(37)ユニオン結成(3)
〜〜 京都ダンジョン40階 〜〜
エンカさんと僕は無事に40階ボス部屋前に到着した。
ただ無事だったのは僕の実力というより後ろに居るエンカさんのお陰だ。
道中、何度か背後からモンスターの襲撃を受けたけど、その全てをエンカさんがハエを追い払うようにぺしっと倒してしまった。
僕は正面から来たモンスターに苦戦しつつなんとか撃退してるのに。
「エンカさん、強すぎませんか?」
思わずそう聞く僕にエンカさんは苦笑していた。
<いやでも言いたくなる気持ちは分かる>
<マジで全てのモンスターが一撃だもんね>
<遠距離モンスターの攻撃も全部あの武器で破壊してるし>
<まさかあの武器が強さの秘密かな>
<魔剣って国宝級のチート武器じゃん>
エンカさんの武器はエメラルドに輝く双剣。
あの威力、恐らく階層ボスから極稀にドロップするレア武器だろう。
かつて50階ボスがドロップした魔槍ゲイボルグは魔力を籠めれば100メートル先の厚さ1メートルの金属板に穴を開けたという。
ならあの武器は触れたモノ全てを切断する能力でも備わっているのだろう。
ちょっとだけその、使ってみたい。
「エンカさん。その武器ちょっとだけ借りても良いですか?」
「いいけど、槍とは間合いが違い過ぎるから気を付けてな」
「はい!」
ダメ元でお願いしてみたらあっさりとOK貰えた。
早速自分の持っていた槍と交換する形で双剣の片方を借り受けた。
「おぉ、軽い」
まるで木刀でも振っているかのようだ。
材質はどうやら金属では無さそう。ということはやはりダンジョン産のレアドロップかモンスターのドロップ素材から鍛え上げた逸品か。
これがあれば僕もトップ探索者になれるだろうか。
<ペルタくんはしゃいでる。かわいい>
<いやでも気持ちは分かる>
<本物の魔剣なんて一生に一度触れるかどうかだもんね~>
うっ、浮かれてたらコメントで茶化されてしまった。
そんな僕にエンカさんが一言。
「試し切りするならボスは止めておいた方が良いぞ」
「そうですね。じゃあ適当なモンスターを探して……居ました!」
見つけたのは2足歩行のモンスター、オーガ。
2メートルを超える巨体で手に持つ鉄棍で殴りかかってくるパワータイプのモンスターだ。
さっきまでなら槍であいつの間合いの外から切り裂いて倒せたけど、この剣だとむしろ向こうの方が間合いが広い。
「グオオオッ」
「うわっ」
敵の振り下ろしに思わず大きく跳び退った。
危ない危ない。
間合いが短いっていうのは思ったよりも危険だった。
これこっちの攻撃を当てるには敵の攻撃を掻い潜って懐に飛び込む必要があるのか。
かなり勇気が要るな。
ズッ
ズズッ
敵の前進に思わず後ずさってしまった。
そんなことをすればどうなるか。
敵に侮られるのは勿論だけど、それ以上に観ている人達に失望されたら配信者として終わる。
と心配になってコメントをチラ見したけどそうでもなかった。
<ペルタくんがんば~>
<そのモンスターさっきまで余裕だったじゃん>
<ペルタくんなら行けるって>
<短剣と槍じゃ戦い方が全然違うから無理は禁物かもね>
<もしもの時は後ろのエンカさんが助けてくれるって>
みんなからの励ましのメッセージを見て手に力が籠る。
僕は戦える。大丈夫だ。
それに今は一人じゃない。
「行きます!」
「ガアアッ」
「『アイスシールド』」
ツルッ
よしっ。こちらの踏み込みに合わせて振り下ろされた敵の一撃を魔法の盾で受け流せた。
そのまま懐に飛び込む。
「ここだっ」
トンッ
「……え?」
僕の振った剣は確かにモンスターの脇腹を捉えた。
しかしまるでこん棒で岩を叩いたような衝撃が返ってくるだけで全然切れなかった。
エンカさんの使ってた感じからして何の抵抗も無く切り裂けると思ったんだけど。
あ、そうか。
魔剣なら魔力を籠めないと効果が出ないのか。
「ならこれで!」
ズンッ
「切れた。けどこれって」
逆袈裟に切り上げた一撃はモンスターにダメージを与える事は出来た。
だけどエンカさんがやってたみたいにスパッと真っ二つとはならない。
これならいつもの槍で攻撃しても同じくらいの威力は出せただろう。
どうなってるんだ?
「グルルルァ」
「しまっ」
威力の低さに驚いてたらモンスターの反撃に気付くのが遅れた!
野球のバットのように横薙ぎに振られる鉄棍。
慌てて剣を間に差し込んだけど大ダメージは免れない。
スパッ
「ガ?」
「はえ?」
突如、モンスターの持っていた鉄棍が持ち手部分の先で切り飛ばされた。
モンスターも何が起きたのか分からないと言うように自分の手の中を眺めている。
この切れ味、まさか僕がピンチになったタイミングで剣が覚醒したのか!?
「ペルタさん。モンスターを前にしてぼーっとするのは危険だよ」
「あ、エンカさん」
僕の後ろでエンカさんが槍を振り抜いた姿勢で立っていた。
どうやら魔剣じゃなくてエンカさんが助けてくれたようだ。
でも僕の後ろって言っても3メートルも離れているので槍は届かないんだけど。
「あの、もしかして今のエンカさんがやってくれたんですか?」
「……だからさ。
そういうのはモンスターを倒してからにしよう」
シャシャシャッ
ため息交じりにエンカさんがそう言った瞬間、僕の横を光が突き抜けて行った。
それは紛れもなくエンカさんの3連突きだった。
さっきまで僕が苦戦していたモンスターは、文字通り光の速さで倒された。
そんなこと、同じことやれるかと聞かれたら当然ノーだ。
「エンカさん。その槍って僕がさっき渡したのですよね?」
「ああ。なかなか良い槍だな。
俺にはちょっと重いけど魔力の通りも悪くない。何より丈夫だ」
言いながらクルクルと槍を回す姿は様になっている。
エンカさん程の探索者になるとどんな武器でも扱えるんだろうか。
いやそれより今気になるのはさっきのあれだ。
「その槍は確かに刃先にモンスターのドロップ素材を使って作ってるので良いものには違いないです。
でもリーチを伸ばしたり、モンスターの武器を両断する切れ味は無い筈なんですけど、さっきのはどうやったんですか?」
「んん?」
しまったぁぁ!
多分さっきの技はエンカさんが10年以上掛けて編み出した必殺技だったに違いない。
そんな奥義を開示して欲しいとか、不敬にも程があるだろう。
その証拠に僕の質問にエンカさんは考え込んでしまった。
思い悩む僕に、しかし次の瞬間。エンカさんは何でも無いように口を開いた。
「すまない。特に難しい何かをしてる訳じゃないんだ。
最初に伝えた通り、俺に出来るのは魔力強化して切る、それだけなんだ。
今も魔力によって身体強化しつつ武器を振り回しただけにすぎない。
だからそれ以上にどう伝えれば良いのか悩んでしまった」
「魔力、強化?」
それは探索者なら誰でも出来るスキルだ。
いやスキルと言って良いかも怪しい基礎だ。当然僕も出来る。
魔法やスキルは高度に魔力を練り上げて新たな効果をもたらすもので、当然威力も単純な魔力強化よりも遥かに上のはず。
だけどエンカさんはその基礎しか使ってないと言う。
僕は借りていた武器をエンカさんに返しながら改めて自分の槍を振ってみたけど、やっぱりさっきのモンスターの武器を切り飛ばすような一撃は出せそうもない。
「やっぱり何か特別なスキルなんだと思うけど」
「まあそれはともかくサクッと40階ボスを倒しに行こう」
「いやそんな軽く言われても困るんだけど」
<まるで散歩に行くような気楽さ>
<40階ボスってかなり危険なんだけど>
<でもここまでの強さを見れば、エンカさんなら余裕なのかも>
<あれ、でもさっきの話だとエンカさんは積極的に戦わないんでしょ?>
<フォローは入ってくれるらしいしペルタさんが傷つかないならどっちでもいいかな>
話を逸らされた。
やっぱり何か秘密があるんだろうな。




