#30【これが友達というものなんだろう】
そんな古賀君を見て、俺は真っ先に「ゆ、床が抜けるって思ったら…」という言い訳が出てしまった。
「あほー、んなボーリング場は柔くないわ。最近やとこんくらいの重さなら8mから落としても壊れへんらしいし、受け止めんでよかったで」
「そ、そう…なんだ」
「大丈夫2人とも!!」
みんなして駆け寄ってくる。
「おう大丈夫大丈夫、頭打ってないしピンピンよ」
そう笑顔でみんなに、答える古賀君であったがその右腕は段々と紫がかり始めていた。
「こ、古賀君っ、ほんとにごめんっお、俺の、俺のせいで…」
「え? あー、いや、それをいうやったら俺もや。ほんまになんも知らん奴が初めて投げるって事考えて、どこで手を離したらいいか、ちゃんと考えて言うべきやった。すまん」
スパンッと強く叩きつけられるてのひら二枚。
ギュッと力強く震えるそれを前に、俺は思った。
古賀君は悪くないのになんで謝るの、と。
俺が間違っただけで、むしろ怪我をさせた俺が謝るべきなのに。
「な、なんで古賀君が謝るのさ」
考えて、聞くべきじゃないとわかっていて、でも、どうしても我慢ならなくて言葉が、出てしまった。
そんな言葉を聞いて、古賀君は笑った。
笑って立ち上がって、俺の手を引く。
「悪い事したからや、それだけ。それにまぁ……うん、これに関しては俺がしたくてしただけや。友達を助けれたんやから怪我くらいやっすいやっすい。それに能力者は能力を使用してなくても多少力が漏れ出てる奴があるっていうし、俺の能力はまさにそれ。普通の人間よりも頑丈よ。虎を舐めんなっ」
二ヒッと笑えるその優しさはなんなのか。
そう思った時、パネルから音が鳴った。
ガーター!!
ビクンっと音に体を跳ね上がらせると、古賀君は俺の肩を叩いた。
「ま、そういう人間もおるってことや。気にしやんのは無理かもやけど理解してくれたら嬉しいよ。と言うか、ボーリングを上手くなってくれた方が謝られるより嬉しいわ。……ちょ、健二」
「任せてっ、こういう時の為の能力だから」
「意思疎通省略助かる」
そうして、蘇我さんが米田くんの回復能力を受けた時のように光が現れ、古賀くんに衝突すると同時に風が巻き起こった。
そうしてすぐ、腕の色味が少しずつ引いていく。
それを見届けて、蘇我さんが自身が持ってきていたカバンから何か臭いの強いものを手に取った。
「虎宇治! 能力での治療は外傷内傷共に治るけど痛みは多少続くわ! この湿布を使いなさい! 効くわ! 結構!!」
「体言止めするくらい効くなら付けとくか。あんがと」
そうしてぺたっと湿布を貼り付けると、万全と腕を回していると戻ってきたボールを掴み、俺に持たせた。香りくるヒノキのような湿布の匂い。
「後ろにつくで」
「う、うん」
「はい、じゃあまずボールに手を添えます」
「はい」
「で、次にぃ……身体を斜め後ろに捻りながらボールを後ろに下げます。ここではボールの高さは腰くらいまでにしましょう」
「なんか、古賀君の普通の喋り方、新鮮で面白い」
「そう面と向かって言われると恥ずかしいやんけあほっ」
「あだっ」
ペシッとこめかみにデコピンされる。
「まったく。はい。ほんじゃあ投げるんやけど、指から離すときは遅くても腰の高さまで。こっから上は上手くボールを操れんかったり、さっきみたいなことになる」
その注意の文言を胸にしっかり打ち付ける。
「んじゃ、せーので構えて。……はいせーの」
俺から身を離し、少し後ろ側に立つ古賀君。それを確認してから教えてもらった通りに身体を引いて玉を持ち上げる。
「うん、おっけー。あとはもう、さっき言った通りに投げてくれて構わへんよ」
「わ、わかった……」
緊張の一投。
頭によぎるさっきの失敗。
「いけいけー、怖気付くなー。カバーするー」
古賀君が言ってくれてる。怪我をしても優しく接してくれた。それに彼は言った。
謝ってもらうよりもボーリングが上手くなってくれた方が嬉しいって。
だとするなら、贖罪として、ここで頑張らなきゃどうする。
「い、いきまーす!」
「おういけいけー!」
「がんばれー昇也くーん!」
「アホにストライクを見せつけてあげて愛弟子ー!!」
「え、あいつ今愛弟子っていった」
「言ったね…」
「師匠公認やんけよかったな」
「う、うん」
ちょ、ちょっと心構えが崩れた。
もう一回ボーリングを胸の前に上げ、手を添える。
心頭滅却、すっと離してスッとポーズを固める。
「昇也!! 蘇我ファミリーよ!!!」
蘇我さんの熱い蘇我ファミリーの掛け声。
「蘇我ファミリー!!!!」
その意気込みと同時に放ったボールの軌道。ゴロゴロと少し体に響く音が鳴り、進み行先。
ボーリング10本。
ボールはそして捉えた。
ストラァアアイク!!!!
パネルから聞こえてくる激しい喝采の効果音。
水面のように落ち着いていた心にやってくる、激しい鼓動。振り向く先にいる古賀君は、俺に飛びかかって背をバシンっと叩き上げた。
「おっまえセンスあるやんけ!! すげぇな!!!」
「え、あ、そ、そうかな」
「あるある!! ナイスストライク!!!」
屈託のない、満面の笑み。
太陽のように眩しいその笑顔に、俺の心の中に少しあった、それが本心なのかどうかという疑念が瞬く間に吹き飛んだ。
俺はその顔を目の前にして、自然と口角があげった。
「虎宇治くんっ」
「なんやー昇也ー」
「ペアルック着よう」
「お前……。ええ…」
戦慄のまま鯉のように口をぱくぱくさせた虎宇治くん。
「仲がいい人とペアルックを着ると良いらしくって」
「お前の純真無垢さが俺は愛おしい反面怖いよ……。ペアルックはきやんからな」
「だめかぁー…」
「流石にペアルックは女の子くらいやで、俺はよう出来へんわ」
けど、と虎宇治君はいう。
「気持ちは嬉しいわ、ありがとうな」
「うんっ」
友達って、なんだろう。
そう思う事が多々とあった。
じっちゃんに掲げられた目標としてあったことも要因なんだろうけど、人と関係を築いていく上で仲の良さの線引きについて気になっていたんだ。
それであれやこれやと言語化しようと模索して、考えて、理由をつけてみたり、友達だと言われて友達になるもんだと思ったり。
でも、多分それは違うんだ。
どれも違う。
友達って言うのは、深い理由なんてない。
ただその人とこれからも一緒にいたい。
これからも関係が続くことを望む間柄を、友達と言うんだ。
「蘇我ファミリーの親睦会! これにて終了ね!!」
乃々愛さんの一声。
時刻は夕方。
ボーリング場から場所は変わりゲームセンター。それぞれの手にはプリクラが握られている。
「みんなっ、今日は色々と心配というか……迷惑っ、かけましたごめんなさいっ。これだけは、言いたくて」
このあとそれぞれに少しずつ用事があったため、各々帰ろうとしている中、俺が声を上げた。
「まぁ虎宇治くんも気にしてないっていってるし、2人とも無事だし、大丈夫。誰かが死んでたらお通夜ムードだけど」
「それはもはやムードやない、通夜や」
「あそっか」
ははっと軽く健二君が笑って、少しの静寂。
ゲームセンターの前、街ゆく人の喧騒は変わらずずっと多い。そんな中でも雑踏に踏み潰される事なく響く乃々愛さんの声。
「みんなは今日楽しかったかしら!!」
そんなの、決まってる。
「すっごい!! 楽しかった!!!」
「僕も楽しかったよ。灰田さんと結構白熱したし」
「本当よね、賭けをするなら健二君にしとけばよかった」
「ま、つっーことでゴチになります」
「うへぇ……」
それぞれ、満足げな顔。
嫌な思いなんてしていない。
それを信じるのもまた、友達なんだろう。
「「「「「また明日」」」」」
俺たちは帰路に着く。
スーッと吸い込む、春の夜に近づく冷たい空気。
それがさっきまで温まっていた体を優しく冷ましてくれる。
学園生活が始まって初めての大きな壁。
テストで一発合格すること。
それを乗り越えた俺たちはもっと、深く繋がっていけるんだろう。
それに、俺は心の底から思う。
みんなと出会えて、本当に良かったって。




