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(旧:幻惑のアレース)10年間森の中でじっちゃんに稽古をつけられたあと、友達を作ってこいと能力者の学園に入学させられた  作者: MRプロジェクト
<< 1章 2節 >>【炎天無比】

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#1【拒否権はないそうで】

身体が微睡む泥沼から這い上がってきた。

その感覚を受けて俺はパッと目を開ける。


「っはっくしょんっ……」


やけに寒いなと思えば俺は全裸だった。

そういえば昨日、服を着ないままベッドに飛び込んでそのまま寝てしまっていた。


部屋の電気もつけっぱなしだ。


かなり疲れていたとは言えだらしないなと思いながらトイレへ向かう。


森の中にもトイレはあったがあくまで場所を決めただけ。衝立や便器すら存在していない、青空全開の空間だった。


でも昨日から青空を拝むことはなくなった。

そう、俺には文明の力を扱う権利が与えられている。


あの臭いも、後始末も考えなくていい機構は、実に素晴らしい技術の集大成。深い感動を植え付けてくるあれに、俺は当分胸を奮わせ続けることだろう。


そんな面持ちでトイレへ向かう道中にあった壁掛けの時計。それになんとなく、目が向いた。



そして、少し体が固まった。



時刻は8時20分。

日にちは4月10日火曜日であり、平日だ。


「ふぅ……」


取り敢えず、トイレへ向かった。

用を足すくらいはしておきたかった。


「……さて」


水を流して外へ出てすぐ、俺は目の色を変え、早歩きでクローゼットを開いて手を伸ばす。


掴んだカッターシャツに腕を通し、ハンガーに引っ掛けていた赤いネクタイを不器用ながらもキュッと締める。


鏡を見ながらカッターシャツの襟を正す。


ズボンの中に服を入れ、その上から制服を羽織着る。まだまだ固い、紺の制服。

ビシッと手で軽く引っ張って正した後、靴下をはく。


(焦るな…まだ遅刻じゃない。まだ23分、間に合う、全然間に合うから)


粗方準備は済んだ。


朝ごはんは……今日ばかりは抜きだ。

流石にレンジでレトルト食品を温めて口にほおりこむなんて暇はない。


(あとは……あれだ、ホログラマーだ)


昨日どちらも使ってみて、やっぱりコンタクト型の方がいいなと思っていた。


やはり見慣れた視界に拡張的機能が馴染んでいるというのは親しみやすい感触だった。

受け入れやすいと言うのは、それだけで優位的な立ち位置になる。


対してメガネ型は容易に装着できる反面、何かつけていると言う異物的な感覚が強かった。


加えてコンタクト型と違って落ちる可能性がある為体勢などを考慮して動く必要がある、という点は看過できない。


(ちょ、ちょっと、う、うまく乗っけられないんだけど。だ、だれかっ、青峯さん助けてっ)


という事でメガネ型は充電し、乾かしていたコンタクトレンズを取り出してつけようと奮闘するのだけれど、震える指、勝手に閉じる目。


「あっ、あっあっ」


それら要因が時間を食い潰していく。 


どうも俺は焦ったり緊張したりすると想像以上に体が言うことを聞いてくれなくなるタチなものらしく、今ばかりは西条さんの鎮静作用のある能力をかけて欲しいところだった。


(あぁあああ! もぉおおお!! むりぃいい!!!! もぉおおお!!!)


牛になっちまうよ!!!!


ーーー


「はぁっ、はぁっ」


パタンと戸を締め、踵が入り切らない固いローファを地面に叩きつけながら履き歩く。


そんな折り。


「…あっ」


ヘンテコな体勢ながらも足早にエレベーターに向かう途中。


自室から4部屋先にある、とある人の家の前。

そして、そのとある人の大きな影。


宝石のようなショッキングピンクの瞳。

紅蓮の髪色は焔のよう。

艶やかしい髪質に綺麗な肌がとても映えているはずなのだけれども、それを覆うのは痣とガーゼ。


外見は美しく綺麗な存在そのものなのだけれども、それと引き換えとなった中身というのは悲しいかな。

人の形をしていない。


そんな赤髪の様相を見て、昨日とは違う違和感があるなと思い少し一瞥。


「なに」


強い牡丹色の眼光が俺を刺す。

顰められた眉からもとても不愉快な様子が読みとれる。


「す、すみません…。いや、もうすぐ授業始まるのに洋服来てるから……」


そう、この女。



今、制服を着ていない。



オーバーサイズのダボっとした黒色のスウェットを着ている。膝をギリギリ隠せていない大きさだ。

その服の胸元には英字のロゴが小さくプリントされている。


全体的に色褪せた色味で、首元はヨレ、手首の周りは少し糸がほつれている。


よく使い込まれた服なんだろう。


それに合わせているのは少し長めのショートパンツ。ほんの少し、服からはみ出て見える程度。

一見すればノーパンツスタイルと見間違うくらいには危うい姿を赤髪はしている。


履き物はサンダル。

片手には大きめのゴミ袋だ。


本当に私生活100%の装い。


明らかに学園へ向かう気がなさそうな服装と様相な訳だが、別に急いでる様子もない。


こんな当然とした佇まいに、あれ? 今日学園休みだっけ? と思うほど。


だが今日は火曜日。

週は始まったばかり。

祝日はまだ少し先だ。


そんな俺の疑問に彼女はめんどくさそうな表情を浮かべながら言う。


「謹慎処分よ、昨日の喧嘩の」


謹慎処分、その意味は知っている。

それを聞けば納得はいった。


「…何日くらい謹慎させられるんですか」

「今日から4日だって。その後に休んでた分の補習があるみたい」


赤髪はすごく嫌そうにため息を吐いていた。


まぁ確かに休んで生まれた空白はどこかで穴埋めしないといけない。それを補う為の時間。

4日分といえど侮れないか。


「…すっごい、考えただけで疲れてきた…。大変ですね…」


俺にとっては昨日1日だけでも疲労困憊。

なんなら保健室へ救急搬送されてしまうくらいだ。

もし俺がそんな目にあったとなったら、どんな思いをするのかは想像に難くない。


そんな俺の一言に赤髪は言う。


「まぁ自業自得ではあるし、喧嘩したことも後悔してないからそこだけ頑張るだけよ」

「そっか…」


割り切った様子。

道理を蹴散らすつもりはないと言う姿勢なのか、甘んじて受け入れているようだった。


「て、あ!! あの、ごめんなさい俺もう行かないとっ。俺から話しかけといてすみませんっそれじゃ!」


ふと思い出す、自身が置かれている状況。

人と話す猶予なんてありもしないのに立ち話をしてしまった。


急がなければ。


「あっ。ちょっと待ちなさい!」

「…えっ! あっ! はい!」


焦りに身を任せて走り出した頃。


急にそんな声がかかったものだから転けそうになった。そんな様子に歯牙程もかけない様子の赤髪は言った。


「…あんたに貸しがあったわね」

「え…あぁ、はぁ」


パンパンに膨れたゴミ袋を肩にスッと乗せ置いて、歩みを寄せてくる赤髪の女。


「謹慎中、私に授業の内容を教えなさい」


その一言を聞いて、真っ先に口が動いた。


「え…いやです」

「拒否権はないわ」

「えぇ……でも補習あるんですよね」

「その後には100点取るまで帰れないテストもあるわ。その対策で勉強したいの」


理路整然とした言い分、と思っている口ぶりだがその全ては横暴以外の何者でもない。


それ故に顔のいろんな部位が真ん中へ寄っていくのだけれど、それを見た赤髪は気に入らないと言った表情を前面に押し出して言った。


「貸しは返しなさい、じゃないと許さないわよ」


とても強い睨みが、俺の心の中へ強引に割り入ってくる。


(もし無理に断ったら……)


頭によぎる、嫌な妄想。


『昇也はここが苦手なのね! でもここはとても単純よ!』

『そうそう、難しそうに見えて簡単なとこだから僕と一緒に頑張ろ』

『うん…』

『んなしょんぼりすんなよ、誰もお前を置いてかねぇって』

『そうよ。みんなで蘇我ファミリーなんだから』

『みんなぁ…!』


そうしてみんなに助けられながら一歩を踏み出そうとしている時に。


『なによあんた私の貸しも返さずに勉強会…!? ムカつくわ! ぐちゃぐちゃにしてやる!!!!』


っと割って入ってきそう。

うん。

全くないと思えないのはなんでなんだろう。



とにかくみんなに迷惑かかる事はできない……か。



「………お勉強のお手伝い、させていただきます」

「当たり前よ」


その言葉に、流石の俺も腹が立ったと言うもので。


「っ……」


顔を平然としたものに繕うだけで精一杯だった。


相手の状況や意思を顧みず、行為に対する恩を押し付けてくる。あくまで恩返しはこっちからするものだというのに無理にでもその役目を果たさせようとするその姿勢。


人をバカにしたものの言い方。

少なくともお前は世間的な常識の輪の中にいる存在じゃない。


だから俺は言いたい。


「何が当たり前だよ、ふざけんな」


と。


「は?」


沈黙が、小一時間、支配する。


俺が自身の失言に気付いたのは、赤髪の表情が更に曇り、頬をピクピクと軽く痙攣させ始めた頃だった。


(やっべ、心の声漏れてる)


あまりの失言に謝ることすら意味がないだろうと言う結論にいきつき、俺は冷や汗を垂らして佇んだ。

そう、絶望を前に立ちすくんでいる。


そんな折り。


「ふぅん。そう…。言うんだ、借りのある分際で。……名前、あんた、なに」


すごく何かを堪えながら並べられる言葉の数々。

俺はただ、聞かれた事に声を返す。


「…華園……昇也、です」

「……じゃああんた、私が連絡したら部屋に来なさい。大体18時くらいにお願いするわ。ご飯は済ましてからくる事、私からは何も出さないから」

「あ、ああ、はい……。あっ」

「……なに」


もう勉強を教える方向性に歯止めが掛けられない流れになっているのだけれども、そもそも俺は馬鹿だ。


人に教えられるほどの知識もなければ、教えられた話をうまくまとめて人に伝える力なんてものも持ち合わせていない。


そういう旨を伝えたところ、頭のいい人からノートを取らせてもらえとの事だった。

それを渡すのなら家には来なくていいらしい。


そんな補習前のお手伝いのためにウィーコネクトを交換していると。


「その代わり逃げたら半殺しにするから」


そんな、人が軽く口にしていいはずがない言葉を躊躇いなく俺に吐き捨てた。


(あー怖いよこの人、ほんと怖い)


森の奥で住んでた俺ですら社会向きの道徳心持ち合わせてたってのに、君はどうしてそんななんだい。

俺、人の持つ心の多様性に驚いてるよ。


「あ、えっとじゃあまぁ、はい。頑張ります」

「頼んだわよ」


彼女、赤髪の女の名前は赫糸凛夏(あかしりんか)と言うものだった。


難しい漢字で聞き馴染みのない語感だが、だからと言って名前を間違ったりなんてしたら何されるかわからない。


そんな脅迫的な思いに苛まれながら俺は反芻する。


赫糸凛夏(あかしりんか)という、その苛烈で禍々しい女の名前を。


ーーー


華園昇也。


彼の慌ただしい背中と足音を、荷解きの時に出たごみを詰めた袋と一緒に見送ってから歩き出す。


階段の近くには大きいダストボックスがある。


大きさは最大75L。


ゴミの分別は張り紙の色とマークが書いてあってわかりやすい。実家のゴミ箱と似ているな、なんて思いながら生ゴミの蓋を開け、投棄する。


その際に走った腕の痛みに顔が少しひしゃげてしまう。


(……本当昨日は姑息なことをしてくれたわ…)


右腕をさすればかなり痛みが押し寄せてくる。


執拗に同じ場所を狙うと言うのは、攻撃が効いていなさそうな相手に講じる最善策ではあるのだけれど、それをされた方はたまったものじゃない。


「はぁ…」


昨日、わたしは1人で10人のクラスメイトと喧嘩をした。


相手含めて全員その日初めて顔を合わせた仲。

けれど、対立する対象が明確だからか団結はしやすかったようだ。


とてもチームワークの取れた動きをしていた。


能力者同士の喧嘩ではある。

だから能力を行使しながらぶつかり合った……といえば違う。


厳密に言えば私は能力を行使していない。


それは私の実力に対する自信からくる相手に与えたハンデ。かつ、能力を使っていない相手に能力を使って負けた、と言う圧倒的な実力さを痛感させる思惑。


まぁ能力を使えるハンデがあると言っても、こと日本では。



【能力の平常利用は殺傷に満たない、かつ、本来の効果の5%未満でなければならない】



そんな社会秩序的な制約が存在している。


そもそも能力監視システムによって、能力の使用と同時に位置を含めて識別され、監視対象へと成り上がる。


その際の能力の度合いが危険だと見做されれば、処罰が下る。



その処罰は大体死刑になりがちだ。



現法では能力者の扱いに困っている節がある。

それもそのはずで、能力者と非能力者という構造が原因だった。


これはつまり、明確な弱者と強者という立ち位置が確立されていることを意味している。


それでいて、能力者の比率は世界人口の半分程度。

数字的に世界はまだ支配できていない。

公平には程遠い。


また、能力者も能力者を恐れていたり、能力者の大切な人が非能力者だった、という事が多分にあることから、弱者に寄り添う政治が支持されるのは必然だった。


だからその処罰の極端さは、従来の社会秩序の維持という名目のもと社会的には容認されている。


まぁそんな世界だから下手に暴れ回るなんてできっこなくて、相手にとっては多少のアドバンテージでしかなかったんだろうけどハンデはハンデ。


その上で全員倒すことは出来た。


自信満々の割に辛勝ではあったのだけれど、勝ちは勝ちだ。


(謹慎4日か……なにしようかな、暇なのよね……)


体が万全ならば筋トレとかをしていたいのだけれど、案外と負った傷は多く、とても痛んだ。


長期的な目線で見れば、しっかり傷を治してからしたほうがいいのはわかっている。

だから我慢している。


(適当に映画でも見ようかな……)


謹慎に際して渡された反省文は書き終えている。

面談も明日あたりに遠隔的に執り行う。


空き時間の多い今日から数日を前に、私は唸りながら自宅の扉をパタンと閉じた。


ーーー


赫糸凛夏による喧嘩騒動。

それは単なる喧嘩でありながらも、こと学園においては大事(おおごと)の他なかった。


それは学園を運営する先生側にとって、ではない。

その学園の中で生活をする生徒側にとっての大事(おおごと)だった。


学園の性質上、周囲との協調は強く求められている。


その規律的な強調意識は、個々人の思考や行動原理においても根付くこととなり、悪意を持って繋がりを乱す存在と言うのはとても冷ややかな目で見られる対象となっていた。


生徒同士の繋がりは広く、規模も大きい。


この喧嘩の噂は、彼女が想定している以上の速さと規模で広がり、共有されていった。



そんな自体を解決すべく、学園生徒会は今日には動き始めていた。

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