日の昼食はセシリアの好きなものでも作るか? 材料はどうだったかな……と、足音がする。先生が来たようだ。

 と言う感じで授業の参加となった。今日やったのは算数だった。アラビア数字でないのが辛い所だが内容としては簡単な幾何学だな。

 これは俺にとっては簡単なものだ。大したレベルではなかったけど、これでも大卒だからそのプライドも少しはある。


「もう終わったの? ずいぶんとすらすら解くのね」

「これくらいは、まあ。完璧な正解でなく近似値で良いという話ですし」


 ずいぶんと実用的な感じの内容なんだよな。正確に解くのではなく近い値がでればいいってんだから。これ土地の面積の算出とか、そんな感じな気がする。


「こうなる事は予想していたが、流石だなリーナ。では授業はこのまま参加しても良いと父上には報告しておこう。ところでだ。ここの答えはわかるか?」

「ああ、これはですね……」

「駄目よリーナ! お兄様の勉強なんだから教えるのはご法度よ! お兄様は嫡男なんだから甘やかしては駄目! だから教えるのなら私に教えなさいな」


 エリックが恨めしい目をセシリアに向ける。それを受けて何故か得意顔をするセシリア。

 もしかしてこれはMMKか? 日本海軍用語のこれは、モテてモテて困っちゃうって意味だ。いや、マジで困ってるんだけどね……。

 

「えっと、どうしましょうか、ヘイル先生?」

「ふむ、リーナ君はすでに全て理解しているようだ。ならこの授業に参加する意味はそれほどない。仕事があるならそちらを優先でも構わないが、いかがか?」


 というわけで俺は仕事に戻った。先生としても俺がいるとやり辛いってのもあったんだろう。でもこの世界の勉強がどういうものかってのが分かったのは収穫だったな。

 そしてさらに数日が経過した。


「では、今日の授業は最近の世界情勢についてだが、これはリーナ君のために行うようなものだ。エドワード男爵からも依頼されたからね。実学以外がどれだけできるか知っておきたいとのことだ。とはいえエリック様とセシリア様にとっても良い復習の機会でもある。現状での変化もあるし、その説明もしよう」


 この授業は俺が一番欲しているものだった。自分のいる国の社会情勢がわからないのは現代日本人としては苦痛と言ってもいい。

 だからこういう地理や歴史の分野が一番楽しみだった。セシリアに少し聞いた限りではローマ帝国のような国家もあったみたいだし、地球とは違う歴史。実に面白そうだ。

 

 ヘイル先生が机に広げた地図にはこの世界の主要な国々が描かれていた。現代の地図を知っている身からすれば精度が気になるが、この際、位置関係が分かればいい。

 主要な三国で列強国のヴァリエンタ帝国、ゼイガイト大公国、ルミナシア聖王国がある。あとはこまごまとした小国か。事前に予習していたからわかる。

 教えてくれたセシリア先生に感謝だ。


「現在、この地域の政治状況は非常に不安定だ。特にヴァリエンタ帝国が推し進める拡張政策が、周辺国との緊張を生んでいる」


 ヘイル先生の指が地図の北東部、ヴァリエンタ帝国を示した。広大な平野が広がり多数の河川が流れるその地は経済的に豊かな基盤を持つ一方、領土拡大への野望を抱いているという。

 アリオン男爵家もこのヴァリエンタ帝国の一員だ。とはいっても国土の端にある辺境の男爵家だけど。


「ヴァリエンタ帝国は古代オルディア帝国の復興を掲げている。オルディア帝国の継承国を自認しているからだ。無論領土欲や経済的理由もあるし、むしろそちらの方が動機としては強いかもしれない。しかし建前だが事実でもある。歴史的なプライドの問題で主導しているのが外征派よばれる中央の上級貴族達だ。我々のような辺境の貴族やその係累、内政派にとってははた迷惑な話ではあるがね」


 当たり前だがどこにでも派閥はあるものだな。ヘイル先生の説明を聞きながらそんな当然のことを噛み締める。が、ふと疑問が思い浮かぶ。


「オルディア帝国の継承国はルミナシア聖王国では? 正式な古代帝国の継承国であるオルダリス王国が国号を変えて国家元首も聖女に変えたと聞きました。しかし国家元首と言っても象徴的なものでその実態はオルダリス王家が政治を差配していると。であるならばヴァリエンタ帝国が継承国だというのは変ですよ?」


 この世界には聖女が存在している。ラノベでよくあるアレ。

 ただどうもマジモンの奇跡を起こすらしいから、地球の聖人とか聖女とはまた別だろう。やっぱラノベ世界やんここ。

 そんなアホなことを考えている俺だが言っていることは間違っていないようだ。ヘイル先生は頷き話を進める。


「良い質問だね。オルディア帝国はかつてこの地域を統一した強大な帝国で、その繁栄の象徴は高度な統治と交易網、そして圧倒的な軍事力だ。この主要三カ国全てが版図だった偉大な国家だった。そしてそのような国家であるなら皇室の血が各地に分散するものだ。ヴァリエンタ帝国の家系図を辿っていくとオルディア帝国の地方総督までたどりつくのだが、こちらに皇室から嫁いだ姫がいた。その血統を持って帝国の継承国であるという大義名分としているわけだ。実際オルディア帝国時代に決められた継承のための条件は、一応ながら満たしているらしい」


 この世界では女系の継承もありだとは聞いていたけど、それだと継承権が無茶苦茶になるんじゃ?

 まあ古代神話の影響とかあるらしいからそこいらはパスでいいや。

 とにかくヴァリエンタ帝国ってのは。


「自称帝国? って感じですね。オルディア帝国の血は薄くて中央の力も弱いから纏まりなくバラバラ。しかも宗教的権威もあるわけじゃない。これじゃあまるで……あ!」


 やっべ! こんなこと平民メイドが言って良いはずがないぞ! 先生の反応は!?


「ふふっ、自称帝国……か。実態としてはまさにその通りなのだが、そこまで言うかね? 聞いているのが我々だから構わないが次からはきちんと相手を考えてから発言したまえよ? 失言だったと君も思ったようだからね。もし中央でそんなこと言ったらただではすまないだろう」

「……はい、今後は注意します」


 セーフ!

 ヘイル先生は内政派って言ってたからな。それで大丈夫だったんだろう。

 あとエリックとセシリアはどんな感じだ? って、あれ、なんだその目は。


「すごいわねリーナ。わたしよりも理解しているみたいだわ。ちょっと教えただけなのに」

「うむ、そうだな。だが自称帝国というのは傑作だ。あの威張り腐った連中が誇る帝国をそうも貶すとは、胸がすく思いがするな!」


 セシリアはまだ感心しているだけに見えるからいいけど、エリックはなんなんその反応? どれだけ中央の貴族は辺境に嫌われてるんだよ。

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