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(旧:幻惑のアレース)10年間森の中でじっちゃんに稽古をつけられたあと、友達を作ってこいと能力者の学園に入学させられた  作者: MRプロジェクト
<< 1章 1節 >>【芽吹く入学1日目】

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#13【横と縦の繋がり】

「あ、西条さん」

「…ん? あ! 華園くん!!!」


橋田先生のオリエンテーションは他のどのクラスよりも早く終わった。と言うのもクラス内で早く終わらないか、と言う声が大きかったからだ。


そんな声に橋田先生一考したあと『下校は静かに。騒いだら戻ってきてもらいます』と注意を促していた。


だからだろう。

本当に帰りは静かだった。


まるでそこに誰もいないかのような静けさで、人によっては足音を感じさせない足捌きだった。


青峯さんの事だが。


ウィーコネクトには「某は くの一 ゆえ」と一文添えられていた。忍者ごっこだそう。


そんな姿が恥ずかしいからと、今日組み分けられた班で仲良くなった女の子に止められてしゅんとしていたのはここだけの話。


そうしてみんなが帰路に立つ中、俺は別のクラスから聞こえてくるガヤガヤとした音に挟まれながら廊下で待っていた。


ちょっと西条さんに用があったのだ。


声をかけらばトコトコと駆け寄ってくる西条さん。

所作といい翡翠色の猫のような目がかわいらしい。


俺は帰宅する他の人の邪魔にならないようにと窓際によると、西条さんもそれに合わせて身を寄せてくれた。


そして早速と西条さんは俺の耳の異変に気がついた。


「華園くん、ホログラマー持ってたんですね」

「あーいえ。これは学園に貸し出してもらいました。やっぱりないと周りに置いて行かれてしまうからって話で」

「まぁ確かに連絡とか資料配布とかはもう殆ど紙でやってないですからね」

「そうらしいんですよ。……それで、まぁその、ホログラマーも持った事だし、西条さんと連絡先交換したいなぁって思いまして。はい」


様子を伺いながらぎこちなく語る。

そんな俺の言葉に西条さんは嬉しそうな表情を弾けさせた。


「うん! いいよいいよ! 是非是非!!」


とてもウキウキとした西条さん。


さっそくと交換すると、ハートの絵文字付きで『西条翼ですっよろしくねっ♡』と可愛らしいメッセージが届く。


女の子っぽい文章と言うのはこう言うのなのだろう。


『こちらこそよろしくです! 華園昇也です!』


なんとか文字を打ち切り、ふぅっと息を吐くと「なんか可愛いですね」とおもしろそうに笑う西条さんと目があった。


「か、かわいくないです」

「いや可愛かったですよー。すっごい頑張って文字を打つ姿」


ミディアムのブラウンヘアが風に当てられフワリと揺れる。表情や雰囲気もそうなんだけれど、目を見てると落ち着いてくる。


安心すると言うより怖がらなくていいみたいな、そんな感じ。


「あっ。そうだあのね華園くんっ」

「正直西条さんともうちょっと話したいんだけどぉ、うん、なに?」


お互い話そうとして言葉が重なり合う。

俺は西条さんの話を優先しようと問うてみたが。


「…もしかして急いでる…感じ?」

「ぁー……うん。…ちょっと、蘇我ファミリーでご飯会があって」

「え、そ、え、蘇我ふぁみ。…え?」


酷く困惑した様子ですごく目を瞬かせている。


「あぁごめんっうちのチーム名…みたい、なんだ。保健室から帰ってきたらなんか決まってて…」

「え、保健室!? 何かあったんですか!」

「あーいや、俺実は物覚え苦手でして…頭使いすぎて倒れちゃったんです、はは」


そんな俺の恥ずかしい部分を曝け出してみたが、西条さんは笑わなかった。


むしろ。


「華園くん苦手な上に倒れるくらい限界まで頑張ったんだ……ナイスガッツです華園くん。すごく偉いです。頑張るのって難しいしほんとに辛いですけど筋肉と一緒で頑張った分だけ強くなるんです。それをやり遂げた華園くんなら覚えることも、明日からはもっと苦手じゃなくなってますよっ」


すっごく、丁寧に褒めてくれた。


俺はとても単純な人間なのかもしれない。

人の上辺なんて理解できないくらい単純。それもこれも外界と切り離して暮らしてきたから、人の機微の正誤や表裏を理解できるはずがない。


でも、それでもなんとなくなんだけれど、これは本心からな気がした。


「一段と頑張んなきゃだなぁ」


キラキラとした綺麗な目を合わせてしっかりと伝えてくれたこと。西条さんの優しさや空気感がそう感じさせた。


それに、それでいいと俺は思う。


言葉の裏なんて本人じゃない限り分かるはずがない。それを探ったところで疑心暗鬼になるだけ。

そんな蛇が自分を丸呑みするような間抜けなことをするくらいなら真正面から言葉を受け止めるべきだと俺は思う。


だから俺は今、そう。



とっても嬉しいです。



出来るならここで踊ります。

それくらい嬉しいですありがとう西条さん。


「じゃあちょっと急いでるからもう行きます。また話しましょ」

「うんっ。またっ」


俺は話しを終えてすぐ、会いに行かなくてはいけないもう1人の元へと足を向かわせた。


ーーー


「うんっ。またっ……って…速いなぁ」


西条翼はそんな華園昇也を見届けて、思っていた。


(華園くん……腕の筋肉すごかったなぁ)


と。


そして、そんな感想は考え込むほどにムキムキと思考に生え始め、気づけばいっぱいになり、弾け出す。


(華園くんの場合ムキムキってよりカチカチって感じだった。あれって純粋に筋力の繊維が強いパターンのやつ。わたしが大好きなムキムキ感とは全然違うけど、ああいうアスリートみたいなギューってした筋肉も大好き。もっとちゃんとみたかったなぁ)


見つめる廊下、その奥には疎らな1年生徒の残影のみ。

そこに華園昇也は存在しない。

だから彼女はもどかしそうにして悶えていた。


(腕が凄いってことは脚もすごいんだろうなぁって思ってたけど脚早いって事はほんとにすごい脚なんだと思うの。15歳であんなに凄い筋肉……相当努力してきたんだろうなって思ってみたり。覚えるのが苦手って言ってたけど、あんな頑張り屋さんなら心配なさそう)


そんな見解を見出す西条翼であったが、ふと、15歳と言う数字が脳内で顔を大きくしてきていた。

それは肥大化し、脳内を埋め尽くし、西条翼の心に触れ始める。


(うわぁあ……普段みてる筋肉体とかけ離れ過ぎてて凄くいけないものを見てしまっている気持ちになっちゃうぅ…)


悪いことをしていると自覚した瞬間から周りの目が気になりだす強迫観念。


キョロキョロと見渡す人々の関心は彼女にはない。


(……まぁでも、同じ歳だもん合法合法。合法って事は悪いことじゃない。むしろ普通、普通だよ15歳の人間が15歳の体を見るのいや全裸はみてないけど…!! ……あぁでもほんとこんな近くにいい筋肉持ってる人がいるなんて…筋肉フェチにはたまらないなぁ。今度裸と言わず脚とか腹筋とかだけでも見せてもらえないか頼もうかなぁ)


なんてとこまで考えてすぐに頭を横に振るった。


{いや、いやいやいやいや。流石に私気持ち悪いな。うん、ちょっと、うん。こう言う時は自分が言われたらって考えるの。どう私? 君の筋肉を見たいから服を脱いでって聞くの………うん。出来ないし嫌)


幸いこの西条翼という女にはアクセルとブレーキ、両方が完備されていた。ただし、アクセルのみ0か100かしかない事が難点である。


(なのでわたしは「腹筋を見せてください」とお願いすることを「しない」を選択します。はい私、欲望に飲まれない飲まれない。偉いぞ私。頑張った分だけ強くなる。明日からの私は欲望に強くなってるぞぉーっ)


西条翼は、そう。

とても筋肉フェチだった。


ーーー


「いやぁすまなかった。ここ数年ホログラマーの貸し出しなんてなくって鍵の保管場所を変えてたみたいなんだ。ほんっとうにすまなかった、オリエンテーションとか少し置いてけぼりだったろ」


急いでやってきたのは、今朝方お世話になった場所。ドア前の立札を見ると生徒指導室と書いており、目的地に間違いはない。


そして会いたかった人はここにいた。

相川先生だ。


「まぁそうですね置いてけぼりにはなりがちでした。けど皆んないい人で色々助けてくれて、なんとかって感じに」

「おぉそうか! いいクラスに恵まれたか。それはよかったよかった。いやぁな、例年、もちろんいいクラスの割合が多いんだけど、やっぱり1クラスくらいはやんちゃだったり、馬が合わなかったりでみんな仲が悪いクラスも出てくるんだ。だから先生心配してるんだけど、1-10は問題なさそうだな」


実際各人に目を向ければいい人ばかりだった。

少し怖そうな人はいたけど、じゃああの人がクラスを掻き乱すのかと言えばそこまで性格に難があるとは思えない。


まぁでもまだ初日。

長い道のりを前に一つだけ街灯の光が落ちたくらい。

もしかしたらこれから問題が顕になるかもしれない。


杞憂の一言で終わらせず、クラスの動向には目を光らせておこう。


気を失わない程度に。


「…あ、そうだ。あとこれ、今朝方ご迷惑をおかけしたこととホログラマーのお礼に」


そう話しながらポケットから取り出すのは2本の缶コーヒー。


この2本と言うのはなにも朝の一件とホログラマーのことでお世話になったから、と言うわけではない。


「甘いものと苦いもの、どっちが好きかわからなかったので…」

「おぉ〜気がきくねぇ、ありがとうどっちも貰うよ。俺はねどっちもいけっから」

「それならよかったです」


多少なりと喜んでくれたようだ。

よかった。


「ではちょっと急いでるので…」

「わかった。コーヒー、ありがとね」


そうコーヒー二つを軽く取り上げて相川先生は言った。


さぁそのまま円満に退出し、蘇我ファミリーの元へ向かおう……と思っていたのだが。


突然、空気がズドンと重くなった。


少し、呼吸が止まる。

先生の目を見ると余計身体が重くなる感覚に襲われた。まだ先生は何も言っていない。

まだ、なにも言われていない。


なのに、足がもう動かない。

とてつもなく重い。


「あ、あの、な、なにか俺に用が…あったり……」

「あぁ。一言だけな」

「な、なんでしょう」

「廊下は、あんま走るなよ」


とても高圧的な言い回しでも、威嚇するような言い方でもない。むしろ優しげで怖くない言い方。


なのに、なにこれ怖い。


心臓の底が震え怯えている。


「き、気をつけます」

「うむ、よろしい」


緊張感が走り、冷や汗すら落ちない状況はそんなあっさりとした一言で鳴りを潜めた。


「ふぅ……」


認証式の自動ドアを通り過ぎ、ドアが閉まったこと確認して息を吐く。


生徒指導室までの道のりは走ってはいたけど、この階に降りた頃には早歩きにしていた。


恐らくなんらかの能力によるものなのだろうけど、一体どこから気づかれていたんだろうか。


「んー…」


まぁそれを考えても仕方ない。

とにかく急ごう、早歩きで。

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