(35)ユニオン結成(1)
今年も1年お付き合いありがとうございました。
また来年もよろしくお願いします。
m(_ _)m
無事にミスティさんにお願いして行った複数の配信者を集めてのイベントは好評のまま終わった。
なので次の段階に移ろうか。
俺は端末のメール機能を起動して先日の人達プラス以前から知り合いの何人かにメールを送った。
【お誘い:相互互助目的のユニオンに参加しませんか】
そういうタイトルで送ってみたけど、さて返信は来るだろうか。
待つことたったの1日で全員から色良い返事を貰うことが出来た。
みんな仕事が早い。
これを受けて全員でオンライン会議を開催することになった。
総勢30人だ。
オンラインな理由は時間が遅めなのと人数が増えたので会議室などを予約するのが面倒だったからだ。
ついでに何人かからはその様子を配信したいと連絡が来たので確認の上、許可することになった。
「さて時間になったし始めようか。
みんな俺の呼び掛けに応えてくれてありがとう。
今日は顔合わせと、先日のメールで伝えた内容を改めて説明しつつ質疑応答などを行っていこうと思う。
なお、この様子を配信で見ている人達には悪いが、基本的にコメントに反応しないのでそのつもりで」
<事前にその連絡は受けてるから大丈夫>
<今日の参加者、半分くらいしか知らん俺は情弱か?>
<安心しろ、俺もそれくらいだ>
<主催のおっさんは先日観た>
画面の横には沢山のコメントが流れているが基本無視。
というか反応してたら話が進まないし。
「ここに集まって貰ったのは、俺の探索者の知り合いと民間レスキューの知り合いだ。
いや、民間レスキューについては元と付けた方が良いのか?
まぁどっちでもいいか。
俺は全員知ってるけど皆はそうでは無いから軽く自己紹介と行こう。
まずは俺から。
俺は民間レスキュー兼探索者。探索者名はエンカ。
探索者歴はかれこれ20年近くなる。
ダンジョンは下層までなら問題なく潜れる。
深層以降は頑張ればってところだな」
「「……」」
「どうした?」
主に先日知り合った探索者の人達が変な顔をしてる。
あまりこういう経験は無いんだけど探索者の自己紹介としてはそこまで間違ってはいないはずだ。
なのにこの反応ということはやっぱり何か変だったのか?
俺の疑問にミスティが助け舟を出してくれた。
「あのエンカさん。次私が自己紹介しても?」
「あ、うん。ミスティさん頼む」
「ミスティです。
探索者兼配信者で先日民間レスキュー資格を取得したばかりよ。
探索者歴は5年、最高到達階数は35よ」
「「うんうん」」
あ、あれ?
俺のと項目はほとんど変わらないのに、皆の反応が全然違う。
ミスティさんの紹介には配信者の皆はそうだと納得した顔で頷くし、レスキュー仲間は娘か孫でも見るような優しい顔で頷いてる。
コメント欄を見ても<これが普通だよな>みたいな書き込みが並んでいた。
「じゃあ次は俺だ。
探索者名はリジェクト。エンカとはレスキュー仲間だな。
探索者歴は15年。
といっても救助に行けるのは下層が限界。深層は無理だ」
やれやれと言った感じで話すリジェクト。
ってなんでやれやれ?
続く人達も大体が中層下層で活動しているって紹介ばかりだ。
まぁ日頃から深層に行く人達には声を掛けなかったしそんなものだろう。
これに対する視聴者の反応と言えば。
<最初に爆弾を投下したおっさんは何者なんだw>
<ミスティのフォローが的確だった>
<しかし熟練の民間レスキューは全員下層に潜れるんだな>
<改めて民間レスキューのレベルの高さが窺える>
<配信メンバーの尊敬の眼差し>
<ただし最初のおっさんは除くw>
やっぱり俺に対する風当たりだけ厳しい気がする。
良いんだけどさ。
「一通り紹介も終わったところで本題の説明に入ろう。
今回の提案は、一言で言えば『ダンジョン探索を皆でフォローし合おう』ってことだ。
ここに集まってもらったのは京都ダンジョンや比叡山ダンジョンなど、京都近郊のダンジョンで主に活動している探索者だ。
同じ時間帯に同じダンジョンを探索してたり、オフの日もダンジョンの近くに居たりするだろう。
それを利用して、お互いにいつどこのダンジョンに探索に行くのかスケジュールを共有する。
で、ダンジョン探索中に手を貸して欲しい事態になった場合、連絡を取り合ってフォローに入ってもらうんだ。
そうしたら危険なダンジョン探索も少しは安心して活動出来るんじゃないだろうか」
「要するに民間レスキューが廃止されたから、代わりに仲間内でフォローし合おうってことか」
「そういうことだな。
ただし民間レスキューに救助要請を出した時とは違って、基本的に救助費用は発生しないものとする。
あ、消費したポーション代くらいは払うように。
そして費用が発生しない分、義務も無い」
「義務が無い? それはどういうことだ」
「フォローを頼んだ側が横柄な態度を取ったら捨てられると思ってくれ」
「お、おう」
通常の民間レスキューの場合、救助要請を受けて現場に駆け付けた時、多少要救助者の態度が悪くても救助しなければならない。
もちろんこちらの指示を無視してモンスターに突撃するのを身を挺して庇う必要まではないけど、相手の事が気に食わないからという理由で救助しないなんてことは無い。
恐慌状態になっている時なんかは最悪、当身や魔法で意識を刈り取って地上に連れて行くこともある。
だけど今回の提案ではそこまでは求めない。
「例えば今こうして画面越しに見ただけでも顔が生理的に無理とか声が気に入らないとか息が臭そうとか陽キャパリピうぜぇとかあるだろ」
「いや息が臭いかどうかは分からんだろ」
「エンカは時々口が悪くなるよな」
「それとちょいちょい死後が混じる」
「え、嘘だよな」
「「……」」
げっ、同年代の奴にまで目を逸らされた。
そりゃ毎日のようにダンジョンに潜ってるせいで最新の流行には疎い自覚はあるけどな。
そこまで酷いとは思わなかった。
「ごほんっ。ともかくだ。
フォローはお互いの善意の上で成り立っている。
心配だったら事前に『今日同じ時間にダンジョンに潜ってるのでよろしく!』とか一言連絡してくれ。
それで返信来るようなら安心だろう。
とは言ってもフォロー頼んだタイミングで丁度ボス戦してたりモンスターに囲まれてる最中って可能性もあるから、頼んだら来てくれると依存はしないこと。
あと普段の救助要請は費用が掛かるからピンチになってから出そうって考える人が多いと思うけど、それだと救助が間に合わない可能性が高いよな。
だからフォロー依頼は『ちょっとピンチになりそうかも』くらいで出して欲しい。
もしくは新しい階に挑戦したいから一緒に探索して欲しいとかもありだ」
「なるほど。無料だからこそ気軽に出せるってことか」
「救助要請はその多くが手遅れになってから出されてるからな」
「早めに連絡してもらえれば助けるのも楽と言うものだ」
よし。今度は概ね好意的な回答を皆から得られることが出来た。
しかし当然のことながら疑問点やちゃんと機能するのかという心配の声も挙がる。
「無料だからと言って無暗にフォロー依頼を連発されるのも困るな」
「うん。フォローに依存するような人が出た場合、その人には指導を行うことにしよう」
「具体的には?」
「俺と一緒に下層ツアーとか。
41階から始めて60階ボスを攻略出来るようになればフォローされる側からする側になれるくらいの実力は付くだろう」
「いや、そりゃそうだろうがよ」
「鬼ですね」
「あ、私それ受けてみたいかも」
「ドM通り越して自殺志願だろそれ」
「でも実際、60階ボスツアーとかあれば数百万円コースよ?」
「そうだけどな」
ツアー会社が企画すると、まず61階に潜れる探索者パーティーを探すところから始まるだろう。それも複数。
更に参加者の安全を考えるなら中級ポーションを幾つも準備して行う事になるから下手すると1000万円を超えるかもしれない。
それをポーションは自腹とは言え無料でやるって言ってるんだから深層に行ってみたい探索者としては多少の無茶は目を瞑ろうってものか。
皆の顔色を見れば、元民間レスキューの人達は全員自力で51階に行けるし、特別深い階に挑戦したいって人はいなさそうだ。
逆に配信メインで活動している人は、行きたい気持ち半分、危険度を考えれば遠慮したい気持ち半分って所だろう。
「いっそのこと、月1くらいの定期で希望者募って50階ボスツアーやろうか。
希望者多かったら2回に分けるとか。
2、3人ずつなら俺1人でもフォローできるし」
「「おおっ」」
「ちなみにその場合、俺はフォローのみで実際の戦闘は参加者だから。
あと道中の戦う様子を見てボス戦に耐えられないと判断した場合は途中で引き返すって条件付きだ」
「「お、おぅ……」」
最初喜び勇んでたのに、自分達で戦うと分かった途端、意気消沈してるのがちょっと面白い。
でもそうか。
最初に1回顔合わせしただけの相手にフォローを頼むっていうのも気が引ける人が出てくるだろうし、仲良くなるためにもツアー以外でも何かしら合同で活動出来るイベントを用意するのも良いかもしれない。




