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(旧:幻惑のアレース)10年間森の中でじっちゃんに稽古をつけられたあと、友達を作ってこいと能力者の学園に入学させられた  作者: MRプロジェクト
<< 1章 1節 >>【芽吹く入学1日目】

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#19【古賀と灰田】< 1 >

(あ、おったな…)


昼時の混雑を終えた食堂は厨房だけが騒がしく、イートインスペースは閑散とした雰囲気。


疎らにくつろぐ生徒達は、新しくできた友達とまったり雑談している様子。


そんな中でポツンと1人。


不機嫌そうに3人用のソファー席を陣取って、パフェやオシャレなスイーツをパクパク食べてる灰田がいた。


「よっ。美味そうなもん食っとんな」


有無を聞かずに隣に座ると更に不機嫌そうに灰田は眉をひそめた。


そして畳み掛けるように灰田が何かを言う、わけでもなく、そして俺も無駄に話しかけるわけでもなく、お互い沈黙を保ったままその場に影を置く。


少しガヤガヤとした食堂の音。

近くで聞こえるカトラリーの響く音。


小さく切りわけられたスイーツ。


それをその小さな口に運び込んでいく灰田。

スイーツを口に突っ込んでも不機嫌な様子は変わらないらしい。


「……私が食べてるとこなんて見て、何か面白いの」


暫くして、灰田はそんなことを俺に目も合わせず言った。そして黙々と食事の流れは紡がれる。


俺はそんな一連の所作や表情を含めて見て、思った事がある。


「あー。いや、面白いと言うより、そんな顔して食べてるから美味しくないんかなーって」

「……」


俺の一言に手が止まる。


灰田は鼻から軽く空気を吐いた。

やっぱり目も合わせない。


でも料理にはリスペクトがあるようで、不服そうな言い方だけれどもちゃんと「美味しいわよ」と小さく呟いた。


「そっか…。ならええんよ」



そうしてまた、静かになる。



カチャカチャとしたカトラリーの音と灰田の咀嚼音がよく聞こえる。


今食べているのはレアチーズケーキ。

匂いは香ってこないが見た目が高そうで、多分絶対美味い。めっちゃ食欲そそられる。


「なぁっ。そのレアチーズケーキ一口くれよ」


空けていた灰田と隣り合う距離を、残り拳一つ分にまで詰めながらそう言うと灰田は流石にこっちを向いて言った。


「はぁ? 嫌なんだけど自分で買えば」


そう言いながら食器ごとスッスッと、せっかく埋めた隙間を元に戻す灰田。


「んー! お願いっ、一口だけっ。一口代金払ってもいい!」


と、懇願する俺を前に、また目線を外す灰田。



沈黙が続く。



灰田の手は、止まっている。


「……私は別に間接キスとか気にしないけど。古賀は」

「知り合いのなら問題ないな」

「そ…。一口100円ね」


と、言って切り分けたレアチーズケーキ。フォークの上に乗る量を見て俺は絶句した。


「え…フォークにサイコロ3個分くらいの量しか乗ってないんやけど」

「100円ね」

「あ、はい」


本当に量が少ない。


一応レアチーズケーキと、その下に敷いてあるレモンソースのかかったクッキー生地。

どちらも入れてくれているが、こんな量試食でも見たことないぞ。


まぁでも、もらえるだけありがたい。

ので、一口口にする。


「……」


ぁー。


「これええな美味いわ。ソース二つかかってるんやな、甘いのと酸味強いのと」

「正解」

「レアチーズケーキ自体も濃厚やし、鼻に抜ける香りがええわ。安もんとは違うって感じする」

「そりゃそうよ、一個3,500円するもの」


(はぁあ!!?)


「下手なケーキ屋でももっと安いって…」

「でも美味しいでしょ。チーズの風味と濃厚さが舌にじんわり広がる感じ、私好き」


さっきまでムスッとした顔で食べてたもんやから、美味しいとか言いつつもあまり味を感じ取れてないもんやと思ってた。


食事に関してはすっごい紳士やな。


「灰田はこう言うの好きなんや。すっきりした後味のがレアチーズケーキに多いからちょっと俺は新鮮やったな」


そう言うと、少しこっちに目を向けながら「嫌い?」と聞いてきた。


「んー、いや普通? これもありやなぁって感じ。でも敢えて言うならやっぱスッキリしたやつの方がやな」

「ふーん」


興味なさげな相槌。


けれどそれで構わない。

少なくともさっきよりかは話ができてる。

目も向けてくれている。


「灰田ってご飯とかスイーツ好きなんか?」


食べることが好きなのは見てればわかる。


量を摂ってるのも一回の食事で満腹にならないからではなくて、単純にいろんな味を楽しみたいから。

昼ごはんの時とか麺は中盛りやったけど、おにぎりとか天ぷらは小盛りにしてたし、今もそう。


レアチーズケーキ、パフェ、チョコケーキ、ババロア…。


昼飯の後は死にそうな顔をしてたよな…。

それに、あれからまだ1時間ちょっとしか経ってないし…平気で食べれるってことはあれか? 消化が早いんか……?


ちょっとした灰田の不思議な部分に考えを回して返答を待っていると、灰田は何口かデザートを口にしてから言った。


「……好き…大好きね。だから、1人でご飯とかスイーツの美味しいお店巡りしたりしてる」

「お、マジ」


なら丁度いい。


「じゃあさ今週の日曜日でかけへん? ちょっと行ってみたいスイーツ店あんねん」

「……」

「俺も結構食べるの好きなんよ。食べログとかインスタとかめっちゃやってんで……。ほら」


このままでは今の状況的に真意ではないと思われてしまう。


つまりは間を取り持つためだけに好きなものを合わせにきてる、そう言ってると勘違いされてしまう。


それを阻止する為にウィコネに俺が撮ったご飯やスイーツの写真、お店の店主とのツーショットを送りつけた。


「……なんでツーショット…」

「俺の行きつけの店でさ、デミグラスのかかったオムライスなんやけどなこれがまぁー! 美味いわけよ。一時期ハマって毎日行ってたら仲良くなって、なんとなく写真撮りましょー! みたいな感じになった」

「流石に私でもそんな流れには持って行ったことないわね…」

「まぁ俺もこの人が初めてやな」


少しは疑念が晴れたやろうか。

灰田の表情は、まぁ多少なりとも柔和にはなってきたけど……内心がどうかまでは判断がつかへんなぁ。


(こう言う時は案外思い切って言ってみんのも、正しかったりするんよな)


齢15ながらもそれとない人生は送っているもので、だからこそこう言う状況に物怖じせず踏み込める。


「別に俺さ、お前の機嫌取りたい為に話してんちゃうからな。スイーツ誘ったのもお前が好きや言ってたから丁度ええって思っただけやし」

「………」


返事はない。


けど、少しピリッとしていた雰囲気が解け始めた感触があった。あんまし向けてくれへんかった目線がこっちを伺うように向けられる。


「俺な、美味しいってすっごい便利な共有ツールやと思うねん。けどよー行くんって言っても俺1人やから、美味いって思っても話す相手おらんのよ」

「友達いないの」

「おるわー、ぼけー。あほー。けどみーんな食う為に出かけるのは嫌なんやって」

「ふーん……」

「ま、そんな友人関係なもので、ちょーど白羽の矢に使えそうな灰田が居たから誘った感じっ。普通に花だし、ほんまに出かけたい。…どう? 日曜」


長く。


「………」

「あかん?」


静かな。


「……」


沈黙。


「………」


それを前に引き下がれないほど頭の悪い人間に育った覚えはないし、わからないふりをして無理を強いれるほど無神経ではない。


「……まぁ、別に無理してって訳ちゃうし、今度またさそーー」


空気的に諦めてこの話題を終えようとした時、灰田はそんな俺の言葉を遮って言った。


「行く」


とてもか細く、小さな声。

でも確かに届いたOKサイン。


「……え、ほんま?」

「ほんまよ、ほ・ん・ま。…嘘言って何になるのよ」

「それは……そうやな! すまんすまん」


少し笑って言ってみれば、眉間に皺を寄せておちょぼ口にもした顔が無理のない表情へと変わって行った。


「良かったわ、今度の日曜の楽しみ増えた」

「それは良かったわね。あ、微妙だったら許さないから」

「こっわ、ほんまにここでええんか心配なってきた」

「自信ないのに誘ったの…?」

「えっ? いや、ちゃうねん!」

「あ!」

「え?」

「本場のちゃうねんやー、初めて聞いた」

「あ、おんそっか。あ、てかちゃうねん聞いて、あのな普通にーー」

「ーーわー、ちゃうねんちゃうねんちゃうねんねーん」

「話を聞けぇい!!」


雑なツッコミ。


大阪人あるある。

真剣な話の途中のツッコミは雑くなる。


そんな俺を前に、それでも楽しそうに灰田は笑っていた。


「まったく……」


やっぱこいつかわええなぁ、なんて事を心のうちに留めて腰を上げる。


「取り敢えず……おん、みんな庭園におるみたいやから戻るけど、灰田はどうする? 帰る? 帰るんなら途中まで一緒帰ろ」


灰田は一考する。して、少し目を逸らしながら小さく、躊躇うように。


けどちゃんと「戻る」と一言呟いた。


その英断というか頑張りは、俺はすごいなと思った。

よくあんな返ばかりされたのに今すぐにでも戻ろうと思えるなって。


「……まぁ、蘇我の我の強さは尋常じゃなかったよな」


灰田が持つ不満の真ん中を突いてみれば「ほんとにねっ。なんだったら強過ぎてムカついてしかたなかった。気分最悪」としっかり怒りの感情を乗せて言葉を吐いた。


そんな灰田を見て、やっぱり申し訳ないなと思う気持ちが強く出た。


「…ごめんな、灰田」


だから、自然と溢れた懺悔の言葉。


「急になに?」

「…あ、いや……正直、灰田が言った言葉、俺も思ってたからさ。それに多分他の奴も。…でも蘇我があんな言い方するのも何か訳があるんかと思って言い出せんくてさ。……それで黙ってたらさ、灰田が言ってくれたやん? そう言うつもりなくとも代弁してくれててんよ」

「……え、私がノンモラルって話?」

「ちゃうわ! 曲解やめろや!」


少し声を大きめにつっこむと、灰田はイタヅラな笑みを浮かべながらクスッと笑った。


「冗談よ。で」

「でってなんやねん、で、って。……まぁ。なんつーか……だからさ。蘇我の雰囲気的にな? あの話にはなんでも言い返してくるんだろうなって分かっててん。けど、あれに対してちゃんと文句を言わなきゃいけないってのも分かってた。……やのに、俺…言えんかったし…それを灰田だけに喋らせて、お前だけに嫌な気持ちさせたって事がさ、ほんまに申し訳ないって、思って……。ほんま、ごめんな」


カツカツと、ローファーの音を鳴らしながら俺たちは歩みを進める。


目的地はさきのスピカ庭園の自販機があった場所。

食堂からはそこそこ歩く。


「……それは、古賀が謝ることじゃない。私が言いたかったから言った訳だし」


灰田は、少ししてそう呟いた。


けどそうじゃない。


「そこはそうかもやけど、俺たちだってお前の味方につけたはずやったから……。うん…。傍観したのはマジで悪手やったって後悔してる」


そこまで言うと、灰田は意外そうな口ぶりで言った。


「古賀って見た目と言動に反して生真面目ね」

「は!? いや! ぁー………うん。…それは…否定しやんわ」

「しやんのかーい」

「そこは、自覚しとるからなっ」


灰田はそんな俺の開き直った自慢顔を見て笑った。


「へんなのー」


そう、楽しげに。

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