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(13)ライセンス更新(3)

~~ 東京ダンジョン60階 ~~


「俺は民間レスキューの井上だ。

 念のため確認だが、ダンジョン保険には入ってるな?」

「え、あ、ああ」


 なんとも頼りない返事が返って来た。

 もしかして頭を打って意識が混濁しているのかもしれない。


「初級ポーション飲むか?」

「あぁ。あるのなら頼む」


 おっと今度は意外としっかり頷いてきた。

 これなら大丈夫そうだな。

 さっきのは急に話し掛けたからか。

 俺は彼にポーションを渡しながら上体を起こして飲むのを手伝ってやる。


「ふぅ」


 一息つく彼には悪いが残りの3人もかなりダメージを受けているようだからそっちも早く治療してやらないと。

 向こうの方が後衛職らしく耐久力が低そうだ。


「ほら、ゆっくり飲め」

「は、はい」

「慌てなくて良い。落ち着いて一口ずつな」

「ありがと」

「こら意識を失うな。口移しで飲ませるぞ」

「うぐ、頑張るわ」


 なんとかポーションを飲ませて壁に寄りかからせる。

 3人共近くに居てくれたので楽で良かった。

 というか、さっきの野郎。まさかのハーレムパーティーなのかよ。

 10代後半と思われる3人の女性は見た目で選んだんじゃないかってくらい美人ぞろいだし。

 これはいつも一人淋しく探索してる俺への当てつけだろうか。

 なんて馬鹿な事を考えてた所で声が掛った。


「おい貴様。何者だ?」


 声の主は部屋の奥で偉そうに立ってる巨漢のおっさん。

 まあ頭に角が生えてるし、人の言葉を話すって事は上級モンスターか。

 なぜかは分からないけど応急処置が済むまで待っててくれるとは良い奴なのかもしれない。

 椅子があるんだから座れば良いのになぜ立っているのか。


「ただの民間レスキューだ。

 彼らが出した救助要請を受けてやって来た」

「……ふざけているのか?」

「いや至って真面目だが」


 今の問答のどこにふざけている要素があったのか。

 あれかな。

 人間とモンスターでは笑いのツボが違うみたいなそんな話か。

 世の中そういう常識の齟齬から喧嘩になることは良くある。

 相互理解こそが平和への第一歩なんだ。

 って、何の話だっけ。

 周囲を見渡すと、相変わらず立ち竦んでいるモンスター達。

 恐らくあのボスの指示待ちなんだろう。つまり。


「もしかして何か大事な話の途中だったのか?」

「大事、いやそういう訳ではない」

「なら良かった。

 それで相談なんだが、俺は彼らを地上に無事に送り届けてやりたいんだ。

 無駄な戦闘は無しにして彼らを奥に進ませてやってくれないか?」


 ここを抜ければすぐに階段と1階に繋がる転送ゲートがあるはず。

 彼らにはポーションも飲ませたし自力で歩いていくくらいは出来るだろう。

 そう思っての提案だったんだけど、どうやら言葉のチョイスを間違えたらしい。


「無駄な戦闘と言ったか」

「え、ああ。言ったな」

「つまり貴様なら余裕でここに居るもの全てを倒せるというのか」

「うん、そうだな……あっ」


 しまった。この言い方だとお前なんて目じゃないぜって言ってるようなものじゃないか。

 それじゃあ怒るのも仕方ない。


「フッ、フフフフッ」


 おいおい急に笑い出したぞ。

 やっぱり人間とは笑いのツボが、ってそれはもう良いか。


「貴様のその不遜な態度が無知によるものか、それとも実力に裏打ちされたものか試させてもらおう。

 ゆけ、皆の者。奴を細切れにして我の元に連れてこい」


 その言葉を合図に、それまで停止していたモンスター達が一斉に俺に飛び掛かって来た。

 俺にだけ狙いを付けてくるモンスターを見て改めて思う。

 やっぱりあのボス、良い奴なのかも。


「ガアアアッ」

「グルアァァッ」

「よっ、いらっしゃい」


 敵の方から次々に飛び掛かってきてくれるので自分から歩く必要もなく、近い奴から順に切り飛ばし光に変えて行く簡単なお仕事。

 こういう時、倒したモンスターの死体が残らないのはつくづく有難いなと思う。

 もし死体が残るならあっという間に死体の山で埋まってしまったことだろう。


「す、すごい」

「まるで吸い込まれるようにモンスターが消えてくわ」

「あれ、さっきまで私達が苦戦してた奴よね」

「私の魔法でも倒すのに数発掛かるのに」


 いつの間にか4人揃って部屋の隅で観戦してる要救助者が何か言ってる。

 でも幸いなのは、あのボスが指示した通り部屋の中のモンスターは全て俺の方に向かって来ていて彼らには見向きもしていない事だ。

 そうじゃなかったら彼らを護りながら戦うことになっていたので、今よりも格段に面倒になるところだった。


「よし、ラスト」


 飛び掛かって来た最後の1体を倒せば、部屋の中にはボスと俺達だけが残っていた。


「あの数を無傷で倒すとは。

 なるほど、民間レスキューというのはなかなかの強者なのだな。

 ならばこれならどうだ【アビスゲート】」


 バッと両手を横に広げると、それに合わせて幾つもの黒い渦が生み出され、そこから次々とモンスターが出てきた。

 ふむ、どうやらさっき倒したのより強そうだな。

 具体的には56階から60階に掛けて出てきたモンスターばかりだ。

 それはいいとしてだ。


「なあ、一つ聞いても良いか?」

「ん、なんだ」


 こうして問いかければ答えてくれるんだから律儀なボスだよな。


「もしかして何度倒してもおかわりが出てくるパターンか?」

「ふっ、安心しろ。今回はここまでだ」

「それは良かった」


 ボスモンスターの中には配下のモンスターを倒せば倒しただけ補充し続けるタイプの奴が居るけど彼はそうじゃなかったらしい。

 ちなみにそのタイプのボスなら配下を無視して一気にボスを倒さないと終わらない。代わりにボスを倒せば配下も消えるのがほとんどだけど、配下の攻撃を避けながら突撃しないといけないので面倒この上ないのは確かだ。

 そうして話している間にモンスターはざっと200体くらい出てきたところで渦は消えた。


「さあ貴様の実力を見せてもらおう。かかれっ」


 さっきよりも素早い動作でモンスターが襲い掛かってくる。

 それは良いんだけど、やることがさっきとあまり変わらないな。

 51階のモンスターと60階のモンスターを比べた時、基本スペックは多少上がってるかな? とは思うけど劇的に強くなったりはしない。

 むしろボスを挟んだ50階と51階の方が強さの差は大きい。

 だからまぁ、多少難易度が上がったかな、としか感じないんだ。

 モンスターの中には遠距離から攻撃してくるタイプも居るけど、俺一人を攻撃する際には近接攻撃型の奴らが邪魔で攻撃を放つ隙がない。

 なのでそいつらは近接モンスターがほぼ全滅してから一斉に攻撃を仕掛けてくるんだけど。


「なあデーモンロード」

「なんだ?」


 俺はその攻撃を避けながら椅子に座って戦闘を観戦しているボスモンスターに話し掛けた。


「部下の教育はしっかりやった方が良い。

 こんな狙いじゃ何時まで経っても当たらないぞ」

「ふむ。確かにこれだけ撃ってカスリもしないとはな」


 別にモンスター達の照準がずれている訳ではない。

 むしろ正確に俺の身体の中心目掛けて撃ってきている。

 なら何故当たらないかと言えば、正確過ぎるからだ。

 お陰で常に動き続けているだけで避けれてしまう。

 もっと偏差射撃をしたり、むしろ照準がめちゃくちゃだった方が避けづらいだろうに。


「あと動きながら撃たないとすぐに接近されるぞ。っと」

ズバババッ


 懐に入られたスナイパーなんてただのカモだ。

 結局俺は1発も受けることなく出てきた全てのモンスターを倒してしまった。


「ふはははっ。いや見事見事。なかなかに面白いものを見せてもらった」

ぱちぱちぱちぱち。


 ずっと座ったまま観戦していたボスは手を叩いて喜んでいた。


「部下が全滅したから次はあなたが相手、では無さそうだな」

「なんだ、これがただの影であると気付いていたのか」

「まあね。若干口の位置と声の出てくる位置がずれてたし」


 そう、今見えているボスはただの立体映像みたいなもので本体はここには居ない。

 恐らくもっと深い階に居るのだと思うけど。


「我としても今すぐ貴様と戦いたいのだがな。

 この地の制約によりそれは叶わぬ。

 どうだ。今から80階まで来ぬか?

 歓迎するぞ」

「いや行かないし」


 どうやら80階のボス部屋に居るようだけど、誰が行くか。面倒くさい。


「それより、もうこれで先に進んでも良いのか?」

「うむ、構わぬぞ。そしてそのまま80階まで」

「だから行かないって」


 相当暇を持て余していたようだ。

 ともかく許可も出たので、俺は要救助者の4人を連れてボス部屋を出て61階の転送ゲートへ。


「じゃあ気を付けて帰ってくれ」

「はい、助けて頂きありがとうございました。って、あなたは?」

「俺はまだここでやることがある」


 なにせ本来ここに来た目的はライセンス更新なのだ。

 ここで出てしまっては改めて潜り直しになってしまう。

 それは面倒なのでこのまま先に進もう。

 当初予定していた55階より深い場所だから面倒なモンスターが多そうだけど仕方ない。

 どうせだから上級ポーションの材料の青薔薇でも捜し歩くかな。


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