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(旧:幻惑のアレース)10年間森の中でじっちゃんに稽古をつけられたあと、友達を作ってこいと能力者の学園に入学させられた  作者: MRプロジェクト
<< 1章 1節 >>【芽吹く入学1日目】

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#21【とってもイヤな邂逅】

(えーっと、ここだよな、地図の案内的に)


寮管理地区の広場で解散した後、ホログラマーに送られてきた地図を手がかりに少し歩いてやってきた寮棟。

目的のそれを前にして、改めて感嘆の息が出た。


(あの大樹よりもおっきぃな…)


このそり立つ高さに圧倒される感覚は、森に生えてた大樹を初めて見た時と通じるものがある。


寮を守る外壁と、出入り口となっているデザイン性の高い大きな黒い門をくぐり、中に足を踏み入れる。

それと同時にビャッと広がりを見せる寮の敷地の大様相。


外壁のせいで外からは閉鎖的な空間に見えていたのだけれど中から見れば様相の感じ方が全然違う。


ぐわーっと広がる青景色。


寮の入り口へとまっすぐ伸びた道は、大きく四角い白色の石タイルで形作られていた。

色に注目して目を凝らしてみれば、これも庭園のレンガ道同様ちょっとずつ色味が違っている事に気が付けた。


地面から目を離ししっかりと前を見る。


すると目に入ったのは立ち並ぶ街灯たち。それもまだ明るい時間帯ではあるというのに、その光はもう下ろされているということ。


周囲に茂る草葉の地面に埋まった、足首程度の高さしかない太めの棒もまた光を発している。


植えられている草木花の伸びは、どこか自然そうに見えるのだけれどちゃんと見れば全て均等な高さ、長さで揃えられている。


とても手入れが行き届いている様子。


そんな自然の他にも、長椅子や噴水といった公的なインテリアが設置されている。

あかりのおかげで夜でも問題なく利用できそうだった。


寮棟のエントランスへ通じる自動ドア。


生徒のIDが配布されたホログラマーを元に認証を行い、パスワードをホログラマー内で打ち込むことで開閉を行ってくれるらしい。


『ID確認。パスワードを入力してください』


そうして指示に従い適切な数字を打ち込めば、エントランスへの道は開かれた。


その中に入れば、外気の肌寒い4月の温度とは違ってとても暖かかった。


匂いもいいものだ。


中庭の自然な香りも良かったが、エントランスをふんわりと彩る柑橘系の香り。

スッキリとした印象がある。


それに、縦にも横にも広いエントランス。

何を置いていてもスッキリしていそうだった。


実際ソファーなんかを支柱のそばに置いていたり観葉植物などを色んなところに設置していると言うのに、全く全然これっぽっちも窮屈さを感じない。


郵便受けはエントランスに入って左手すぐのところ。


16個のスペースには数字が振り分けられており、各階の郵便受けである事を指しているらしい。


そんな郵便受けの近くには自動販売機の集合スペースが設置されていた。


また、飲み物以外にも栄養ドリンクやお菓子、パンといった食料品が入った自動販売機も立ち並んでいる。


全体的にエントランスでもくつろげるよー。

朝早くてもここで買っていけるよー。

という配慮が見てとれる。


(ここでの生活楽しみだなぁ)


なんて惚けながら、近くの構内案内を端から端まで見渡してなんとか見つけたエレベーター広場。

そこ向かった。


矢先だった。


「……!?」


バレたくないと思いすぐに身を柱に隠す。


勇ましい雰囲気を誇示する背中。

あの太々しい足の置き方。

なにより肩まで伸びた真紅の髪。


間違いない、今朝方の赤髪の女だ。


(最悪……。エレベーター相乗りしたくないんだけど……)


エレベーターは全部で6つ。


数は申し分ない。けれど問題はエレベーター広場にまとめて並んでいることにある。


「んー……」


もし理不尽を叫んでいいのであるならば、是非ともバラバラに設置してよ! と大にして言いたい。


けれど、まぁそれは俺の都合でしかない。


「んー…」


冷静になれ。


赤髪の女はエレベーターを待っている様子。

もう少し待てばどこかへいくだろう。


「んん"ん…」


けど、それはそれで赤髪の女に待たされている感があって釈然としない。


(なにかないの……)


そう唸りながら辺りを見渡していると、緑色の蛍光灯を頭上に乗せている鉄の扉が目に入る。

その扉は真ん中に縦長の細いガラスが通っていて、それ越しに非常階段に焦点が合った。


(あ、階段あるじゃーん)


俺は見つけた嬉しさを全開にし、意気揚々と戸を押した。



ガタンッという重たい鉄の音がエントランスにしっかり響いた。



俺はと言えばもう既に階段を駆け上がっている。


(別にっ……追いかけられてるっ、わけではないのだけれどっ、あんましっ、会いたくっ、ないっ)


ホッホッホと階段を何段かすっ飛ばしながら目指す階は6階。


あいつと一度も縁が無かったのであればエレベーターに乗ったんだけど、今朝出会って顔もおそらく覚えられている。


何か話しかけてくるのは想像できなくもない。

でも俺はあいつとまともに話ができるのか分からない。気まずいとかそんな話じゃない。


苦手な人間に対する生理的な拒絶反応だ。


駆け上げた足。

見えてくる6という数字が一つ。


目的の階層まで登りきったところで勢いを落とし、ゆったりとした歩幅に切り替える。


(にしても、まさか赤髪と一緒の寮か……。もしかして部屋も近かったり……)


なんて考えたりしてみるが、結局は杞憂だろうと言う見解に落ち着く。


だって一つの寮に大体500人は入れる。

その上で、一つの階層につき30部屋もある。

そしてこの寮は16階が最上階。


確率的な話を考えれば、今朝出会った人間が同じ階層かつ近くの部屋に住んでるなんて考えにくい。


余計な悩みはただ疲れを誘発するだけだ。

安心しておこう。



いやぁ、今日はほんとに疲れた。

頭使いすぎてだいぶ疲れた。

出来るならもう寝たいくらい疲れてる。



体が休みたいと言う欲望を脳内に垂れ流すのだけれど、実はまだ俺には荷解きという大仕事が残っている。


「はぁ……」


事前に発送されていた寮の鍵。


まだ部屋の前ではないのだけれど、ポケットから鍵を取り出して手の中で軽く弄ぶ。


(なにから荷を解こうかな…。やっぱまずはベッドとか棚とかからだよなぁー…)


気だるい体。

休みたい気持ち。

部屋に近づくほどに重たくなっていく部屋の鍵。


廊下をぼーっと見つめながらゆったりと歩く。


そんな折り。


目の先に映った、傷の多い、けれどスラッと細く、白くて綺麗なそんな脚。


「あ、すみませんよそ見してまし……あっ」


面を上げて現実を知る。


この世には神様なんていないという、そんな惨たらしい現実を。

夢想の逃避行に出かけるには、あまりにも現実の濃度が高過ぎた。


「……なに?」


杞憂。


そう、願った相手。

その人との遭遇。

その人の部屋はこの階層だそうで、俺の部屋から4つしか離れていない。


絶望がひょっこりと顔を覗かせていた。


「あ、いや、見覚えがある人だなって思って」

「……あぁ。今朝の」


慌てて取り繕った言葉に返されるとても興味なさげな声と目。

かなり疲れたと言う表情も相待ってか、目が非常に鋭くなっている。


ただただ怖い。


それに、今朝出会った時と彼女の様相は全くかわっている。


見える腕や脚、あの憎たらしい顔にまで傷やあざがついており、ガーゼが露出面積のほとんどを埋め尽くしてしまっている。


正直、見ているだけでかなり痛そうで、思わず顔が渋くなってしまった。


「ジロジロ見ないでくれる。気持ち悪い」

「す、すみません。……じゃあ、失礼します…」


気が立っている状態なら放っておくのが1番。


森の中で出会う動物たちとの接し方としてそれは鉄則で、場合によっては俺が、そうでなくとも動物が暴れて怪我をする危険に繋がってしまう。


だから、近づかない。

そもそもそんなつもりもなかった。

今は偶発的な出会いを果たしただけ。

別にもういい。



帰ろう、我が家へ。



「……傷について聞きなさいよ」



あぁ〜人間ってめんどくさい!!



ムスッとしていて近寄るなという雰囲気を強烈に放ってるくせしてどうやら話を聞いて欲しいらしい。

ワガママか!


「……どうしたんですか。そんな傷、普通は負いませんよね」


一考挟む必要がないくらいの傷の量と、傷を負った箇所の人為性。流石に木とか階段から転げ落ちた程度で負える傷じゃない。


その見解は当たりだったようだ。


「殴り合いの喧嘩したのよ、女同士で」


なんてさっぱりした言い方で言った。

どこか自慢げにも取れるが気のせいか。


「え、入学初日…ですよね。そんなに馬が合わなかったんですか?」

「……いや、馬が合わないと言うより力を見せつけて私をクラスのてっぺんに据えようとしただけ。その為にハンデとか設けたから傷を負っちゃったけど、能力が使えるなら無傷だった」


なんというか、行動原理に寒気を覚えてしまう。

加えて最後の言葉はなんだ、褒めて欲しいのか。


顔はそこそこ隠れているが口元は見える。

相変わらずムスッとしていてうまい具合に気持ちを汲み取れないが、まぁいいよ、褒めるよ。褒めて欲しいんだろ、このめんどくさい人間めっ。


「見た目通り…あなたって強いん人なんですね」

「……そう…? よく舐められるんだけど」


そこに関しては本当に不思議そうに問うてきた。


「そうなんですか? 僕には強者の雰囲気みたいなのがバチバチ伝わってくるので舐めるなんて発想なかったです」


それに関しては嘘ではない。

強いんだろうなってのは今朝会った時から感じていた。舐めるなんて言語道断。


本気で戦うならそれなりの覚悟を要する相手だ。


そんな俺の半ば真剣な反応に赤髪は俺から目を逸らすと、少し口を動かした。


「…え、何か言いました?」

「いっいや!? べ、べつになっ何も言ってない!! てかもう休みたいから帰って!!」

「え? あ、ああはい…」


素行を成すのは本人の性格。

その凶暴性、横暴性共に関係性を続けるべきじゃないのは確定事項へと昇格した。


これ以上関わって何かされるのもごめんだ。


俺はそそくさとその場を離れ自分の部屋、その玄関にようやく足を踏み入れる。


パタリとしまる、入り口ドア。

そして実感する。


(自分だけの部屋……!!)


目の前に広がる一直線の廊下景色。

特別広くも長くもない廊下で、壁に絵画やポスターが貼っている訳じゃない。


そうなんだけれど、どうしてもキョロキョロと目をくべてしまう。


(ここがお風呂場、あっこれが洗濯機か! すっげぇ!! でっけぇ!! あっでこれが浴槽!! シャワー!! すっげぇ! すっけぇー!! それでここがお手洗いっ……すっぅげぇええ!!!)


あっちこちに顔を出し、そこに設置されている設備の形状や機能を舐め回すように視界に収め、数十分してようやく立つ、キッチンとリビングに繋がっている部屋。 


ごくりと飲み込む息と、ワクワクとした気持ちと同期して不思議と震える右手でドアノブを落とし、ドアを引く。


そうして視界に広がった景色。



とんでもない白い段ボールの山々。



一旦パタン…っと戸を閉めて、呼吸を整える。


「はぁ……」


まっさらでピカピカの木張の床。

カーテンのかかってないベランダの戸から注ぐ夕陽。

自分の知っている匂いじゃない匂いというのは、新鮮さを体感する上で欠かせない。


(あー、段ボールの山さえなければ最高だった……)


しかし、こうもドアの前で茹っていても仕方ない。

ホログラマーに搭載されている時刻表記に目をやれば16:10をさしていた。


(さっさと…片付けるかぁ……)


俺は、じっちゃんに注意された騒音問題に配慮し、夜に突入するまでに作業を終わらせるため、能力を発動することにした。


(……お掃除上手)


嗅ぎ覚えのある匂いがあたりに漂う。

少し安心する甘い匂い。


そして満ち溢れる、この思考を再現するために必要な力の本流。


力と感覚が体に行き渡ると同時に、俺は一歩踏み出した。

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