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(38)ユニオン結成(4)

 そんな訳で僕達はボス部屋へと突入した。

 今回のボスは……デビルベアか。

 デビルと付いているけど別に悪魔ではない。

 ちょっと、いやかなり狂暴な熊のモンスターだ。

 強靭な肉体と鋭いかぎ爪で襲い掛かってくる強敵だ。

 僕の氷槍が通用するだろうか。

 と怖気づいてる場合じゃないな。

 エンカさんは事前予告通り手を出す気は無いようで僕の後ろでのんびりと立っている。


「では、行きます!

 まずは様子見の『フローズンスラスト』」

キンッ


 間合いギリギリからの一撃は、力が乗っていない事もあって軽く弾かれた。

 だけど今の手応えなら多分、本気の一撃なら通用する。


「なら『フロストショット』。からの『貫徹』」

「グオオオッ」

「よし、効いてる」


 ボスの顔目掛けて魔法を放って目を逸らし、その隙に装甲の薄そうな股関節に武器スキルの『貫徹』で突き刺した。

 雑魚モンスターならこれだけで立ち上がれなくなる程のダメージなんだけど、そこはボスだ。

 再生能力が高く、早くも傷口が塞がり始めている。

 なら治るより早く攻撃し続けるだけだ。


「もう一度『フロストショット』」

「グラァ」

「なっ!?」


 ボスは巨体に似合わない軽快なサイドステップで僕の魔法を避け、更に一気に飛び掛かって来た。


「ガアッ」

「ぐっ」


 振り下ろされる爪撃を間一髪、槍を盾にして防ぐも、圧倒的パワー差に負けて吹き飛ばされた。

 態勢を立て直す前に迫るボスに、慌てて横に転がって距離を取った。


(強い。そしてなにより速い)


 強靭な肉体、魔法を避ける反応速度、そして岩くらい余裕で粉砕しそうなパワー。

 これが40階ボスの実力か。

 中層から下層に抜ける門番。

 下層はモンスターが多様化してソロでは不得手なモンスターに遭遇したら即ピンチになるのでパーティー推奨。

 つまりここから先は本来ならパーティーで挑む場所。

 事前に予習してきた攻略動画の多くも3人以上のパーティーのものばかりだった。

 そこにソロで挑むのは僕にはまだ早かったか。


「エンカさん」

「却下」

「え?」

「まだ早い」


 助力を求めようとエンカさんに声を掛けたら、即却下された。

 僕まだ何も言ってないのに。

 ちなみに今エンカさんがどうしてるかと言えば、壁に背中を預けてうたた寝状態だ。

 もしかしたら僕が瀕死になって救助要請を出す様な状態になるまで動かないつもりかもしれない。

 ユニオンだフォローだと言うならもうちょっと手を貸してくれてもいいのに。


「くそっ。負けないからな。

 僕はこいつを倒して下層に行くんだ!」


 僕は全身を魔力で強化しながらボスに飛び掛かった。

 そうして。

 何度も刺突をボスに叩き込み、逆にボスからの攻撃を受けお互いに満身創痍だ。

 けどまだだ。まだ僕は戦える。


「オオオォォオォッ」

ズンッ!


 腕に確かな手応え。

 僕の渾身の一撃は見事ボスの頭部を貫いていた。

 最後は声も無く光になって消えていくボスを、僕は地面にへたり込みながら見送った。

 その僕の肩をポンと手を置くのはエンカさんだ。


「討伐達成おめでとう」

「あ、はい。

 というか見てないで助けてくれたらよかったのに」

「ペルタさん一人でも勝てそうだったからな」


 言いながら渡してくれた回復ポーションを飲んで傷を癒す。

 ひとり呑気に傍観していたエンカさんに恨み言の一つくらいは言っても良いんじゃないだろうか。


「エンカさんが力を貸してくれればもっと楽に勝てたと思うんですけど」

「そうだけど、それじゃあ意味が無いだろう。

 俺はペルタさんのパーティーメンバーではないし今後も一緒に行動する訳じゃない。

 だからペルタさんの実力アップの為にも強敵との戦闘は経験する必要があったんだ」

「僕の実力……上がったでしょうか」

「最後の1撃はなかなかのものだったよ」

<うんうん、あの一撃は目を見張るものがあった>

<凄かったよね~>

<今日のペルタくんはいつも以上に格好良かった>


 うっ。配信の方は盛り上がっているし良かった、のか。


「実際、俺が手を貸さずにペルタさんが実力で勝てるのが最上の結果だ。

 民間レスキューと同じで出番が無い方がいいのさ」

「ちなみに、エンカさんが今のボスと戦うとしたらどうやったんですか?」

「まああれだ。間合いまで近づいて剣で切る。それだけだな」


 それじゃあまるでさっきまでの雑魚モンスターと同じに聞こえるんだけど。

 でもエンカさんクラスまで強くなるとそうなのかもしれない。

 まあいいか。

 今日の配信はこのボス討伐まで。

 後は41階の転送ゲートを開放して終わりだ。

 と、その時。僕達の端末に一斉にチャットが送られて来た。


『助けてください!!』

「なっ!?」


 送って来たのは今日17時から探索を開始すると連絡があったリンさんだ。

 今は17時15分だから予定通りだったら探索を開始して15分程。

 そこまで深い階層に進んでるとも思えないが。


「いったいなにがあったん」

『今は何階だ?』

『43階です!!』

「はあっ!?」


 割り込むようにされたエンカさんの質問にまさかの回答が返って来た。

 リンさんは昨日の自己紹介では最高到達階はまだ33階だと言っていた。

 それなのに43階って。

 もちろん行けない訳ではない。

 既に41階の転送ゲートを開通している探索者に同行すれば41階に降りられ、そこから43階まで進むことは不可能ではない。

 しかし無理をして43階に行くメリットは無いように思える。

 なら一体どうして……


「ペルタさん!」

「は、はい!?」


 急にエンカさんがマジメな顔をして僕に声を掛けて来た。

 さっきまでどことなく緩い感じだったのに。


「俺はリンさんの救援に行く。

 ペルタさんはどうする?」

「僕は……付いて行っても良いですか?」

「ああ。ただし俺から離れないようにな」

「分かりました」


 会話は終わりとエンカさんは駆け出した。

 僕もその後ろを必死に追いかける。

 というか、速すぎ!!


『リンさん、何とか5分耐えてくれ』

『は、はいぃぃ~~』

『周囲のモンスターが何か分かる?見た目の形状は?魔法は使ってくる?』

『えっと、二足歩行で多腕のモンスターです。魔法は、今の所使ってません』

『なら岩石魔法で塁を築いて近づかせないようにすれば何とかなると思う』

『分かりました。やってみます』


 走りながらエンカさんはテキパキとリンさんに指示を出していく。

 同時にその手に持つ剣で道を塞ぐモンスターをばっさばっさと切り捨てていく。

 ついでとばかりに一部のトラップをわざと発動させ飛んでくる矢などを叩き落していく。

 しかしガス系トラップまで剣で切り散らしているのはどうやっているのだろうか。

 さっき借りた時、あの剣にそんな機能は無かったと思うんだけどどうなってるんだ?


「左側走って」

「は、はい」

「次は俺に倣って大きくジャンプ」

「っ」


 この指示はきっとトラップを回避する為のもの。

 矢やガスのトラップを発動させているは回避する時間すら惜しんでいるのだろう。


(すごい。これが本気のエンカさんなんだ)


 手を伸ばしてもまるで届きそうもない背中に同じ探索者として憧れてしまう。

 そして風のようにダンジョンを駆け抜け43階を突き進んで行く。


「見つけた。リンさん無事?」

「は、はぃ~~」


 モンスターに囲まれながらも石の壁でかまくらのように籠っているリンさんを見つけた。

 そのモンスターもエンカさんが通り抜ければあっという間にバラバラに切り裂かれ光に変わる。

 まるでカマイタチのようだ。

 そして安全を確保したエンカさんが振り返り一言。


「民間レスキューの井上だ。ダンジョン保険には……ってすまない。つい癖で」


 エンカさんはずっと民間レスキューとして活動してたらしい。

 その時の癖がちょうど今出てきたようだ。

 思えば救助要請と同じような状態だしね。


「それで、怪我は無い? ポーション飲むか?」

「あ、だいじょうぶです」

「よし。なら次のモンスターが来る前に41階に戻ろうか。

 どうしてこうなったのかは戻りながら教えて欲しい」

「分かりました」


 そうして僕たちは駆け抜けて来た道を戻ることになった。

 その道中でリンさんの話を聞いていく。


「事の起こりは今日ダンジョンに入った時です。

 数日前の探索の時に知り合った人にばったり再会したんです。

 その人から『41階を覗いてみないか。モンスターの対応は俺がするから』と提案されてつい乗ってしまったんです。

 それで転送ゲートで41階に来たまでは良かったんですが、少し進んだところで転送トラップを踏んでしまい、気が付いたらあの場所に1人取り残されていました」

「あぁそういう」


 リンさんの話を聞いて軽く頭を抱えるエンカさん。

 そうしながらも変わらずモンスターを切り捨てているのは流石だ。


「時々居るんだ。

 転送トラップがあることを知って、わざとそれを踏ませて苦しむ姿を見て楽しむ下衆が」

「「うわぁ」」


 確かに聞いたことがある。

 トラップの中には何度も発動するタイプのものもあって、それを利用して誰かを罠に嵌める人がいるらしい。

 それの何が楽しいのかは僕には分からない。

 ともかく無事に41階の転送ゲートに戻って来た僕たちは揃って1階へと戻った。


「その人居る?」

「えっと、いえ。居ないみたいです」


 転送ゲートからダンジョン入口まで移動しながら罠に嵌めた人が居ないかチェックしたけど残念ながら居なかったようだ。

 居たら警察に突き出していたんだろうか。


「ともかく2人ともこの後も気を付けて」

「はい」

「ありがとうございました」


 リンさんはダンジョンに入ってまだそんなに時間は経っていなかったけど、精神的に参ってしまったようなので、僕と一緒に帰ることになった。

 その道中。リンさんがぽつりとつぶやいた。


「一歩間違えれば死んでたんですよね」

「そうかもしれないね」

「私ユニオン入ってて良かったです。

 ペルタさんも今後ともよろしくお願いします」

「うん。こちらこそよろしく」


 電車の最寄り駅で降りて去って行くその後ろ姿を眺めながら、改めて今日の探索を振り返れば、緊張感がありつつもスムーズかつ安全な探索だった。

 本来なら40階ボス戦とかまだ早いかもと思ってたのに無事にクリア出来たし。

 そして何よりエンカさんのダンジョンを駆け抜ける後ろ姿。

 あれこそが僕の目指していた探索者の姿かもしれない。



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― 新着の感想 ―
[良い点] エンカおじちゃん頼もしすぎる~
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