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(旧:幻惑のアレース)10年間森の中でじっちゃんに稽古をつけられたあと、友達を作ってこいと能力者の学園に入学させられた  作者: MRプロジェクト
<< 1章 1節 >>【芽吹く入学1日目】

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#14【学園トップアルバイター】

「ごめん皆んなお待たせー!」

「おっきたきた」


古賀くんはようやっと現れた俺を見て、ピンク色の整理券5枚をはためかせて嬉しそうにしていた。

吊り目気味の目なのがよくわかるくらいにハッキリと。


向かった先は学園食堂1号館。


教室棟用学園食堂はやはり昼頃に人が集まりやすいのだが、学園の規模が非常に大きいため食堂が一つだけでは混雑を防げない。


そこで、料理を作る時間や席の量、料理の種類の豊富さを加味して5号館まで用意しているらしい。


和食・イタリアン・フレンチなら1、2号館。

中華・タイ・インドなら3、4号館。

スイーツやコーヒー、ジュースなら5号館。


一応料理の移送システム? が確立されているため何処からでも注文できるようになっているが、その食堂に来たと言うリスペクトに欠けることや、無駄な手間をかけると言う点から昼時は全く使われていないらしい。


「それにしてもすっごい広いね、首が折れちゃいそう」


食堂に入ればよくわかる、吹き抜けた天井の異様な高さ。階層は3階まであり、階段は一つの階層につき3つもついている。


避難路へ続く道も完備。


色調は緑を基本とした植物や濃いめの茶色い木材などで整えられており開放的。


いわゆるオシャレというものなのだけれど、凝ったオシャレさと言うより気取っていないシンプルなオシャレさだ。


食堂は屋内だけでなく屋外もある。

全体の7割が屋内なら3割が屋外らしく、実際中に入って目を奪われたのはそのガラス張りの壁。


開放的な空間を演出するキーマンとしてそこに鎮座している。


ガラスは程よい遮光と断熱ガラスになっていて、例年夏場であっで窓際の席は埋まっているらしい。


そんな一面張りのガラス壁についている、相対的に見れば小さな自動ドアをくぐり進めばテラスへと足を踏み出せる。


特に1号、2号館は日差しが当たりやすいらしく、パラソルを完備。席や机が熱くならないように工夫されているが、結局は外気の辛さに耐えきれないのだとか。


料理の注文は基本一階から。


学園が開発した食堂アプリを通じて予約注文もできるとの事。また、食堂の2階や3階にいても追加注文できるように各階にも移送システムを設けており、注文をすれば注文番号が振り分けられ、それを提示することで窓口で料理を受け取れるらしい。


まぁこれも昼時は使用されないとのこと。


そんな、大きくて、オシャレで、最先端な食堂で俺たちは今ある料理を楽しみに待っている。


古賀くんは俺に腕を回すと整理券をパタパタと振った。


「いやぁまじでハッシー神だよなぁー!」

「ハッシー……?」


聞き馴染みのない言葉に首を傾げると、灰田さんが注釈を入れてくれた。


「古賀が勝手につけたあだ名。橋田先生のことよ、うちの担任の」

「あぁーなるほど。……まぁなんていうか授業じゃなくておりえんてーしょん? ってやつだけど、やっぱり短い方が嬉しいもんね」


そう答える俺に、古賀くんは分かってないなぁといった風に目をいやらしく細めていう。


「それもあるけどよぉ、言ったやろー、こーれ」

「えっと…そ、そね……なんだっけ」

「曽根田山の神うどんな!」

「そうそれ」


古賀くん、教室の時よりもテンションが高い。

表情以上に喜んでる。


「そのうどんがなんで良かったんだっけ」

「おいおいしっかりしてくれよぉ、って言いたいんやけど……しゃあねぇなぁ。もっかい言うぞー」


そして、そんな彼が語る口調は饒舌(じょうぜつ)そのもので。


「まぁ今日入学式やん? それで各館のトップアルバイターが新入生歓迎祝いって事で特別に総出で調理場に立ってんねん!」

「えっと、トップアルバイター…って、なんだっけ」

「トップアルバイターってのは、学園が募集してるアルバイトに就いていて、尚且つ、各館の非公式ランキングで上位10位以内に入るアルバイト学生の事をさしてんねん!」

「ぁー……うん。あ、ありがと。頑張って頭に流し込む」

「おう! そうめんみたいにズズーってな!!」


あぁほんと舞い上がってんな古賀くん。


と思いみんなに目を向けると、みんなもどこか浮かれ顔をしていた。


「それでなー! 曽根田山はトップアルバイターの中でもトップ中のトップ! 要はい"っちばん人気のあるアルバイターなわけよ! 人気が高いってことは完売が早いわけで、食べられへん人がやっま程でてくんねん。そ〜れ〜な〜の〜にぃ〜? ほれぇこれぇ、曽根田山の神のうどんの整理券がここに5枚ありまぁーすっ! がっはっはっは!! 最高でんなー昇也くんんん!!」

「あ、ああ、うん。それよりも古賀くん痛い、叩く力強い、背中腫れるって」


そんな俺の声を聞いて古賀くんはまじすまんと両手を合わせて頭を下げてくれた。


金髪と黒毛のメッシュ。

じっちゃんみたく禿げている訳じゃないが、太陽光が少し反射して眩しい。


(それにしても、みんな含めてそんな沢山の人を虜にする料理ってなんなんだ…? 俺、そんな料理食べて大丈夫? 調味料のかかってない肉とか木のみしか食べてこなかったんだけど、美味し過ぎて死んだりしない?)


そんな心配をしてはいるが、食べないなんて気はサラサラ起きていない。


今お昼時ですっごくお腹空いてるし、こういう限定かつ希少性の高いモノにありつけた運をかなぐりすてる勇気が俺にはない。


ごくりと下る喉の動きがあった灰田さん。

食欲がとても期待しているのだろう。とんでもない幸福を与えてくれることを。


(俺も早く食べたいなぁ、ギャル曽根うどん)


ーーー


そんな多少嬉しがっている程度の華園に対して、この異常事態を理解している4人は胸中では祭の音頭がとられていた。



古賀は言わずもがな、有頂天で華園から離れると次は米田に絡みに行った。その様相はまるで酔っ払いそのもの。



蘇我は見た目こそ大人しい。

別に嬉しさを顔に前面に出すわけでも、お得意の大声で狂喜乱舞するわけでもない。


でも、彼女はちゃんと心待ちにしている。


そう。


靴の中の指の様子がその証明だ。

彼女は今足の指でインソールをリズム良く叩いている。


いや、それだけじゃない。


ブレザーのポケットに入れている指もまた跳ねさせている。



米田は古賀の面倒な絡みに呑み込まれながらも「楽しみだね」と気持ちを前にして話していた。



そんなあからさまな喜びを携える彼らと一線を画すのは、灰田抄子だった。


滅多に食べられない。

食べられた人間はそれだけで人生に価値が生まれる。


と、まで言われているこれを食す経験が出来ることに灰田は。


(やったやったやったやったぁ!! え、夢? 夢じゃない! ねぇ夢じゃないって誰か言ってー! あぁでも現実じゃないといやー!! あーもうありがとうハッシー! いや、橋田先生! 橋田章陽先生! 大好き!! すきー! 愛してる! それに古賀もありがとう大好き! というか蘇我ファミリーみんな大好き! 蘇我ファミリー最高!! みんなすきぃー!!!)


狂気そのものを内部で成立させていた。


更にその胸中の奥底では夥しい量の食事への期待が綴られていた。


本屋さんに立ち並んでいてもおかしくないその文章量と熱量は、綴られても綴られても落ち着きを見せない。いつしか本屋が図書館へと転身してしまうほどだ。


また、そうした期待を綴るのと同時に、今までかき集めた曽根田山の神のうどんについてのレビューや、自身が食べてきた麺類、出汁モノの情報を全て掘り上げて情報を統合、抽出。


そうして想像しうる味や食感、風味を仮想的に再現していた。これを元に実際の料理を食し、正答率や近似性などを算出する予定なのだ。


そして、それが彼女がよくする事。

自身の経験値や舌が正しいと言うことを自分の中で成立させるためにしている行為。


灰田抄子と言う女は、言うなれば。



狂気的なまでに拗らせた、料理好き女なのだ。

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