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(17)迷子の捜索

 人間の間に能力者が誕生するようになって50年。今では各地に能力者専門学校が小学校から大学までの一貫校として設立され、多くの子供たちが通っている。

 そしてその学校のカリキュラムの中には実習でダンジョンに潜るというものもある。


「では皆さん、絶対に先生から離れないでくださいね」

「「は~い」」


 新卒と思われる20代前半の女性教師に連れられて中学生くらいの子供たち10人がダンジョンへと足を踏み入れた。

 ダンジョン1階は転送ゲートもあり、大したモンスターも出ないことから探索者達の待ち合わせ場所としても使われている。

 その日もカルガモの親子よろしくやって来た学生たちは多くの探索者から生温かい視線で見送られていた。

 なお、初期の頃はともかく今は学生に絡む馬鹿は滅多に居ない。

 子供たちの様子はドローンカメラで監視されているし、大の大人が子供に絡むのは『弱い者いじめしか出来ないザコ』というレッテルを貼られて炎上一直線でデメリットしかないからだ。

 そして学生一行は1度もモンスターに遭遇することなく2階へと続く階段へとやってきた。


「これから2階に進みます。

 この先はモンスターと遭遇する可能性もありますので十分注意してください」

「はい」


 教師のそばに居る子供は大人しく従順に返事をする。

 基本的に戦闘に不慣れな子、苦手な子は安全圏となる教師の近くに居ようとするから当然だ。

 逆を言うと自分に自信がある子は最後尾にいる。

 

「小学生じゃないんだから2階3階のモンスターなんて余裕だよな」

「だよなー」

「というか、なんで今更4階に行かなきゃなんねえんだよ」

「実技のクソ鬼が休みだからだろ」


 いつもなら引率の教師は2人のはずが今日に限っては1人だけ。

 それが何を意味するかと言えばそう。


「前の奴ら放っておいて俺達だけで下の階に行こうぜ」

「俺ネットでドローンカメラの止め方調べて来た」

「先週兄貴に11階の転送ゲートに連れて行ってもらったから飛べるぞ」

「よっしゃ。なら行くか!」


 そうして後方に居た4人は列から離れ、来た道を戻って行った。



~~ 京都ダンジョン17階 ~~


 今日も今日とて俺はのんびりと薬草採集に勤しんでいた。

 まだ昼前のこの時間、ダンジョンに居るのは俺みたいな毎日のようにダンジョンに潜っている人間なので平和なものだ。

 彼らは自分が安全に探索が出来る階層っていうのを熟知しているから救助要請を出す様なヘマはしない。


ピピッ

【ダンジョンニュース】


 短い通知音の後、メッセージが流れた。

 これは救助要請とは違って緊急性はないもので、ダンジョン内でなにかお知らせがあった場合に流れてくる。

 で、この時間に流れるニュースと言えばあれだ。


【本日、ダンジョン学園京都校中等部2年の生徒10人が実習に来ています。

 探索予定は4階。

 同階を探索中の方は節度ある探索をお願いします】


 やっぱりか。

 午前中に探索していると時々こういうのが流れてくる。


「しかし中等部2年なのに4階か」


 中等部は5、6階を主に探索してると思ってたんだが。

 これもゆとり教育って奴だろうか。

 ちなみに初等部は4階まで、高等部は10階ボス討伐が目標だと聞いたことがある。

 他に高等部でもエリート科は20階ボス討伐が卒業条件らしい。

 まぁある程度実戦経験を積んで6人位のパーティーで挑めば20階くらいは楽勝だろう。

 いずれにしても引率の教師が付いているだろうし救助要請おれのでばんはない。

 そう、思っていたんだが。


ピピピッ

【捜索願】


 先ほどのニュースが流れてから1時間後、再び端末に通知が来たかと思えば余り見たくないタイプのものだった。

 内容を確認すればさっきのニュースにあった学生の内、4人が行方不明だという。

 仕方なく俺は探索を中断し、捜索用グループチャットにアクセスした。


<酒井:私はダンジョン学園京都校中等部教師の酒井と申します。

 本日ダンジョン実習に参加していた生徒の内、男子4名がはぐれてしまいました。

 手の空いている方は捜索にご協力お願いします>


 そんな内容から始まっているが、続くメッセージは荒らしというか冷やかしが多い。


<迷子乙>

<どうせもうモンスターに食われてるんじゃね?>

<ドローンカメラが止まってるんでしょ。無理無理>

<ダンジョン舐めるなって良い教訓だ>

<死ぬときは2階でも死ねるし>


 まぁ彼らの言ってることも間違ってはいない。

 今時代、遭難=ドローンカメラが止まってる=既に死んでいると考えるのが一般的だ。

 故意にドローンカメラを止めるのは犯罪者か自殺志願者かのどちらか。

 今回は1人ならともかく一度に4人となると犯罪者は考えにくい。

 となると無自覚な自殺志願者となる。

 残念ながらそんな子の為に捜索に向かう人はほとんどいない。

 見つけてもお金にはならないし。

 ……はぁ。

 俺は11階を目指して走りながら名前付きで書き込んだ。


<井上:酒井先生、あなたが今なすべき仕事が何か分かっているよな?>

<酒井:→井上 もちろんです。早急にはぐれた4人を見つけ出し合流することです>

<井上:→酒井 全然違う。出直してこい>

<酒井:なっ!?>


 予想はしていたけど、余りに馬鹿な回答をされて思わず辛辣に返してしまった。

 近年の学生の学力低下問題は生徒本人ではなくその親や教師に原因があると言われているけど、ちょっと納得だ。


<だはははっ。さすが井上氏>

<これは井上氏が正しいw>

<酒井せんせー、おかえりはあちらですよ>

<酒井:あ、あなた達、あの子たちの事が心配では無いのですか!?>

<え、なんで?>

<知らない子だしなぁ>

<4人全員のドローンが一斉に故障したとも思えないし自演なんでしょ?>

<ダンジョンでは毎日のように誰か死んでるし>

<いちいち心配したり悲しんだりしてたらキリがない>


 俺達からしたらそのはぐれた4人は顔も知らない赤の他人だ。

 例えるならテレビのニュースでどこか遠い国で殺人事件が発生しました。あなたは泣けますかって聞かれているようなものだ。残念だが俺達はそれで泣ける程感受性豊かではない。

 しかも今回は無差別殺人などではなく、自分から殺してくれって殺人鬼の元に向かった子供たちなのだ。

 悲しむ以前の問題だと思う。


<井上:酒井先生。また1人生徒が行方不明になってませんか?>

<酒井:えっ、うそっ!?……ってちゃんと6人とも居るじゃないですか!!>

<あら珍しい>

<てっきり正義感の強い馬鹿が1人で捜索に行ってるかと思ったのに>

<てっきり緊張感のない馬鹿をモンスターが食べてる頃かと思ったのに>

<てっきり馬鹿な教師を見捨ててみんな好き勝手行動してるかと思ったのに>


 ちなみに何か確信があってそんな質問をした訳ではない。

 ただこの残念教師がチャットに意識を向けている間、一緒に居る生徒は危険なダンジョンの中で野放しに近い状態だけど大丈夫なのかという事を伝えたかった。

 だけど全然伝わってる気がしないな。


<井上:酒井先生。遠回しに言っても伝わらないようなのではっきり言いましょう。

 あなたがその場に留まるのは一緒に居る生徒6人を危険に晒すだけだ。

 生徒の事を想うのであれば冷静かつ迅速にその6人を連れてダンジョンから脱出しなさい>

<酒井:あ、あなたは生徒4人を見殺しにしろと仰るのですか!>

<井上:俺は同じ言葉を繰り返す気は無い。交信を終了する>

<酒井:ちょっ、待ちなさい!>


 俺はチャット画面を閉じて息を吐いた。

 これ以上あの教師に何を言っても無駄だろう。

 無事に向こうに居る子供たちがダンジョンの外に出れていれば良いが。


「はぁ」

「よ、お疲れ」


 周囲には知り合いの民間レスキュー仲間の他、いつも京都ダンジョンで探索をしているメンバーが集まっていた。


「斉藤さんに皆さん。お疲れ様でした」

「まったくお前もよくやるよ」

「人のこと言えないだろ」

「ああ言う正義感だけ強い教師っていうのは疲れるな」

「全くです」


 無事に面倒な仕事を終えて、お互いの健闘を称えてハイタッチを交わしていく。


「じゃあ俺は探索に戻りますんで」

「俺はちょっと早いけど昼飯にするかな」

「お、じゃあわっちもご一緒するぜぃ」


 そこに集まっていた人達に手を振って別れ、俺は11階を後にした。



~~ 京都ダンジョン1階 ~~


「まったく井上とかいう探索者は何なのかしら。

 子供の心配も出来ないなんて大人の風上にも置けないわ!」


 怒り心頭ながらも酒井は生徒6人を連れて1階まで戻って来た。

 しかしその言動を見咎める人は誰も居ない。

 今朝通った時はそれなりの人数がここにたむろしていた筈なのだが。


「あら、変ね。誰も居ない」

「先生。なにかあったんじゃない?」

「だ、だだ、大丈夫よ。

 何かがあったとしてもダンジョンの外に出てしまえば良いんですから」


 酒井自身、不安を憶えながらも生徒の手前、気丈に振る舞った。

 だが、プロの探索者からしたら酒井の言い分は間違っている。

 なぜならダンジョン内で何か異変があったのなら、端末に通知が来るからだ。

 通知が無いという事はむしろダンジョンの外に何かあったと考えるべきなのだ。

 ともかく彼らは慎重に慎重を重ねて出口へと向かい、そして転送ゲート部屋の前でそれを見つけた。


「え、あなた達、どうしてここに!?」

「「先生、みんな!」」


 そこにははぐれた筈の4人が衣服をボロボロにした状態で座りこんでいた。

 4人は酒井の姿を見つけると慌てて立ち上がって駆け寄って来た。


「先生、心配かけてごめん」

「俺達、転送ゲートで11階に行ってて」

「めちゃくちゃ強いモンスターに襲われて死ぬかと思った」

「探索者のお姉さん達が助けてくれなかったら絶対死んでた」

「そう。ともかく無事でよかったわ。

 詳しい話は後で聞くから、まずは学校に戻りましょう」

「「はい」」


 そうして酒井は無事に生徒を1人も欠けることなく学校へと戻った。

 はぐれた4人に話を聞いたところ、どうやら10人以上の探索者が彼らの捜索の為にダンジョン内を走り回ってくれていたらしい。

 後日、事の顛末をもう一人の実技教師に話したところ、酒井は激しく叱責された。


「井上って人に感謝するんだな。

 その人が居なければ4人どころか10人全員死んでたかもしれない」

「はぁ」


 その言葉の意味を理解出来なかった酒井は、後日また生徒を危険に晒すことになるのだった。



今回の話は幾つかルートがあったのですがこちらになりました。

ちなみに他のルートとしては迷子になった子供たち中心で、

・モンスターに襲われたところを救助された

・犯罪者系探索者に襲われたところを救助された

・主人公に叱られてボコボコにされた

などがありました。

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― 新着の感想 ―
[一言] あら~どのルートも呼んで読んでみたいですわね
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