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(15)寄り道

 静岡県、静岡ニュータウン駅。

 ここは過去の災害で壊滅した後、再建され規模は数倍になっている。

 ついでに立地も元の静岡駅よりだいぶ東に移動し、富士山を一望できる観光スポットになった。

 

「急ぐ旅でも無し、ついでに観光もしていくかな」


 元々お土産でも買おうかなと思って降りただけだったけど、普段何かきっかけが無いと1人で旅行とかしないし、こういう時くらい羽目を外しても良いだろう。

 駅には近隣の案内板があったので、それを見ながら近場で良さそうな場所を探す。

 こういう所にネットに載ってない情報があったりするのだ。


「えっと、静岡ダンジョンに富士ダンジョン、樹海ダンジョンか。

 って違う違う。

 これは観光であってダンジョン巡りではない」


 職業病というかついついダンジョンを探してしまった。

 案内板にはポップなご当地モンスターのイラストなんかも描いてあるけど、こういうのって遭遇したら絶対似てない奴だ。

 ともかくダンジョンから目を離し他に何か良いものは無いかと探した結果。


『青木ヶ原自然公園』


 これなんか良いんじゃないか?

 普段ダンジョンと人工の建物ばかりに囲まれている毎日だ。

 旅行先でくらい自然の中に身を置くのも良いだろう。

 ということで1階のレンタルサイクル店で自転車を借りていざ出発。

 レンタカー? 免許は持ってるけど完全ペーパーだからパス。

 都会だと車は渋滞するし駐車場は無いしで敬遠されがち。

 体力のある能力者は自転車でも十分にスピードが出るから車よりも早く目的地に着ける。


「~♪~♪」


 鼻歌を歌いながら自転車を走らせればすぐに街の外に出た。

 今の時代、都市部は建物が密集してるけどそこから離れればすぐに畑が広がり、更にその先には厳重なバリケードと検問がある。

 検問と言っても平時は特に何もない。と思ってたら警備員に止められた。


「あー自転車の君。

 この先は特別警戒地域だ。

 狂暴な魔獣が出る場合もあるので自転車では逃げきれないかもしれない。

 街から出るのはお勧めしないよ」

「ご心配ありがとうございます。

 だけど俺、能力者なんである程度は自衛も逃走も出来ます」

「魔獣に遭遇した経験は?」

「過去に何度か」

「分かった。だがくれぐれも無理をしない様に。

 危険な魔獣に追われた状態ではゲートを通す訳にはいかないからな」

「はい。ご心配ありがとうございます」


 お礼を言って検問を通り抜けた。

 各街を繋ぐ道路はきちんとアスファルトで舗装されているが、その向こうは手付かずの大自然だ。

 道路の両サイドには魔獣避けの防護柵が造られている。

 壊されていないところを見るとそれなりに仕事をしているようだ。

 なお、ここで言っている魔獣というのはダンジョンに居るモンスターとは別の存在だ。

 50年前の災害から人間の中に能力者と呼ばれる普通ではありえない力を持つ者が現れるようになったわけだけど、それは何も人間だけに限った話ではない。

 自然界の動植物全てに等しく起きていた。

 植物で言えば、普通のニンジン畑を耕していたはずなのに1本だけ直径1メートルを超えるニンジンが出来たり、森の中に「世界樹か!?」と言いたくなる程巨大な木が出来たり、根を足のように動かして歩き回る植物が虫や動物を捕食したり。

 動物でも同様に猫がライオンよりも強くなるような巨大化、狂暴化などがよく確認されている。

 幸い都市部ではそういった現象は抑えられている、というか見つけ次第、殺処分しているので大丈夫だが、街の外、つまり先ほどのバリケードの向こう側は手が付けられていない状態なので恐竜王国さながらの危険地帯という訳だ。

 それとダンジョンに出てくるモンスターと地上に居る魔獣には大きく異なる点がある。

 それは魔獣は倒しても死体は残るって点だ。

 その特性を活かして魔獣を狩ってその肉や毛皮を高値で売り捌く、通称ハンターという職業の人たちが居る。

 当然ダンジョン探索者同様にハンターの配信者も居るので彼らがどんな活動をしているのかは誰でも知っている。


「あ、魔獣の肉は美味しいらしいのでお土産はそれでも良いかも」


 ただ素人が無暗に森の中に入ると帰って来れなくなるからダメか。

 流石の俺でも遭難はしたくはない。

 ハンターズギルドに行けば売ってくれるかな。

 なんて考えてるうちに自然公園に到着した。


「……公園?まぁ一応整備はされてるのか」


 大森林の中に遊歩道が設けられただけの場所だった。

 道の分岐には案内板があって現在地が分かるようになっている。

 それと一緒にトイレと自販機が置いてあって水分補給やお菓子が買えるようになっているので万一この付近で遭難しても餓死はしなくて済みそうだ。

 先に進めば本当に道以外は全部森。

 枝の間から差し込む太陽の光が心地よい。


「……」

ガサガサっ


 自分の気配を消して意識を広げると幾つもの生き物の気配がする。

 木の上を駆け回るリス。

 藪の中をちょこちょこ走る狸か狐くらいの小型の哺乳類。

 ちょっと離れて鹿や猪くらいの中型の哺乳類。

 空からは幾つも鳥の羽音が聞こえてくる。

 どれも街中やダンジョンには無いもので新鮮だ。

 自然が多くてマイナスイオンもたっぷり。

 平和だな。


ブブブブブッ

「ギギャギャギャギャ」

「……おいこら」


 巨大な羽音を鳴らし、変な鳴き声を出しながら巨大な影が俺の前に落ちて来た。

 その正体は虫。もっと言うならカマキリだ。ただし身長が俺より高いけど。


「まったく、俺の心安らぐひと時を返してくれ」


 言いながら短剣を構えるがしかし、奴の狙いは俺では無かった。


「ギッ」

「きゃああっ」

「!?」


 奴の鎌によって大木が切り倒され、それと同時に悲鳴が上がった。

 声の主は20歳くらいの女性。

 俺とは違って遊歩道ではなく森の中を歩いていたようだがさて。

 巨大カマキリの攻撃を、悲鳴を上げつつも避けた事から考えて常人ではないだろう。


「あ、そこの人! 出来たら助けて、ください。とおっ」

「ギギッ」


 向こうも俺に気付いて声を掛けてきたが、その間にもカマキリの横薙ぎをジャンプして避けていた。

 そのまま木の枝に飛び乗ってすごいスピードで逃げている。

 明らかに能力者。ここに居るって事はハンターだろうか。


「いや、助け要るのか?」

「カマキリの魔獣は正面からの切り合いにめっぽう強いんです。

 1人だと倒すの大変なんですよ」

「はぁ。仕方ないな」


 大変だってだけならきっと倒す手立ては十分あるのだろう。

 今だって危なげなく奴の攻撃を避け続けてる訳だし。

 ただこのままだと周囲の森林に甚大な被害が出てしまうので手を貸すことにした。


「作戦は?」

「おじさんが魔獣の正面で気を引いてる隙に私が後ろにまわって首を切り落とします」

「いやそれ完全に俺の方が危険だろうが」

「おじさん強そうだし大丈夫でしょう」


 などと言いつつ俺の後ろに着地した。

 すると当然魔獣は俺をロックオンする訳で。


「まったく。俺はただの観光客だっていうのに」

「ギッ」

キンッ


 ぼやきつつも振り下ろされた右鎌を短剣で受け止める。

 続く左鎌の横薙ぎを半歩下がりながら避け、右の切り上げを受け流し、左の唐竹割りを半身になって良ければ右の、って宮本武蔵もビックリの二刀流の超速コンビネーションだ。

 これじゃあ踏み込む隙が無い。


「ならば。はぁっ!」

キンッ

「!」


 俺の本気の一撃が止められた!?

 つい先日のダンジョン60階のモンスターなら剣ごと両断できたんだがな。

 こいつの鎌は70階、いや80階のモンスターに匹敵するかもしれない。

 うん……これ欲しいな。

 なら作戦変更だ。

 時間稼ぎに徹しようと思ったけど本気で行かせてもらう。


ブンッ、サク。

ヒュンッ、スパッ。

「ギィーーーッ」


 振り抜かれた鎌を追い越すように短剣を振り、鎌の根本の関節を切り落とす。

 どんな強力な魔獣でも関節は弱点だ。

 両手の鎌を切り落とされて悲鳴を上げる魔獣。

 だがそれでも逃げずに噛み付いてくるのは恐怖を感じない虫故か。


「ギギギ……」

ゴトリ


 首を切られて落ちる頭部。

 しかしそこで油断せずにバックステップで距離を取る。

 虫は首だけ、胴体だけでも短時間は動くことがあるから。

 と思ってたら俺のすぐ横に落ちてくる影。

 まさか新手か。

 違った、さっきの女性だ。


「おじさん。私の出番は!?」

「あ、すまん。ついな」


 久々の強敵に興が乗ってしまった。

 頑張って奴の隙を窺っていた彼女には悪い事をしたな。


「ところで報酬の分け前はどうする?」

「いえ。結局私は何もしてませんし」

「なら鎌の部分だけ貰っていいか?」

「ええ。って頭部は!?

 カマキリの魔獣は頭部が一番高価なんですけど」

「俺としてはこの鎌が欲しいんだ」


 改めて手に取ってみれば、軽くしなやかでそれでいて丈夫。しかも魔力伝導率も高い。

 形状も普通の鎌の逆、どちらかというと日本刀のように反っている。

 これなら上手に加工すれば今使っている短剣よりも良い武器になるだろう。


「それじゃあ俺は帰るよ。

 今日はありがとう」

「はい、こちらこそ」


 観光に来たはずが凄く良い拾い物をしてしまった。

 俺はこちらに頭を下げる彼女に手を振り、来た道を帰ることにした。

 あ、お土産買うの忘れないようにしないとな。



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