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こちら私設ダンジョンレスキュー事務所  作者: たてみん


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(12)ライセンス更新(2)

~~ 東京ダンジョン60階ボス部屋 ~~


 そこは通常の大部屋よりも更に広い空間になっていた。

 【エクスカリバー】のメンバーは油断なく周囲を警戒しながら部屋の中に入った。

 しかしボスからの急襲が無いどころかモンスターの姿もない。

 ただ1つ、部屋の奥に大きな椅子があるだけだ。


「みんな油断はするな」

「もちろん」

「というか、絶対あの椅子何かあるわよね」


 臨戦態勢のまま5メートルほど進んだ時、突然入って来た扉が勝手に閉まった。

 慌てて扉の所まで戻ってみるが、扉は押しても退いても動かなかった。


「くそっ、閉じ込められたか!」

「ビクともしないわ」


 ボス部屋の中には出入り自由なものと、今回みたいにボスを倒すまで出られないものがある。

 そういう時は危険なボスが1体居るものだが。

 と、そこで部屋の中に聞き覚えの無い声が響いた。


「ふっ。扉は開けて入ったら閉めるのが礼儀であろう。

 それとその扉は一方通行だ。外から入れるが中から出る事は叶わぬ」

「誰だ!?」


 声の主はさっきまで空だった椅子にどっかりと腰を下ろしてエクスカリバーの面々を見下ろしていた。

 椅子に座ってなお2メートル近い巨体。

 頭には猛牛のような2本の角。

 そして弱者を見下す王の風格。

 それらを持つモンスターと言えば1つしかない。


「まさかデーモンロードか!」

「うむ。お前達人間は我の事をそう呼んでいるようだな」

「Sランクモンスターじゃないか。今の俺達で勝てるのか?!」


 モンスターはその強さから大まかなランク付けがされている。

 Gランクから始まり最高はSSランクだけど、Sランクの時点で討伐例は数える程しかない。

 SSランクに至ってはドローンカメラに映像が残るのみで生きて逃げ帰ったという情報すら聞かない。

 なので実質Sランクが現在の最高討伐ランクであり、それを討伐出来る事が最強の探索者の証明でもある。


<うおおおっ、ここでまさかのSランクか!>

<俺達は今、歴史的瞬間に立ち会ってるんじゃないのか!?>

<国内でSランクを討伐したのって10パーティーくらいしか居ないんじゃなかったっけ>

<遂にエクスカリバーもトップの仲間入りか>


 沸き立つコメント欄。

 しかしそれはカメラ越しの安全な場所に居るから呑気に無責任な発言が出来るだけだ。

 実際にその場にいるエクスカリバーの4人は対峙するだけで分かるその圧倒的とも言える実力差に崩れ落ちそうになっていた。

 それを見たデーモンロードは、つまらなさそうに鼻を鳴らした。


「ふんっ。暇つぶしになるかと来てみたが、余興にしかならんか」

「なん、だとっ」


 気合で剣を構えるユウトはしかし、膝が震え一歩も前に進めなくなっていた。


「これは本気を出すまでもないな。どれ遊んでやろう。【デモンズゲート】」


 パチリと指を鳴らすと、デーモンロードの後ろに黒い渦が幾つも出来、そこから次々とモンスターが姿を現した。


「あれはまさか召喚魔法か」

「どんどん出てくる。しかも出て来てるのってもしかして」

「51階から55階で出てくる奴らじゃん」

「100体近く居る。モンスターハウス数回分よ」


 気が付けば広かったはずのボス部屋はモンスターで埋め尽くされていた。

 唯一の救いはある程度出たところでモンスターの出現が止まってくれた事だけ。

 もっとも、既に手遅れと言ってしまえばそれまでだが。


<……>

<……>

<……>

<……>


 さっきまで賑やかだったコメント欄もあまりの事態に言葉が無いようだ。

 絶望的な状況。

 しかし退路が無い以上、戦う以外に道は無い。


「みんな、やるしかない。覚悟を決めろ」

「ええ!」

「モテる女はつらいわ」

「ならモンスターの相手はミミに任せるわ」

「ちょっ、それはないっすわ」


 絶望的な中、冗談を言ってくじけそうになる心を鼓舞してモンスターを睨みつけた。

 それを見てデーモンロードもニヤリと笑う。


「では精々我を楽しませよ」


 その言葉を合図にモンスター達が4人に襲い掛かった。


……

…………

………………


 1時間後。

 ボス部屋の中に立っている人影は無かった。

 エクスカリバーの4人は死んでこそいないものの、ズタボロに傷つき、体を起こす事すら出来なくなっていた。


「ふむ、32体か。

 脆弱な人間にしては頑張った方か」


 デーモンロードは椅子に座ったまま、最後まで戦いの様子を眺めるだけだった。

 そして戦いらしい戦いが終わったところで手を挙げてモンスター達を止めるとゆっくりと立ち上がった。


「さて、つまらぬ余興ではあったが多少なりとも楽しませてくれた礼だ。

 冥途の土産に我の顔を間近で拝ませてやろう……んん?」

ぎぃぃ……


 デーモンロードが一歩を踏み出そうとした時、不意に開かないはずの扉が開いた。

 外から内へ。

 それはつまり、新たな探索者がこのタイミングでやって来た事を意味していた。

 その事に気付いたユウトが最後の気力を振り絞って叫んだ。


「来るな! 入っちゃダメだ!!」


 しかし必死の叫びも虚しく、扉を開けた人物は中に入ってしまい、あろうことか自分で扉を閉めてしまった。

 その人物はさっと部屋の中を見渡し、1つ頷くとスタスタと自然な歩調でモンスターの群れの中を突き進んでいく。

 あまりの堂々とした姿にデーモンロードもモンスター達も声を発することも出来ずにただただその動きを目で追ってしまった。

 そしてユウトの前まで辿り着いた時、ようやくその人物はユウトに向けて口を開いた。



…………



~~ 東京ダンジョン52階 ~~


ピピピピッ


 その救助要請をキャッチしたのは俺がようやく52階まで降りて来た時だった。


(51階を越えた後で良かった。

 ボス部屋に入る前に要請が来たら、また41階から降りてこないといけないところだった)


 なんて安堵しながら救助要請の内容を確認した俺は、しかし心配が杞憂というか別の意味で残念だったことを理解した。


【救助要請:60階ボス部屋。生存4名】


 まさかの下の階か。

 当初の予定では55階でのんびりライセンス更新の1時間をやり過ごすつもりだったのに。

 しかもこの先はマッピングも出来てないから階段の位置が分からないんだけど。

 まあぼやいても仕方ないか。

 俺より先に誰かが駆け付けてくれることを期待しつつ全速力で向かうとしよう。

 そうして1時間後。

 ようやく60階のボス部屋に辿り着いた俺は、その扉を開いて中に入った。


「来るな! 入っちゃダメだ!!」


 一歩踏み込んだところで大声が響いた。

 ふむ。

 もう手遅れかなと思ってたけど、どうやらまだ叫べるくらい元気なようだ。

 しかしこの部屋の状況はなんだ?


「……」

「……」

「……」


 大量にいるモンスター達が忠犬よろしく微動だにせずに待機してるんだけど。

 もしかして取り込み中だったかな。

 まぁいいや。こっちも仕事だし。

 攻撃して来ないなら好都合だ。

 俺はそそくさと扉を閉めつつ、先ほど大声を出した人物の所へと向かった。

 そこに居たのは20代前半の戦士系探索者。

 その向こうにはお仲間と思われる女性探索者が3人居るな。

 いずれも負傷はしてるが命に別状は無さそうだ。

 周りのモンスターも大人しいし、慌てず手順を踏んでいくか。


「俺は民間レスキューの井上だ。

 念のため確認だが、ダンジョン保険には入ってるな?」


 いつものように俺はそう切り出すのだった。



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