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(28)欲望の檻(前編)

いつもありがとうございます。

1話で済ませようと思ったら長くなってしまったので2話に分けました。


 それはもう3年以上前のことだ。

 その日も俺はいつものようにダンジョン探索を行っていた。

 数十体のモンスターを倒して薬草を採取し、もうそろそろ今日は帰ろうかなと思った矢先にそれは来た。


ピピピピッ

【救助要請:56階。生存6名】


 通知を見た瞬間、もう嫌な予感しかしない。

 これが例えば42階とか52階とか、要するにボス部屋のすぐ後の階だったら、ボスに勝った勢いで先に進んだら予想外にモンスターが強くなってて返り討ちに遭ったってパターンは時々ある。

 それなら転送ゲートも近いし助けられる可能性も高い。

 だけど56階まで行けてるってことは下層も十分に経験済みのベテランパーティーの筈だ。

 引き際だって弁えている筈の彼らが救助要請を出したっていうことは自力では脱出不可能な罠に嵌ったか徘徊型のボスモンスターに遭遇したか、どちらにしても相当に危険な状況に追い込まれたに違いない。


「ここからじゃ間に合わないかもしれないけど行くか」

【救助要請:56階。生存5名】

「ちっ」


 救助に向かおうとした矢先に生存者が1人減った。

 これはもう一刻の猶予も無い状態だろう。

 51階に着くころには全滅しているかもしれない。

 しかし俺のその予想は、幸いにも外れて56階に着いた時でもまだ生存は5名のままだった。


「信号の発信源に移動してる様子は無い」


 ならやっぱりトラップで閉じ込められたって所か。

 それなら外から解除してあげれば簡単に救助出来るかもしれない。

 そんな淡い期待を胸に通路を進めば待ち構えていたかのような大量のモンスター。

 しかもただのモンスターではない。


「また面倒な」


 小さくて数が多くてしぶとい。

 短剣で切るしか能のない俺からしたら最悪な敵だ。

 おまけに素材のドロップも無い。

 単体の攻撃力は低いもののほとんどの場合毒持ちだし、膝裏とか背中とか手の届きにくい場所に潜り込まれて噛まれると危険だから無視も出来ない。


「この先に救助要請が無ければ逃げたい」


 それが正直なところだ。

 だけど要救助者はまだ生きてるようなので面倒だからと捨ておくわけにもいかない。


「……やっぱりこういうモンスター用の武器も用意するべきか」


 一応手榴弾のように対モンスター専用の使い捨て爆弾は探索者ギルドで販売している。

 モンスターのドロップ素材で作られたそれは通常の火薬式のものとは異なり特定のモンスターに甚大なダメージを与えられるという。

 ただ、使い捨てであるがゆえに頻繁に使えばその分お金が掛かる。

 値段と威力は比例しているので下層のモンスターを1発で倒せるものとなると数万円では足りない。

 決してお金持ちとは言えない俺としては、そんな札束でモンスターを殴るような真似はちょっとな。

 それと安易に道具に頼ると剣の腕が鈍る。


「と、これで最後か」


 ようやくあらかたモンスターを倒し終えた。

 この先はどうやら中規模の広場があってそこで行き止まりのようだ。

 苦労した分、お宝の一つでもあってくれないとやってられないぞ。

 その願いが通じたのか、行き止まりの広場は綺麗な花畑になっていた。

 しかもただの花ではない。


「青薔薇の群生地、なのか」


 部屋一面を覆うように咲いていたのは上級ポーションの材料になる青薔薇。

 この辺りでは滅多に見つからない薬草だ。

 1輪だけでも数百万の値が付く。

 更に奥の壁に半分埋もれるようにして木が生えていた。


「あれは、まさか世界樹?」


 見た目は普通の広葉樹なんだけどその葉は不治の病も治す万能薬の材料になる。故に世界樹。

 一説には若返りの秘薬だとも言われているけど、まだ世界中でも発見例は数える程なので実態は解明しきれていない。

 レア度で言えば青薔薇よりもずっと上だ。


「この二つがあればどれ程の人が助かるか見当もつかないな」

 

 世界中にそれらを求める人は沢山いるし、俺の知り合にもベテラン探索者で凶悪なトラップのせいで昏睡状態になり1年以上目覚めない人も居れば、両足切断した人、毒の後遺症に苦しむ人などが居る。

 これだけの量があればその人達と、更に今後同じような人が出てもすぐに治療が受けられるようになるだろう。

 他にも幾つも幸せな笑顔が溢れる光景が次々と脳裏を過ぎり、俺の思考は早くこの宝の山を持ち帰ることでいっぱいになった。

 そんな期待に自然と足が前に出た。

 だがその時、俺を呼び止める男の声が響いた。


「おいこの泥棒野郎!

 ここにある財宝はやらねぇからな。

 死にたく無かったらとっとと消えやがれ!」

「!!?」


 男の放つ殺気が、まるでハンマーで殴られたような衝撃となって俺を襲った。

 お陰で意識が警戒モードになった。


(俺は、さっき何を考えていた?)


 ダンジョンの中、それも下層だというのに居眠りでもしていたのか?

 若干霞が掛かったような意識を頭を振って振り解く。

 そして改めて確認すれば青薔薇と世界樹はまだそこにあるが、同時にそこに座り込む5人の探索者が目に入った。


(どうしてさっきまで見えてなかったんだ。それに……)


 疑問は尽きないけどそれよりまずは救助活動だ。

 青薔薇や世界樹のことは気になるけど、目の前の人を助けてからだ。

 ここが行き止まりである以上、彼らが今回の救助対象で間違いないだろう。

 ただ見たところ怪我をしてる様子もないけど。

 ともかく名乗らないと宝(青薔薇)を奪いに来たと誤解されたままでは救助ができない。


「俺は民間レスキューの井上だ」

「んなことは分かってんだよ!」

「あれ、そうなのか?」


 俺ってそんなに有名人だっけ?

 配信はしてないし、探索者としても実力は中程度だ。

 民間レスキューとしても顔出しはしてないし記憶にある限り以前彼らを救助したって事も無い。

 一体俺のことをどこで知ったんだろう。


「まあいっか。それより救助要請をしたのはお前達だな。

 特に怪我はしてないようだし、転送ゲートまでの護衛は必要か?」

「いらねえよ。というかさっさと帰れ!」

「んん?」


 おかしいな。救助要請を出したんだから何か助けを求めてたんじゃないのか?

 さっきから俺を追い払いたくて仕方ないように見える。

 他の4人も俺を警戒したような目で見ているし、全く歓迎されていないようだ。


「なぁ。何で救助要請を出したんだ?」

「デクのぼけが何をとち狂ったのか、ここの財宝を見た途端に騒ぎ出しやがったんだ。

 どうせここに来る途中に出たデーモン型モンスターの魔法で頭がイカレちまったんだ」

「そ、そうか。

 それでそのデクっていうのはどいつだ?

 状態異常なら手持ちのポーションで何とかなるかもしれないが」

「殺した」

「え?」

「言っただろ。

 このモンスターも居ない状況で突然危ないだの早く脱出しようだの騒ぎ出したんだぞ。

 どう考えてもヤバいだろう。だからぶっ殺した。

 ここはダンジョンだからな。その死体はもうダンジョンに食われた後だ。

 あいつのドローンは……あぁあそこだ」


 自分たちの仲間を殺したのか。

 よくもまぁそんな簡単に殺せるものだと感心してしまう。

 ただ、彼だけが特別なのではなく、他の人から不満が出ていないところを見るに全員同意見だったようだ。

 それだけ酷い症状だったのだろうか。


 彼によってそのデクという人物が殺されたのは、普通に考えれば殺人事件だ。

 だけどここはダンジョン。

 混乱、洗脳、様々な理由で生還を諦めないといけない状況があり得るので、その場に居なかった俺が罪に問う事は出来ない。

 民間レスキューは警察ではないし彼らを逮捕する権限もない。

 俺のやることは如何にして彼らを救助するか。それだけだ。

 といっても彼らは俺の救助は必要ないみたいだけど。

 

 

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