(8)30階ボス部屋(前編)
その日もダンジョン探索を終えた俺は自宅でメールのチェックを行っていた。
【同行依頼:〇月×日19:00~ 鈴木 綾香】
先日も護衛を請け負った、現在契約中の鈴木さんがまた近日ダンジョンへ探索に向かうらしい。
先週転移系トラップに引っ掛かってピンチに陥った後も、めげずに1日おきに探索&配信を行っていた彼女だけど、遂に今回30階のボスに挑戦するらしい。
それは良いんだけど、同行か。
通常、契約相手を警護する場合、その人の探索や配信の邪魔にならない様に探索階の一つ手前の階で待機することになっている。
だけど同行の場合は、文字通り一緒にダンジョンを探索して欲しいという事だ。
言い換えると臨時パーティーとでも言えば良いのか。
ただ一緒に行動するのでピンチになってもゼロ秒で駆け付けられるから楽、という話ではない。
むしろ俺としては考える事が増えるので嫌なんだが仕事だから仕方がない。
~~ 比叡山ダンジョン 21階 ~~
ダンジョンの外で合流した俺達は1階の転移ゲートを使って21階に降りて来た。
そこで鈴木さん、ミスティが配信を開始する。
「皆さんこんにちは。ミスティの配信部屋へようこそ」
<よっ、待ってました>
<今日も可愛い~~>
既に15万人が待機しており、配信を開始すれば順調にその数が増えて行く。
「今日の行き先は、30階のボス部屋よ!」
<遂にボス部屋か~>
<これでミスティも中堅探索者の仲間入りだね!>
<前回の配信でも安定して30階の探索出来てたし大丈夫だよな>
<ただボスはザコモンスターとは一線を画す強さだから気を付けて欲しい>
ダンジョンは10階ごとにボスが居るのに加えて、20階ごとに大きくモンスターが強くなる傾向にある。
その為、20階までを上層、21階から40階までを中層、41階から60階までを下層、それ以降を深層と呼んだりする。
で、30階のボスを攻略出来たってことは中層の探索者として十分な実力を持っていることの証明となる。
「知っている人も多いと思うけど、つい先日もトラップに引っ掛かって危ない所を救助してもらったばかりだからね。
無理は禁物、ということで今回は助っ人を呼んでるわ」
その言葉と同時にカメラが回って俺の方を向いた。
「エンカだ。よろしく」
<渋ッ>
<おじさまキャラ北~>
<えっ?えっ?ミスティとはどういう関係!?>
目立たない様に短い挨拶だけに留めたのだけど、それでも大量のコメントが付く。
視聴者への対応はミスティに任せているので俺からの発言は控える。
「エンカさんは例の転移トラップ事件の時に救助に来てくれた探索者よ。
その時の縁で今回も無理言って協力してもらえることになったの」
<ミスティとコラボとか裏山すぎる>
<エンカさんは配信しないの?>
<30階まで行けるとか実は有名配信者?>
「エンカさんは私なんか目じゃないくらい強いわ。
どれくらい強いかは今からの配信で期待してて」
<wktk>
「じゃあ紹介はこれくらいで、まずは30階まで駆け抜けるから付いて来て」
<らじゃっ>
ドローンカメラを追尾モードに設定しダンジョン内を駆け抜ける。
階段までのルートはマッピング済みなので迷う事も無い。
「ウィンドカッター」
「ぎゃっ」
「せいっ、たあっ」
スパスパッ
モンスターも出会い頭の一撃でミスティが悉く討伐していく。
俺はただその後ろを追いかけて行くだけで十分だ。
<今日はいつも以上にミスティの技が冴えわたってる気がする>
<上級探索者と比べても遜色ないよな>
<ってかエンカ仕事しろ>
<俺と代われ>
若干コメントに俺への批判が書かれてるけど気にしない。
下手に反応して炎上してもミスティに迷惑かけるだけだしな。
そうして危なげなく30階のボス部屋前に到着した。
「さて、今からボス部屋に突入するけど、その前に1つ伝え忘れてた事があったわ」
<え、なになに>
<まさかの告白?>
<俺ボスに勝ったら結婚するんだ的な?>
<やめれ縁起でもない>
「今回のボス討伐では、極力私ひとりで戦う予定よ。
あくまでエンカさんはもしもの時のサポーター。
だからエンカさんが仕事してなくても怒らないで上げて」
<まぁそう言う事なら>
<でも居るなら働けと思うのは俺だけ?>
事前の打ち合わせでも、ボス戦では極力俺は手を出さない方針で決まった。
だけど視聴者の中には今の説明だけだと納得しない人も居るみたいだ。
仕方ないな。
「あー、みんなはミスティが華麗に活躍する姿を見たいのであっておっさんの後ろ姿とか邪魔だろ?」
<確かに!>
<むしろ居なくて良いレベル>
<というかエンカちゃんと喋れるんかいっ>
「なのでボス戦ではミスティが1撃喰らうまでは傍観者に徹するからそのつもりで頼む」
<らじゃ>
<出番がない事を祈る>
俺が有名配信者ならミスティとコラボで活躍する姿を期待するかもだけどそうじゃないからな。
あくまで俺は保険だ。
あとオマケで道中のバフとドロップアイテム回収。
前に出て戦う予定は無い。
「ではみんな。準備はいい? ボス部屋突撃するよ」
<<おおっ!!>>
勢いよく扉を開けてボス部屋へと突入する。
そんな俺達を迎えるようにボスが雄叫びを上げた。
「オオオォォオォ!!」
「あれは、オーガ?」
「いや、オーガジェネラルだな」
身長2メートル半の巨人が金属鎧を身に着け、左手には大楯、右手には槍を持って俺達に牙を向けた。
先日のトロルジャイアントと比べると体力だけならトロルの方が上だけど、戦闘技術はこっちが上だ。
「パワーは向こうの方が上だろう。
正面から戦うのは避けた方が良い」
「わかったわ!」
俺の言葉に頷きながらミスティは臆さずボスの懐に飛び込んでいく。
「ドリャアア」
「なんのっ」
ボスが繰り出す突きを華麗なサイドステップで避ける。
通常のモンスターならそのまま倒せただろう。
しかしミスティの剣が届く前に次々とボスの刺突が繰り出され、ミスティは避けるので精一杯だ。
<あの連続突きを避けきってるのは流石だな>
<ああ。しかし武器のリーチが違い過ぎる>
<オークジェネラルは特殊なスキルこそないものの、技量は一級品だからな>
<あと一歩踏み込めないと剣じゃ届かない>
「くっ」
一度距離を取って風魔法で攻める方針に切り替えたか。
しかしボスもそれをただ黙って見ている訳もない。
「ウオオッ」
唸り声と共にボスの持つ槍が光に包み込まれる。
「武技が来るぞ」
「ハアッ」
鋭い踏み込みと共に槍が突き出された。
対するミスティはバックステップで槍の射程外に跳んだ。
しかし。
ザシュッ
「きゃああっ」
届かないと思われた槍が、ミスティの左肩に突き刺さった。
その勢いで吹き飛ばされたミスティの背中を受け止めて壁に激突するのを防ぐ。
「大丈夫か?」
「何とか」
見たところ打撲程度で済んでいそうだ。
「もう少し下がる距離が短かったら骨が砕けてたな」
「そうね。しかしなぜ? あれで避けれたと思ったんだけど」
「知っての通り大抵の武技、まぁ武器スキルは威力と射程が向上するんだ。
特に槍の場合は射程が見た目の倍以上になると考えておいた方が良い。
だから避けるなら後ろではなく横にするべきだったな」
「なるほど」
他にも注意すべき点はあるけど、今は良いだろう。
あとコメント欄がミスティを心配する声で凄い事になってる。
それは無視するとして。
「約束通り1撃受けたから、ここからは参戦しよう。
まずはポーションを飲みながら休憩しててくれ」
「は、はい」
俺はミスティに初級ポーションを渡しながら立ち上がった。