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(旧:幻惑のアレース)10年間森の中でじっちゃんに稽古をつけられたあと、友達を作ってこいと能力者の学園に入学させられた  作者: MRプロジェクト
<< 1章 2節 >>【炎天無比】

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#21【炎天無比】<< 龍ノ豪叫 >>

俺の能力が発揮する効果のひとつ。

イメージを自身に投影し、肉体にその性質を取り入れる効果。


これは一見万能のように見えてそうではない。


まず、イメージにおいてマイナスなものは使えない。


例えばアリの力をこの身に宿す、そう考えたとしよう。


本質的には、アリという存在は自身の何十倍もの重いものを持ち運んだり、自身よりも硬いものを噛み砕ける強さがある。


それを人間大に拡大して適用すれば、とても強い強化をもたらすのではないかと考えられるが、実際はマイナス効果になる。


この時起きていることは、視覚的な情報がもたらした自身との比較。


アリの怪力の使い所は持ち上げる、持ち運ぶだ。

その行動自体は人間でもでき、視覚的にも肉体的にも容易く想像できる。


だが、それ故に自身の持ち運びあげられる高さや重さと比較してしまい、結果、自身より劣ったものから得る効果は自身より小さな力になる。


しかし、ならば虫や動物をイメージに転用すると不利になるのかと言えばそうではない。


例えばノミの跳躍。


ノミの場合、体の大きさに対して何百倍とも飛び上がれる強さがある。反対に通常の俺が成せる跳躍といえば精々自分の2〜3倍程度。


この時、比較上の優位が顕著となる。


それが結果として、跳躍のみではあるがとてつもない力を生み出せるようになるカラクリである。



あくまでこの能力の本質はイメージ。



どこまでいってもそれに依存する。自身が納得できないもの、通常の状態で超えられるものは弱体化に値する。


だからこそ、この能力の弱点は俺のイメージにあると言える。



じっちゃんとの修行の中にイメージ鍛錬があった理由であり、俺が今だに不得意とする鍛錬である。




火の玉は、一つだけでも俺の身には収まりがつかない程に大きい。それなのにゲリラ豪雨のように舞い落ちてくる。


爆裂する地面の穴は俺の膝が埋もれるくらいには深いもの。


今の俺の衰弱している状態だと、なおのこと受けたくない。


俺の能力は確かに力を引き出してくれるが、それは同時に力を本来の肉体能力以上まで一気に引き上げる。または限界を超えさせることを指している。


限界というのは即ち行動不能。


そして俺はあの瞬間、威力も速度も極限まで上げるために限界を超えた。

あれが俺の高みの一つであると同時に、秘技でもあった。その使用後の今、こうして動けているのは。


ーーひたすらに根性。


殺し合いをしたくない、これ以上痛い思いをしたくないという執念からくる、限界を超えたマイナスの体力領域。いつ来るかわからない、本当に動けなくなる瞬間に怯え続けながら走り続ける。


噴水や花壇、建物の壁といったオブジェクトを利用しながら回避したり、火の玉同士をぶつけたりさせるが、今も火の玉は増え続けている。


また、これの追尾性能は赫糸の視界に依存していることは見ていてわかった。


そうして逃げ込んだ仮想戦闘施設、そのエントランス。そしてここでイメージする。


(俺は、アリだ)


俺がここにきてアリを選んだ訳は、弱体化の核にある非力さとアリの軽さという二つの性質を加味してのことだ。


非力であるということは、筋肉の消耗が緩やかだということ。小さく軽いということは、それだけ筋肉への負担が少ないということをじっちゃんは教えてくれた。


要は弱点も使い所だった。


アリをイメージしたところで筋肉が減るわけではない。あくまで普段使いしている体に制限をかけるだけ。


(一旦、どこかに隠れたい)


落ち着いた状況で、武器やアイテムを散策する道筋を最適解で描く時間が必要だ。


幸いこの施設はとんでもなく広い。


きっと探せばなにかあるし、ないとしても暫くは見つけられないはず。そう、あるはず。あるはずなんだ、きっと。


一先ず壁伝いに向かった、個人仮想戦闘施設の通路。

さっきまでがありの速度だとしたら今は芋虫のよう。そんな歩みの遅さで向かっている時。


とても、嫌な音がした。


それは、なんとも形容し難い絶叫のような音。ひたすらに甲高くて、思わず顔を顰めてしまうほどの嫌な音。


それがしばらく耳に届いて、少しずつ嫌な音は嫌な予感へと昇華していく。


周辺の温度が上がってきている気がする。

少し肌が照りついている。


(逃げ場なんてないぞ…)


赫糸の申し分のない火力攻撃はさっき見た。その後に無数と飛ばしてきた炎の玉も、その威力もみた。

そして、間違いなくまだ余力がある。


かと言って、あんなのをもう一回なんて冗談じゃない。いや、冗談であってほしい。その思いに縋るほどにもうかなり、限界だ。身体が、弱ってる。


アリのイメージがその衰弱を緩やかにしてくれているのだが、やはり対処療法。根本的な解決ではない。


(早いとこ、みつけ、ないと)


剣を。

出来れば赫糸に近づかなくてもいい物を、どうか、どうか。


切望と、神頼みと。


そして訪れる、絶望と。


腹の底まで震え上がる、巨大な音々(ねね)

全身の末端がひどく痺れるような衝撃。

劈かれた鼓膜を通して聞こえてくるは、まさしく龍の豪叫。


ーー途端。


俺が今居る間反対の方角から聞こえてきた、ガラスが割れていくと同時に一気に建物が破壊されていくような音。


足元の揺れ、耳にした事がない大爆音。


それの急接近と視覚的認識は、5回呼吸を挟んで、見えた。


(おいおいおいおい)


それは、丸太なんて比にならない。

3階建……いや4回建以上にも昇る、極めて大きく太い紅蓮の質量。


局所的にダムの放流が発生しているかのような炎穿つ濁流は、いとも容易く壁を貫き、そしてそれは横へグゥーッと薙がれていた。


(ノミの跳躍力!!)


その獄炎の動きはどちらかといえば遅い。


だが、だからと言って俺に有利な訳じゃない。


伝播する熱が周囲の温度を急沸騰させているから、このまま上手く避けられても隠れていれば蒸し揚げられてしまう。それに、今の俺の衰弱した体ではこの大きさは簡単には避けられない。


でも、避けなきゃ死ぬのは変わらない。


だから飛び上がる。この施設の天井に手が付くまでの、跳躍を目指して。


……そう、願って。


「っ……」


ヨタつく足。


中々充填されない力。


焦る気持ち。


(跳べ……跳べ…跳べ跳べ跳べ跳べ!!)


そして、さっきまでのゆっくりとした動きが嘘だったかのように、加速度的な迫り方をする煌紅(こうく)の奔流。


(お願いだから力入ってくれ! 跳んで! 跳ばしてくれ)


頬が真っ赤に染まる。もうそれは、間近だ。


(跳べぇえええ!!!!!)


あまりにも熱さに呼吸ができなくなって、皮膚が瞬く間に乾いていく。



そして、それを前に俺はーー凄まじい勢いで飛び上がった。



脚部に感じた多量の熱の肌触り。それは炎に触れていないというのに、焼け爛れて燃え尽きてしまいそうなほどまでの熱量。


吹き抜けのエントランス。


一気に20階ほど飛び上がって、転々と目に舞い込んでくる階層の様相。けれど一向に下がらない高温の空気。


むしろブワンッと下から強く突き上がる、熱を多分にはらんだ空気が俺の全身を撫であげて体温を下げさせない。


(苦しいっ…息が、満足にできないっ)


通路と外側を隔てる高めの、分厚いガラスのバリケードに手を乗せ降り立つ20階の床。


途端グデっと抜ける力。


(こんな、こんなとこで止まってる暇はないのにっ)


この階層はどうやら飲食を多く取り揃えたエリアのようで、店舗が多い。きっと、なにかあるはず。

あるんだ、きっと。ある。だから。


(立てよ…立てよ!!!)


脚を叩き、叩き、叩いて。

奮い立たせようと鼓舞をして。

恐怖を頭に描いて。


けれどでも、体は動かなくって。


(痛い思いはもう、したくないだろっ。あんな苦しい思い二度と、二度と……!!)


次の瞬間。


初めの炎の衝突よりも巨大な重量のある音が聞こえてきたと同時に、平行を失い始めた床。


更に深く全身に響き渡る振動、絶え間ないその震えは、建物が崩れている音だと確信する。

端から崩壊し始めた床の体系。


「っんぬ"っがぁ!!」


水に溺れた犬のように手足をバタバタさせ、その傾きに必死に抗うためにバリケードに自力で穴を開け、それを掴み握る。


雑な開け口のせいで凹凸の激しい穴になっていて、刺したてのひらには血が滲み溢れた。


そうしてそのままバリケードをつたって、アリのイメージを解いて走るのだけれど。


もう、無理だった。


ダラダラと垂れていく血液と、床に落ちると同時に湯気を立てて固まっていく血。


つまり続ける息と、朦朧とする意識。



そこに襲来した。



無造作に、それでいて華麗に、龍が空を舞うが如き勇勇しき紅蓮の極大熱線。それを前に、俺はもう本当に何もできなかった。


(いやだ……熱いのはいやだ、痛いのも嫌だ、苦しいのも嫌だ、嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダ!!!!)


拒む。


拒み、嘆いて、完全に傾き崩壊した床から投げ捨てられ、今から生まれる瓦礫の海の底へと落とされていく四肢、体。何も掴めず、何も出来ず。


手をぱたつかせて空気を掴むことすらも、今の俺には出来なかった。


ゆっくりとした景色。


浮遊感。


赤熱し、溶解していたエントランス。溶岩の海。


(あぁ……嫌だな…熱いの)


そうして俺の身を丸ごと飲み込むのは、まだ傾いて崩れていなかった目の前の道すらも喰らいつくした、真っ赤な龍の体だった。

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