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(旧:幻惑のアレース)10年間森の中でじっちゃんに稽古をつけられたあと、友達を作ってこいと能力者の学園に入学させられた  作者: MRプロジェクト
<< 1章 2節 >>【炎天無比】

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#5【運命】

夜19時の集団下校。

時間帯と相反して賑わいを見せる各人の集まり。


人が多いと必然とグループ化が発生してしまうもの。


誰が嫌いだからとか、誰と話したくないからだとかそんなものはない。グループ形成はあくまでその話に乗っていてくれる人の一時的な集まりにすぎない。


今できているのは3人3グループ。



灰田、青峯、鳥田の3人。

古賀、吾妻音、加隈弟の3人。

米田、加隈姉、華園の3人。



そうしてできている集まりを、蘇我は1人後方で見つめていた。


蘇我がそうしているのは疲れたからなのだろうか、米田には判断がついていない。


ただ、空を見上げながらゆっくり歩いている1人の蘇我に気づいた時点で、米田にはどうでもよかった。


ひっそりと会話の枠から抜け出して、米田は蘇我の隣を歩き始める。


「……」

「………」


しかし、そんな粋な計らいは無計画だったため、どう話を切り出すべきかは全く頭になかった。


どちらが言葉を語りかけるでもなく、静かに同じ歩幅で道をゆく。


けれどやはり、何かは話していたい空気感。


「そ、蘇我さん」

「んー? なにかしらっ」


だからそう。

米田はチラチラと蘇我を見ていて気づいた事柄を口にした。


「蘇我さんって綺麗だよね」


一瞬の間をおいてーー


「………ぇ」


ーー蘇我は呆気に取られた。


すごく、驚いた表情を浮かべている。


急な発言に流石の蘇我は対応しきれていなかった。


そんな様子をみて米田はようやっと自分が何を言ったかを理解した。そしてそれは誤解だと弁明する。


今日の米田には弁明する機会が多分に与えられているようだった。


「あ、ああいや所作がっ。所作がね、何というかお上品で……流石お嬢様だなって」


目線があっちにいったりこっちにいったり。


蘇我はそんな弁明の言葉を耳に入れながらも、まだ思考は止まっていた。正気が戻ってきたのはほんの少ししてからだった。


「…そ、そういう事ね! 健二も中々食えない男ね! てっきり口説かれているのかと思っちゃったわ! あー恥ずかしいっ」

「く、くどくなんてそんな……僕達昨日会ったばかりだし、遊んだこともないから、まだ全然蘇我さんの魅力知らないから今はー……今はというか、うん。くどくつもりとか全くないよ」

「つまり……遊べば考えるという事ね!」

「あ、揚げ足取りだよー」


凄く困った表情の米田の反応に、蘇我は小さく笑う。


「冗談よ! まぁ遊ぶと言う話で言えば蘇我ファミリー1人1人と遊んではみたいわね!」

「そうなの…?」

「私たちは家族よ! だからもっとみんなの事を知りたいと思っているの!」


その眼は丸々と輝いていて、嘘偽りがなさそうなのは米田にも見てとれた。


それに実際、蘇我自身全員のことを知りたいと熱望している。


「ねぇ蘇我さん」

「なにかしら!」

「蘇我さんって、いっつも元気だよね。明るくて。我が強いし」

「それは悪口かしらー?」


おどけた口調で蘇我は米田を見つめた。


「悪口じゃないよ。蘇我さんらしくて良いところだと思ってる」

「ほんとかしら?」

「ほんとだよっ、蘇我ファミリーの名において」

「いいように使われてるだけな気がするわね!」

「すっごく疑り深いね!」


なんともいえない空気感。

蘇我はふと空を見た。


「健二は星が好きかしら」

「星…?」


唐突な物言いに戸惑いながら米田は頷く。


「そう。……私はあまり好きじゃないわ」

「そっ、そうなんだ…」


この話の流れで好きじゃないなんてあるだと驚きながらも、蘇我が語る口に米田は耳を捧げた。


「…好きじゃない。でも眠れない夜とかに明かりを求めてボーッと見つめることがあるの。こう見えてわたし暗いのが苦手だから、眠れない時には丁度いいのよ」


そんな蘇我の意外な一面に、米田は大真面目に驚いていた。こんな快活で物怖じしない我の強い性格の子が暗闇を怖がってるなんて。それもーー


「ーー蘇我さん自身が眩しいのに」

「私を電球か何かと勘違いしていないかしら」


蘇我は言う。


「星は……綺麗なの。それに壮大。それはいいことだと思うんだけど、どうしても自分がちっぽけに見えてしまって好きになれないの」

「あー……逆にね」

「ええ。だから好きじゃない」


そんな蘇我の見解を咀嚼すると、米田は少し間を置いて蘇我を見た。


「僕はちっぽけでいいと思ってる派、かな」

「……なぜかしら」

「星って小さくみえるけど本当は大きいじゃん?」

「そうね」

「宇宙も広いし届きそうにないし。僕たちは非力でとてもちっぽけな存在で、星の輝きほど誰かの目に留まれる存在でもない。でも僕たちはあんなに巨大で無数とある輝きを、ここからなら、めいいっぱい目に収められる。これってミニマムな僕たちの特権じゃないのかなって思うんだ」


蘇我は特権という言葉を反芻した。


「そう考えたらさ、綺麗な景色を嗜むことのできる特権のある僕たちって……実は意外にも特別な存在なんじゃないかって思えるんだ。…あ、別に特権がいい事って話じゃなくて、相対的に見劣りしないほどおっきな存在に思えてくるって話ね。落ち込んでる時とかにそういう気持ちをくれるから、僕は星が好き」


米田は語る。


「あと、こう…非科学的なんだけどね、星からはエネルギーを感じるんだ。見てるだけで力をもらえるような、そんな輝かしいエネルギーが」


ーーもちろん。


「人自信が持つ明るさってのもあるんだけど、力が足りないなって思った時は星を見て、空に思いを馳せて輝きを貸してもらってる。そしたらよし頑張るぞー……みたいな、星に負けじと輝けるようになる、気がして、だから、そんな前向きにしてくれる星が僕は好きなんだ」

「……中々おもしろい見解ね」

「でしょ。僕はいつか星になれるもしれない」


ふざけた口調で闊歩する、街頭頼りの帰り道。

長袖を着ているのだけれど漂う肌寒い空気に、米田は手を擦りあわせる。


そんな折りに、蘇我は少し足をとめた。


「私は……」


蘇我の、空から遠く、光の届かない、弱々しい目。


「そんな星みたいな輝きはもう放てないわね」


何かを思いかえして、そう呟く。


「お星様になることはできるかもだけど!」

「流石にブラックジョークが過ぎるよ蘇我さん……」

「蘇我ファミリージョークよ!」

「なんかマフィアの名前みたいに聞こえてきた」


おどけた声の蘇我を前に、米田は少し迷いながらもそう思う理由を問うた。

蘇我は少し理由をまとめると、歩きながら言う。


「もうその力は使い果たしたから、かしら。元から持っていた輝きみたいなのはもう枯渇しているわ。そうなってるのは……もはや運命だったと言っても過言ではないわね!」


意味深な言葉。


恐らくそこには蘇我が抱えているなにか大きな事柄が存在している。それを察せないほど米田健二という男は鈍感じゃない。


熟慮を張り巡らせ、言葉を選ぶ。

そんな中で米田は運命という言葉に目をつけた。


「クラシックの話になるけど、ベートーベンの運命は知ってる?」

「もちろん! むしろバカにしているのかしら!」

「してないよ! してない。ただ、確認ね確認。それでね、運命って曲の始まりってデデデデーンって低くて強い音色から入るでしょ? あそこのシーンって心の中の不安や苦しみを表しているんだって」


そんなうんちく語りの始まり。


「でも楽章を進めるごとにそんな憂慮から脱却していって、あまり知られてない最後の第四楽章に辿り着いたらね、そこには雄大で明るくて美しくてポジティブな音色が広がってるんだ。音色の通り、華やかな人生、最高潮…そんな表現」


米田は言葉を紡ぐ。


「この曲は誰の人生であってもあてはまる曲だと思う」


と。


「運命は楽曲だから…まぁそんな最高潮には終わりがあるんだけど、人に当てはまるとして、じゃあ音楽が終わったら人生も終わるのか、そんな最高な気持ちがなくなるのかといえば違うとだけ言いたいかな。むしろ最高の気持ちで次の一歩を始められる瞬間って感じ」


そう言って蘇我を見て。


「それこそ蘇我さんに運命は当てはまりそうだよね。それも常に第四楽章。1から3の楽譜がないみたいな」

「それは褒めてるのかしらー?」

「褒めてるよー」

「ほんとかしら、疑わしいわっ」


今日の蘇我は疑り深い。

それは会話の浮き沈みの都合に合わせた冗談なんかではなく、芯を食ったような言葉である事を米田は感じ取っていた。


だから、真剣な口ぶりで、真剣に話す。


「ほんとうだよ。僕はそんな調子の蘇我さんを見てるとなにか、星みたいな力がもらえてる気がしてるんだ。凄く元気が出るんだよね」


そんな米田の顔を見て、蘇我は少し口元を緩めながら「そうっ」と声を落とした。


「今、この曲のどこが蘇我さんに当てはまってるかは分からない。けど、苦しくって輝きみたいなのがないなって思うのなら、きっと輝きが戻ってくる! って、第四楽章がウッキウキで流れてくるような、そんな運命を待ち焦がれてもいいと思う」


蘇我は顔を合わせて話していた米田の顔から、少し目を逸らしたくなった。


「そうだと…いいな…」


珍しく、弱々しい声が小さく口から溢れる。

しかし、それに気づいてすぐ「いや」と蘇我は否定した。


「健二が言うなら間違い無いわ! ありがとう健二! 励まされちゃったわ!」

「…それはよかった」



蘇我の運命の輝き。

それは、あの日に全てを出し尽くしていた。

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