白夜の中のわざわい 後編
2025.10.20 全文書き直しました。
荒縄で、グルグル巻きにしてスケーイトの頬を軽くはたく。
スケーイトは、目を覚ますと、やはりこちらを憎しみのこもった目で見て来た。
「大丈夫か。これを飲め……」
ゆっくり、そして最後、ド――ンと女の特製のお茶を飲ませる。
飲ませるのは、最初は楽しかったが……、まずかったらしく、最後に盛大に袖に出されて……なんだか萎えた……。
「ペシアお前、私に何を飲ませたんだ!?」
それだけ言ってスケーイトは、ふたたび咳き込む。
俺と女は顔を見合わせ、そして彼女は笑って、それであやふやに誤魔化された。
――やれやれだ。
「ここは……、この荒縄……、ペシア、お前まさか……!?」
「何がまさかだ、この馬鹿が!!」
スケーイトの頬を片手で、両側から掴む。
いつも真面目な、こいつの口がアヒルみたいになる。
でも、本人は真面目なんで、キラキラした目で、俺を見て来る。
「ぐほぉっ!アヒル、おもろっ、きらきらおめめのアヒル最高に笑える!……ふぅ……。おい! 女かわりに説明してくれ」
「リシアって名前が、私にもあるからそっち呼んでもらえる?」
「わかったリシア、アヒルの事、お願いする。ぐフィ」
「あぁ……そうだ、あそこに本を置いたから近寄らせるなよ」
石が積みあがっている場所を指さす。
「初めまして黒魔術師様、まずお茶をどうぞ」
リシアは、グルグル巻きにされた、スケーイトのひざの上にお茶を置いた。
鉄板のネタなのか、操られた時、用の気つけ茶なのか悩む。
スケーイトとは一度、操られているのだから、敗北を認め帰るべきだ。
しかしあいつは絶対正義マンぽいし、黒魔術師だ。素直に帰るだろうか……。
◇
「終わったわよ――!」
「わかった今、行く」
ゆっくりとスケーイトの元に歩み寄る。
これだけの時間が、あればこいつの頭も冷えるだろ。
おれの足元には荒縄でぐるぐる巻きにされ、大きな石にもたれかけさせられた髪の長い、黒魔術師、スケーイトがさっきと同じ状態で居た。
「ペシア、太陽を吸い込んだ魔物を倒そう!」
スケーイトは、曇りのないまなこで言う。
――嘘だろ、おい!
「スケーイト、お前は今の状況をわかって言っているのか?」
「私には考えがあるんだ。この縄をほどいてくれ」
魔物の事は、黒魔術師にしかわからない。
俺達、孤児院出は、頭に叩き込まれる。だから死ねと言われればそうするしかない。
リスクは、まだ使える本人ではない場合も多い。
そして俺は折れ、目的地である人知れずの谷へ、そのまま進んだ。
岩場ばかりで、何もない土地が白夜の中にあった。
多くの黒い影があるくなか、リシアが誰かの名前を呼んだかもしれない。
だが、彼女を見ずに、俺たちは進み広場の奥にいる。
大きな黒い影と、対峙することとなる。
そして最悪のことに、奴の神は、硫黄や、ガスが渦に巻く場所のど真ん中に、俺に本を持たせ走らせる選択をしたのだ。
――本当に最悪だ!
ガスが充満し、危険な色をした場所のど真ん中へ、持っていた白い本を投げた。
魔物は躊躇も無くその中へ向かい、目標と定めた場所、白い本の手前へ辿り着いた魔物へ、スケーイトがありったけの炎の柱のあがる魔法を放つ。
ガスでの誘爆を引き連れて、魔物、一連の呪いの根源へと爆撃が向かう!
「ペシア、頼む!」
スケーイトの声とともに、2代目の魔術師の作った、予備の本を含め投げ入れる。
それはすぐに、ドドドドーン、ドーン、ドーン! ガスが無限に続く限りの爆発と、爆発音の中に紛れて見えなくなった。
力の根源と、振り撒いた災いや呪いが燃えていく。
断末魔が聞こえ、成功へと向かっているらしい。
らしいっていうのは、最初の誘爆、それとガスによる爆発は、スケーイトの魔法による加護で足を踏ん張り見届ける事が出来た。
それ以降は、風圧で飛ばされるようにして、外へ、足を半分、宙に浮かせながら逃げたし、吹っ飛ばされた。
俺は悠長にすることが出来ず、逃げることに精一杯だったからだ。
――その時、激しい空間の揺れを感じた。
「二人とも見て!」
空の白夜がほころび始めている。次々に音を立てて落ちて来る、白い空の残骸。
破られた空の隙間から暗い闇と星々が見える。
そして終わりを告げる鐘は、リンリンリンと鳴り響く。
「ありがとう、ふたりとも! やっと正しい姿に生まれ直せる!」
リシアの声がした。
そして何人もの白い影が、俺達の横を通り過ぎる。
そして誰も居なくなった夜空の下に、残されたのは1冊の本。
『千夜一夜物語』
その本を拾い、スケーイトに差し出す。
彼は後ろに3歩さがった。禍々しいなにか、命の重みか?
それとも、この本の行先が、黒魔術師とだけされているのか、スケーイト本人宛なのか?
理由もわからず、俺から逃げる、スケートとの鬼ごっこは、放置され、待ちぼうけ食わされた、ぶちぎれたラクダが迎えに来るまで続いたのだった。
おわり
見ていただきありがとうございます。
またどこかで。




