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(1)こちらは民間レスキュー。保険には入っているか?

常連の方、いつもありがとうございます。

初めましての方、ようこそおいでくださいました。

新連載、ということで今回は珍しく最近の流行に乗って、

「現代にダンジョンが出来たので配信しよう」系です。

と言っても主人公は配信しませんが。

拙い文章&今回もプロットゼロの自転車操業ですがお楽しみ頂ければ幸いです。


 20xx年。

 突如発生した天変地異により、世界は書き換えられた。

 世界各地で大地震が発生し火山が噴火、海岸都市には津波が押し寄せ、都市機能の大半は麻痺。

 世界人口の3割以上が帰らぬ人となった。

 ただ、そこまでなら1000年分の天災が一度にやって来た、で片付けられたかもしれない。

 これら災害と時を同じくして世界各地には謎の洞窟が発生、洞窟内部にはゲームから飛び出してきたような怪物モンスターが蔓延っていた事からダンジョンと呼ばれるようになった。

 また人間を始めとした生命体にも通常では考えられないような身体能力や特殊技能を発揮する通称、能力者が現れた。

 のちの歴史の教科書には【異界事変】と記載されることになる。


 いち早くこの災害から復興を遂げたのは日本と言われている。

 次いでアメリカとロシア。

 イギリスとヨーロッパの一部は海面上昇と津波の被害による影響が大きく復興には多くの時間を費やした。


 それから50年。

 大災害も昔の話。ダンジョンや能力者は社会の一部として組み込まれ、法の整備やそれ専門の学校などまで出来ていた。

 そして今や100人に1人は能力者であり、能力者の多くはダンジョンに潜るようになっていた。


~~ 京都ダンジョン12階 ~~


 俺(井上 光一、32歳独身)は今日も一人のんびりダンジョンを探索中だ。


「お、回復草みっけ」


 通路脇に生えていたタンポポに似た植物を採取しストレージへと突っ込む。

 ダンジョンを探索する理由は人それぞれだけど、俺の場合は分かりやすく金儲けだ。

 こうして用事の無い日はダンジョンの上層を歩き回り、薬草を採取したり弱いモンスターを退治してドロップ品を回収して売り捌く。

 この回復草は薬草の中でもオーソドックスなもので、加工すれば浅い切り傷程度なら数秒で治す薬になる。

 もちろんそんな薬は異界事変前には存在していなかったので、非常に重宝される。

 今摘んだものだけでも5000円から1万円になるのだ。


こつ、こつ……

(足音?)


 どうやら通路の向こうから同業者が近づいてるようだな。

 モンスターならこんな分かりやすい足音は立てないので人間、それも探索慣れしていない初心者の可能性が高い。

 ここで足音を忍ばせて近づくと最悪出会い頭に攻撃し合うことになるので、先んじて声を掛ける事にした。


「こんにちは~」

「え、あっ。はい、こんにちは」


 山道でもそうだが、すれ違う相手とは敵意が無いことを示す意味でも朗らかに挨拶することが大事だ。

 ただ向こうは声を掛けられるとは思っていなかったのか少し驚いたようだ。

 近づいてきたのは高校生か大学生かってくらいの若い男性。

 彼はこちらに返事をすると同時に後ろに浮かんでいるドローンカメラに話しかけていた。


「みなさん見てください。

 同業者の方に遭遇してしまいました」


 これは独りごとを言っている訳ではない。

 ダンジョンに潜る人の中には彼のように自分の探索姿を撮影して配信することでお金を稼いでいる人が居る。


「あの少しお話良いですか?」

「悪いが他をあたってくれ」


 俺としては彼と話すメリットは無いのですげなく断りそのまま立ち去ることにした。

 後ろから「断られちゃいましたね~」とか聞こえてくるし、俺をネタに面白おかしく話を広げているんだろう。

 ちなみに俺の後ろにも同じようにドローンカメラが浮いているが、別に俺は配信はしていない。

 実は今の時代、ダンジョンに潜る為にはドローンカメラでの撮影が義務付けられている。

 それはダンジョン内という警察の手の届きにくい場所での犯罪行為の防止や、それが無くてもモンスターの蔓延る危険な場所で少しでも生存率をあげたいという思惑がある。

 そしてダンジョンで稼ぐ手段がもう一つあるのだけど。


ピピピピッ!

「っと、来たか」


 ドローンから高めの通知音が響く。

 同時に左手首に付けた端末に赤文字で情報が出力される。


【救助要請:16階。生存2名】


 16階か。

 ここからじゃ遠いって程じゃないが到着までに少し時間が掛かるな。

 問題はそれまで向こうが生きてるかどうかだが。

 俺は端末を操作しつつ薄暗いダンジョン内を駆け抜けていった。


 そうして7分後。

 16階に辿り着いた俺の視界の先に、右足に怪我をして蹲る女性と、左腕に怪我をして壁に背中を預けている男性の2人組を見つけた。

 どうやら救助要請の主は彼らの様だ。


「救助要請を受けて来た。ふたりとも無事か!」

「あっ、はい」

「よかった~。救助来てくれた~」


 俺の姿を見て大きく安堵する2人。

 俺はゆっくりと近づきながら周囲にモンスターが居ない事を確認する。

 そして彼らの数歩手前で立ち止まり改めて話し掛けた。


「俺は民間レスキューの井上だ。

 先に確認だが、ダンジョン保険には入ってるか?」

「「ダンジョン保険??」」


 俺の質問に顔を見合わせるふたり。

 この様子だと保険に入ってるどころか、存在すら知らないのかもしれない。


「ダンジョン保険っていうのは、こうして救助要請をした場合に費用を一部負担してくれる保険だ。

 入ってないとこの後の救助活動も全額負担になるがいいか?」

「は、はぁ」

「いやそんなことより助けてくれよ」


 傷が痛むのは分かるし、この状態でまたモンスターに襲われれば今度こそ助からない可能性が高いので焦る気持ちも分かる。

 明確に断る返事がなく、代わりに『助けて』と言うのなら了承と判断して良いだろう。


「初級回復ポーションがあるが使うか?」

「あ、はい。お願いします」

「持ってるならさっさと寄越せよ」


 女性の方はまだ口調が丁寧だけど男性の方は段々乱暴になって来た。

 まあ邪魔さえしなければ口調くらいはどうでもいい。

 俺は男性に回復ポーションを1つ渡しつつ、女性の方に近づき足以外は大丈夫そうなので傷口に回復ポーションを掛けてあげた。

 複数個所にダメージを受けてるなら飲んだ方が良いけど1か所ならこの方が早く効く。


「つっ」

「多少沁みるが我慢してくれ」

「はい……」


 視線の先では早くも血が止まり、モンスターに噛まれたと思われる傷口が塞がり始めていた。

 といっても初級の回復ポーションだ。

 傷は塞がっても動けば痛いだろう。

 ともあれ、これでこの怪我による失血死などの心配は無くなった。無理をすれば歩けるだろう。

 なら次に移るか。


「さて規定により救助要請を出した者は一度ダンジョンから脱出しなければならない。

 そこでここから救助者である俺の取る行動は3パターンあるんだが、どれがいいか選んで欲しい。

 1つめは現時点を持って救助活動は終了としここで別れるパターン。

 2つめはふたりが安全だと思う階層まで同行するパターン。

 3つめは足を怪我した君を背負って地上、もしくは病院まで搬送するパターン。

 あ、もしそっちの君も歩くのが厳しいのであればふたりとも担いで搬送するということも出来る。

 どれがいい?」

「どれがってその、普通に考えれば3つめだと思うんですけど、何かあるんですか?」

「一言で言うと掛かる費用が違うんだ。

 当然3つめが一番高額な請求になる」

「ちっ。金の亡者かよ」

「三途の川も金次第、なんて言うくらいだしな。

 それに俺だって自分の探索を中断して、危険を冒してここまで来て、この後は君たちの安全を確保しながら移動するリスクを背負うんだ。

 それに見合った報酬がないとやってられないだろ」

「それは、そうかも」

「けっ」


 俺の説明に女性の方は納得してくれたが、男性は気に入らないようだ。

 まあ口を開けば金が掛かるって言い続けてるからな。仕方ない面もある。


「それで、どうする?

 ここに長居するとモンスターが寄ってくるかもしれないから早めに移動したいんだが」

「それじゃあ3つめで……」

「いいや、1だ。

 傷も塞がったし歩いて帰るだけなら行けるだろ」

「……」

「そうか、分かった」


 女性の方はまだ何か言いたそうだったが俺の方から「本当にいいんだな」と再確認や念を押すことはしない。それは規約で禁じられているからだ。


「じゃあ気をつけてな」

「はい。ありがとうございました」

「ふんっ」


 男性の方はイラつきながら、女性の方は申し訳なさそうにしつつ足を少し引き摺ってその場を去って行った。

 さて俺はというと、彼らを抜き去って早々に上の階に戻っても良いんだけど、少しとどまって撤退する彼らが後ろからモンスターに襲われない様にしてやろう。

 ちなみに、今回の救助活動でかかった費用は以下の通りである。


・救助要請で駆け付けた費用:上層16階x1万円=16万円

・初級回復ポーションの使用:1本20万円(原価の倍)x2本=40万円


 合計56万円が即座に彼らの口座から俺の口座へと引き落とされる。

 文句は言われない。

 なにせここまでの活動内容はすべてドローンカメラに撮影され、証拠として関係機関に提出されている。

 救助要請を行った場合の費用に関してはダンジョンに入る前の講習で聞いている筈なので、知らなかったと言い逃れすることも出来ない。

 果たしてまだ若い2人組だったけど支払い能力があるかどうか。

 ちなみに、彼らの現在位置は彼らが所有していたドローンカメラの信号で把握できている。

 どうやら無事に15階に行けたようだ。


「さてと。じゃあちょっくら掃除してから俺も帰ろうかな」

「グルルルルっ」

「ブラックウルフが5頭か。あのふたりじゃ逃げるのが精いっぱいだっただろう」


 俺は腰の短剣を抜きながら襲い掛かるモンスター達に一歩踏み出した。




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