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(旧:幻惑のアレース)10年間森の中でじっちゃんに稽古をつけられたあと、友達を作ってこいと能力者の学園に入学させられた  作者: MRプロジェクト
<< 1章 2節 >>【炎天無比】

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#22【炎天無比】<< イタイノイタイノトンデイケ >>

『昇也、大丈夫かっ』


その声には、どこか聞き覚えがあった。

とても懐かしい、愛おしい声。大好きだった人の声。

けれどもう、忘れてしまっていた声。


『あーこりゃ思いっきりやっちゃったなぁ……あぁ泣くな泣くな、痛いんだろうけど泣いたらもっと痛くなるぞー』


優しいその声は、忘れるべきではないものなのは今にして理解した。


『泣くんじゃない。拒むんだ』


幼いあの日の俺に取っては難しい言葉。

けれど、意味は伝わっていた言葉。


『痛いの痛いの飛んでけー、痛いの痛いのとんでけー痛いの痛いの飛んでけー』


心に残る、その、言葉。


「…………ぇ…………ぇ…………ぇ」


なにも、見えない。

なにも、聞こえない。

でも感じる。

向かわなければならない場所。


(痛いの痛いの飛んでけー)


口ずさむ、その言葉。

羅列するその表現。

俺が持ち得る語彙をそれひとつに変換し、唱え続けるはその一節のみ。


「…………ぇ…………ぇ…………ぇ」

「な、なによそれ、なんなの、なんで……っはぁ!?」


何も聞こえない。

何も感じない。

でも全然苦しくない。


(痛いの痛いの飛んでけー)


全くもって痛くない。


「ちっ、この匂い的にもまたあの変なやつでしょ! ……ほら、いるじゃない。なんなのよほんと諦めの悪いっ」


流石、父さんの言葉だ。

痛みがなくなった。

この脚でも立てそうだ。


「いい加減死になさいよっ…!!」


父さんとも死別して、時間も経って、忘れちゃっていたけど、そうだ。


『おっ、立てるか昇也。よし、じゃあバイキンともバイバイするために傷口を洗うぞー』


父さんの声はこんなのだ。

それによく色んなことを教えてくれた。

わかりやすい時もあれば、ちんぷんかんぷんな言葉な時もあったけど、今思い返せばよくわかる。


それにいつも笑顔で優しくて、ずっと寄り添ってくれてて、そんな父さんのことが、俺は、大好きだった。


「はぁ? え、うそ、なにそれ、こっちが本物じゃないの」

「…………ぇ…………ぇ…………ぇ」

「でも、いや、なんで終わらな…いや能力にしたってなによそれ、なんで炭化してるのに動こうと思えるの、なんで灰を撒き散らしながら歩いてこれるの」


痛くない。

真っ暗で、何も見えない。

でも行かなくてはならない場所はわかる。


「なっ、なんとか、なんとか言いなさいよ! ……っ"…っぬ"ぁ"あ!」


あっ。


一瞬、場所が遠のいた。

でも、まだ届く。


「…………ぇ…………ぇ…………ぇ」


手を伸ばせば、届く。


手を伸ばせば届く。


届くんだ。


だったら伸ばせ。


手を伸ばせ。



伸ばせ伸ばせ伸ばせ伸ばせ。



それが、俺が今しなくちゃならない事なんだから。


「効いて、ない……いや、や、痩せ我慢ね、大したもの"っ"…」


そうして伸ばした手の先には、硬くて大きな壁が立ちはだかっていた。それを前にして、茫然自失と立ち尽くす俺に父さんの声が響いてきた。


『昇也、頑張ってる道の途中には壁が絶対出てくるんだ。壁ってのはなどんなときでも高い物なんだけど、それは更に頑張ったら飛び越えられるし壊す事ができる。もちろん大変でしんどい事だけど、やり切ったら更に強くなれるし…それに、すっきりするぞ。だから、頑張れ、昇也。お前はやればできる子だ』


そうだ。

俺はやればできる子だ。

頑張れば、できる。

じゃあ、やり切るんだ。



なにを……?



この目の前に立ちはだかるーー


「……ぇ………ぇ」


ーー壁を壊す事を。


「……なんで、前よりも力が強いの、その身体でっ、インチキじゃないっ」


壊す。


壊す。


壊す。


壊す。


伸ばせ。


伸ばせ。


力を出せ。


「ぁ"っぐ……なんでよ!!」


もっと。


「ぅ"っ…」


もっと。


「…ち"っ、うざったい!!!」


あっ。


あっ。


壁が、壁が、遠のいていく。


まだ、ヒビもできてないのに。


まだ、よじ登れてないのに。


いやだ。


だめだ。


遠のくな。


やめろ。


戻ってこい。


『昇也、壁は追いついてこそだ。追いつけないならまだその時じゃない。その時が来るまで休むんだ』


その父さんの言葉を前に俺は、必死に走り進める足を止め、振り上げていた拳をスッと下げた。


「ーー開門!!!!」


そして、俺の道先を示していた光のような感覚が消え去ると同じくして、意識がプツリと途絶えてしまった。

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