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(23)駆け出しの頃の思い出(前編)

 あれはそう、俺が14歳になったばかりの頃だったか。

 当時はまだドローン技術が発達しておらず、ダンジョンはもっぱら攻略階数と能力の優劣を競い合う場だった。

 能力者だった俺も当然のように学校が終わった後は毎日ダンジョンに潜り生活費を稼ぎながら自分のスキルを磨いていた。

 当時の俺は周囲から見下される存在だった。


「よぉ能無し。まだ生きてたんだな」

「どうせモンスター見たら怖くなって逃げてるんだろ?」

「寄生とモンスタートレインだけはするんじゃねぇぞ」

「雑草採集頑張れよ~」


 俺を知ってる奴らからは良く言われてた。

 彼らは別に俺が戦っている姿を見ていた訳ではない。

 20階までの浅い階で初級ポーションの材料を採っている姿ばかり見ているんだろう。

 彼らは自分たちよりも明らかに弱い俺を馬鹿にして悦に浸っているんだと思う事で聞き流す。

 ただその噂というのが嘘ではないから否定し辛かった訳だけど。


「なぁ知ってるか? あいつ能力者なのに真面なスキル1つ持ってないんだぜ」

「聞いた聞いた。魔法も撃てないんだろ? どうやってモンスターと戦うんだよ」

「なんでも短剣でちまちまと殴り合うんだって」

「うわだっせ。せめて大剣でも使えば見栄えもするのに」

「貧乏だから無理無理。大剣は中古でも20万以上するし」

「確か前はこん棒を使ってたって話だぞ」

「まじで!? こん棒でモンスターと戦うなんて都市伝説だと思ってた」


 貧乏で悪かったな。

 こっちはお前達と違って道楽でダンジョン探索をしている訳じゃない。

 今時代、子供でもお金を稼げる方法がダンジョンで薬草採取をすることしかなかったんだ。

 最初はモンスターに見つからないようにこっそりと歩き回り、小学校低学年からはモンスターをこん棒で撃退しながらダンジョンを周っていた。

 そのお陰で素早さと器用さは大人にだって負けないレベルになったと思ってる。

 攻撃力だって、少なくとも俺から上前を掠め取ろうとする根性の腐った奴を返り討ちにしてダンジョンに埋めるくらいは出来る。

 まぁもっとも、そういう腐った奴は中層にすら行けない底辺能力者なので倒しても自慢にもならない。

 むしろ下手に自慢して奴らが徒党を組んで襲って来られても困るから侮られてるくらいの方が良いんだと、子供ながらに自分を納得させていた。

 ただ、それでも思ってしまうのは。


「なんで俺は何も能力が使えないんだろう」


 やっぱりこう、能力者として生まれたからにはアニメに出てくるようなド派手なスキルでばったばったと敵をなぎ倒し、一気に魔法で数百体のモンスターを消滅させるような、そんな能力が欲しい。

 その願いも虚しく使えるのは基本の強化のみ。

 中学に上がったのをきっかけに奮発して武器をダンジョン産の素材を使った短剣にグレードアップしたけど、スキルが無いと下層が限界。深層では手も足も出ないだろう。

 刀とかちょっと憧れるけど先輩の探索者に聞いたところ、刃筋を立てられないとただの脆い鈍器になってしまうそうなので、まずは短剣でモンスターを両断出来るようになってからだ。



~~ 京都ダンジョン49階 ~~


 転送ゲートから遠い階は比較的空いている事が多い。

 学校が休みの今日、俺は早い時間からダンジョンに潜りせっせと経験値稼ぎに勤しんでいた。


「雑誌の話が本当なら強いモンスターと戦う事で新たなスキルを憶えられる可能性が高そうなんだけど」


 というか雑誌ってどうして「きっと」とか「かも!?」とかを多用するのか意味が分かんない。

 そうかと思えば難しい言い回しをしてよく分からない部分もあるし。

 まあそれでも全くのデタラメを書いてるって訳でもないと信じて頑張るだけだ。


「キシャシャシャシャ」

「ワーカーアントか」


 蟻型のモンスター、ワーカーアント。

 硬い外殻に強靭な顎を持つ全長50センチほどのモンスターだ。

 その最大の特徴は群れで行動すること。


「10、20、30体近く居るのか。

 こういう時、魔法で一掃出来たら楽なんだけど。

 てい『ファイヤーストーム』!って無理だよな」


 試しに左手を前にかざしてみるも何かが起きる予感はない。

 まぁ分かってはいた事だけど。

 魔法を使える人曰く、使える魔法はある日ぽっと頭の中に浮かんでくるらしいのだ。

 それが無いのに見様見真似で魔法を使おうとしても当然何も起きない。

 俺が今出来るのは魔力で全身と装備を強化する、能力者としては誰でもできる一番基本の技だけだ。

 俺は短剣を構え足に力を籠めてワーカーアントの群れに飛び込んだ。


「『次元斬』っぽい何か!」

シュパパパッ


 スキル『次元斬』なら1撃で全てのモンスターを真っ二つ出来るはずだけど、当然俺は使えない。

 でもこう言いながら剣を振るえばうっかり成功するんじゃないかなと淡い期待を寄せつつモンスターの首筋を短剣で切り裂いていった。

 結果は、失敗。

 やっぱりスキルも見様見真似では発動しないらしい。


「ふぅ」


 短く息を吐けば通路に居たモンスターが全て光になって消えて行った。

 この程度、経験を積んだ能力者なら誰でもできる。

 スキルが無いと2流止まりなのだ。

 落ちているドロップアイテムを拾いながら独り言ちる。


「やっぱり俺には才能が無いのかな」

「キシャ?」

「うそっ、もうお代わり!」


 顔を上げればさっきと同数、いやそれ以上のワーカーアントの群れが居た。

 こんな連続でモンスターの群れに遭遇することなんて滅多にないのに。

 逃走はまず無理。奴ら床だけでなく壁にも張り付いて包囲してくるし、やるしかない。


「次元斬がダメなら『乱れ千本桜・花吹雪』っぽいやつ!」


 動画で見た『魅せスキル集』の代表格の名を言いながら縦横無尽に跳ね回ってひたすらにモンスターの首を刎ねて行く。

 その途中、通路の奥にひときわ大きい光が見えた。


「キシャーーーッ」

「げげっ。クイーンアント!? ボス級じゃないか」


 その名の通り蟻の女王。

 他のモンスターとは異なり『産卵』によりワーカーアントを始めとした蟻系モンスターを大量生産するモンスターだ。

 放置すれば手が付けられなくなる。


「今ならまだ手薄だ。やろう」


 スキルが使えない俺は魔力消費というただその1点だけは他人よりも勝っている。

 つまり大物相手は厳しいけど、こういう小物で数が居るタイプは得意だ。

 生まれてすぐの個体は戦闘経験がなく本能だけで攻撃してくるから動きが単調だし、今の俺でも十分勝機はある。


 なんて。

 どうやら思い上がっていたようだ。


「ぐふっ」


 俺は脇腹を大きく抉られて吹き飛ばされていた。

 まさかクイーンの奥にキングアントまで居るとか反則すぎ。

 クイーンに止めを刺して油断したところを横からグサッとやられた。

 攻撃に魔力を集中していたとはいえ、たった1撃でこのダメージ。

 防御系スキルが無いから仕方ないと言えばそうなんだけど、失敗したな。


「はぁ、はぁ」


 よろよろと何とか立ち上がって短剣を構えたけど、次の1撃を受けきれる自信は無い。

 万全の状態なら逃げれたかもだけど、今はそれも厳しいか。

 


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