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追放された人質聖女なのに、隣国で待っていたのは子犬系王子様との恋でした  作者: 海空里和
第一章

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12.苦しみからの解放

 事故は不幸なものだった。

 怪我は魔物討伐中、突如大量発生した魔物に一人囲まれたとき負ったものだ。


 エアロンと命からがら逃げだし、仲間と落ち合ったときには意識がなかった。

 目覚めたときには足が思い通りに動かなくて、普通に暮らせても騎士として戦場に出るのは難しいだろうと言われた。


 幼いころから兄の背中を追いかけ、立派な竜騎士になるのが夢だった。


 絶望したノアは、しばらく塞ぎこむようになり、皆からは腫物のように扱われた。兄ユリウスから飼育長の話をされたときにはすっかり足も日常生活を送れるようになっていた。


 少しでも役に立ちたいと、飼育長の話を受けた。もしかしたら騎士に戻れるかもという淡い期待は、すぐに打ち砕かれた。走ると足が思い通りに動かなくなるのだ。これではエアロンに乗り続けることも無理だ。


 エアロンは新しい相棒を決めようとせず、ノアの言うことしか聞かない。仕方なく運搬専用にしたが、シルフィアが出陣するときはどこか寂しそうだった。


 エアロンにもユリウスにも後ろめたい気持ちでいっぱいで、ノアは口数が少なくなった。淡々と飼育長の仕事をこなす日々。こんな役立たず、生きている価値があるのかとさえ思った。そして幼いころにした、女の子との約束も記憶から消されていった。


 戦争で勝利した見返りに、イシュダルディアから聖女を迎えると聞かされたときは、何を今さらと思った。


 あの魔物大量発生も、アウドーラに聖女がいれば防げたのではないか、そんな気持ちになった。


(聖女の力なんてなくても、竜騎士団がいるから大丈夫だ!)


 今さらそんなものに頼ることへ強い拒絶を覚えた。


 八つ当たりだった自覚はある。


 敵国の人間とはいえ、フレヤに冷たく当たった。


 敵国に来てもなお、腐らずにやりたいことをやるフレヤに苛立った。


 彼女の仕事ぶりを見れば、どんなに竜のことが好きかわからないわけがない。謝りたくても今さらで、彼女をちらちら見て機会を得ようとしたが、余計な言葉しか出てこない。


 何で敵国のためにそこまでできるのか問えば、まっすぐに答える彼女に心を見透かされた気になった。


 そしてフレヤは酷い扱いを受けてなお、シルフィアを助けてくれた。


(どうして君は……)


 そんなにも真っ直ぐなんだ。


 今度こそ役に立とうとしたが、魔石一つ持ってくるだけでこうだ。このポンコツの足は彼女を貶める資格などない。役立たずだ。


 走って戻ったノアに、騎士団がシンとして微妙な空気になっていた。フレヤはただノアを心配してくれたが、役立たずが偉そうに文句を言っていたのだと知られたくなくて、遠ざけた。


 それでもなお心配してくれたフレヤに、どう思われてもいいと半ばヤケになって過去をさらけ出した。


(どうだ、お前も僕を可哀相だと憐れんで、今までの暴言をバカにするだろう?)


 思えば酷いことを言ってきたのに、フレヤはどんなときでも言葉を返してくれた。


 これで軽蔑され、無視されるようになるのだろうと思えば胸も痛む。


「辛かったですね」


 だがフレヤはノアを罵るでもなく、憐れむでもなく、過去を否定せずに今を認めて抱きしめてくれた。


 フレヤの言葉を肯定するようにエアロンが鳴く。


 怖くてあの日から真っ直ぐに見られなかったエアロンと目が合う。


 彼もノアをずっと心配していて、一つも責めてなんかいないのだと、ようやく理解する。


 フレヤに視線を戻せば、優しい笑みが返ってくる。


(あんなにひどいことばかり言ったのに、どうして君は……)


 気づけばフレヤに身を預け、大声で泣いていた。


 その間ずっとフレヤが頭を撫でて、抱きしめてくれた。


(これが……聖女……)


 フレヤの温かさに、今まで自分を固めていた感情のしこりが溶けていく気がした。


 辛かった。苦しかった。


 しかし王子として、そんな感情を出すことは許されないと思っていた。

 足が使いものにならず、竜騎士にもなれないお荷物の王子が笑うことも、悲しむこともしてはならないと。


 フレヤが現れてから、自分の感情が動き出したことに今さら自覚する。

 そして今、感情を爆発させ吐き出す自分をフレヤは受け止めてくれている。


 エアロンの番であるシルフィアを救ってくれた。嫌いなはずの自分にずかずか入り込み、心を救い上げてくれた。

 ノアがフレヤに惹かれるには充分な理由だった。


(今度は僕が君を守るよ)


 その日の夜、抱きしめられた温もりを反芻するように、ノアは自身の身体を抱きしめた。

沢山のお話の中からお読みいただきありがとうございます!次回から第二章に入ります。

ぜひ作品のブックマークをよろしくお願いいたします!

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