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(27)インタビュー

 時刻は19時になるところ。今日の俺はダンジョンではなく、とあるマンションの1室に来ていた。

 ここは鈴木さん、ミスティの自室兼配信部屋だ。

 部屋の中には俺とミスティ、それとミスティのドローンカメラが浮かんでいて19時を合図に撮影を開始した。


「皆こんばんわ。ミスティよ。

 先日報告した通り、無事にレスキュー資格を獲得したわ」

<おめでとう!>

<遂にミスティの時代が来たか>


 配信開始と共に行われたミスティの報告により沸き立つコメント欄。

 視聴者数は通常のダンジョン配信と比べると少ないがそれでも数万人が接続しているらしい。


「今後は私も探索の傍ら民間レスキューとしても活動していくからダンジョンで会ったらよろしくね」

<くそっ。俺は何故探索者をやってなかったんだ>

<はっはっは。探索者やってる俺勝ち組>

<俺今から救助依頼出してくるわ>

<お前あほだろ。今行っても会えないって>


「さて今日の配信の内容だけど、新人レスキューとしてやっていく上で研修などは受けて来た訳だけど、やっぱり研修では学べないこと、教えてもらえない事が沢山あるでしょ。

 なのでベテランの民間レスキューである井上さんにお越しいただきました」

「どうも」


 という訳でドローンが俺を映し出した。

 すると別の意味でコメント欄が沸き出した。


<ちょっ。そこミスティの配信部屋だよな>

<まさかミスティと2人っきりとか!?>

<貴様、俺のミスティに手を出したらぶっ殺すぞ>

<でもミスティも上級探索者なんだから襲おうとしたら返り討ちじゃね?>


 うーん、やっぱり夜に女性の部屋での配信に男性を呼ぶのは色々と問題だよな。

 まあ勿論俺が彼女に手を出すことはあり得ないが。


「えっと井上さん。軽く自己紹介してもらってもいい?」

「ああ。俺は民間レスキューの井上だ。

 探索者としては小学生の頃から、レスキューとしては10年以上活動している。

 今は他にも個人で契約を行ってダンジョン内での護衛任務もやっている。

 普段は京都ダンジョンを中心に活動してるからもしかしたら会った事ある人も居るかもな」

「民間レスキューは個人でも出来るけど会社で運営している所もあるでしょ。

 井上さんはそういう会社には入らないの?」

「そうだな」

「理由を聞いてもいいかしら?」

「いくつかあるけどな。

 会社に入るメリットは各種保障は得られる事だ。

 逆にデメリットとして多くの場合ノルマが課せられる。毎月いくら稼げとか何回救助要請を成功させろとかな。

 ダンジョン探索者としてはそういうノルマというか枷を嵌められるのは嫌なんだ」


 会社に所属すれば複数人でチームを組んで活動出来る分、要救助者に複数人重傷者が居た場合も楽に対応出来るので救助成功率も上がる。

 その分、1回ごとの収入は人数割りなので数をこなさないとだけど。

 また救助費は一度会社が受け取り、その中から全社員に最低賃金と救助回数に合わせて成果報酬が出されるのが一般的だ。

 なので成果が出てない月でも最低限の暮らしは出来るし高収入の人も居る。

 他にもポーションを安く購入出来たり怪我した場合の医療保険なども充実している。

 ただ会社として利益を確保しないといけないので前述のとおりノルマがある。

 人によってはそのノルマを達成するために友人に頼んで上階で救助要請を出してもらって救助するらしい。


「救助要請は年間どれくらい受けてるの?」

「去年で100回くらいだな」

「そんなに救助要請は出されてるのね。

 月ごとに多い少ないはあるのかしら」

「休日が増えるGW、お盆、年末年始はやっぱり多くなるな。

 逆に6月とか10月は減る」

「その月に何かあるの?」

「体育祭とか学園祭とかだな」


 救助要請は探索者経験の浅い人が出すことが多い。要するに学生だ。

 なので学校行事やテスト期間はダンジョンに潜る若手が減り、救助要請も減る。

 それでも社会人、というか学校に行かずにダンジョンに篭っている人は居るので救助要請がゼロになる訳ではない。


「この辺りは探索者ギルドやレスキュー組合に問い合わせれば資料とか見せてもらえるぞ」

「それもそうね。

 じゃあ調べても出てこないところで、この配信を見てくれている人たちが気になるところはあれかしら。

 時々ネットで民間レスキューは化物揃いだって話があるけど実態はどうなの?

 井上さんって何階までなら救助要請受けてくれるのかしら」

「俺はそんな化物じゃないぞ。

 精々80階ボス前までが限界だな」

「……え?」

<は?>

<は?>

<はああぁぁぁぁぁ!?>


 俺の回答にミスティは固まり、コメント欄は「は?」のオンパレードになってしまった。


「いや熟練の探索者なら80階超えの、それこそ見た目から化物も居るからな」


 年中ダンジョン内で薬草とモンスターを食べて暮らしてるって人も居るし、何ならダンジョンに染まり過ぎて角が生えて来たって人も居る。

 あの人たちに比べれば俺なんて普通だ普通。

 あ、あと救助要請を受けれるのと、助けられるのは別だ。


「言っておくが、71階以降のモンスターは強いから無視して走り抜けることは出来ない。

 だから75階とかで救助要請出されてもすぐには駆け付けられないからな。

 要請出すなら元気なうちに、帰り道のお供を頼む程度の気持ちで呼んでくれ」

「いえ、そもそも61階すら行ける人は皆無だと思うのだけど」

<そうそう>

<おっさんカメラの前だからって無理しない>

<関東だってようやく先日60階ボスを突破したって話なんだし>

<そういやそのボス戦で民間レスキューが参戦したとか聞いたけどマジ?>

<マジマジ。名前は確か……そうそう井上だ>

<顔はモザイク掛かってたけど30過ぎのおじさんだって話だが>

<待て待て。30はまだお兄さんだからな!>

<……あれ?>

<いやまさかな>

<さっき京都で活動してるって言ってたし>


 関東のダンジョンで60階?

 何やら身に覚えのある単語が見えたけど、まあ同じような事は良くある。

 一度バズった企画を真似てみたってのは良く聞く話だし。

 それよりも俺の話を聞いてミスティがそんな深い階に行こうとしたらまずいな。


「ミスティは少なくとも向こう1年は下層以降の救助要請は受けない方が良い」

「そもそも私まだ40階ボスを討伐出来ていないのだけど」

「そうだったな。

 なら救助を受ける目安は最高到達回数-10~15までにしておいた方が良い。

 通常の探索者にも言える事だけど無理はしない事だ」

「分かったわ」


 ミスティは素直で聞き分けの良い人だから大丈夫だろうけど、中には正義感の塊みたいな人も居る。そう言うのに限ってすぐに死ぬんだけど。

 その後も幾つかミスティの質問に答えながら視聴者からの質問にも答えていく。


<昨今、救助費用の高騰が問題になったり高額請求に対して訴訟を起こす場合があるらしいけど、その点どう思いますか?>


「訴訟を起こされるのはレスキュー資格を持たないモグリに救助された場合だな。

 正規の請求額ならダンジョンレスキュー法とレスキュー協会の後ろ盾があるから負ける事は無い」

「私に言わせればそもそもお金が無いなら無理して救助要請を出す状況になるなって言いたいのよね」

<流石ミスティ。ズバッと言い切ったな>

<ヤバくなったら救助要請出せばいいやって奴が最近は多い>

<それだけレスキューが実績を出してるって事でもあるが>

<馬鹿なやつだとポーションすら持たずに中層に潜って怪我したらすぐに救助出してる>

「井上さんの経験から、どうしたら救助要請を出さずに探索が出来るようになるかしら」


 それは言うは易しって奴だな。

 多分俺が改めて言うまでも無く、みんな分かってはいると思う。

 実践出来ないだけで。


「単純に安全マージンを確保すれば良い」


 言葉にすればそれだけだ。

 だけど実際にそれをしようとすると幾つも障害がある。

 何かと言うと面白くないのだ。

 通常の探索にしても配信にしても、スリルの無い、勝って当たり前って状態は盛り上がりに欠ける。

 アクションゲームで延々と1面を周回するようなものだ。

 やっぱりギリギリを攻める緊張感を求めてしまうのが人だ。

 ただゲームなら死んでも最初からやり直しになるだけだけど、リアルだと死んだらそれまでだ。

 だから生きて帰れる目安があればまだ何とかってところか。


「例えば配信はポーションなしで潜れる階までにするとか、ボス部屋もせめてその階のモンスターを楽に倒せるようになってからなら勝算は高いだろう。

 だけど『昨日は58階まで行けたから今日は60階ボスに挑戦だ』はハッキリ言って自殺行為だ」


 大抵のボスは+10階のモンスターくらいの強さがある。

 先日の東京ダンジョン60階ボス部屋も多分70階を攻略出来る人なら生還出来たと思う。

 なので場合によっては先輩探索者にお願いしてボス部屋をスキップしてその先で腕を磨くのも良い手だと思う。

 無理して進み過ぎるとやっぱり死ぬんだけど。


「なら私が40階ボスを攻略するのは当分先になりそうね」

「まあミスティが本腰を入れて探索活動を行えば意外とすぐだと思うぞ。

 でも配信とレスキューもとなると大変だな」


 最前線でくたびれた状態で救助活動に向かう訳にもいかない。

 配信だって多少気が逸れても大丈夫な場所で行う必要がある。

 結果、本気を出す機会が少なくなるので実力も上がりにくい。

 ただミスティは普段の探索姿を見る限り堅実で基礎はしっかりしてる。


「本来ならミスティはとっくに40階どころか50階近くまで行けるだけのポテンシャルはあるはずだ」

「そ、そうかしら」

<ちょっ、どことなくミスティが嬉しそうなんだが>

<頬を赤く染めてるように見えるのは錯覚だよな>

<これはこれで普段とのギャップがいい>

<だがそれをさせたのが俺で無いのは許せぬ>

<ミスティは俺の嫁だぞ>


 若干コメント欄が脱線し始めたな。

 別に彼女は俺をそういう目で見ている訳ではないだろう。

 強いて言えば頼りになる先輩、くらいじゃないか。


「他に何か聞きたい事はあるか?」

「えっとそうね。じゃあ、今までの救助活動で一番苦労した時とか苦い経験談を聞かせて」

「色々あるんだけど、どれがいいだろうか」


 10年もレスキューやってれば失敗談も2桁どころじゃない。

 それこそお茶の間に放送できないものも沢山あった。

 一体この場でどれを話したものか。



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