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(19)トラップ階(2)

~~ 京都ダンジョン52階 ~~


 2日前に50階ボスを突破したチーム【地獄の番犬(ケルベロス)】は、今日は更に到達階数を増やすべくダンジョンにアタックしていた。

 先月は大阪ダンジョンで60階ボスを突破したチームが現れ、それを追いかけるように先々週は東京ダンジョンでも60階ボスが突破され配信業界を賑やかせていた。

 彼ら、特に関東には負けられないと京都ダンジョンを中心に活動している自分達も気合を入れてきた訳だ。

 転送ゲートで51階に降りてきた彼らは、たった2回だけモンスターと遭遇するもあっさりと蹴散らし、すぐに階段を見つけて52階へと到着した。


「51階も楽勝だったな」

「ああ。前評判通り50階と比べても特に強かった印象は無かった」

「このまま60階まで行けちゃうんじゃね?」

「もう調子に乗らないの!」

「そうそう。油断大敵」

「大丈夫だって。女子は心配性だな~」


 楽観的な男子4人と慎重派な女子2人とある意味バランスの取れたチームだ。

 当然探索姿は配信されており、多くの視聴者が彼らの様子を見て自由にコメントを入れている。


<進める時って一気に進めるよな>

<前の階で苦手なモンスターに苦戦してたけど、それ以降は得意なのばかりってケースは良くある>

<たった20分で51階層突破出来たし、このペースで行けば本気で60階層も行けそう>

<マップ情報って流れて無いの?>

<先日ダンジョンの休日あったしなぁ>

<京都ダンジョンでこの先行けてるチームって他に居たっけ>

<【神罰パニッシュ】が57階だったかな>

<うん、でも無理はしないって階段の位置だけ把握してあの日は帰ったはず>

<実力の割に慎重派だよな>

<その点、ケルベロスはイケイケで好き>

<毎回女子2人が大変そうだけど>

<番犬と飼い主>

<飼い主乙w>


 52階は緩やかなカーブを描く1本道だった為、そうやって和気藹々と雑談する余裕があった。

 途中までは。


ひゅひゅひゅっ

「「!!?」」


 突如通路の奥から多数の矢が飛んできて彼らを襲った。

 足音や気配がしなかったことから、待ち伏せされていたらしい。


「みんな無事か!?」

「なんとか」

「こっちも掠っただけだ」

「スケルトンアーチャーの群れか。厄介だな」

「俺が突撃する。みんな援護を頼む」

「わかった!」


 盾役のリーダーが前に出て敵の注意を引き付ける。


「【ファイアランス】」

「【ストーンバレット】」


 魔法使いの2人が放った魔法がリーダーを飛び越え敵を吹き飛ばした。


「よし。52階も勝てるぞ」

「もらった!」

「アーチャーなんて近づけたら余裕だぜ」


 最初こそ先手を取られたが、無事に剣の届く所まで接近することに成功し、気持ちよくモンスターの群れを粉砕していた。

 その時。

 脇道から流れるように出てきたモンスターが背後からリーダーに襲い掛かった。


「あぶないっ!!」

ぐさっ

「う、ぐっ」

「ユリナ! くそ、このっ」

「ギヒッ」


 中衛で全体を警戒していたユリナが割り込み、リーダーを庇って凶刃を背中に受けた。

 それに気づき慌てて振り返ってモンスターを倒すも、ユリナは力なく倒れた。

 抱き起こした手には彼女の血がべっとりと付着していた。


「しっかりしろ、ユリナ」

「う……」

「良かった、まだ息はある。

 ポーションだ。飲めるか?」


 ストレージから中級ポーションを出して飲ませれば、何とか一命は取り留めたようだった。

 その頃には前方の敵を蹴散らしていた2人も戻ってきていた。


「ユリナは無事か!?」

「ポーションを飲ませて何とか助かったが早く治療を受けさせた方が良さそうだ」

「よし、なら今日の所は撤収だな」

「ガルム、ユリナを背負ってくれるか?」

「オーケー」


 若手チームとは言え、ここまで来れる実力者だ。

 撤退の判断も早い。

 剣士の1人、ガルムが負傷したユリナを背負い彼らは元来た道を戻った。

 いや、戻ろうとした。


「……な、なぁ。ここまで1本道だったよな?」

「ああ。そのはずだが……」

「分岐が。私達左右どっちから来たんだっけ」


 行きの時との違いに戸惑う彼ら。

 そして追い打ちを掛けるように左の道の奥からモンスターが近づいてくるのが見えた。


「くそっ。右に行くぞ」

「「はいっ」」


 負傷者が居るので極力モンスターとの戦闘は控えたい。

 またここまで来る間にモンスターは居なかったのだから、右の道が正解だろうという考えもあった。

 しかししばらく歩いても上り階段は見つからない。


「どうなってるんだ一体」

「なぁ、マップはどうなってるんだ?」

「そうだよ。ドローンでオートマッピング出来てるんだからってまた敵が!」

「「「ゲッゲッゲッ」」」


 立ち止まってドローンカメラに蓄積されたマップ情報を確認しようとしたら狙ったかのようにモンスターが襲撃してきた。


「後ろからも!」

「前の方が手薄だ。突っ切るぞ」


 慌てて逃げて、逃げ切ったと思って立ち止まったらまた襲撃されてを繰り返す。

 全員が大なり小なり傷を負い、ポーションを飲む羽目になった。

 何とかマップを確認すれば、既に階段からはかなり離れた位置に来てしまっていた。


「万事休すか」

「もうあれしかないんじゃないか」

「いやでも、攻略チームとしてあれに頼るのは負けだろう」


 あれ、というのはそう救助要請のことだ。

 誰が言い出したのか攻略チームが救助要請を出すのは敗北宣言と同義らしい。

 彼らの中に残っているプライドがそれだけは避けたいと待ったを掛ける。

 だけどそういうプライドが強いのは男子だ。


「もうみんな。このままじゃ私達死んじゃうんだよ!

 生きていればまた挑戦するチャンスはあるわ」

「そう……だな。ありがとう、メル。

 よし、救助要請を出そう」


 女子の言葉に後押しされてリーダーは遂に救助要請を出す決断をした。

 しかしここは52階。

 攻略チームですら数える程しか50階を突破してはいない。

 なら救助要請を出しても誰も来ない可能性の方が高い。

 藁に縋るレベルだが、それでも救助要請を発信した。


<救助要請か。まぁ仕方ないな>

<でもこんなところまで来てくれるの?>

<レスキュー隊は100階まで対応してるってばっちゃんが言ってた>

<それは迷信を通り越して都市伝説だろw>

<そもそも100階で救助要請出した人が居ないw>

<あれ、でも先日関東のダンジョンで60階に来てくれたって聞いたけど?>

<京都ダンジョンにそんな強者が居たって話は聞いたことが無い>

<なら何とか自力で脱出するっきゃないか>

<頑張って、ケルベロスのみんな!>


 コメントの応援に背中を押されて階段に向けて移動を再開しようとするも、まるでそれをあざ笑うかのようにモンスターが道を塞ぎ攻撃してくる。

 幸いなのはモンスターはある程度攻撃をしたら引き上げて行く事だ。

 お陰で全滅せずに済んでいる。


「矢が尽きたのか?」

「いや、奴ら俺達が傷つき苦しんでるのを見て楽しんでるんだ」

「そんなまさか」

「あの笑い声はそうとしか思えねえ」

「俺達は奴らのおもちゃか!」


 疲労と痛みと絶望が彼らの心を押しつぶしていく。

 そしてポーションも尽き、心身ともに追い詰められもうダメかと思ったその時。

 通路の向こうから平淡な声が届いた。


「民間レスキューの井上だ」


 そう言って現れたのはどこにでも居そうなおじさんだった。

 救助に来てくれたという割には自分たちの事を見ない彼を不思議に思いながらも、気前よくポーションを出してくれるのでありがたく使わせてもらう。


(だけどこの人1人増えても無理じゃないか?)

(あんまし強くなさそうだな)

(最後の最後でハズレ引いたのかよ)

(だめだもう。俺達このまま嬲り殺されて終わるんだ)

(この人どうやってここまで来たのかしら?)

(……)


 それぞれの心の中で思うところはあるものの、そんなことはお構いなしにモンスターの襲撃はやってくる。


「ゲッゲッゲッ」


 ここまで何度となく聞いたモンスターの笑い声が彼らの心を襲う。

 止めとばかりに足元に刺さった矢を見たひとりが恐慌状態になって走り出した。


「ぎゃああっ。殺される。助けてくれ~~」


 彼が消えた通路の奥からは遠ざかる叫び声が、途中で途絶えた。

 どうなったかは確認するまでも無いだろう。

 しかし残ったメンバーも悲しんでいる暇はない。

 なぜならレスキューが来てくれたとは言っても、まだ助かる目途は立っていないのだから。



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― 新着の感想 ―
[一言] 52階まできてビビッて逃げて亡くなってしまうなんて情けないわねぇ 他のメンバーはおじさんの言うこと聞いててえらい
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