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(旧:幻惑のアレース)10年間森の中でじっちゃんに稽古をつけられたあと、友達を作ってこいと能力者の学園に入学させられた  作者: MRプロジェクト
<< 1章 2節 >>【炎天無比】

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#19【炎天無比】<< 全てを絶つ斬撃 >>

その一喝の轟きと共に始まった、剣閃、剣戟。


打ち付けあえば、少しばかり弾け、欠けていく刀身。

受け流すと同時に駆ける、温度を持たずに飛び散り開花する火花。


この場における力の優劣は、玄武体という形態、肉体強化の度合いによって俺の方に傾いている。


圧倒こそしていないが、明らかに赫糸は剣で撃ち合うことを避けていた。


その代わりと、超接近戦が多用されている。


拳一つ分にまで俺の体に密着し、そして、攻撃を差し込まない代わりに淀みのない速度でスッと背後に回った赫糸。



真正面から向き合わない。



その意識が見て取れる。


背後から薙いでくる赫糸の一振り。


振り向いて弾くのは間に合わない。


だから、この場における最適解は。



ーー剣を床に突き刺す。



軌道上に出現した翡翠の刀剣にガンっと衝突し、氷結の硬刃(こうじん)が大きく欠ける。


飛び散る、小さく透明な冷気の塊達。


それと同時に生まれた猶予を持ってして、赫糸の方へと振り返り、刃を振り下ろす。


それを先読みし、既に剣先が当たらない範囲にまで肉薄した赫糸。


だが、見落としていないだろうか。



ーー剣を振り上げたからと言って、向けるのが刀身だけとは限らない事を。



柄を後頭部へ振り落とす。



赫糸は、事前に知っていたかのような動きをとれていなかった。


ギリギリになってこの攻撃を察知した様子だった。


急加速し、姿勢を低くして回避されるーー寸前。



赫糸の細い腰に柄が直撃する。



グイッと折り曲げるように体勢を崩した赫糸。

その好機の瞬間。

顔面に再び打ち込む膝の皿。



けれど、赫糸凛夏という女はサンドバッグになってくれるほど甘い奴じゃない。


そんな不利な体勢であっても、あのお得意のおかしな挙動でクルリと回避して大きく距離をとった。



そして、赫糸は剣を投げ捨てる。



何も言わない。

ただ口を不機嫌に噤んだまま、睨みを利かせて腕を大きく振り進撃した。



そこからは、蹴りや殴打で果敢に攻め入る姿勢をとり始めた。


「っ……」


剣筋を惑わせてくる際どいステップ。


リーチは取れても、とれない明確な優位。

その優位を握らせない為の考えられた綺麗な動き。


廊下を縦横断する中にあったアンティーク調の3本足の机。


それを掴んだ赫糸は、何回かの肉薄とステップを踏み込んで翻弄する中でいきなり俺の顔面にぶちあてた。



同時。



急速的に火花を散らす拳を、強弓の勢いで振り抜いた。


ドスンッとのし掛かってくるような重たい一撃。


体の重たさがあってか軽く吹き飛ぶだけの身体。


脚でふんばる中で見つけた、近くで転がっていた壺を雑に持ち上げ投げつける。


その下を掻い潜ってくる赫糸の足元に翡翠鍾を出現させるのだけれど、事前に理解していたと言わんばかりの軽快な足取りで躱わす。


次も、次も、その次のものも、そのまた次の翡翠鍾すらも。



全て。



横に縦に。


360度から出現する翡翠鍾。


一定の太さと長さの柱を出して消して、出して消しての繰り返し。


その速度は、もはや一度に10本もの柱を射出しているのと何ら変わらない。



けれど、やはり易々と避けられてしまう。



そして縮まった距離。


(翡翠鍾!!!)


幾度となく躱わされた妨害行為。


その経験を忘れたのか、ただの悪あがきか。


そんな事を彷彿とさせる武器能力の乱用。


けれど、それは今までと違った。


「っ!?」


足元に引いた一本の柱。


それを経験上の歩幅で飛び越えようとした赫糸。


けれど、そこにあるのは今まで避けてきたものよりも。



ーー少しばかり太かった。



そう。


翡翠鍾の太さは一定ではない。


この翡翠鍾を初めて赫糸へ放った時からずっと同じ大きさにしていただけで、大きさを変えられないなんて事はなかった。


それも全て、赫糸の体に染みつかせる為。


人間、いつも登る坂道の一部が微妙に違っている事に気づかず歩いていると、つまづいたり転んでしまったりしてしまう。


それくらい今までと同じ、という経験は行動に影響している。


これはそれこそ、無意識的な行動そのものを指している。


無意識を構築する経験値。


その集積量が少なくとも、幾度かの同じを押し付けられれば多少の適用はできる。


それに、赫糸の戦闘面で賢さもこの概算には盛り込まれている。1を10にして身体に覚え込ませてくれると期待している。



そして赫糸は今。



その小さな誤差につまづいて、足を地面から離してしまっている。



それと同時に。



(半分くらい割れた! お前の直感みたいな能力の性質!)



その理解と、その知見を無為にする為に振るう一閃。



下から撫で上げるように振り上げていた剣筋。

先んじての行動だったからこそ実現している、認識から避けるまでの猶予、その大幅な短縮。


下から振り上げた翡翠の鋭利な切先は、赫糸の首元へ差し掛かっている。


それ自体は効果的で、攻撃として正しい判断だ。


何も間違っちゃいない、的確な狙い。


でもそれは、何も間違っていないだけで、俺が意図した切り口ではない。




無意識から出てしまった、首を狙う一刀。




赫糸がおかしな挙動を始める寸前。

それは、首の皮膚脈(ひふみゃく)を前に、止まった。



それを前にして俺は、躊躇ってしまった。



躊躇って、一世一代のチャンスを捨て去った。

そして、腕を切り落としに行くという、今さら過ぎる方向へ剣筋を捻じ曲げた。



あまりにも傲慢な暴挙。



乱れる、手中にあったはずのリズム感。


手離す、ぐちゃぐちゃに潰したはずの逃げる猶予。


ショッキングピンクの眼光がギャンッと強烈に瞬いた。


生まれた猶予を前に、赫糸は翡翠鍾よりも前に出ていた足でそれを蹴り飛ばし、砲丸のように飛び出でながら前転した。


バギュッと波状に膨れ上がった亀裂の波は、瞬く間もなく翡翠鍾を破壊する。


瞬転(しゅんてん)の間。


踵を返し、俺の腹を突き刺す一脚。



(ここしかない!!!)



赫糸の格段と増した、熱を多分に孕む蹴りによって大きく吹き飛ばされると同時。



追撃を遮るように出現させた極太の翡翠鍾。



解放する肉体強化6式。



吹き飛ばされてすぐに床を踏み抜き、床を足首で削り取りながら踏ん張りながら、膨れ上がらせた上半身から解き放つ。



ーー空駆ける翡翠の流星。



翡翠鍾は消滅する。


赫糸を襲う、直上の一閃。

無回転で射出されたそれは赫糸の眉間を貫くーーなんて楽な相手じゃない。


一瞬、眉を顰めて訝しむ表情を浮かべた赫糸。


(朱雀体っ)


空中で静止しているとも取れる程に加速した思考と身体。


そんな肉体から放つ高速の5連蹴り。


「っぁ"ぐ"…」


時が動き出すと同時に、蹴りの衝撃をその一身に受けた赫糸を捉えているのは、手に強く握った翡翠の剣。



俺は、翡翠の剣を投擲していなかった。



つまりは、幻惑。



「ぬ"ぁ"ぁあああ"あああ!!!!」



肉を感じさせないほどに収縮した肉体から振り下ろす、全力一刀。



【朱雀体】

形態評価 ー 【一撃の重さは軽いが、手数を多くしかけられる。移動が早く、扱いやすい形態】


【詳細効果】

○筋肉の収斂化。

○強靭化。

○軽量化。

○思考速度の高速化。

○反応速度の向上。

○針で刺すような、小さく局所的な範囲に鈍痛を招く攻撃を狙える。



変質した肉体から振り下ろされる最高速の一撃。



幻惑にかかる前提での飛び込みが功を奏した。



訪れている最大の好機。



2回目にして恐らく最後。



だから、躊躇うな。



好機を逃すな。



人間を斬ることを躊躇うな。



(覚悟を決めろ!!)



肉体強化を瞬時に解き、切り替える思考。



(俺は最強の剣豪だ!!!)



途端、発生した心臓の収縮。



強烈な痛みと、息苦しさ。


涙なんて出す余裕がないほどの苦しみが胸を焼く。


その次の瞬間、筋肉が爆裂した。


筋肉の繋がりがブチャッとはち切れるように千切れ、ミチュッと液体になるかのように潰れ、まるで生きているかのように(うごめ)き爆ぜる、筋肉の触手。


人間がなせる範疇を超越した速度と変化。


それによって改造されていく肉体が放つ、気持ちの悪い音が鳴り止まない。


激痛と苦悶。


そして、さきの心臓の脈動。



収縮から一転。



その反動でグバッと膨れ上がった心臓により、走っていた血液は瞬間的に身体中を何百と周り回る。


細胞はその速度に追いついている。

吸収されるべきものは余す事なく細胞に取り入れられている。



赤鬼(せっき)の如く、紅く肉体を染め上げ。



悪魔の如く、真っ赤に染まった眼を立てる。



燃え盛り、爛れていくような全身の感触。



咥内で膨れ上がる、火傷を招く血の蒸気。



余念なく、執拗に駆け巡る苦痛の万花。



でも、ここでこの苦しみを踏み台にしなければ、俺は本当にしたくない事をすることになる。


そんなことになるくらいなら、この一時の苦しみなんて。


(堪えて見せるっ)


5連続の脚撃を踏ん張って耐えた赫糸。


その固定位置を狙っての一刀。


けれど、俺の急接近を見て、あのおかしな挙動で再びこの場から抜け出そうとしている。


それはとても慌てた様子。


まるで、死を前にしているかのようで。


歯を食いしばった口元だ。


継続的に充満している甘い匂い。




赫糸の離脱。




赫糸の離脱は、俺が本当(・・)に一太刀を振り下ろすよりもワンテンポ早かった。



先んじて見せた幻惑の一線。



惑わされた赫糸の挙動。


捉える、赫糸の逃げの軌道。


打ち下ろす、覚悟の一刀。






全てを絶つ斬撃






弾けた斬撃は薙いだ全てを絶ちきり、一帯を吹き飛ばした。

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