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(旧:幻惑のアレース)10年間森の中でじっちゃんに稽古をつけられたあと、友達を作ってこいと能力者の学園に入学させられた  作者: MRプロジェクト
<< 1章 2節 >>【炎天無比】

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#7【殺し合いの予定】

いくつかの集団で縦断する帰り道。


そんな帰路の途中に大きめのコンビニがあるということもあり、暫くの間俺たちの会話はご飯の話で持ちきりだった。


時刻も19時を過ぎているのだから仕方なかった。


という事で立ち寄ったコンビニエンスストア。

初めての施設、立ち並ぶものはほとんど知らないものばかり。


日用品、飲み物、お菓子、お弁当、揚げ物、おでん。


どのコーナーも目の中に収まらなくって、あれやこれやと足を軽くして練り歩く。


そんな俺のワクワクとした好奇心を前に、古賀くんはやっぱり友達に向けちゃいけない顔を向けていた。


なんだその子供を見守る親のような顔は。


色々とカゴに入れているといつの間にやら満帆に。


会計も予想を遥かに超えた金額で、しかしあれ食べたい、これ飲みたいと言う欲求を抑える事はできず、仕方なく大きく貯金を切り崩す事にした。


古賀くんがやたらと買おうとしてくるのだが、流石に申し訳ないから断った。


それから昨日と同じ場所で蘇我さんを見送った。

終始はしゃぐ青峯さんと灰田さん。

2人はかなり気が合うようだ。


そうして解散し、戻ってきた寮棟。

学園生活2日目の執着地点。


学園生活が今日より本格的に始動した。

それはとても大変で、これからも大変になっていくんだろうけど、みんなと一緒ならきっと乗り越えられると俺は思う。


そんな気持ちに耽っていたのだが。


(うわぁ……! あー……やらかしたぁ…)


あともう少し歩けば自分の部屋だとルンルンだった足取りは一転。


赫糸が腕を組み、目を瞑って自室のドアにもたれかかっていた。


そういえば18時くらいにノートを送る約束をしていたなぁと、疲れた頭で思い出す。


今日一日俺の頭の中はどんちゃん騒いでいて、何度か記憶も飛ぶことがあった。

そんな落ち着きのなかった1日の中だ。


朝のことなんて覚えている余裕はなかった。


時刻は19:43。

ウィーコネクトを確認すれば、赫糸からの着信が100件も届いていた。



100件!!!



流石に執念深すぎると恐れ慄きながら内容を確認してみれば、全部催促と脅しだった。

100件目に至っては殺す、だとかそんな雑な言葉ではなかった。


『早く帰って来い』


赫糸が書き連ねてきた全てを凝縮した言葉が、そこにはあった。


怒り心頭。


それは文面からも、約束を違えたら殺すと言う今朝の脅し文句からも簡単に予想できた。

逃げたい、そんな気持ちが強く心に現れる。


が、しかし俺はここを通らないといけない。


と言うか、逃げるも何もエレベーターから人が出てきたのに歩く音すら聞こえてこない。

この時点でもう俺だと勘づいてるんだろう。


それに気迫がその全てを物語っている。


そんな調子だから、意味がないと知っていながらも思わず足音を立てない様に歩いてしまう。


どれだけゆっくり歩いても確実に距離は縮まっていく。その針の山のような道のりの山場に、俺は差し掛かろうとしている。


唸る心臓。

滝出る汗。


あわよくばその閉じた目は眠っているからであってくれと願う。


ーーがしかし。


世の中そんなに生優しくはなかった。


「ぁちょっ」


赫糸がカッと目を開いてからは一瞬だった。


ショッキングピンクの瞳の残光が俺の目に映ったかと思えば、家の中に引き摺り込まれてしまった。


手からずり落ちる2つのビニール袋。


俺を壁に強く叩きつけると同時に、俺の左肩に左肘を捩じ込み、それを軸に左前腕の甲を使って首を押さえつけてきた赫糸。


筋肉が張っていて、かなり強い力で拘束されている。

喉元を潰しにかかる勢いだ。


実際は潰す気は無いのだろうけど十二分に息がしづらい。


「ぅ"……」


右腕はいつでも振り下ろせるように掲げ挙げられている。


眉間に皺がよっていて、瞳孔がよく開いていた。

星空みたいな煌めきのある瞳だが、生憎このまま見上げていたいとは思えない。


身長差は5センチ程度。

もちろん俺の方が小さい。


瞳の奥に映る本気の苛立ちと、約束すら守れない人間を見る冷たい心。言葉次第ではこの腕を振り落とすという明確な意思。


初めて当てられた人間からの害意。

それを前に俺は少し怯んでいた。


赫糸は俺の股下にグイッと左足を差し込んだ。

とても体が密着していて、いい香りがした。


けど、そんな変なことを考えてなんかいられない。

ただひたすら痛い。


きっと、抵抗すればその倍はキツく喉を潰されるんだろう。下手に動けやしない。


その点で言えば赫糸の行動は人を制圧する上で正しいものだと思えた。


顔と顔がとても近くて、呼吸音がかなり鮮明に聞こえてくる。生暖かい吐息が額にかかる。


「あんた、どういうつもり…?」


荒げた声なんかよりもずっしりと心に届く、静かな圧。


赫糸の言わんとしてることは分かっている。

けど、弁明する余地は俺にはある。


「言ったわよね、破ったら半殺しにするって」


また強く、腕は押し込まれる。


「ぅ"っ……」


苦しいしすっごい痛い。


「…ちょ、ちょっと、待っ"て。聞いて、話、聞いて」


弁明の余地があるといってもこのままじゃなんの話もできない。だから赫糸の腕を叩きながら抗議する。


強く睨みつけてくる赫糸。


このまま話せと言わんばかりの眼力。


けれど、しばらくすると喉元から腕が離れていった。


強く咳き込みながら、深い呼吸を意識する。



深呼吸。



それは、奇しくもこいつとの出会いには欠かせない要素の一つだった。


喉仏に手を当て撫でてみる。

潰れてはいないようだ。


「あんたほんと貧弱ね。その筋肉は見掛け倒し? 力もない、身長もない。男として女に負ける気持ちはどうなのよ」


簡単にできてしまった拘束と、拘束に対しての抵抗がなかった事からそんな評価を下しているんだろう。


(誰がいきなりこんな目に遭うと思うんだよ)


いや、取り敢えず、取り敢えずだ。


こいつの性根は割れている。

だから過剰に反応するべきじゃない。


「別に…ごほっ…なんとも思ってないよ。ただただ赫糸さんが強いだけって話だろこれ」


むしろ褒める。


「………」


すると赫糸は目を細めて俺を見つめた。


気に食わない、そんな表情。


まぁ赫糸の感情の機微なんてこの際なんでもいい。

どちらかといえばご飯やジュースの事の方が気になっている。


「それでだけど俺さっきまで勉強会してて、ノート取ってたんだよ。それこそ赫糸さんが言ってた賢い人のやつ」

「……そう。やるじゃない」

「だから遅れた。それと……これ」


パンパンのビニール袋の中から1つ取り出す、カスタードとホイップクリームの2つが入っているダブルシュー。


勉強後は甘いものを摂ると幸せになれると言う灰田さんの助言をもらい、2つ買ってある。

この2つはもちろん俺専用だったのだが、この際供物にしてして怒りをおさめてもらおうという算段だ。


「ノートを取ってたっていっても連絡するの忘れてた俺が悪いから。……ごめんね、嫌な思いさせちゃって」

「………」


理由をつけて赫糸に渡す。


どうにか少しでも怒りを収めてくれ。

あわよくば機嫌が良くなって、これからは俺にだけでも優しく接してくれ。


「甘いの……嫌いだった?」


しかし中々受け取ってくれない赫糸。

だからそんな言葉を添えてみたのだが。


顔がすごく仰々しい。

酷く歪んだ表情だ。


「え、嫌いなら別に…」


そんな俺の言葉に返答はない。


ただ、バシッと力いっぱいにシュークリームを奪い取った。


そして赫糸は賞味期限や袋の開け口、シュークリーム自体を包装越しに見つめるなどして吟味する。


別に毒なんて盛ってねぇよと言いたいが、恐らく自己満足するまでやめないんだろう。


俺はしばしそんな光景を眺めるしかなかった。

それからすぐ。


「ノート、早く」

「あ、そ、そうだね。今送る」


主目的を忘れかけていた危うさに胸を震わせながらすぐにノートを送り、そして踵を返す。


さっさと帰ろう。


「じゃあ……俺はこれで」


そんな思いで背を向けた時、ガシッと肩を掴まれた。

何事かと振り返れば、赫糸は言った。


「あんた、土曜日予定はあるの」

「え、予定…?」


予定はあるっちゃあるが、外せない用事みたいなのではない。


1週間分の授業を総復習する事と、師匠お手製の穴埋めテストを繰り返しやる、それだけの事。


まぁそれだけ、と言っても俺にとってはかなり大切な予定であり今後に響いてくる研鑽の一つだ。


けどもし、土曜日に予定があると言っていたのに外出せず勉強してました、なんてのがバレたら…。


『あんた私の誘いを勉強で断るとかいい度胸ね!!!』


そう叫びながらドアを蹴破ってきそうで怖い。


(ドアの修理費用はもちろん赫糸持ち……になるよな。踏み倒されないよな……。いや、なんだかんだ俺のせいってのを押し通してきそう)


うん。

今のところ予定は埋まっていない。

そうしよう。


「ない、けど」

「じゃあ仮想戦闘施設に土曜日行くから、ブッキングさせないで」


仮想戦闘施設。

それは、じっちゃんに教えてもらったこの学園の要となっている施設。


そこで何をするのかを、俺は知っている。


「え、は? え?」

「なに」

「いや、だ、誰と誰が!?」

「はぁ?」


知っているからこそ、こんな脈絡のない誘いに動揺せざるを得なかった。


赫糸は心底呆れた顔を浮かべ、腰に手を当てた。


「アンタと私がよ」

「なんで!?」

「ムカつくからよ」

「んなアホな」

「なに、文句ある」

「文句しかないよ!」

「ちっ……。拒否権はないわ」


お、横暴だ! なんて抗議をしても、目をしても、我関せずと言った風。


戦うことが怖い、怖くない、というよりもなぜ戦わないといけない? と言う考えだけがぐるぐると頭を回る。


別に俺は戦うことが大好きな人間じゃあない。


もちろん森の中では戦いを……殺しを沢山やってきた。


でもそれは生きる上で必要な事であって、娯楽的に殺しを行っていたわけじゃない。それに、殺しそのものも好きじゃない。


あの、言語化しにくい不快感。

確かに慣れという物は存在していて、殺しを重ねるほどにその感覚は薄れていった。


でも、無くなったわけじゃない。


そんな感情的な理屈以外にも嫌な理由はある。


学園が設けている施設である以上、そうした施設の利用は学園が奨励しているのは明らか。


でも今は戦闘技術よりも学園生活への慣れと勉強習慣の定着が急がれる。

羽を伸ばす事に休日を使うのならまだしも、疲れを呼び込む事にかまける暇は今の俺にはない。



不満は色濃く募る。



だが、抵抗虚しく決議は覆る事がなかった。


そのまま俺は家を追い出され、自分の部屋に舞い戻る。疲れは赫糸と話す前よりも酷く、強く感じている。


(ロクでもないよあいつ…)

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