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(20)トラップ階(3)

~~ 京都ダンジョン52階 ~~


 四つん這いになりながら全員の応急処置を終わらせた。

 さて、1度はモンスターの襲撃を退けたとはいえ、これからどうするか。

 救助信号は出しっぱなしにしてあるから、他のレスキューが応援に駆け付けてくれるかもしれない。

 なんて期待は実は出来ない。いや出来ないというか無いとはっきり言うべきか。

 なぜなら俺達民間レスキューは専用のチャンネルを持っていて必要に応じてダンジョン内に居る他のレスキューに応援を頼めるからだ。

 そして今この京都ダンジョンに居るレスキューメンバーで52階まで来れる人が居ない事は判明している。

 なので自力で脱出しないといけない。


(だけどなぁ)


 ちらりと今回の要救助者達を見れば、応急処置は済んだとはいえ1人は早めに病院に連れて行きたい。

 他にも自力で動けない人が居るのでその人達を背負って運ぶ必要があるんだけど、運ぶ人は戦えないし動きも遅くなる。

 そうなると移動中戦力になるのは俺と向こうのリーダーだけ。

 そのリーダーも見たところソロでこの階を歩き回るのは厳しいレベル。

 残念だが背中を預ける訳にはいかない。

 この状態で生還するのは色々大変だ。


「そういえばそっちのリーダーの名前は?」

「ガッシュだ」

「じゃあガッシュさん。1つ確認したい。

 今からダンジョンを脱出するまでの間、チーム全員が勝手に行動せず、俺の指示に一切の躊躇なく聞いて従う気はあるか?」

「は? それはどういう」

「この先、何か指示する度に反論されたり、指示に従わなかったりされると全滅する危険がある。

 だから指示に従いたくないのであれば先に教えて欲しい」

「それはあなたの指示に従えば確実に助かるってことか?」

「確実ではない。残念だがそんな保障は出来ないな」

「おい、んな馬鹿な事があるかよ!」


 俺の答えに他のメンバー(たしかギガンツだっけ)が怒って立ち上がった。


「レスキューは俺達を救助するのが仕事だろ?

 なら責任もって助けろよ」

「うん。そう言いたくなる気持ちは分かる。

 だけど危ないからな。

 まずは落ち着いて座ってくれ」

「こんな時に座ってられるかよ!!」


 うーむ。冷静じゃない奴に冷静になれって言ってもやっぱり無理だよな。

 分かってはいる事なんだけど困ったものだ。

 まぁでも、今でも正気を保っているだけも彼らを褒めるべきか。

 ここに至るまで何度も殺されかけた筈だし、さっき逃げて行った奴みたいに恐怖に負ける方が普通だ。

 問題は普通の精神だと下層は生きていけないってだけで。


「もう一度言うけど、座らないと死ぬぞ?」

「はぁ!? ふざけんじゃ、うおっ」

ひゅんっ


 反論しようとするギガンツに足払いを掛けて背中側に引き倒せば、頭があった位置を矢が通り過ぎた。

 矢を放ったのは当然、モンスターだ。


「ケッケッケッ」

「くそっ、またモンスターの襲撃か!」


 不気味な笑い声と共に現れたモンスター達を見て、ガッシュ達が慌てて立ち上がろうとするが俺はそれを手で制して自分だけ立ち上がった。


「さっきも言ったけどここはトラップ階なんだ。

 特定の条件を満たすとモンスターが積極的に襲ってくる。

 今はそう『元気に立っている奴が居たら』がその条件だ」

「そ、それで座れって言ってたのか」

「まあな。ついでに言うと立っている奴が積極的に狙われる」


 言っている間も唯一立っている俺目掛けて何本も矢が飛んできているが、冷静に見れば座りこんでいる要救助者たちに向けられていない事も分かる。


「そういう訳だから戦闘は俺に任せて、流れ弾に当たらないように自分たちの身を守っててくれ」

「分かった。しかしどうするんだ。

 また短剣を投げて吹き飛ばすのか?」

「いや、その手は何度も使えないから別の手で行く」


 俺はそれまで矢を叩き落す為に振るっていた剣を仕舞った。

 そして飛んできた矢に手を伸ばしてそれを投げ返す。


ドスッドスッ

「グゲッ」

「ギガッ」


 弓で射るのに比べると威力が落ちるけど、この階のモンスター相手なら十分なダメージになる。

 元手はタダだし、残弾は敵が補充してくれるから心配する必要も無い。

 これまで叩き落した分の矢も足元にあるから今なら敵より手数が多く出来る。


<飛んでくる矢を投げ返すとか化物か>

<撃ち落とせるんだから矢が見えているのは確かだけど掴めるかは別>

<そして投げ返した方が威力があるw>

<モンスター涙目>

<やっぱりレスキューは人外揃いか>


 何やら変な噂が流れているようだが聞かなかったことにしよう。

 それはともかく、このままでは勝ち目が無いと悟ったモンスターが接近戦に切り替えてきたようだ。

 もちろんそれは悪手だが。


「はいはい、出直しておいで」

「ッ」


 剣の間合いに来たモンスターは声を上げる間もなく光に変わり、それを見た残りのモンスターも形勢不利と見て撤退していった。

 俺は盾を構えて縮こまっている救助者たちに振り向き、再度質問を投げかけた。


「それでどうする?

 指示に従いたくないというのなら置いて帰るんだけど」

「従う。いや、従います」

「さっきは悪かった」


 お、どうやら今の襲撃でだいぶ落ち着いてくれたようだ。

 これなら大丈夫そうだな。

 若干その、怯えた目を俺に向けてくるのが気になるが従ってくれるなら問題ない。


「よし。じゃあ敵が後退した今のうちに移動を開始する。

 移動の仕方は全員四つん這いになって、ガルムさんとギガンツさんは重傷者を背中に乗せて運んでくれ。

 ガッシュさんは最後尾で後ろに盾を構えて矢が飛んできても防げるようにして欲しい」

「分かった」


 俺達はゆっくりと、しかし確実に階段に向けて移動を開始した。

 速く動けばやっぱりモンスターが襲ってくるだろうからな。

 途中、分岐がある度に止まり、脇道にモンスターが潜んでいない事を確認してから先に進む。


「そういえば井上さん。トラップ階って何なんだ?」


 沈黙に耐えられなかったんだろう、ガルムが俺に問いかけてきた。

 俺は歩みを止めずにそれに答えた。


「一言で言えば、その階全体で1つのトラップになってる階の事だな。

 種類は色々あるけど、ここの仕組みで言うと、まず行きと帰りで通路の見え方が変わるんだ」

「あ、そういえば最初1本道だったはずなのに、戻ろうとしたら道が複数に分岐してたな」

「小文字のyをイメージすると分かりやすい。右上部分から下に向かって進む時は左上に向かう道は意識しにくいんだ。逆に下から上に向かうと左上と右上両方が見えるようになる」

「なるほど」

「で、正解のルートをモンスターで塞いでやれば、簡単に間違ったルートに進んでくれるから、後は救助要請を出す程度にダメージを与えて、逃げようとしたら襲撃して更に奥へと追い立てる」

「このトラップ考えた奴は悪魔だな」

「歴史書見たら時々出てくる手法だぞ。

 あともっと深い階に行くと更にエグいのもある。

 防火シャッターが閉まるように常に後ろの道が塞がれて前進し続けないと行けないところとかな」

「うへぇ」


 即死トラップのオンパレードで無い分、まだまだなんだけど、そこまでは言わなくて良いだろう。


「あとこの階の情報は既に探索者ギルドに報告済みだから、今後は新しい階に行く前にギルドで情報を仕入れておくことをお勧めする」

「わ、わかった」


 大掛かりなトラップであれば、事前情報があるだけでだいぶ回避が楽になるからな。

 今回の彼らも知っていれば真っすぐ撤退出来ていたはずなんだ。


「さて、お喋りはここまでだな」

「ん?」

「本道に到着だ」

「「うげっ」」


 階段へと続く通路まで戻って来た。

 しかし当然そこには俺達を逃がすまいと大量のモンスターが道を塞いでいた。

 顔を出した瞬間、雨のように降り注ぐ矢。

 しかも上り階段側と下り階段側の両方から飛んでくるので俺一人では片方を処理している間に背中が蜂の巣だ。


「井上さん、どうするんだ?

 って、後ろからも来た!!」


 ここまで戻って来た道からもモンスターが来たようだ。

 カツンカツンとガッシュの持っている盾に矢が当たっている。

 これはもう、リスク覚悟で行くしかないかと思った矢先。

 ダンジョン内に大きな声が響き渡った。


「はーっはっはっは。真打とは遅れて来るものだぜ。待たせたなエンカさん!!」


 上り階段側のモンスターを蹴散らしながら現れたのは、身長2メートル近い熊。

 彼は現れた勢いのまま下り側のモンスターも倒してくれた。

 それを見た俺は急ぎ全員を上り階段側の通路に進ませ、後ろから迫っていたモンスターを殲滅した。

 戻ってみんなと合流し助っ人に来てくれた熊と握手を交わす。


「助かりました、熊五郎さん。ナイスタイミング」

「おう。エンカさんには沢山借りがあるからな。

 間に合って良かった。

 これでようやく1つ返せてほっとしたぜ」


 そのやり取りを見た要救助者たちは口をぽかんと開けていた。

 熊五郎さんは彼らを見てにっと笑いながらグーサインを出した。


「ようお前達。よく頑張ったな!」

「あ、はい。ってもしかしてチーム【ビーストマスター】の熊五郎さんですか!!」

「おっ、俺の名も少しは売れてきたようだな」

「そりゃ関西でもトップ5に入る攻略チームなんだから当たり前ですよ」

「はっはっは。上には上がいるけどな。

 と、そんな話は後にしよう。

 転送ゲートまで行くんだろ? 先導するから付いて来な!」


 渋い笑顔を残して走り出す熊五郎さんを先頭にしてダンジョンを走り抜ける。

 俺は最後尾から追いすがってくるモンスターを叩き返し、脇道から出てくるモンスターを蹴散らして安全を確保する仕事だ。

 やはり実力者が1人増えるだけで戦況は大きく変わる。

 その後は大した危険も無く無事に51階の転送ゲートに到着したのだった。


「ありがとうございました」

「おう。早くその嬢ちゃんを病院に連れて行ってやりな」


 1階へと戻る彼らを見送った俺は改めて熊五郎さんにお礼を言った。


「今日は休日だったのに呼び出しに応じてくれてありがとうございます」

「なに。困った時はお互い様さ。

 それにエンカさんには駆け出しの頃に何度も助けてもらったんだ。

 呼んでくれれば俺達はどこへだって駆け付けるぜ」


 じゃあまた今度酒でも飲もうぜと言って熊五郎さんも帰って行った。

 いつもながら渋い人である。

 あ、ちなみにあの熊の姿はビーストフォームっていうスキルで変身した姿で本来は30半ばの普通の男性だ。

 ダンジョン内ではずっと変身したままなので素顔を知らない人は意外と多いと思われる。



元の構想では格好いい勇者系探索者の助っ人が来るはずだったのですが何故か熊に……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 熊五郎さんかわいいよ熊五郎さん
[一言] 変身すると、2次元子狐を抱えた、両肩と頭上に2次元子狐がいる7歳位の狐耳美幼女(口調や仕草や思考や感情が外見相応)になる無尽蔵の狐の召喚と使役ができるスキル・・・・・・・・・・・・・・・・・…
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