ヴィクターを見舞う
ヴァルガとアンナの介抱をしたが、回復は無理と判断。二人まとめてベッドに突っ込んで寝かせておいた。
人間的な相性は悪くなさそうだし、問題は起きないだろう。
俺はアリオン家の宿舎に戻り、ベッドに入った。そして目覚めれば朝になっていた。
雑務を済ませ、エリックたちを見送る。ヴェリウス勢の会議か、上手くまとまればいいが……。
今日は重傷者が治療院に運ばれてくる日だ。ヴィクターの見舞いに行かなくてはならない。それが終わればミリーの見舞いだ。
ヴァルガとアンナも二日酔いがひどくなければ引っ張っていくつもりだが、体調はどうだろう?
二人の様子を見に宿舎へ。
部屋に入ると、ベッドで二人が抱き合うように眠っている。睦み合いと言うには顔色が悪い。
まだ酒が抜けていないな。
「おい、二人とも、起きろ」
「ぬ……リーナか?」
「……朝? ずっと寝てた?」
二人とも顔色は悪いが、なんとか動けそうだ。
「今日は重傷者が送られてくる日だろ? ヴィクター様とミリーの見舞いに行くから二人を誘いにきた。特にヴァルガは今後の契約もあるだろうし、行かなきゃまずいだろ」
「ああ……そうだが。頭いてぇ……」
「ミリーの見舞いは行かなきゃね。気持ち悪いけど……私はまだなんとかなるよ」
ヴァルガは若干きつそうだが、アンナは数時間もあれば復活しそうだな。
「酔い覚ましに粥でも持ってきてやる。待ってろ」
食堂に行き塩粥をもらって戻る。味はイマイチだが、こういう時はこれが一番だ。
「持ってきたぞ。食え」
ヴァルガとアンナは、もそもそと塩粥を口に運ぶ。
ゆっくりだが、完食。食欲があるなら大丈夫だろう。
「受け入れの時間がいつになるか確認してくる。水を飲みたければ自分で調達しろ。それくらいはできるだろう?」
「すまん。助かったぜ……」
「ありがとリーナ。いやぁ……調子に乗って飲み過ぎたね」
「反省しているなら説教はいらないな? では行ってくる」
宿舎を出て治療院へ。広場に併設されているから迷うことはない。
治療院に入り、カウンターで書類と格闘している女の子に声をかける。
「アリオン家の使用人だ。重傷者の受け入れの時間はどうなっている? ヴィクター様はこちらに運ばれると聞いているが」
「あなたが……リーナ?」
事務員と思わしき少女は、俺の顔を見てそうつぶやいた。
茶髪ロングの可愛い子だが、どことなく日本人を思い起こさせる顔つきをしている。
人種的にはコーカソイド系のはずなんだが、顔の堀りなどは東洋人に近いのか? 不思議な感覚だ……。
「……えっと、あの、どうかしました?」
っと! 見惚れていたが、そんな場合じゃないな。
「すまん。君はモラント領の子だよね? 何故俺の名前を」
自分が多少は有名になりつつあることは自覚しているが、それはあくまでも軍内部の話。
流石にモラント領で俺の名を知ることはないはずだけど……どういうことだ?
「兵隊さんからです。軽傷の方はこの治療院に来ています。その時に色々とお話をして、そこでリーナという名前を聞きました」
「そうなの? すっかり有名人だな……。それで、さっき聞いた件についてはどうだい? 早馬が出ているはずだけど」
「ええ、確認しています。あと少しで到着するとのことです。昼前には全ての受け入れが終わる予定です。なので早めの昼食を取ってから来ていただくのが良いでしょう」
「分かった、また来るよ」
酔い覚ましの休憩ができると思えば悪くない。
でも、可愛い子だった。好みドンピシャだ。
やはり娯楽の少ない世界だと、女はそれ自体が娯楽だな。話すだけで楽しかったぜ。
ということで気分良く宿舎に戻り、二人に説明をする。
「――というわけだ。まだ時間があるから、俺は無理のない範囲で体を動かしてくるが、二人はどうする?」
「俺は駄目だ。まだ気持ち悪さが抜ぬけねぇ……」
「私は少し散歩でもしてくるよ。ここに集合でいいんだよね?」
ということで自由行動開始。
広場で木剣を振っていれば輸送用の馬車は一目で分かるだろう。
同じように訓練をしているエリック隊の兵たちと雑談をしながら、怪我に響かない程度の素振りをする。
そうしていると馬車がやってくるのが見えた。どうやらアレのようだな。
ヴァルガの宿舎に戻る。
今は夏だ。日本と比べれば涼しいとはいえ、それでも結構暑い。
ヴァルガは休憩、アンナも散歩から戻ってきてくつろいでいた。そんな中でパンツ一丁になって体を拭く。
すでに恥ずかしい部分を見せ合った仲だ。あまり羞恥心は感じない。
そして服を着替えて号令をかける。
「よし! 食堂で早飯にして、それから治療院だ。行くぞ」
「おう」
「りょーかーい」
いつの間にか俺が仕切っているけど、こういう日もあるだろう。
食事をした後に治療院に向かう。そして先ほどの女の子に面会依頼をする。
ここからはアンナとは別行動。俺とヴァルガはヴィクターに会いにいく。
「ミリーのところに行ってるね!」
「分かった。あとから行くよ」
ヴィクターには当然の如く面会依頼が多い。まずはモラント家の人間が合うのが筋となる。
とはいえフランが来るわけでもなく、まずは家臣団が挨拶に来て、家族とはその後のようだ。
今のヴィクターの立場はエリック隊の士官だから、そちらが優先されるということらしい。大怪我だが命に別状はないし、手続きを優先した形だろう。
少し待っていると、名前を呼ばれた。
案内された部屋は個室だ。ここなら周囲に人がいないから話しやすい。
「入るぞヴィクター! 怪我の具合はどうだ?」
ヴァルガが真っ先に声をかける。ベッドの上でヴィクターが上半身を起こして、俺たちを出迎える。
その顔はどこか覇気が薄かったが、怪我人なら仕方ない。
「まあまあだ。重騎兵に突っ込んだ割には軽傷とも言える。医者には運がいいと言われたよ」
「そりゃそうだろ。普通なら死んでるぜ」
「同じ様に突っ込んだお前が良く言う。怪我一つなく動いているじゃないか」
「その代わりにハルバードがひん曲がっちまった。あれじゃあ修理しても元には戻らん。せっかくの業物をヴェリウス家から貰ったのに、それがおじゃんだぜ」
「命の代わりだと思えば安いものだろう?」
「まあな」
二人の軽妙なやりとりは相変わらずだ。
ヴィクターが弱気になっているとヴァルガは言っていたけど、これなら大丈夫そうだ。
「リーナも無事でよかった。まだ肩の傷が癒えていないのによく戦ってくれた」
「もうほとんど気にならないですよ。そろそろ糸を外していいかもしれません」
「重症だってのにひと月も経たず回復か? お前も頑丈な奴だな」
「できるなら、この回復力をヴィクター様に分けてあげたいですよ。エリック隊にヴィクター様の存在は欠かせませんからね」
「当然だな。遊撃戦力を率いるなら俺がいないと駄目だろう。エリックやカイルには荷が重い」
和やかな会話が続く。
この様子なら本題に入って問題ないだろう。
ヴァルガに目を向けると、軽く頷いた。
「それで契約の件だ。今後も俺を雇うということで良いのか?」
「当然だ。お前に抜けられると困る。報酬は俺の妹であるフランチェスカと交渉してくれ。今はあいつが家を仕切っているからな。手紙を出しているから直接屋敷に行っても問題は起きないだろう」
「承知した。それとわざわざ気を回さなくても、抜けたりはしねーよ。リーナとの約束もあるしな」
「……そうか。だが、あれは正当な報酬だ。実家で保管していた私物だが、今は飲むことができん。それならヴァルガに渡したほうが良いとおもってな」
あのワインとウイスキーはヴィクターのだったのか。
それなら気にするほどのことでもないのかな? この世界でも怪我人が酒を控えるのは常識だし。
「しかし、リーナとの約束とはなんだ?」
「それは俺から説明します。今後も一緒に戦ってくれってヴァルガに言ったら体を求められまして。それを対価に契約しました」
ヴィクターは一瞬呆けた顔をする。
そして難しい顔でヴァルガに問いかけた。
「ヤったのか?」
「おう。想像以上の上物さ。あれを知ったらそこらの商売女にゃ戻れんな」
本人を前にして言うことじゃないだろうが……。
とはいえヴァルガとの距離はアレで確実に縮まったとも言える。
……ならいいか。
「……それで? リーナはどうなんだ。その顔を見るにまんざらでもなさそうだな」
「ヴィクター様も遠慮がないですね……まあいいです。俺も楽しめた。そう言っておきます」
こういう時は、恥ずかしがったら負けだ。堂々とすればいい。
「そうか。しかし、ヴァルガに惚れた……という訳でもないようだが」
体を許したのは確かだし、メス堕ちしそうにもなった。
でも……ヴァルガに恋愛感情はない。
前に感じたものと同じだ。頼りになる兄ちゃん。それは変わらない。
「ヴァルガのことは好きですが、それだけです。ヴィクター様のことも好きだし、同じようなものじゃないですか?」
ここまで一緒に戦ってきたんだ。当然ヴィクターのことも好きだと言える。
ヴァルガが近所の不良系兄ちゃんなら、ヴィクターは体育会系部活の先輩ってところか?
「俺に好意があるというのは嬉しく感じるが、その程度で体を許すのか?」
「それだけじゃ駄目ですね。心から認めた男じゃないと嫌です。こんな体でも、ある程度の価値はあるでしょう。それが答えです」
内面はどうあれ、客観的に見るなら俺は美少女だ。
そこに価値は生まれるはず。ならある程度の選り好みをしても良い立場ってもんだろう?
……とはいえ、この考え自体が女に心が寄り出している気もするが……今の自分は女だからと納得するしかない。
「む、そうか。それなら俺に抱かれることにも拒否感はない……そう判断するが、どうだ?」
ヴィクターが探るような目で見てくる。
ちらちらとヴァルガと俺を行ったり来たりしているけど、ヴァルガに対抗しているのか?
でもヴィクターと、ね……嫌ではない。
だけど――。
「構いませんよ。でも、恋仲でない以上は理由が必要です」
性行為を経験したことでタガが緩んだと思う。
認めた男であるなら体を許すことに抵抗感はない。頼りになる男に身も心も委ねたいという心の動きだろう。
もしくは俺にホモの素質があったとか? ……それは怖くなりそうだからパス! 考えたくない!
「そういうことか。ふむ……なら後で考えておこう」
「エリック様を説得できるような理由を考えてくださいよ? ヴァルガとの約束にしたって、露見しても問題ないと思ってのことですから」
なんだかんだで自由意思を認められているとはいえ、俺はアリオン家の侍女だからな。
エリックに行動を制限されても文句は言えないし、あまりに奔放になり過ぎてエリック隊に亀裂が入ったら困る。
「ふっ、いいだろう。それにお前たちと話せて良かったよ。病人として安静にしているだけではつまらないからな」
「まずは体を治すことが重要だからな。早く復帰してくれないと困るぜ。俺の扱い方を一番理解しているのはお前だ」
「分かっている。退屈でも我慢するさ」
こうして話は終わった。
傭兵の契約の件も無事に終わって良かった。
あとは、ミリーの見舞い。それが済んだら……この治療院の金創医に、肩の糸を抜いてもらわないとな。




