(36)ユニオン結成(2)
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
ユニオンの件は、口で説明しても伝わらない部分も多いだろうという事で、早速会議の翌日から運用を開始することになった。
端末には本日のメンバーの探索スケジュールが届いている。
「京都ダンジョンには俺の他に4人か。
今潜っているのは23階、37階、44階。見事にバラバラだな」
残り1人は17時から探索を行うということでまだ居ない。
『エンカです。現在48階を探索中。
何かあればフォロー向かいますので気軽にどうぞ』
『オウカ了解です』
『ペルタです。この後40階ボス部屋行くので、その時フォローお願いしても良いですか?』
『ドッペルだ。俺も今日は軽く流してるだけだから呼んでくれたら行くぞ』
挨拶チャットを送れば全員から返信が返って来た。
今の所、誰も問題無さそうだな。
『じゃあペルタさんの所には俺が行こう。
ボス部屋前待ち合わせで今から30分後で良いかな?』
『い、1時間ください!』
『分かった。
オウカさんはフォロー必要な時はドッペルさんに連絡を』
『まあむしろ折角だから適当なタイミングで呼んでくれや』
『あ、じゃあ【助っ人呼んでみた】配信しても良いですか?』
『おう。そういうのも面白そうだな。
俺は配信初心者だからお手柔らかに頼む』
どうやら向こうはコラボ企画みたいに組むみたいだ。
元々はレスキュー代わりに支援出来れば良いかなと思ってたんだけど、プラスで活動の幅を広げる事も出来そうだな。
ドッペルさんは俺と同じく配信はしてない民間レスキューだ。
年齢は俺より上で頼れるおっちゃんって感じの人。
もしかしたらこれをきっかけに配信者デビューするかもしれない。
これで向こうは心配ないし、こっちは合流するとなれば一度51階に降りて転送ゲートで31階に上がってから40階に降り直すのが良さそうだ。
待ち合わせまで1時間なら急ぐことも無い。
俺はのんびりと薬草採取をしながら階段へと向かって行った。
~~ 京都ダンジョン39階 ~~
連絡を入れてから45分後。
視界の先に探索者の後ろ姿を発見。
「こんにちは。そこに居るのはペルタさんかな?」
「はい。って、エンカさん。もしかしてもう1時間経ってました?」
「いや、まだ余裕あるよ」
振り返ったのは昨日オンライン会議でも見たペルタさん。
40階待ち合わせだったけど10分前行動しようとしてたらひとつ上の階で合流してしまった。
「折角なんでボス部屋まで一緒に行こうか」
「はい! あ、僕今配信中なんですが、大丈夫ですか?」
「むしろ俺が邪魔にならなければって所だな」
「それは大丈夫です。
えっと皆さんご紹介します。先ほどお伝えしたユニオンのリーダー、エンカさんです」
「探索者のエンカだ。よろしく」
配信中のドローンカメラに向かって軽く挨拶を送る。
どうやらユニオンの事は今日の配信が始まってすぐに説明していたようで、俺のことも『この人が例の……』みたいに受け入れられている。
「ちなみに俺は発起人、もしくは纏め役ではあるが、リーダーとはちょっと違う」
「そうなんですか?」
「ああ。リーダーっていうとメンバーに命令する権利があるだろうけど、俺は別に何か命令する気は無いしな。
基本的に探索者は対等で上司と部下ではないから」
「でもエンカさんの方が深い階に行ってる訳ですし」
「世紀末な世の中でも無いし、強さ=正義って事も無いだろう?」
会話をしながらも足は前に進めていく。
と、モンスターの御登場か。
「このモンスターだけ貰っていいか?
連携を取る為にも俺の戦闘スタイルを見せておきたい」
「あ、はい!」
1メートル近い巨大なバッタのようなモンスターに対し、俺は右手に剣を持ちながらスタスタと近づいていく。
「ギッ」
短い叫び声と共にモンスターが飛び掛かって来たが、その横をすり抜けるように歩き、振り返った。
「とまあこんな感じだ」
「え?」
ずるっ
俺の言葉に遅れてモンスターの身体が胴体の真ん中で分断され、上下にずれて崩れながら光になって消えた。
その向こうから慌てた様子でペルタさんが俺の近くまで駆けよって来た。
「あの、今どうやって倒したんですか?」
「普通にすれ違いざまにこの剣で切り払っただけだぞ」
「み、見えなかった……」
俺の答えに呆然とするペルタさん。
どうやらモンスターの影になって俺の攻撃が見えなかったみたいだ。
次からは大上段から切り降ろすとか分かりやすい攻撃にした方が良さそうだな。
「俺の戦闘スタイルは敵に近づいて剣で切る。それだけだ」
「それだけ……それだけで深層まで行けるんですか!?」
「まあな。ただ深層まで行くと物理攻撃完全無効なモンスターも出て来るから面倒なんだ」
「いやそれ、面倒とか言うレベルじゃないですから」
「そんなことより次のモンスターだ。
この先はペルタさんの配信の邪魔にならないように後ろを付いていくから、基本戦闘は任せた。
その代わりドロップは全部ペルタさんの取り分でいいから」
「分かりました。では行きます。
『フローズンスラスト』!」
ペルタさんに前を譲り、俺はその後ろを付いていく。
彼は槍に氷魔法を付与させて戦う魔法戦士スタイルのようだ。
純魔のように派手な魔法は無いものの、消費魔力は少なく隙の無い堅実な戦い方だ。
切り口が凍り付いて敵の動きを阻害しているのもいい。
(ただなぁ)
「くっ、この!」
「ギーーッ」
この階のモンスター相手に圧勝出来ないようでは40階ボスはちょっと厳しい。
多分彼一人では勝算は五分五分。
勝てたとしても無傷とはいかないだろう。
「ペルタさん。俺からの忠告、聞く?」
「え、あ、はい。お願いします」
「気を悪くしないで欲しいんだけど。
今日この後40階ボスを攻略して41階に行けるようになるけど、半月くらいは41階で修行した方が良いと思う」
「42階に何かあるんですか?」
「いや特にこれってものはないんだけど……行ったら多分死ぬから」
「え……」
俺の発言に思わず足を止めるペルタさん。
突然「あなた死ぬよ」なんて言われたら驚くよな。
だけど多分俺の予想は外れない。
「41階と42階で出て来るモンスターの強さはほとんど変わらない。
だけど転送ゲートまでの距離が遠くなるのは脱出に掛かる時間が延びる事であり、救助が駆け付ける時間にも直結する。
なので下層のモンスターやトラップに慣れるまでは慌てない方が良い。
むしろ41階が楽勝になれば50階まですぐだから」
「そんなものですか?」
「ああ」
「うーん」
どうやら納得してない様子。
まあまだ下層に降りても居ないし、40階までと41階からの難易度の差を体感してもらうまでは無理かな。
「あの、50階まですぐという割に、45階前後で苦戦してる配信をよく見るのですが」
「それは配信をしてるからだ」
「え”」
「すまない。言い方が悪かったな。
配信そのものが悪いって言ってる訳じゃないんだ。
この配信を見ている人達は、ここからは落ちぶれたおっさんの愚痴だと思ってペルタさんとは切り離して聞いて欲しい。
多くの場合、配信を見ている人達は新しい刺激を求めるものだ。
それを受けて配信する側も同じ階に留まらずに早く次の階に進もうとする。
そうしないと視聴者は減るしお布施も減って生活が苦しくなるからな」
決して視聴者が配信者を煽っている訳ではないだろうけど、結果としてそうなってしまっている。
配信者の中には自分でも無理してるなって自覚はあっても行かないと没落するかもしれないという恐怖が背中を押してくる。
「だから最近の配信者は修行とか周回プレイをする人は減ってるらしいな。
結果として慣れない下層で苦戦して、探索開始からある程度時間が経った45階前後で力尽きて立ち往生することになる」
で、45階ってのは救助要請だしてもレスキューが到着するのに時間が掛かるから助かっても全治1か月の大怪我を負ったり、後遺症が残って探索活動を続けられなくなったりする。
当然、救助費用も高額だ。ツケになる人も出てくるだろう。
出来る事ならユニオンのみんなにはそうなって欲しくないから慌てず修行して実力を伸ばして欲しい。
「じゃあエンカさんも昔はそうした修行をしていたんですか?」
「俺が子供の頃か。
当時は新しい階に進んだらその階のマッピングが完了するまで次に進まないようにしてたな。
でもあとちょっとで完成ってタイミングで『ダンジョンの休日』で内部構造が変化してやり直しになったりな。
お陰で意外と時間が掛かった」
思い返せばあれのお陰で十分な経験を積めた気もするし、ユニオンメンバーには100%と行かなくても半分くらいはマッピング出来てから次の階に行くことを推奨してみるのも良いかもしれない。




