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2つの落とし物

作者: ここのひ

◯pixivでフリー台本として公開しているものです。

●無断転載はおやめください。

あるところに双子の兄妹がいました。二人は仲良しでずっと一緒でした。兄は妹を気づかい、妹は兄が大好きでした。

ある日、二人が庭で遊んでいると、あるモノを拾いました。それはトゲトゲした黄色いものと、赤いリボンのついたベルでした。トゲトゲした黄色いモノは絵本に出てくる星によく似ていて、ベルはリーンとキレイな音がしました。二人は家に持って帰り、こっそり音の出ない壊れたオルゴールに入れました。


その夜。

妹はトイレに行きたくなりました。

静かにベッドを抜けてトイレを済ませた帰り。どこからか音がします。気になって音の聞こえる方へ行くと、あのオルゴールでした。壊れた筈のオルゴールから音がするのです。周りには誰もいませんし、フタも開いていません。妹は怖くなって、兄を呼びました。

「オルゴールが鳴っているの」

「オルゴールが?」

二人はもう一度オルゴールの所に行きました。音は鳴っていませんでした。

「鳴ってないぞ」

「うそじゃないよ。鳴ってたの」

「フタが開いてる」

「フタは触ってないよ」

見た時、フタは閉まっていた筈です。

「なんか、光ってる」

二人は恐る恐るのぞいてみました。トゲトゲした黄色いモノが弱くなったり強くなったり、まるでイルミネーションのように光っていました。それはまるでお星さまのようでした。


次の日。

朝になってオルゴールを見てみましたが、トゲトゲした黄色いモノは光っていませんでした。二人は顔を見合わせて「なんだったんだろうね」と首をかしげました。

そして夜になり、今度は兄がトイレに行きました。するとどこからか音が聞こえます。兄は昨日の夜に妹が言っていた事を思い出しました。

「オルゴールが鳴ってる…」

妹の言っていた事は本当でした。しばらく鳴るとオルゴールのフタが静かに開きました。兄は怖くなってベッドに潜り込み、ぎゅっと固く目をつむりました。


また次の日の夜。

今度は二人でオルゴールを見に行こうという事になりました。兄も妹も本当は見に行きたくありませんでしたが、夜な夜なオルゴールが鳴られてはトイレにも行けなくなってしまいます。それは困るのです。

時計の針が11を指しています。とても冷たく、二人は手足をこすりながら寄り添い、オルゴールを見ていました。

「鳴らないね」

はーっと息を手に当てながら妹が言います。

「もう鳴らないのかな」

兄は毛布を広げ直し、妹が寒くないように一緒にくるまります。

それから少し時間が経ちました。

どうやら寝ていたようです。

目をこすると『リン…リン…』と音が鳴っています。兄は思わず妹を起こします。

「起きて。鳴ってるんだ」

妹も目をこすりながら音を聞きました。

「どうするの?」

「開けてみる」

兄は知っています。このフタが勝手に開くことを。それなら先に開けて中を見てやる。そう考えました。

妹が見守る中、兄はフタを開けました。

中ではトゲトゲした黄色いモノが光り、ベルがひとりでに鳴っています。鳴っていたのはオルゴールではなくベルだったのです。ベルがひときわ大きく鳴ったかと思うと、途端にトゲトゲした黄色いモノがより強く光りだしました。


「おや、こんな所にあったのか」


突然、後ろから聞こえた声に二人は驚きました。

「ほっほっほ。驚かせたようですまないね」

振り返ると、真っ赤な服に身を包み、白いヒゲをたっぷり蓄えた眼鏡をつけたおじいさんが立っていました。おじいさんは帽子をとり、二人にお辞儀をしました。

「こんばんは、可愛いお二人さん。そのベルと星はワシが落とした物なんじゃ。ずーっと探しておった。拾ってくれてありがとう」

「このトゲトゲした黄色いモノは、お星さまなの?」

「そうじゃとも。それがないと暗くてうまく進めないんじゃ」

「迷子になるの?」

「そうなんじゃ。いやはや、恥ずかしいの」

おじいさんは帽子をかぶり直しながら笑いました。

「あと、そのベルはな、この子が落としたんじゃ」

おじいさんの後ろから、とっても大きな鹿が出てきました。

「わぁ!おっきな鹿!!」

「ほっほっほ。その子はの、トナカイというんじゃ」

「となかい?」

トナカイは大人しく、大きな角が当たらないように、そっと頭をこすりつけてきます。首元に赤いリボンが見えました。

「あのベルといっしょのリボン」

「トナカイの首にベルをつけてやってくれないかの?」

そこで兄がトナカイにベルを。妹がおじいさんに星を。それぞれ返してあげました。おじいさんはにっこり笑い、トナカイもとっても嬉しそうです。

「ありがとう。心優しいお二人さんに拾って貰えて嬉しいよ」

「とっても明るいのね」

「そうさ。ワシ達は暗いところを進むから、とても大事なんじゃ」

星だけじゃなく、ベルも淡く光りだしました。

「本当はお礼に乗せてやりたいんじゃが、もう行かなきゃいけなくての」

二人はキョトンとしています。

「おやおや、気づいてなかったか」

おじいさんは少し恥ずかしそうに笑いました。

「お二人さん。この星を空へ投げてくれないかの?」

二人が受け取ったのは白いお星さま。おじいさんに誘われるまま外に出て、空に向かって高く放り投げました。空に投げた二つのお星さまはカチンと互いに当たったあと、ぱぁっと細かな星々になり一筋の道が出来ました。

「うわぁ…」

「すごーーい!」

二人は両手を広げて喜びました。こんな景色は今まで見た事がありません。

「お二人さんのおかげでとても良い道が出来たよ。では、これに乗って行くとしようかの」

声のする方へ顔を向けると、おじいさんはトナカイに繋がれた大きなソリに腰を下ろしていました。ソリには何か大きく膨らんだ袋が沢山積み込まれています。

「おじいさん、どこに行くの?」

「お二人さんのように、優しい良い子のところへ行くのさ」

おじいさんは大きな手で二人の頭を撫でて言いました。

「ワシはサンタクロースじゃからな」

おじいさんは手綱を持つと、「お。そうじゃ。忘れる所じゃった」と二人を手招きしました。

「壊れておったろう。せめてものお礼じゃよ」

渡されたのはあの壊れたオルゴールでした。フタを開けると綺麗な音を奏でました。二人はとても喜びました。それを見届けると、トナカイは走り出しました。星の道を渡っていきます。


「またお二人さんのところにも行くからの」


そう言い残し、おじいさん、サンタクロースは空へと消えていきました。

二人は大きく手を振り、いつまでも見送っていました。

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