表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/41

(21)新人研修(前編)

 探索者ギルドというのは幾つもの業務を行っている。

 一番重要なのはダンジョンで手に入れた素材の買い取り並びに加工会社などへの販売だ。それをしてくれないと探索者達のほとんどは食っていけなくなる。

 続いてポーションを始めとした各種アイテムの販売。

 これは探索者向けに融通してくれている面もあれば探索者に払ったお金の回収を行っているとも言える。

 幸いギルドで扱っているポーションの質は悪くなく『正規品』として認識されているし、市場に出回っているポーションの中には粗悪品が混じっている事も多い。

 そして3つ目。人材の斡旋。

 探索者っていうのは要するにダンジョン探索が出来る程、戦闘力を持った能力者のことだ。筋力や体力なども一般人よりずば抜けているし引く手数多だ。警察や軍に所属する人も多い。が、そこは斡旋等しなくても本人が直接面接に行けば通るので問題ない。

 ギルドが斡旋する先は関連企業や団体だ。

 例えばダンジョン配信を売りにしたメディア会社。探索者アイドルグループなども半数近くがギルドが仲介している。

 他には民間レスキュー組合。民間レスキューになる為にはまず資格を取得する必要があるので、見込みのある探索者に資格を取らないかと持ち掛けたり、関連セミナーの開催、講師の募集斡旋なども行っている。


【新人レクチャー依頼】


 そんなタイトルのメールを送り、ベテランのレスキュー員に新人や候補生の指導を行う事も隔週くらいのペースであったりする。



~~ 京都ダンジョン19階 ~~


 今俺の目の前には20代前半の男女が6人、若干の期待と緊張を持って並んでいた。

 彼らはレスキュー資格の仮免許状態で、数か月様子を見て問題が無ければ本格的に民間レスキューとして活躍して行くことになる。

 端末の時計から目を離し、彼らに対し今日初の言葉を投げる。


「俺は民間レスキューの井上だ。

 これから2時間、お前達の教官を務める。

 分からない事や気になったことがあれば遠慮なく聞くように」

「「はい」」

「俺からは教本に載っている内容もあれば、俺独自の考え方や行動方針も伝えていくので今後のレスキュー活動の参考にして欲しい。

 では最初に、ここダンジョン19階に集まってもらった意味が何か分かる人は居るか?」

「「……」」


 俺の問いかけにお互いの顔を見る候補生たち。

 日本人らしい行動と言えばそうなんだけど、まぁ怒るほどでもない。


「間違っていても何か減点される訳じゃないからな」

「えと、じゃあ」

「どうぞ」


 おずおずと手を挙げた男性に回答を促す。


「俺達の実力を確認する為、でしょうか」

「そこはそんなに心配していない。全員が31階に行ける実力があるのは分かっている」

「あの、なら最初時計を気にされていたみたいですし、私達が時間通りに行動出来るかチェックしてたとか」

「うん。時間を守るのは社会人として大事だな。他には?」

「準備運動」

「それもありだな」

「教官の気まぐれ」

「18階でも良かったという意味ではそうだな」

「はい」


 最初の1人から幾つか回答が出た後、ひとり見覚えのある女性が手を挙げた。

 俺と護衛契約を結んでいる鈴木さんだ。

 ミスティと呼ぶべきかなとも思ったけど、俺もそうだけど探索の時とレスキューの時は呼び方を分ける場合が多いから鈴木さんだな。


「どうぞ鈴木さん」

「転送ゲートが近いからでしょうか」

「近いな。

 正解は、この辺りの階が俺がレスキュー活動を行う上での待機階だからだ」


 救助要請自体はいつどのタイミングで出されるか分からないし、その為だけにスタンバイしている訳にはいかない。

 だから探索活動もしつつ、救助要請が出た場合に迅速に現場に駆け付けられるようにする訳だ。

 それが待機階。


「あの、それなら転送ゲートのある21階とかの方が良いんじゃないですか?」

「それも悪くないな。

 ただその場合、20階で救助要請が出た場合はどうする?

 ボス部屋の出口ってのは基本一方通行だからな。21階から上がる訳にはいかない」

「あ、確かに」

「その点、19階なら20階にも近いし、21階以降もボス部屋を突破して行けば駆け付ける事が出来る。

 20階ボスならそれ程時間も掛からず突破できるだろ?」

「ま、まぁそう、ですかね」


 ん? 若干歯切れの悪い答えが返って来たけど大丈夫か?

 ちなみにレスキュー資格を取る為には自力で31階に到達している必要がある。

 救助する側が実力不足で逆に足手まといになったりしてはいけないからな。

 だからここに居る6人も20階ボスを単独で踏破するくらい余裕の筈なんだが。


「あの教官。普通ゲートまでの近道だから、と言ってボス部屋に突撃する人は余り居ないと思います」

「え、そうなのか」

「はい」

「「(うんうん)」」


 なんてこった。

 俺は普段から19階とか29階とか49階で探索してる時は帰りは近いからってすぐ下のボス部屋を通って帰宅してるんだけど、最近の人達はそんなことはしないのか。

 俺が彼らくらいの年の頃は誰でもやっていたというのに。

 くっ、これがジェネレーションギャップというものか。


「20階で救助したのに11階の転送ゲートまで登るのは時間が掛かるしお勧めはボス突破なんだけどな。

 だけど安全第一だ。

 どうするかは自分の実力と相談して欲しい」

「「はい」」

「では次の問いだが、えっと山岸さん。君がレスキュー協会に申告している救助可能階を教えてもらっても良いだろうか」

「はい。私は33階です」

「ありがとう。では救助要請が39階で出されたらどうするべきだろうか」

「それは……」


 ちょっと意地悪な質問だ。

 救助可能階が33階ってことは最高探索階数は+5の38階が精々だろう。

 それより深い階で救助を求められたら助けに行っても良いものか難しいところだ。

 だが実際そういったケースは多い。


『自分にもう少し実力があれば』

『あの時もう1本ポーションがあれば』


 みたいな話は枚挙に暇がない。

 俺だって過去に何度もそういう思いをしてきたし。


「私は救助に向かいたいです。

 やっぱり助けを求める人が居るのに何もしないのは嫌ですから」

「レスキュー協会の規約違反になるけど、それでも?」

「それでもです」

「ふむ」


 立派な青年だ。

 自分の正義を曲げたくないという強い意志を持っている。

 きっと彼は良いレスキューになるだろう。

 ただし生き残れたら、だけど。


「君の勇気を否定しない。しないが、もし仮にその時俺が君のパーティーメンバーで君と一緒に居たら、君を引き留めるだろうな」

「……理由を聞いても?」

「単純にミイラ取りがミイラになるからだ。

 君の普段の実力なら39階まで行けるかもしれない。

 だけどレスキュー活動は時間との勝負だ。

 スピード重視で移動するとなれば周囲への警戒も薄まるし腰を据えてモンスターを討伐するって訳にもいかない。

 結果として39階に到達する前に命を落とすか、君自身が救助要請を出すことになる。

 運よく要救助者の元に辿り着けたとしても今度は負傷者を抱えての撤退戦だ。

 まず間違いなく転送ゲートまで辿り着けない」


 単純な探索と救助では難易度も違うし必要な技能も違う。

 普段50階近くまで探索できる人が32階の救助に向かって帰らぬ人となることだってある。


「なら見殺しにするしかないってことですか?」

「そうだな。自分の実力不足を嘆いてくれ」

「ぐっ」


 悔しそうに歯を食いしばってるけど、ちょっと厳しく言い過ぎたか。

 でも事実だし二重遭難みたいになられても面倒が増えるだけだからな。

 それでも妥協案くらいは出してやるべきか。


「どうしても何かしたいっていうのなら」

「え、はい!」

「33階の階段付近まで行って、他のレスキュー員が要救助者を33階まで護送してきた所に合流するっていうのはありだな」

「確かにそれなら私でも出来そうです」

「ただその場合、レスキュー活動で支払われるお金は現場まで行ったレスキュー員のものだからタダ働きって事になるぞ」

「それでも良いです」


 悩んでいた顔が明るくなった。

 これなら実際に例に出したような状況になっても無理して突撃する心配は減るだろう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 山岸くんのようなひと好きだなぁ おじさんも教官役として優しい説明もしていて好感持てます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ