#17【スピカ庭園】
え、料理の感想ですか?
ええ、そりゃあもう美味しかったです。
え? 感想はそれだけですかって?
いっやっだっなぁー、そんな訳ないじゃないですか。
でも、ただね、僕…思うんですよ。
こー……あれが美味かった、これのここが良かった、味付けがよかった。
なんて、タラタラタラタラダラダラダラダラ料理がチープに見えてくるような言葉を並べていくのって、すっごく、無粋そのものだなって。
まぁただ、敢えて言うなれば、僕はもう多分普通のうどんは食べられません。
静かな空間。
料理を食べ終えて人から満足げにお腹を膨らませ、その余暇を楽しんでいる。
古賀くんは目を瞑っている。
米田くんは肩まである背もたれに深く凭れ掛かってお腹をさすっている。
俺もおんなじように膨らむ腹を撫で、ふぅと息を吐き出しながら見上げた景色。
見上げる先は明るいブラウンの天井。
シックな色味は目が休まるのか落ち着きを感じる。
それに、お腹がいっぱいだからなんだろうか。
(なんか、眠たくなってきた……)
そんな時だった。
「そうだ、皆んなに伝えなくてはならない事があるの」
その言葉は、口元を布巾で拭った蘇我さんの口からだった。
蘇我さんの【お嬢様フォルム】? の雰囲気に加え重大な話のような面持ちがかけ合わさって面々は姿勢を正して耳を傾ける。
しかし、どうも今すぐに、と言うことではないらしい。
「このあと時間空いてるかしら」
ーーー
暫くして、灰田さんが食事を終えた。
けれど、少し休憩させてと辛そうに口元を抑える灰田さん。そんな彼女を前にすぐに移動はできず、多少談笑を挟んでからやってきた昼下がり。
その足で向かった先は学園の名所として名高い、広い土地をふんだんに使い、草花を贅沢に、かつデザイン的に美しく揃えた巨大な憩いの場。
通称【スピカ庭園】
四季によって、いるみねーしょん? が用意されるのだけれど、その際、必ず庭園の中央に星が設置されるらしい。それも1番高い位置に。
その他にも、設置される星自体がどのいるみねしょんよりも輝きが強い事から、輝きの強い星の名前を取り【スピカ】と命名したそう。
森で見た自然の力による四季の移り変わりと違って草花にしっかり人間の手が及んでいて、人間の視点から見た時、とても芸術的な並びをしているのがよくわかった。
こう、並び方一つとっても無造作に並列させて並べるのではなくて、段々畑というか後ろに行くほど花の背が高くなるような工夫みたいなのが沢山敷き詰められている。
草葉のアーチも面白い。
森にあったのはほんとに雑に生えていた草むらで、木の枝が乱雑に出ていたり葉が尖っていたりして危なかった。
でもこのアーチの葉っぱは丸くて綺麗で、なにより危なくない。色味も明るい緑色、虫食いも枯れた様子も見当たらない。
そもそも、このアーチが小さな木くらいある時点で草むらが評価に比せないことは明確だった。
それに、こんな手の込んだもの森の中じゃ技術的にも素材的にも環境的にも作れないだろう。
「ふんっふふんっふん」
「蘇我さん上機嫌だね」
「そうかしら! うどんのおかげかしらね!」
「美味しかったもんねすっごく。僕内心驚き過ぎてなんか涙が出ちゃってた」
「わたしもあの美味しさには感動したわ! 下手な高級料理よりも美味しかったのは驚いた! 絶対世界的に有名なシェフになるわ!」
「あ、僕もその未来に一票」
陽気が気持ちいいレンガ道。
いろんな組み合わせでみんなと言葉を交わしていく。
そしてちょっと1人で休憩したいなと思った時はそっと横にそれて、ぼーっとゆっくり歩みを進める。
そんな中で見た道となっているレンガの様相。
単一じゃない、少しずつ色味の違う綺麗なレンガの並びもまたとても考えられて作られているんだと理解する。
脇道一つとっても美術的に綺麗だなと思える置き方だ。
それに対して俺たちが森で作った道なんて雑そのものだ。
じっちゃんが木を担いで雑にバッサバッサと打ち倒していって、倒れた木の上側を所定の位置へ投げ飛ばす。必要なら俺が切り株を根っこまで引っこ抜く。
これがまた難儀なもので、根っこ取りが1番面倒くさい仕事なんだけど、結局そこまでやらなきゃ道とは言えないから頑張った。
そうしてできた道はどこか獣道風で、雑だった。本当に人の手が加えられた道なのか怪しい雰囲気が漂うほど。
けれどそんな出来に不満はなかった。
それもこれも利便性のみを追求したに過ぎなかったし、工夫や配列一つで道がこんなに美しく見えるものだってことを知らなかったから。
やはり、外の知識や技術というのは素晴らしいの一言に尽きる。
じっちゃんもこう言うの知ってたなら作ってくれてもよかったのに、なんて……今だからこそ出てくる愚痴を喉元くらいに留めておきながら、澄み渡る空気をスーッと肺に行き渡らせてみる。
草花の青臭くも香り高い、気持ちのいい匂いが食後の苦しさを紛らわせてくれる。
灰田さんは……匂いのお陰というより少し散歩しているおかげで楽になってきたそうだ。
人のしんどそうな顔は見るのに堪える。
落ち着いてきて一安心だ。
「………」
見上げる先。
真っ青な一面世界。
そこに漂うまだらな薄い白い雲。
森から見る景色とはまた違う解放感と自然の風味。
これもこれで悪くないと俺は思う。
そうして蘇我さんの話題に触れないまま30分くらい散歩して、ゆったりと雰囲気をまといながらやってきたのは屋根付きの休憩所。
木でできた長椅子が数席。
どれも今は空席。
テーブルはないがゴミ箱があり、近くには自動販売機が3つ立っていた。
「ほら! 食後にはなんだかんだこれよ!!」
カツカツと茶色のローファーを鳴らしながら歩いてくる蘇我さん。その声色はもう既に聞き覚えのあるハキハキとした声に戻っている。
そんな声に「これだよこれぇ」と言う感覚を脳みそが出している。
人が持つ認知力とその整合性を取ろうとする能力はとてもおもしろい。
それ故に印象の重要性の格がさらに上がった。
そして、それは赤髪の女のようにはなるまいという決意を、改めて強固なものへと昇華させていった。
ブレザーの両脇のポケットから取り出されたジュース。それを見て米田くんは少し驚いた。
「ぁーCCレモンかぁ、小さいやつ初めてだ」
そんな彼の様子にイタズラな笑みを浮かべる古賀くん。
「お、米田ぁ。ちっさいからって侮るなよ〜、それ半分くらい飲んだとこでしゃっくりが出てくんで」
「へぇ………」
そうなんだ、とあっけらかんと身構える事なく栓を開けグビグビと中身を喉に落とし込んでいく米田くん。
ーー途端。
カッ! と言う効果音を鳴らす勢いで目を見開き米田くんは咳き込んだ。古賀くんはそんな米田くんに「ぁーあー」といいながらも優しく背中をさすっていた。
「ひっく」
「ほーらでた。即落ち2コマやで」
「小さくてもひっく、侮るとひっく、痛い目にあうねっ…でもっ、すっきりするっ」
どこか漫才みたいな光景。
そして各々の口に注がれていくCCレモン。
レモンの強くて香りと味わい深くもスッキリとした風味。甘すぎない味付けは炭酸の爽快感を更に高め上げ、不快感なく喉と口の中を綺麗に潤してくれる。
ただ、灰田さんだけは少し開ける余裕はなさそうだった。
「ねぇ、心臓病ってほんとなの」
灰田さんの目は強く、蘇我さんに向けられる。
向けられた先にいる蘇我さんは、しゃがみながら小さな花たちを愛でていた。




