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(3)警護依頼(後編)

 比叡山ダンジョン30階。

 トラップにより強制的にモンスターハウスに飛ばされたミスティを無事に救助した訳だけど、問題はここからどうするか。

 と、その前に俺はここに来る途中に回収してきた物をミスティに渡した。


「ほいこれ。壊れてはいないと思うけど確認しておいてくれ」

「あ、私のドローン。回収してきてくれたんですね」


 俺からドローンを受け取ったミスティが起動コマンドを入力すると、無事にドローンが稼働し始めた。


「えっと、あ、皆さん繋いだままにしてくれてたんですね!

 ご心配をお掛けしました。

 ひとまず私は無事です」


 どうやら中断されていた配信が再開されるのを待っていた人達が居てくれたらしい。

 俺もミスティのチャンネルに繋いでみれば中断前とほぼ変わらない7万人が配信を視聴していた。

 コメント欄は流れるように大量の安否を気遣うものが投稿されまくっている。


「現在の状況ですが、まず今居るのは比叡山ダンジョンの30階です。

 先ほどの転移トラップで一気にここまで飛ばされてきました」

<えっ、転移トラップで下の階層に飛ばされるってまさか>

<行き先は1/2の確率でモンスターハウスなんじゃなかった?>

<パーティーからはぐれる事になるし最悪のコンボトラップじゃん!>

<ミスティはソロだけどそれでもヤバすぎ>

<でも無事なのは流石ミスティ>

「えっと、お察しの通りモンスターハウスだったんです。

 で、私ももうダメかなと思いつつ救助依頼を出したらなんと救助が駆けつけてくれました。

 それがこちらのエンカさんです!」


 そう言いつつミスティは俺にドローンカメラを向けてくる。

 いや、そんな期待した目で見られても俺は面白い反応とか無いからな。


<俺達のミスティを救ってくれてありがとう!>

<救助って30階でも来てくれるんだな>

<いつも金の亡者とか言ってスマソ>

<無口なのはもしかして照れてるとか?>


 どうやら俺が何もリアクションしなくても勝手に盛り上がっているらしい。

 勝手にしてくれ。


「……そんなことより、動けるなら脱出するぞ」

「あ、はい!」


 この部屋のモンスターは倒したとはいえ、ぐずぐずしてるとお代わりが来るからな。

 俺は彼女を先導しつつ移動を開始した。

 通路で出くわしたモンスターは全て俺が倒していく。


「あのエンカさん強すぎませんか?」

「間違っても護衛対象に攻撃が行かない様にしてるだけだ」


 基本的に出会い頭に1撃で消滅させていく俺を見てミスティが疑問の声を上げるが、これくらい出来ないとプロの警護とは言えないだろう。


「皆さんも凄いと思いますよね?」

<凄いというか異常?>

<モンスターが画面に映った瞬間、光になってるんだけど>

<どんなスキル使ったらこんな事になるんだよ>

<解説プリーズ>


 ミスティの配信では盛り上がっているようだが、俺に振られても答える気はないぞ。

 どうせどう答えようと理解できない奴が変に捻じ曲げて批判するのは目に見えてるからな。

 そして結局合流してから1度もミスティが武器を握ることなく、俺達は扉の前へと到着した。


「あの、この扉ってもしかして」

「ボス部屋だ」

「って脱出するんじゃなかったんですか?」

「もちろん脱出する。その為にはこっちの方が近いだろう?」


 ダンジョンは主に10階ごとにボス部屋が存在する。

 そしてボスを倒した先には下に続く階段があり、階段を下りた先には1階に行ける転移ゲートが存在している。

 なので30階にいる今、地上に戻ろうと思ったら21階まで上がるか31階に降りるかなんだけど当然31階の方が近い。


「いや近いからってボス部屋に突撃する人は余り居ないんじゃないかと」

「そうなのか?まぁいい。とにかく行くぞ」


 なぜか及び腰のミスティを連れて俺はボス部屋へと入って行った。

 そして比叡山ダンジョン30階のボスは幾つかパターンがあるが。


「トロルジャイアントか」

「うわっ、体力お化けじゃないですか」

<トロル系は再生能力高いから半端な攻撃だといくらやっても倒せない罠>

<動きは遅いけどパワーもあるから油断はできない>

<レスキューの人、武器短剣でしょ? 勝てるの??>

<いやでも、ここまでの戦いっぷりを見たら余裕なんじゃね?>

「少しだけ待っててくれ」


 驚くミスティを入口に残して俺はひとりスタスタと歩いていく。


「グオオオオッ」


 雄叫びと共にトロルが丸太を振り下ろしてくるが気にせず一歩を踏み込む。


スッ、サクサクサクッ


 流れるようにすり抜け、ついでに短剣で複数回切り飛ばしていく。


ぼとぼとぼと


 両腕、首、胴を両断されたトロルがバラバラになって地面に落ちて光になって消えた。

 後には5キロくらいの肉の塊。

 これは厚切りステーキにして食べると実に美味いんだ。


「終わったな。行くぞ」

「は、はい!」

<マジ瞬殺>

<トロルを両断できるって相当強力なスキルだよな>

<やべぇ、まばたきしてたら終わったんだが>


 俺の呼びかけに慌ててやってきたミスティと共に、そのまま31階に降りて転移ゲートで地上へと戻った。

 これで今日の俺の護衛依頼は終了だ。

 転移トラップに掛かるという事故はあったもののほぼ無傷で脱出できたので依頼は成功だ。


「お疲れ様。帰りの道中も気を付けて」


 俺はミスティが配信を終了させたのを確認してから声を掛けた。

 と言っても必要最小限の事務的なものだけど。

 救助した相手と必要以上に馴れあわない。これもレスキューとしては重要な事だ。

 下品な奴だと救助した恩を笠に仲良くなってあわよくば男女の仲になろうって輩も居る。

 そういうのはトラブルの元だし俺は御免被る。

 さっと手を振って立ち去ろうとしたところでミスティが俺に話しかけた。


「あ、あの。エンカさん。

 今日は助けて頂きありがとうございました」

「ああ。仕事だからな。気にするな」

「それでその、1つ聞いても良いですか?」

「ん?」

「エンカさんは配信はされないんですか?」

「する気はないな」

「どうしてですか? あんなに強いのに。配信すればすぐに沢山のフォロワーが付くと思いますよ」


 どうして、か。

 そんなのは考えるまでもないな。


「俺は君達みたいに面白おかしくトークをするのは出来ないからな」

「有名配信者の中にはほぼ無言で探索する人も居ますよ?」


 まあ確かにゼロではないだろうな。

 だけど理由は他にもある。


「俺はまともな攻撃スキルも持っていないんだ」

「え、うそっ」


 残念ながらミスティの風魔法のような見栄えのするスキルは持ち合わせてはいない。

 なので俺の戦いは基本モンスターに近づいて短剣で切るだけ。

 地味なのだ。

 そんなものを見せられて喜ぶやつはかなりの好き者だろう。

 そして何より俺が配信をしない理由は。


「それに救助要請が入ったら配信を気にする余裕はないから。

 そのせいで救助に間に合わなかったってなったら許せないし」


 世の中には救助しながらその一部始終を配信する奴はそれなりに居る。

 そいつらの事を否定する気はないけど、不器用な俺は配信と救助の二足の草鞋を履くなんて芸当は無理だ。

 また要救助者は重傷を負っていたり、最悪スプラッタな殺戮現場になっている場合もあるのでおいそれと配信は出来ない。

 もっとも、そういう悲惨なシーンを売り物にしている配信者も居る訳だが。


「配信と救助、どっちを取るかと言われたら俺は救助を選ぶ。そういうことだ」

「なるほど。ありがとうございました」


 ここまで言えばミスティも納得してくれたようだ。

 俺はミスティをその場に残し、一人自宅へと帰って行った。



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