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(9)30階ボス部屋(後編)

~~ 比叡山ダンジョン 30階ボス部屋 ~~


 ボスの武器スキルの一撃を受けて吹き飛ばされたミスティにポーションを渡して回復してもらっている間、俺がボスの相手をして時間稼ぎをすることにした。

 ただ、当然ボスがそんな俺達をのんびり見学している訳もない。


「ウオォ!」

キンッ


 立ち上がったところで放たれた槍の一撃を短剣で弾く。

 そこに出来た隙に一歩踏み込んだ俺はボスに向けて前蹴りを放った。


「近いから離れろ」

「グッ」


 盾で防がれたものの、ボスの巨体が10メートル後ろに吹き飛ぶ。

 よし、これで間違ってもミスティに流れ弾が行くことは無いだろう。


<おいなんだ今の蹴り>

<ボスの巨体が吹き飛んだんだけど>

<エンカって何者なんだ!?>


 急ぐ必要も無し。

 俺は普通に歩いてボスに近づいていく。


「オオオオッ」


 咆哮と共に連続で槍が突き出される。

 俺はそれを軽く受け流しながらミスティに話しかけた。


「時間稼ぎのついでに軽くレクチャーしようか。

 相手が盾持ちの武器使いの場合、盾を持っている側に回り込むようにして避けて行くと追撃を受けにくくなる」

「は、はい」

「その際、盾を軽く攻撃してやれば警戒して盾をどかすことも出来なくなる。

 ただし近づきすぎるとシールドバッシュが来るから警戒は忘れないように。

 ほら、これな」


 回り込む俺をウザったらしく感じたボスが盾を押し出すようにして俺に殴りかかって来た。


「相手の足運びを見てれば来るのは分かる。

 30階のボス程度だと無いけど、もっと深い階のボスだとこちらの攻撃に合わせるようにシールドカウンターを放ってくる。

 対策としてはフェイントで誘って、盾を突きだしてきたところで後ろに回り込んだり、逆にその盾を掴んで引っ張り倒してやるのが効果的だ」

「グアアッ」


 連続してシールドバッシュしてきたものだから、お手本とばかりに盾の上の部分を掴んで引っ張ってやる。

 するとリアクション芸人顔負けの盛大なぶっ飛びの後にゴロゴロと転がっていった。


「ヌガアアアッ」

<いやだからオーガジェネラルの巨体がですね>

<引き倒すどころかぶっ飛んでったぞおい>


 ふむ。意外と弱いな。

 もしかしてあれか。


「お前、大楯の扱いに慣れてないだろ」

「え、どういうこと?」


 俺の問いかけにボスの代わりにミスティが首を傾げる。


「同じモンスター、同じボスでも扱う武器は毎回同じじゃないんだ。

 それで武器に対する熟練度もそれぞれだ。

 特に攻撃一辺倒のモンスターは盾の扱いが下手な場合がある。

 今回みたいにな」

「私には十分脅威だったんだけど」

「それはミスティが人型のモンスターとの戦いになれてないだけだろうな。

 それより回復したなら交代するか。

 今度はバフ掛けるから頑張れ」

「はいっ!」


 ミスティの肩をポンと叩きながら俺は下がった。

 その間にボスも起き上がって俺を睨みつけている。

 いやお前の相手は俺じゃないからな。 


「あなたの相手は私よ。はあっ!」

「グウ」

<うぉ、ミスティも早えぇ!!>

<最初の時と全然違うんだけどどういう事!?>


 ミスティの踏み込みに慌てて槍を突きだすも余裕で流されている。

 そしてちゃんとさっきの教えを受けてミスティが盾側に回り込めば、ボスはもう防戦一方だ。


「ガッ」

「甘いわ。【ゲイルスラスト】!」


 性懲りもなくボスがシールドバッシュをしてきたところをミスティはサイドステップで後ろに回り込み、風を纏った突きがボスの左肩に刺さった。


<よっしゃ、入った!>

<防具貫通してるし>

<咄嗟に首を庇ったボスもなかなかやるな>


 ミスティは一度距離を取って構え直した。

 今のミスティだとあのまま止めを刺しに行けばボスの最後のあがきで反撃を受けた可能性があったから悪い判断じゃない。

 そしてボスは、俺達の前で盾を捨てて槍を両手で持った。


「左腕が使えなくなったから邪魔な盾を捨てたって事?」

「いや、どちらかというと奴本来のスタイルに戻したんだろう。

 まあ手遅れだけどな」

「手遅れ?」

「やれば分かるさ」


 三度、ミスティがボスに向けて近づく。

 それに合わせてボスもさっき以上の速度で槍を繰り出すが。


(あれ、遅い?)

「【エアステップ】」


 残像が見えそうな速度で全てを躱していく。


「オオオッ」


 焦ったボスが後ろに跳んで武技を使用してきた。

 しかしそれもミスティに当たることは無い。


「その技はさっき見たわ!」


 槍の軌道に合わせるようにミスティが前に出る。


「たああっ」


 気合一閃。

 一瞬遅れてボスの巨体が地面に倒れ、光になって消えた。


「ふぅぅ~~」

<よっしゃあぁぁ!>

<完・全・勝・利>

<鮮やかな一撃でした!!>


 深く息を吐くミスティと、最高潮に盛り上がるコメント欄。

 それが落ち着くのを待って俺はミスティに声を掛けた。


「おつかれさま」

「はい」

「無事に30階ボス攻略だな」

「じとーーー」


 ねぎらいの言葉を掛けたらなぜかジト目が返って来た。


「えっと、どうかしたか?」

「どうかしたか、じゃないでしょ。

 何なの後半のあれは!」

<ミスティご立腹>

<怒るミスティもかわええ>

<でも何で怒ってるの?>

<いやあれは怒るのも仕方ないっしょ>


 思い当たることと言えば後半にミスティに掛けておいたバフか。

 いやでも元々の作戦で1撃でも攻撃を食らった後はバフを掛けるって伝えてあったんだから怒られるのは違う気がする。

 それとも弱すぎたか?


「バフが役に立たなかったか?」

「逆よ。逆!

 あなたのバフの影響でスピードもパワーも反応速度も何もかも何倍にもアップしてたの。

 あんなの私の実力じゃないじゃない!」

「あぁ、そっちか」

「これじゃあ私がボス攻略したのか、あなたの力で攻略させてもらっただけなのか分からないわ」


 言われてみれば確かに。

 でも仮に俺が居なかったとしても、ミスティなら武技を受けた後も立ち直れただろうし、かなり苦戦するとは思うけど勝てた可能性は高い。

 だけど納得いかないというなら仕方ないな。


「よし、じゃあ再戦と行こうか」

「へ?」


 ボス部屋は入口は一方通行だったり、中の戦闘が終わるまで開かなかったりするパターンがあるが、ここは常時オープンで途中で撤退も可能だ。

 そしてボス部屋から全員が出たところでボスは復活再生する。

 場所によっては延々とボス討伐を繰り返す探索者も居る。

 経験値も稼げるしドロップアイテムも良いものが出やすいし配信という意味でも美味しい。

 今から俺がやろうと言っているのもそれだ。

 ボス部屋を出る。そして入る。それだけで新たなボスが待ち構えていた。


「ブモオオッ」

「今度はオークジェネラルか」

「ここの30階ボスは人型がランダムで出てくるのよ」

「そうだったのか」


 普段は京都ダンジョンを中心に活動してるからなぁ。

 特別こっちのダンジョンに欲しいドロップアイテムがある訳でもない。

 まあそれはいいか。


「それじゃあ行ってみようか。

 ちょうど種族が違うだけで装備が似てるボスだ」


 プレートアーマーに大楯。武器は剣。

 まぁ攻略法も大体同じだ。


「それなんだけど」

「ん?」

「エンカさんが普段どう攻略するか見せて欲しいわ」

「え、俺がやるのか。仕方ないな」

<おっ、おじさんが本気出すの?>

<さっきも凄い動きしてたしな。ちょい期待>


 本気か。本気。うーん、だけどなぁ。


「面白みは無いぞ?」

「多分大丈夫よ」

「そうか」


 ならばいつもやってるようにやるか。

 短剣を右手にボスに向かって歩いていく。


「ブヒィィ」

「ふっ」

キンッ


 俺に向かって振り下ろされた剣に合わせて短剣を振り抜く。


「はい?」

<ボスの剣が切り飛ばされたんだけど>

<え、なに。不良品の剣だったとか?>


 続いてサイドステップでボスの盾側に回り込み、もう1回短剣を振る。狙いはボスの持っている大楯だ。

 この流れはさっきのボスと同じ攻略手順だ。だが。


<ぎゃーーーっす>

<って、だからさ>

<なんで大楯があんな短剣で真っ二つになるんだよ>

<防具の意味!>

<チートかこの野郎>


 だから面白くないって言ったのに。

 俺は救助活動で深層に行くこともあるし、30階のボスの装備くらい切れるのは当然と言うべきだ。

 結局ボスは何もできずに光になって消えて行った。

 呆れ顔で入口に立っているミスティに振り返って一言。


「まぁこんな感じだ」

「あ、はは。はい。

 えっと、こういう時はあれかな。

『良い子のみんなはマネしないでね♪』」

<<できるかーーー>>



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