表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

白夜の中のわざわい 後編

2025.10.20 全文書き直しました。

 荒縄で、グルグル巻きにしてスケーイトの頬を軽くはたく。

 スケーイトは、目を覚ますと、やはりこちらを憎しみのこもった目で見て来た。


「大丈夫か。これを飲め……」


 ゆっくり、そして最後、ド――ンと女の特製のお茶を飲ませる。


 飲ませるのは、最初は楽しかったが……、まずかったらしく、最後に盛大に袖に出されて……なんだか萎えた……。


「ペシアお前、私に何を飲ませたんだ!?」


 それだけ言ってスケーイトは、ふたたび咳き込む。

 俺と女は顔を見合わせ、そして彼女は笑って、それであやふやに誤魔化された。


 ――やれやれだ。


「ここは……、この荒縄……、ペシア、お前まさか……!?」


「何がまさかだ、この馬鹿が!!」


 スケーイトの頬を片手で、両側から掴む。

 いつも真面目な、こいつの口がアヒルみたいになる。


 でも、本人は真面目なんで、キラキラした目で、俺を見て来る。


「ぐほぉっ!アヒル、おもろっ、きらきらおめめのアヒル最高に笑える!……ふぅ……。おい! 女かわりに説明してくれ」


「リシアって名前が、私にもあるからそっち呼んでもらえる?」


「わかったリシア、アヒルの事、お願いする。ぐフィ」


「あぁ……そうだ、あそこに本を置いたから近寄らせるなよ」


 石が積みあがっている場所を指さす。


「初めまして黒魔術師様、まずお茶をどうぞ」


 リシアは、グルグル巻きにされた、スケーイトのひざの上にお茶を置いた。

 鉄板のネタなのか、操られた時、用の気つけ茶なのか悩む。


 スケーイトとは一度、操られているのだから、敗北を認め帰るべきだ。

 しかしあいつは絶対正義マンぽいし、黒魔術師だ。素直に帰るだろうか……。


 ◇


「終わったわよ――!」


「わかった今、行く」


 ゆっくりとスケーイトの元に歩み寄る。

 これだけの時間が、あればこいつの頭も冷えるだろ。


 おれの足元には荒縄でぐるぐる巻きにされ、大きな石にもたれかけさせられた髪の長い、黒魔術師、スケーイトがさっきと同じ状態で居た。


「ペシア、太陽を吸い込んだ魔物を倒そう!」


 スケーイトは、曇りのないまなこで言う。

 ――嘘だろ、おい!


「スケーイト、お前は今の状況をわかって言っているのか?」

「私には考えがあるんだ。この縄をほどいてくれ」


 魔物の事は、黒魔術師にしかわからない。

 俺達、孤児院出は、頭に叩き込まれる。だから死ねと言われればそうするしかない。


 リスクは、まだ使える本人ではない場合も多い。


 そして俺は折れ、目的地である人知れずの谷へ、そのまま進んだ。


 岩場ばかりで、何もない土地が白夜の中にあった。

 多くの黒い影があるくなか、リシアが誰かの名前を呼んだかもしれない。


 だが、彼女を見ずに、俺たちは進み広場の奥にいる。

 大きな黒い影と、対峙することとなる。


 そして最悪のことに、奴の神は、硫黄や、ガスが渦に巻く場所のど真ん中に、俺に本を持たせ走らせる選択をしたのだ。


 ――本当に最悪だ!


 ガスが充満し、危険な色をした場所のど真ん中へ、持っていた白い本を投げた。


 魔物は躊躇も無くその中へ向かい、目標と定めた場所、白い本の手前へ辿り着いた魔物へ、スケーイトがありったけの炎の柱のあがる魔法を放つ。


 ガスでの誘爆を引き連れて、魔物、一連の呪いの根源へと爆撃が向かう!


「ペシア、頼む!」

 スケーイトの声とともに、2代目の魔術師の作った、予備の本を含め投げ入れる。


 それはすぐに、ドドドドーン、ドーン、ドーン! ガスが無限に続く限りの爆発と、爆発音の中に紛れて見えなくなった。


 力の根源と、振り撒いた災いや呪いが燃えていく。


 断末魔が聞こえ、成功へと向かっているらしい。


 らしいっていうのは、最初の誘爆、それとガスによる爆発は、スケーイトの魔法による加護で足を踏ん張り見届ける事が出来た。

 それ以降は、風圧で飛ばされるようにして、外へ、足を半分、宙に浮かせながら逃げたし、吹っ飛ばされた。


 俺は悠長にすることが出来ず、逃げることに精一杯だったからだ。




 ――その時、激しい空間の揺れを感じた。



「二人とも見て!」


 空の白夜がほころび始めている。次々に音を立てて落ちて来る、白い空の残骸。


 破られた空の隙間から暗い闇と星々が見える。


 そして終わりを告げる鐘は、リンリンリンと鳴り響く。


「ありがとう、ふたりとも! やっと正しい姿に生まれ直せる!」


 リシアの声がした。


 そして何人もの白い影が、俺達の横を通り過ぎる。



 そして誰も居なくなった夜空の下に、残されたのは1冊の本。



 『千夜一夜物語』



 その本を拾い、スケーイトに差し出す。


 彼は後ろに3歩さがった。禍々しいなにか、命の重みか? 


 それとも、この本の行先が、黒魔術師とだけされているのか、スケーイト本人宛なのか?


 理由もわからず、俺から逃げる、スケートとの鬼ごっこは、放置され、待ちぼうけ食わされた、ぶちぎれたラクダが迎えに来るまで続いたのだった。


 おわり



見ていただきありがとうございます。


またどこかで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ