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(旧:幻惑のアレース)10年間森の中でじっちゃんに稽古をつけられたあと、友達を作ってこいと能力者の学園に入学させられた  作者: MRプロジェクト
<< 1章 2節 >>【炎天無比】

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#9【待ち合わせ】

時間と言うのは、存外遅いものではないのかも知れない。


今まで過ごしてきた10年という時間の経過はとてもゆっくりで、時間が止まっているんじゃないかと思えるほどに斜陽を目にするのが遅かった。


もちろん生活に中身がなかったわけじゃなく、むしろ分単位でしなければならないことが決まっていた。


生活における周りの環境を整える事。

能力を伸ばす鍛錬をする事。

基礎的な体力の鍛錬をする事。


そのほか沢山。


それらをこなしていても時間はやはり遅くって。



けれど、それが今や1週間進んじゃった。

もう土曜日だ最悪だ。



この1週間楽しい毎日が続いていた。


もちろん勉強はしていた。


覚えることが増えていく毎日だった。

もう正直これ以上増やさないでくれと思うのだけれど、オリエンテーションの時に言っていた今後必ず必要になる事だと思えば泣き言を言うのにも諦めがついた。


ついてはいる。


が、泣かないのならば問題ないのかといえばそうではない。


毎時間頭は破裂しそうで、意識が朦朧としてしまう。ずっと頭の中で火事が発生しているといった方が伝わりやすいほどに脳が熱せられている。


気絶する頻度が格段に高まってきている。


師匠のようなノートはまだ全然とれないし、確認の穴埋め問題も正答率10%未満だし。

小テストが日に日に顔の色を濃くしてきているし。


それがどうしても重圧となって心を苛んでくるような毎日だ。


けれども、そんな地獄のような仕打ちを差し置いても楽しいと思える日々が続いていた。


そんな素晴らしい毎日に終止符が打たれる今日という日。これほど休みの日を憎んだ事はない。


「丁度に集合って何事。もっと早くきなさいよ」

「いや遅れてないんだからいいじゃんか」

「そういう話じゃないわよ」


そんなわけのわからない事を言っているのは、ガーゼが取れ、あざが引いてきた赫糸凛夏という女だ。


性格に難はあるものの見た目は目を引くものがある。それを隠す余計なものが取れ、痛ましい痕も薄まっている顔。


そこに、いつものダボってした黒色の服ではなく、外に出かけるために着るような見た目重視の服を着てきているから目が奪われてしまった。


「大人っぽくて綺麗な服だね、すっごい似合ってる」

「な、なによ気持ち悪い」

「お前にだって褒める時は褒めるよ」

「……」


ブラウンのブーツに黒色のタイツ。

着用してきたのはズボンではなくスカート。


少し厚手のヒダの少ないスカートは明るすぎない程度に紅い。


腰回りに金の金具とベルトがついていて、デザインや色味が単調になっていなかった。


上は黒色のタートルニット。

長い赤髪にはカールが少しかかっている。


全体的に大人っぽい仕上がり。


居住まいも遠くから見るだけなら大人の女性でしかない。実際は俺とほぼ同い年のはずなんだけど。


そんな戦闘向きではない服装の赫糸の口元には、10秒チャージというゼリー飲料が添えられていた。



時刻は午前9時30分。



俺たちは学園の大型集合施設区画、その入り口にある広場で待ち合わせをしていた。


この区画は一瞥するだけじゃ分からないほどに広く、そして入り組んでいる。区画の大きさは小さな街と遜色ないように見える。


広場は文字通り広い造りになっていて、シンボルとなっている大きな石造りの時計台を中心に、道が十字に道幅広く伸びている。


石畳の道で、質感はまっさらな見た目というより少し凹凸がある、自然な形で削り出した見た目だった。


周囲には木のベンチやシックな色味の街頭が。


その周辺を草や花が占領している。


木はそう多くない。

広場に限らず全体的にその傾向にありそうで、どちらかと言えばゴミ箱やベンチなどの方が多い印象。


アーケードや小道にですら建物がずらっと並んでいて、朝が早いと言うのに沢山の人で賑わっている。


こうした人通りの多い様相から、簡単に休憩できる場所を多く設けているのだろうと考えられた。


赫糸は近くにあったゴミ箱にゼリー飲料の殻を投げ入れ、身勝手にテクテクと歩き始める。


「一応手合わせってことだけど、勝ったら負けた方に何か命令するでどう。あまりお金に関係することは避けたいわ」


そんな急な物言い。


目の前にイカヅチを落とすような発言に、ついビタっと体が固まってしまう。


後ろから歩む音が聞こえなかったからなのだろう。


1人でぺちゃくちゃぺちゃくちゃ喋って30mほど離れたところで赫糸は振り返った。


「拒否権はないわよ!!」

「お前の辞書にはそれしかないのかよ…」


この区画の象徴とも取れる、お店や施設が詰まった大きなアーケード。


横幅が広く、天井はガラス張り。

この学園は食堂然り広場然りかなり色調を気にしているようで、このアーケードの中にも植物や花などが設置されていた。


建物の全体的な枠組みには黒めの木などが用いられていて、落ち着きのある様相をしている。


けれど古臭く感じない、新しさをヒシヒシと感じられるような造りになっている。


そんなアーケードを横目に、その隣の大道を通り、多少ジグザグとした道のりを進んでいく。


入り組んだ道を進んでいけば、さっきの広場周りにあった遊び場や料理店よりも、衣服や靴などといったお店の割合が多くなってきた。


そうした様々なお店や行き交うたくさんの人々の様相、表情を真新しげに顔を振るってみる俺に「田舎からきたの」と赫糸が声をかけてきた。


「あー、まぁそんなもん」


詳しい話をするのはめんどくさい。


それからも何かを話す訳でもなく、街の喧騒に揉まれるだけの30分。そんな道のりの終着地点は、道中よりも静かな場所だった。


「ここね」


なかなか遠い道のりだった。


十分に見上げられるほどに高く、横にも長い、とても、とても大きな建物。

学園の庭園よりも広いらしい建物。


大きな玄関口へと続く半円形の階段は、踊り場も含めかなり広々としていて大きい。


建物の様相は近未来的と言うよりかは無骨な造形。

ガラス張りの外壁は、空の色を反射して青みがかっていた。


そんな建物を前にどっしりと構える広場も、負けず劣らずと広くてでかかった。


道を歩く人が遠目だと小人に見えてくるほどだ。


広場の中央にある白い噴水は豪奢そのものだった。


そんな噴水の周りを囲うように、図形で言う四角形の角に当たる位置に、長い草垣が植えられた大きな花壇が設置されていた。


急な斜面を持つ台形のような形状。


その花壇の背は高く、恐らく古賀くんや米田くんが手を伸ばしてギリギリ縁に届かないくらいの高さ。


材質はスベスベとした質感になるように寸断されたマダラ模様の石。


花壇の足元にはベンチが置かれていた。

ざっと見るだけで3人席のベンチが10個は並んでいる。


そうやって真新しい景色をキョロキョロと見渡していれば、勝手に歩いていく赫糸と離れてしまうというもので、駆け足でその背を追って施設に入った。


「ひっろ…でっか……道ひっろ」

「当然でしょ。日に何千人と利用するのだから狭いと動けなくなるわ」


そういいながら早速と仮想戦闘機の受付へ向かった赫糸。


受付を進めていくと学生証の提出を求められた。

なのでホログラマーを通じて情報を転送した次の瞬間、受付の方の表情が一瞬固まった、そんな気がした。


後は虹彩認証? と、仮想戦闘における条件を設定するくらいで、長い手続きを行うことはなかった。


まぁ日に何千人と来るのなら、ややこしい手順を踏むのは非効率的なんだろう。


「ふぅ……。いい運動になったな、もう帰ろっか」


待合所にあるお尻が半分くらい埋もれるくらい柔らかなソファ。そこにゆっくりと腰を据えて、一言呟く。


「は? なに、私に怖気づいたの?」


赫糸はドスンと勢いよく座り込むと、心底バカにした口調でそう言った。


「うん怖気づいた。赫糸と戦うの怖いんだ、だから帰ろ」

「……話になんない」

「そーかよー」


あわよくば、を狙っていたがそう上手くはいかないものだ。


赫糸は脚を交差させ、組んだ腕の隙間から顔を出す指で肌をトントントントントントントントン叩いている。


どんなけせっかちなんだよ。


「……でも、お前強いのはほんとじゃん」


俺はそんな落ち着きのない様子の赫糸に声をかけることにした。無言でイライラされるのはかなりストレスだ。


「そうだけど…そうだけど……私が強いから……なんなのよ。手合わせくらいしなさいよ」

「いやだから強い人が怖いんだって。それに俺人間と戦った事ないんだよ。それなのに戦わされるし。……あ、それにお前、ゲーム終了条件 生物的な死 にしただろ」

「それがなによ」

「仮想的な世界での事と言えど殺したくないよ人を」


そんな一言に赫糸は言う。


「……あんた私のこと嫌いでしょ」

「え? うんだいっきらい」

「っ……ならいいじゃない。別に気を使う必要がないもの」


俺はその言葉に絶句してしまう。

あっけらかんと、当然と口にする殺しの肯定。


「いやいや、嫌いな奴なら殺しても気分が悪くならないと思ったら大間違いだぞっ。お前はまだ俺にとって人間なんだよっ」

「…まだってなによ、まだって」

「まだ は まだ だよ」

「……」


ムスッとした顔を浮かべて、赫糸はため息を吐いた。


「…殺す」


そうした頃、背の高い爽やかな男性が革靴の音を軽快に立てながら現れた。

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