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(旧:幻惑のアレース)10年間森の中でじっちゃんに稽古をつけられたあと、友達を作ってこいと能力者の学園に入学させられた  作者: MRプロジェクト
<< 1章 2節 >>【炎天無比】

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#10【吸い込まれる意識】

「お待たせしました。1年生という事で施設利用の補助を担当します、黒絵(くろえ)です」


とても接しやすく爽やかな声色。

見た目にも爽やかさが出ていて、清潔感が強く、男の俺から見てもかっこいいと思えるくらい魅力的な男性だった。


しかし、そんな男性を目の前にしても赫糸の強情っぷりは変わらなかった。


「遅い」


ただ一言、ギュルンと強い睨みがお兄さんにぶつけられる。


だが、お兄さんはそんな目に動じる事なくーーいや、寧ろ。


「無理言わないでくださいよ、準備があるんです」

「知らないわよ」

「それこそ知りません」


しっかり言葉を返していた。


「施設員ならしっかりしなさいよ」

「ラーメン屋がラーメンを作り置きしてますか? そう言う事です。…利用させてもらう側、利用してもらう側、双方を尊重出来るようになりましょうね」

「……お説教はいいって」

「わかりました特別ですよ? …では案内します、ついてきて下さい」


赫糸はムスッとしているが、言われるがままお兄さんの背を辿っている。


あの赫糸が手玉に取られてる。


(お兄さんの対応、なんかよかったなぁ…)


譲らない部分があった。

発言にもあった通り、使う側・使ってもらう側、双方の尊重という意識があるのだろう。


つまりは対等な関係性。


強気に対応するならこっちも強気に対応する、それで文句を言ってくるなら同じく返す。


俺も似たような事をこの1週間してきたが、出来上がりはこんな質の高いものではなかった。


この人の対応は明らかに格が高い。


自分はそう言うとこ含め、全然何かが足りていないんだなぁと痛感させられる。

その何かにすら気づけていない時点で俺にはまだ難しい対応なんだろう。


トコトコ歩くかなり大きな通路。


この通路の入り口にかかっていた標識には、個人仮想戦闘棟と書いてあった。


そんな通路の両の壁には等間隔にドアが設置されており、番号札がついていた。


結構歩みを進めたところでそんなドアをお兄さんが二つ開け、手で促す。


「更衣室です。中のロッカーに黒色の総身タイツがあります。各サイズ好きなものを着用してください。ピチピチでもブカブカでもどっちでも構いません。施設用服も置いてるので、タイツの上に着込んでください」


案内された更衣室は、入ってみれば少し見た目に反して広かった。


白色の、どこかホログラマーのようなスベスベとした質感のロッカーを開け、言われたままにタイツを着込む。


タイツをよく見ると、所々に線が入っていた。


施設用服はいわゆる病院服みたいな感じだった。


ズボンの紐をキュッと閉め外に出る。

赫糸はもう着替え終えており、腕を組んで立っていた。


「遅い」

「…っぐ。…ちょ、俺何も言ってない…」


開口一番向けられた言葉と肘の攻撃。

もはや奇襲と言っても過言ではないが、赫糸は「どうせ今から言おうとしてたんでしょ」なんて分かった気でいるような口を利いていた。


「……よく分かってんじゃん」

「流石に慣れたわ」

「慣れたなら手を出さないでいただきたい」

「いつも手を出してるみたいに言わないでくれる?」

「低頻度でも出すべきじゃないんだよバーカ、よっと」


そして、赫糸が慣れたというのなら俺も慣れてきたというもの。


「避けないでよ!」

「嫌だよ痛いもん」


そんな俺たちのやり取りを目の前にしたお兄さんは、言った。


「いやぁ…仲良いんだね2人とも。お似合いだね」

「「っな…!?」」


まるで面白いものを見ているかのような笑顔。


そんな発言に思わず顔が強張る。


一方赫糸は動揺気味の声を出してはいたが、スンっとした表情で立っていた。


「早く案内しなさい」

「……うん、そうだね。こればっかりは僕が悪かったよごめんね直ぐ案内する。けどその前にこれ」


そう言ってお兄さんは各自の手に、大きめの四角いものを渡していく。


「ここのルームキーです。部屋を出る時に室札の下にあるガラスの入れ物からこれを取り出して、仮想戦闘監督者に渡して下さい。渡さないと施設は利用できません。次に君たちが施設利用にくる時は僕みたいな案内つかないから忘れないようにね」

「わかりました」


そう相槌を打つとニコッと微笑みながらお兄さんは頷いた。


それからまた少し歩き進めたところにあったエレベーターを上がると、通路全てにカーペットが敷かれた階層に辿り着いた。


足音は赫糸意外音が小さい。


エレベーターを出てすぐに立ち勇む大きな柱に取り付けられた案内板。


そこにはこの階層の仕様が描かれていた。

各機能ごとに区画が設けられているようで、色分けされていてわかりやすくなっていた。


お兄さん曰く、この案内板の右下にあるQRコードをホログラマーで読み取れば道案内をしてくるんだそう。


そんな豆知識を教えてもらいながらたどり着いたのは、【日本能力者学園】という立て札がかかった区画の一室。


中は機械が物々しく散らばっている、と言うことはなく、寧ろ目に見えるのは小さな空間。


そこに、僅かに歪曲している縦筒型の白いカプセル装置が3つ並んでいる光景。


「じゃ、さっきの更衣室の札を預からせて下さい。僕が監督者です」

「……なら別に渡さなくてよかったじゃない」

「練習です練習。次回勘違いしないようにね」

「…そ」

「はい」


あぁ俺黒絵お兄さんみたいになりたい。

憧れるよこんな爽やかに強気な対応ができるの。


俺もルームキーを渡すとお兄さんはオッケーを指で作って「じゃあカプセルに入って下さい」と言った。


赫糸は何度か経験あるらしい。


迷いなくカプセルの開閉ボタンを押し、さっさと中に入って腰を据える。


すると『カプセルが閉じます』という機械音声のアナウンスが何度か鳴った後、ドアがゆっくりと閉まっていった。


俺はと言えばよくわからず棒立ちだ。


「あ、利用は初めてでしたか」

「そうなんですよ。だからちょっとわからなくて」

「……なるほど。閉所恐怖症とか持ってたりします?」

「閉所…恐怖症……?」

「こう言う狭いとこに閉じ込められるのがすっごく嫌になる事ですね」

「あぁ! それなら全然大丈夫です。土の中に居ても平気だったので」

「つ、土……?」


すっごい怪訝な顔を向けられる。


まぁでも普通そんな事をする機会なんてないかと思えばその目にも納得した。


土に潜っていた理由は単純に熊をやり過ごしたり、その上を通過する獲物を捕らえたりするため。


要は森でやっていた狩猟関連の話。


「ま、まぁ色々あるもんね世の中。取り敢えずここ、1番上のボタンを押してください。ちなみに帰る時はその下のボタンを押してね。それで、困ったことがあったらその更に下のボタンを押してください駆けつけます」


捲し立てられる言い方という事もあって頭に話が残らなかったが、まぁ忘れたらまた聞こう。


プシューと音を立てて、その中をよく見せつけてくる白い機械。白い座席。人1人分の小さな空間。


いざなわれるままにソファーに腰を据え、息を吐く。


すると、赫糸の時同様アナウンスが鳴った後、ドアが閉まっていった。


暫くしてお兄さんの声が鮮明に聞こえてくる。


「じゃあ目を瞑って深呼吸して下さい」


ゆっくり息を吸い、そして息を吐く。


深呼吸はここ最近よくやってきた。

深呼吸の忘れ方を知っているほどにはよく理解している。


少しずつリラックスしていく身体。


そこまではよく知っている感覚なのだが、突然睡魔が這い上がってくるような感覚に襲われた。

それに抵抗すべきかすべきじゃないか判別がつかないまま、暗闇に眼球が吸い込まれていく。


手に力が入らない。


段々意識が遠くなっていく。



途端。



薄まる意識に強い衝撃が加わり、それと同時に何処かへ引っ張り出されるような強い離脱感が身を襲った。


何事かと思い目を開こうとするが開かない。

体を動かそうにも動かない。

手の指すらも曲がらない。


施設による仕様だと理解している反面、未知の事態に直面しているという事実。



俺は今困惑し、強烈な恐怖を抱いている。



しかし、波の高い海の中で溺れるように、何もできないまま意識が更に奥底へ沈んでいく感覚に身を委ねるしかなかった。



そうして、どれだけの時間が経ったのだろう。



時間の感覚がわからないほどに不安定な意識。

身体から意識が離れ離れになるような感覚は収まりがついたが、どこか一体感のない感触がまだあった。


だが、それも少ししたらピタッと重なり合う一体感が全身を駆け巡った。


それと同時に明瞭な思考回路に理解が及ぶ。


しっかりしている意識。


それに気づいた時、瞼が自然と開いていった。

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